バージェスと親友になってから、彼の初めての誕生日が近いのだけれど。
「なにしてあげたらいいんだろう?」
「何でオレに聞くんだ、細腕っ子」
同じように、バージェスと仲のいいペンに相談したらそんな冷たい言葉が返ってきた。
「はあ?だってペンはバージェスと親友でしょ?パーティーとか開かないの?」
そんな風に言ったら、ペンは大袈裟なくらい大きなため息をついた。しかもオーバーリアクションつきで。
「光の教会は、基本的に質素倹約がモットーだ。サンドロックは過酷な環境だからと許容していることも多いが、さすがに教会の奴らの生活は許容しないんだよ、覚えておくといい、細腕っ子」
「・・・・・・ペンは光の教会の一員だったよね?その割に・・・」
彼の姿を上から下まで見て見ると、服はデザインだけでなく、素材も拘っているように見える。それより何よりヘアスタイルは・・・拘ってないとは言わせないぞという立たせ方だ。
「・・・・・・ん?」
あ、これは誤魔化す流れだ・・・もうこれ以上私の話は聞かないな。
「本当に何もしないの?」
「オレがそんなことするように見えるか?」
「・・・・・・みえない」
「だよな。この話は終わ・・・」
「駄目。今回は私と一緒に祝ってもらう!」
私がサンドロックに来たのは、夏の暑い日だった。バージェスと仲良くなって、誕生日を教えてもらったときには、既に過ぎてしまっていた。やっと来た親友の誕生日だ。どうにかして祝いたいが、私だけでは心許ない。バージェスの相棒であるペンに、彼の好きなものを聞いたり、手伝ってもらってパーティーを開きたいのだ。
「はあああ・・・」
「そんな大きなため息つかれるとは・・・」
「・・・仕方ない、手伝ってやろう」
「え、いいの?」
「手伝わなくていいならオレは帰るが?」
「手伝って!」
オアシスのベンチから立とうとするペンの腕を掴んで、もう一度ベンチに座らせる。
いつもはバージェスがオアシスで掃除をしている時間だけど、今日は私と一緒に掃除をして早めにおわらせ、その後、広場で見回りをしていたペンを掴まえて、オアシスのベンチにで相談していたのだ。
「で?そのバージェスを祝うパーティーはどこでやるんだ?」
「えっと、この前、謎の男からパーティーテーブルを買ったんだ。だからワークショップでやろうと思って・・・」
「・・・・・・料理だの何だのはどうするつもりだ?」
「私が作るよ。オーウェンの料理はおいしいけど、さすがにみんなの分を注文したら破産しちゃう。私が作れないものは注文するけど、ペンはバージェスが好きなもの知ってる?」
「・・・あいつは作るのも食べるのも好きだぞ。なんでもって訳ではないが・・・そうだな、ブルームーンで食っているのは、サンドティーヌードルとトマトビーフブリスケットだったが・・・作れるのか?」
「あーっと・・・えー、確か作れるはず」
「それなら今から作りに行くぞ。今日から作っておかないと足りなくなる」
「え」
すっとベンチから立って、ワークショップに向かうペンを慌てて追いかける。
まさか手伝ってくれるのだろうか。お粥すら他人に任せるペンが、料理を?
ワークショップで、ペンは料理ステーションを見るなり、料理用の作業台を用意してくれと言ってきた。
たしかにこの料理ステーションは私の背にちょうどよく、ペンには明らかに低すぎる。それならばと、ペンには置いてあった椅子に座ってもらい、すぐに取り掛かる。設計から組み立てまで三十分ほどで出来た。
「ふぅん、うまいもんだな」
「これでも『もの作りのエキスパート』だからね。高さはどう?」
「いいんじゃないか?ほら、さっさとやるぞ。材料出してくれ」
「え、あ、はい」
作った料理用作業台にサンドティーヌードルとトマトとビーフブリスケットの材料を置くと、ペンは見事に麺を打ち、下ごしらえをすませ、鍋にスープを作っていく。ブリスケット用の肉も美味しそうに焼いて、鍋へトマトのソースを作り、そこへ焼いた肉を入れて煮込み始めた・・・うわあ、いい香りだ・・・
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ。そんな美味しそうなもの作れるのになんで私に依頼したりバージェスに作らせるの・・・?」
「・・・・・・自分で作ったものを食って、うまいか?」
「え」
「・・・トマトとビーフブリスケットはしばらく煮込んでおけばいい。スープはそっちの台に置いてそのまま冷ましておけ。作った麺に関しては・・・新たに木箱を作ってそこに入れておけば保存ができるはずだ。で、魚を出そうとしていたな?それはあんたが作ればいい、お粥はオレに頼らずとも作れるだろう?」
「うっ、見られてたか・・・仕方ない、作りますよ」
料理用作業台に魚を取り出して、魚仕立てのおかゆ用に切り分けていく。さすがに生のまま保存はしておけないから、塩を身に擦り込んで干したものだ。これの塩分のおかげもあって、お粥もバージェスから教わったシンプルなおかゆよりもおいしく食べられる。
米を鍋に入れて、くつくつと煮込む間に、ほぐしておいた干した魚を加えていく。醤油は少しにして、塩分は控えめに。最後にヒメニンニクを散らして出来上がりだ。
「やるじゃないか、細腕っ子」
「え、ほんと?」
「だが・・・バージェスの好きなお粥は、米の方じゃなくて、サンドライスの方じゃなかったか?」
「・・・・・・両方作るからいいよ。だって、ペンも誕生日パーティーには来るでしょ?」
「さあ?まだなんとも言えないなあ」
そんなことを言いながらも、表情がいつもよりも穏やかに見えるのは、友達になってしまったからだろうか。
そのまま、ペンに作ってもらった料理の温めなおし方や保存の仕方だけでなく、他の料理のコツを聞いていたら、夕方になってしまった。
「今日はありがとう」
「オレにとっては朝飯前だ、気にしなくていい」
「じゃあ、これ持って帰って食べてよ。さっき作った魚のお粥」
料理ステーションに置いておいた鍋ごとペンに差し出すと、彼は目を丸くして私の顔をまじまじと見てきた。
「もともとお礼のために作ってたから。畑も始めて、作物の備蓄はある。魚もすぐとってこられるから。自分が作った料理を食べたくないなら、ちょうどいいじゃん?」
「ハハハハ!細腕っ子。まさかとは思うが、オレのご機嫌取りか?」
「そう思うなら、それでもいいけど。私は、親友にお節介しているだけだよ。今日は本当にありがとう」
受け取ろうとしない魚仕立てのおかゆ入りの鍋を、腕組みをしているペンに無理矢理押し付ける形で渡すと、やっと受け取ってくれた。何度か私の顔と鍋を交互に見たと思ったら、ものすごく大きなため息をついて、そのまま何も言わず鍋を持ってサンドロックの町に戻っていった。
私は部屋に戻って、パーティーのために招待状を書くことにした。
そして、パーティー当日。
オーウェンに頼んでおいた料理も届いて、テーブルのセッティングもなんとか出来た。
あとは招待した人が来るのを待つだけだ。とはいえ、招待したのはバージェスとペンだけなんだけども。
これがバージェスのための誕生パーティーなのは本当のこと。だけど、バージェスと同じように、去年祝えなかったペンのためのパーティーでもある。招待状は渡したけれど、来てくれるかはわからない。
パーティーテーブルに置いた料理に砂がかからないようにと作っておいた大きな布をかけて、まだ途中だった収納箱の位置を変えていると、ガラガラとヤクメルバスが駅に到着した大きな音がした。
そっちを見てみると、ペンの腕を引いてこちらに来ようとするバージェスの姿が見えた。あんな風に強引に誰かをつれてこようとするバージェスが珍しくて、思わず笑ってしまった。
そのままワークショップの前に来て、バージェスは眩しいくらいの笑顔を浮かべている。
「おはようございます、ビルダー!今日はお招きありがとうございます!」
「うん、来てくれてありがとう」
「・・・・・・」
「ペンも来てくれて嬉しいよ。とにかく入ってよ」
二人を庭に案内して、テーブルを覆っていた布を取った。
「うわあ!これはすごい!」
バージェスがものすごくきらきらした顔で料理を見ているのがおかしくて、思わず吹き出してしまった。
「バージェスが主役だからね、こっちの席にどうぞ」
「え、えええ!?私の好きなものばかり・・・!」
案内した席の前はバージェスの好物ばかりだ。ペンに聞いただけでなく、オーウェンにもちゃんとリサーチして、それを作ってもらったのだ。
「んで、ペンはこっち」
「あ?」
席にもつかず、ただ突っ立っているだけのペンの手を引いて席に案内すると、彼もまた感嘆の声をあげたように聞こえた。
「このパーティーはね、去年祝えなかった二人のためのパーティーでもあるんだ。私がこの町に引っ越してきてすぐ、誕生日を迎えてしまったペンと、そもそも祝うことなど出来なかったバージェスのためのパーティー。親友になったんだから、これくらいさせてよ」
私がそう言うと、二人共、一瞬目を丸くした。バージェスはにっこり笑って、ペンは鼻で笑ってきたが、嫌そうではないみたいだ。
「というわけで、パーティー始めようか」
パーティーテーブルの近くに、ペンのために作った調理作業台を利用して、ペンが作った煮込み料理を置いておいた。
「ビルダー、このトマトとビーフブリスケット、とてもおいしいです!」
「あー」
チラッと作った本人の方を見たら、さりげなく首を振ったから、何も言わないことにした。
「それならよかった!まだあるから、たくさん食べて」
「こっちのサンドティーヌードルも絶品ですね・・・!スープに何を使って・・・あっ!きっと隠し味だから、教えられませんよね!すみません」
「うん。それならさ、今度みんなで料理の持ち寄りパーティーやろうよ」
「わあ、いいですね!いつがいいでしょうか?」
「バージェスは食うことばかりだな・・・今食ってる最中だろう・・・」
「こういう楽しいことは、すぐにでも決めた方がいいんですよ、ペン。そうだ、ペンの誕生日をそれにしたらどうでしょうか?」
「おお!いいね!」
そんな楽しげな話にもペンは置かれた料理を静かに食べている。ペンの好物はオーウェンとグレースにリサーチしているから、大丈夫なはずだ。しかし、普段の粗暴な振る舞いからすると、ペンの食事の仕方は随分と洗練されているように見える。別に、汚く食べるとは思っていなかったけれど、テーブルマナーも完璧に見える・・・
「なんだ、細腕っ子。オレの事じっと見て・・・」
「うぇ!?いや、食べ方がきれいだなって思って・・・見ちゃったよ、ごめん」
「ハハハハ、そうか!オレの所作に見惚れていたとは!ずっと見ていてもいいぞ?」
「・・・・・・あー、うん」
こういうところがなければ尊敬できる人なんだけどな。いや、戦闘の技術はピカイチだし、今みたいに意外な所もあって、すごいとは思っているけれど。
なんだかんだ料理を楽しんで、話をして、いつの間にか夕日が沈みそうな時間だ。
「ああ、楽しくておいしかった!ビルダーは料理の才能をお持ちですね!」
「ありがとう。今度はペンの誕生日にパーティーだね」
「そうですね。私もたくさん作ります!」
「もう決定なのか・・・?オレが参加するのは強制か?」
「なに言ってるのさ、当たり前でしょ?」
「パーティーの主役が参加しないパーティーなんてありえませんよ!?」
私とバージェスに詰め寄られて、ペンはものすごく大きなため息をついた。今日何度目だ?
「わかった、わかったから、二人とも離れろ・・・」
「じゃあ、夏の八日は、予定入れないでね。私もカレンダーに書いておくから」
「楽しみですね!」
そんなことを約束しながら別れた春の日の二十日。
それからすぐに、サンドロックにあんなことが起きるとは思わなかった。
サンドロックの町にスパイがいて、その人達を悪人だと考えていた盗賊ローガンと民兵団と一緒に倒してしまうなんて。
そのスパイが、デュボスに所属していたマチルダ司祭と、親友になったペンだった。
サンドロックをデュボスから取り戻し、何もかも終わったのは、皮肉なことにペンの誕生日である夏の八日だった。
あんなに約束したのに、もう出来ない。彼は、自由都市の最高警備の刑務所に入れられてしまった。
バージェスは、今日がペンの誕生日だと覚えているだろうか。マチルダがいなくなってから、司祭としてかなり忙しくしているけれど、行ってみようか・・・
教会に行くと、ダンビさんが掃除をしていた。彼女にバージェスの事を聞くと、ウォーターワールドにいるという。司祭として仕事をこなしながら、いままでの仕事も自ら進んでやっていると教えてくれた。
偉い立場になっても、今までと変わらないのは、実にバージェスらしい。教会を出て、屋根を伝って役場の屋根へと降りる。そういえば、ペンとの出会いはこのマートル広場だったな。屋根からマントを翻して降りてきたペンは、旧世界のヒーローのようだった。そんなサンドロックのヒーローは、もう二度と会えない。
ウォーターワールドに行くと、バージェスはオアシスにいた。
「バージェス」
「ああ、ビルダー」
よく見たら、レジャーシートを引いて、何かを食べているようだ。
「なに、どうしたの?」
「・・・・・・あなたなら、いいですね。今日は、なんの日かわかります?」
「・・・ペンの誕生日」
私がそう答えると、バージェスは悲しそうな表情で笑った。
「私たちは、約束しました。一緒に誕生日を祝おうと。でも、もう、二度と出来ませんね」
よく見たら、レジャーシートの上にあるものは、全てペンの好物だ。ブルームーンの持ち帰り用の容器ではないから、バージェスが作ったのだろう。牢屋にいたペンに、絶交だと言っていたバージェスだけど、長い間ずっと一緒にいた人を嫌いにはなれなかったのかもしれない。
「ねえ、バージェス。そのシートに座っても良い?私も、誕生日、祝いたいな」
「わあ、ビルダーなら大歓迎です!」
料理でいっぱいだったレジャーシートを少し片付けて、私の座るスペースを作ってくれた。そこに座ると、バージェスがペンの好物だったびっくりステーキを渡してくれた。さっそくごちそうになる。
「んん、これものすごくおいしい・・・」
「本当ですか?嬉しいな。私の誕生日に作ってくれたおかゆもおいしかったですよ!」
「これは・・・ペンが作らせてしまうのもわかるな・・・」
「私は、料理を作るのも、食べるのも好きですからね。苦ではなかったのですよ」
バージェスが食べているのは、魚仕立てのおかゆだ。いつも私に作ってくれと依頼してきた料理だ。もらってみると、私のやつより魚がふっくらしていて、味付けがやさしい。
「私が体調を崩したときに、ペンが料理を作ってくれたことがあります。その時に、サンドティーヌードルを食べました。それと、完治した時、お祝いだとトマトとビーフブリスケットを作ってくれました。その二度だけでしたが、あまりのおいしさに、私の頭の中に強烈な記憶を残していました。だから、解ったんです。誕生日の時に出てきたものは、ペンが作ったものですよね、ビルダー」
「・・・・・・」
私は二重にも三重にも驚いてしまって二の句が継げなくなってしまった。
友達になったとしても、どことなく一線を引いていたように見えたペンが、バージェスのために看病をして、料理を作った。しかもその時と同じメニューを、バージェスの誕生日のために作って振る舞った。
覚えていて欲しいのか、自分の事を。忘れて欲しくないのか。何てひどいやつだ。忘れることなんて出来ないじゃないか。
「絶交だって言ったバージェスには悪いし、私はよその町から来たから、彼が手を掛けた人たちを知らないから言えてしまうことかもしれないけれど、私にとって、ペンは永遠の親友なんだ」
「・・・・・・私の立場からすればよくないことでしょうけれど、あなたにならいいですよね。彼とあまりにも長く居すぎました。私も、まだ、相棒だと思っています」
「うん。また来年も、バージェスの誕生日もお祝いするし、ペンの誕生日も一緒にお祝いしよう。もちろん、こっそりとね。ペンの好物をつくって、一緒に食べよう」
「はい、もちろんです・・・ありがとう、ビルダー」
春の二十日と夏の八日は、私たちにとって、いつまでも忘れられない日になってしまった。新たに祝おうとしても、きっと無理だろう。それを意図していたのだろうか。
「オレを忘れるなよ、細腕っ子」という声が聞こえてきそうだ。忘れたくても、忘れられないよ。
終わり