【スクープ寄稿】レイ・ダリオが日本人に「生存戦略」を提言「中国への挑発は、絶対に控えたほうがいい」

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世界有数の大富豪にして、歴史・社会・文化にも造詣が深い「米経済界のご意見番」。運用資産20兆円を超えるヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエイツ」創業者のレイ・ダリオ氏が、ターニングポイントを迎える日本の政治と経済に関する長文寄稿を寄せた。迷える日本国民の姿は、彼の目にどう映っているのか。

問われているのは「対立するか否か」ではない

日本では、対中関係をめぐって「強硬姿勢か、譲歩か」という二項対立的な議論が盛んなようです。

しかし、日本が本当に問われているのは、中国と対立するか否かではないと私は思います。より深刻なのは、対立を「管理できない」立場に追い込まれることなのです。

中国の経済力・軍事力が拡大する一方、日本の相対的な国力が伸び悩んでいるという構造変化は、すでに現実のものとなっています。

軍事面で、中国は量・質ともに急速な近代化を進め、局地的には在日米軍や自衛隊を上回る投射能力を持ち始めています。投射能力とは、単に兵器を持っていることではなく、部隊・兵器・火力を、必要な場所に、必要な規模で、必要なタイミングと期間で送り込み、使い続けられる力のことです。

他方、日本は日米同盟という強力な枠組みを持っているものの、自力で緊張の拡大を制御できる余地は大きくありません。この非対称性は、抑止の安定性を損ない、偶発的な衝突のリスクを高めます。

とりわけ台湾情勢をめぐって緊張が常態化すれば、日本は、いやおうなく「当事者化」しかねない。対立が深まるほど、日本の判断余地は狭まり、米中対立の最前線に固定される可能性が高まります。

日本が世界に「無視される」という悪夢

経済面でもリスクは静かに進行しています。中国はすでに、露骨な制裁措置を取らずとも影響力を行使できる立場にある。サプライチェーンや市場アクセス、素材といった分野における選択的圧力は、日本経済にとって十分に現実的な脅威です。

さらに、日本企業が政治リスクを織り込んで対中投資や研究協力を控えるようになれば、中国市場だけでなく、グローバルでの日本の競争力そのものが、徐々に低下してゆくかもしれません。

問題は、急激な事態悪化ではなく、気づかぬうちに日本が不利な位置へ追い込まれることにあると思います。

長期的対立は、日本外交の選択肢を狭めるでしょう。日本にとって米欧との連携は不可欠ですが、世界の多数派であるグローバルサウスは、必ずしも中国との対立を望んでいません。かつて日本が果たしてきた「米中間の調整役」「東アジアの安定装置」という役割が失われれば、日本の外交的価値は相対的に低下し、「日本抜き」で物事が決まる場面が増えるおそれが十分あります。

国内的にも、対立の長期化はコストを高めてゆきます。具体的に言うと、防衛費増大が常態化すれば、教育や科学技術振興、少子化対策といった分野を圧迫するということです。国力が伸びないまま緊張だけが続くのは、国家にとって最も苦しい状態です。

こうした状況を踏まえると、日本にとって最大のリスクは、中国との対立そのものではなく、戦略的柔軟性を失うことにあります。つまり、中国が強硬にも宥和にも振れる余地を持つのに対して、日本が「強硬姿勢しか選べない」という状態になれば、後手に回らざるを得ないのは、つねに日本なのです。

備えを最大化し、刺激を最小化する

では、日本に選択肢はあるのか。答えは「イエス」です。中国に迎合することでも、全面対立に身を固めることでもありません。必要なのは、備えを最大化しつつ、刺激を最小化し、逃げ道を残すという「中間戦略」です。

具体的には、「抑止力の強化」と「発信の管理」を意図的に分離することが重要です。防衛力整備や、その日米共同運用は着実に進めつつ、首脳や閣僚レベルでは挑発的な言辞を避け、台湾問題についても従来の官僚的表現に立ち戻ることが重要です。

中国は国家首脳の言葉を極めて重視する国ですから、表現を和らげるだけで、実質的なコストをかけずに緊張を管理できるでしょう。

また、台湾問題を日本単独の課題にせず、多国間の枠組みで「国際公共財」として位置づけるのも重要です。日本が先頭に立つのではなく、調整役に回ることで、対日圧力を分散できるはずです。

経済面では、完全な「脱中国」に舵を切るのではなく、依存度を低める「分散戦略」が現実的です。重要分野のみリスク分散を進めつつ、中国市場との相互依存は維持することが大切です。「日本を切ると、こちらも損をする」と中国に認識させる関係を残すことが、むしろ抑止として機能するでしょう。

加えて、政治レベル・実務レベルの双方で、対話ルートを絶対に切らないことが不可欠です。成果が乏しくとも首脳会談を継続し、防衛当局間のホットラインや、連絡メカニズムの実効性を保つことが重要です。危機管理回線の有無は、偶発的衝突の確率を大きく左右します。

最後に、日本は独自の語り(ナラティブ)を持つ必要があります。

米国の言葉を翻訳するのではなく、「力による現状変更に反対」「東アジアの繁栄は安定が前提」「中国の発展そのものは否定しない」といった、日本の文脈に根差した言葉で秩序を語ることが重要です。

「中間戦略」は地味で、短期的な喝采は得にくいですが、強硬路線は支持を集めやすい一方で、国力を消耗させやすい。日本に必要なのは、拍手喝采を浴びる外交ではなく、事故を起こさない外交だと思います。

連続寄稿パート2【レイ・ダリオから日本人への提言「この円安を『いつか終わる』とは思わないほうがいいでしょう」】へ続く。

Ray Dalio(レイ・ダリオ)(ヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエイツ」創業者)/1949年米ニューヨーク州生まれ。12歳から投資を始め、ハーバード・ビジネス・スクールでMBA取得後、1975年に「ブリッジウォーター・アソシエイツ」を起業して世界最大規模のヘッジファンドに成長させた。自身の哲学を綴った『プリンシプルズ』は世界で200万部超のベストセラーに

構成/大野和基(おおの・かずもと)(国際ジャーナリスト)

「週刊現代」2026年2月16日号より

【つづきを読む】レイ・ダリオから日本人への提言「この円安を『いつか終わる』とは思わないほうがいいでしょう」