難民の高等教育就学率は9%

ある日突然、あなたの国で戦争が勃発し、着の身着のままで家族と隣国に逃れたとする。テントが並ぶ難民キャンプ、あるいは大都市の片隅の安いアパートにたどり着き、なんとか命は助かった。身の安全と最低限の暮らしを確保した後、子どものために最も望むものは何だろうか。

ほとんどの親は「教育」と答えるだろう。教育は、世界のどこにいても人が社会の一員として生きるために不可欠だ。教育を受けなければ、自分の権利と義務を知ることも、潜在能力を引き出し、有意義な仕事に就くことも難しい。教育こそが最低限の生活からの出口であり、何者にも奪われない財産なのだ。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の「教育報告書2025」や国連児童基金(ユニセフ)によると、2024年現在、世界には故郷を追われた人が約1億2300万人おり、その約4割が18歳未満の子どもである。世界全体では初等教育の就学率は9割を超える一方で、難民の子どもの3割以上は小学校に通えていない。中等教育では6割以上が未就学、高等教育に至っては、世界の就学率が43%であるのに対し、難民はようやく9%に達したところである。初等・中等教育の推進は最優先だが、高等教育へのアクセス拡大も急務である。

2019年のグローバル難民フォーラムで、UNHCRは「2030年までに難民の高等教育進学率を15%に引き上げる(15 by 30)」という目標を掲げた。当時、高等教育を受けていた難民はわずか1%だった。その後、一定の進展はあったものの、難民状態が長期化する中で、若者が才能を生かして安定した暮らしを築き、いずれ祖国の復興に貢献するためには、高等教育の門戸をさらに広げる必要がある。

難民受け入れ、負担にあえぐ「近隣国」

難民の高等教育を支援する取り組みは、世界各地で始まっている。最も多くの難民を受け入れているのは紛争国近隣の低・中所得国で、そこでは自国民さえ高等教育に手が届かないことが多い。そのため、何十万人、何百万人の難民を受け入れ、負担にあえぐ近隣諸国から、教育の機会を通じて難民を第三国に受け入れる動きが、欧米を中心に広がってきた。

アジアでは、難民学生を受け入れる取り組みは2017年まで見られなかった。この年、日本のNPO難民支援協会(JAR)が、初めてトルコから少数のシリア難民を日本語学校の学生として受け入れた。学校が授業料を免除し、学生は働きながら生計を立てるモデルで、その後も受け入れが続いている。

広がる受け入れへの理解

同じ頃、日本国際基督教大学財団(JICUF)が、国際基督教大学(ICU)へのシリア難民の受け入れを検討していた。JICUFは、第2次世界大戦後、平和の確立を使命とするICUの建学を支えるため、資金調達を目的に北米で設立された財団である。戦後の荒廃の中で、和解と平和を願う人々の決意によって誕生した大学の歴史を振り返れば、難民の受け入れは自然な選択であった。

JICUFは、JARとICUと共に、2017年にシリア人学生受け入れプログラムを立ち上げ、翌年トルコから2人を迎えた。トルコ各地で説明会を行うと、多くの若者が幼い頃から日本のアニメや漫画に親しみ、日本で学ぶことに強い意欲を持っていることがわかった。中には大学卒業を目前にして、断腸の思いで祖国を離れた学生もいた。そんな若者たちを、より多くの大学に受け入れてもらいたいと働きかけたが、当初はパートナー校を増やすことができず、ICUは単独で2022年までに7人を受け入れた。

トルコで開催された国際基督教大学への受け入れプログラムの説明会=2018年3月、トルコ・イスタンブール、髙田亜樹氏提供

状況を大きく変えたのが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻である。侵攻直後、当時の岸田文雄首相がウクライナ避難民を日本に積極的に受け入れる方針を表明。JICUFと「パスウェイズ・ジャパン(JARから分離独立した新団体)」が連携してウクライナ人学生受け入れプログラムを設立し、ICUに5人を受け入れた。この取り組みが報道されると、関心を持った他大学との話し合いが進み、上智大学や早稲田大学など18大学がプログラムに参加した。2年間で85人のウクライナ人学生がパートナー校に採用された。

ウクライナから来日した学生たち=2025年3月、東京都大田区、パスウェイズ・ジャパン提供

当初はウクライナ人学生に限定していたが、2024年には、アフガニスタンやミャンマーなど他国籍の学生にも対象を広げるパートナー校が複数あり、プログラムは日本教育パスウェイズ(JEP)として継続している。

アフガニスタンから日本に到着した学生たち=2025年3月、千葉県成田市、パスウェイズ・ジャパン提供

費用や出願書類……受け入れには障壁も

こうして日本の教育機関に難民学生を迎える道は少しずつ開かれてきたが、継続的に取り組む大学はまだ少ない。そうした中、UNHCRが「Each One Take One」キャンペーンを立ち上げ、世界中の大学に、少なくとも1人の難民学生を受け入れるよう呼びかけている。日本には、800校近くの大学がある。専門学校や高専を含めれば、その数は数千にのぼる。各校が毎年1人ずつでも受け入れれば、難民を取り巻く状況も、国の内外で活躍できる若者を必要としている日本も、大きく変わるだろう。

だが、受け入れは容易ではない。最大の障壁は費用だ。難民学生は、学費はもとより、住居費・生活費を捻出することが難しい。大学による学費減免は必須であり、住居費・生活費支援も望まれる。留学生は公的な貸与型奨学金の対象外で、アルバイト収入にも限界があるからだ。そこでJICUFは、米国のシャピーロ財団と協力し、2026年から新たに難民学生を採用する大学を通して彼らの生活費の一部を支給する。

もう一つの障壁は、出願書類である。高校の卒業・成績証明書、英語テストの結果、推薦状など、出願には多くの書類の原本が要求される。しかし、戦争により高校が破壊され、先生や職員と連絡がつかない学生や、受験料が高額で標準テストを受けられない学生もいる。教育機関には、書類の写しを認める、試験の代わりに面接を実施するなど、一定の柔軟性が求められる。

学生の心理社会的サポートや、卒業後を見据えた就職支援も欠かせない。これらに関しては、2022年にパートナー校と立ち上げた日本教育パスウェイズ・ネットワーク(JEPN)が、定期会合を開いてサポートを提供する。

日本に受け入れた難民・避難民学生が集い、交流するリユニオンが定期的に開かれている=2024年3月、東京都千代田区の上智大学、別府直樹氏撮影

日本の大学が受ける恩恵とは?

こうしたハードルを乗り越えても難民の若者を大学に受け入れる価値は何か。それは、彼らに教育の機会を与え、新たな人生を切り開く手助けをすることだけではない。より大きな恩恵を受けるのは、大学の側である。

大学は、若者が知識を得、批判的思考を実践し、社会に貢献する基礎を積む場だ。キャンパスに多様な背景を持つ仲間がいることは、学びの相乗効果を産む。人は、異なる経験、価値観、視点を持つ人と触れ合うことで、世界や自分に対する理解を深める。難民の学生は、遠い国で大学に進学するまでに、無数の困難を克服してきた。学びへの意欲、逆境に負けない強さ、複数の国をまたいで生きるしなやかさを兼ね備えた彼らが、大学のコミュニティーに与える価値は計り知れない。

来日を前にトルコで開催された日本語学習キャンプに参加した学生たち=2024年、トルコ・ガジアンテップ、パスウェイズ・ジャパン提供

昨夏、私たちJICUFは日本人学生と難民学生がほぼ半数ずつ参加するキャンプを行った。ある日本人学生は、深夜、星空の下でシリアの学生とガザについて語ったことが、かけがえのない思い出になったと回想した。

多くの大学が、世界的視野を持ち、人類に貢献する人材の育成を使命に掲げている。そのような若者を育むためには、故郷を追われながらも、日本の学生と肩を並べて学ぶために身を削ってきた学生たちをぜひ受け入れていただきたい。「日本は戦後の廃虚の中から立ち上がってここまで来た。私たちは日本で教育を受け、いつの日かその学びを祖国の復興に役立てたい」と語ったシリアの若者たちのまなざしが忘れられない。