最終話:本当の戦い
この世界に来てから見た建物の中で1番大きかったのはパーブルー王国の王宮だった。しかし、前方の建物は王宮を遥かに上回るほど巨大だった。小さな山とも表現出来そうだ。
銀色の金属のようなもので建物全体が構成されており、遠目からでも所々に高射砲や機関銃の銃座が設置されているのが見て取れる。そして建物の中央部、よく目立つところに赤、青、黄、緑、黒の色の国旗が掲げられ、風ではためいていた。
建物まではとても幅の広い一本道となっており、国別対抗テートルを観戦する人々で溢れかえっていた。さらに出店が大量に出店しており、賑やかなお祭りムードが漂っている。
パーブルー王国にいた時は視界に飛び込んでくるのは青系統の色ばかりだったが、今では様々な色の髪や服をした人が行き交っている。物珍しい光景に見入っていた僕の耳に、「すぐに移動します」というイリメの声が飛び込んだ。
「ここで止まるのは危険です。急いでリジェンドの中に入ります」
イリメの指示で僕たちは集団になってリジェンドへ向かった。僕を含む代表選手5人を取り囲むようにして大量の兵士が歩を進めている。イリメは僕のすぐ近くで周囲に目を光らせていた。
「ベール様、応援してます!」
「必ずパーブルー王国にビットをもたらしてください!」
声がした方向に視線を向けると、青い髪の2人組の男女がタオルのようなものを持って声を張り上げていた。それには『ベール・ジニアス』という名前が書かれていた。まるでプロ野球の応援グッズのようだ。
「あ、えっと、頑張ります」
僕がそう言って小さく会釈すると、男女は手をぱちぱち叩いて、頑張れ、頑張れ、と言ってくれた。こんなところまでわざわざ応援に来てくれたのはとても嬉しい。頑張るぞ、と気合が漲ったその時。
ばん、ばん、という破裂音が聞こえ、同時に複数の悲鳴が聞こえた。視線を向けると、出店の前に表面に穴が空いた巨大なガスボンベのような何かが転がっており、その周りに数人の人が転がっていた。恐らくガスボンベが破裂してしまったのだろう。
転がっている人は一様に黒い髪、黒い服。黒が黒色のアンクロック王国の国民だろう。破裂の衝撃だろうか、程度の差はあれど皆傷ついているように見える。
「大丈夫か!」
「どうした!」
「待ってください」
イリメが制止したものの、数人の兵士が慌てて傷ついた人々の元へ駆け寄った。他の兵士の視線も一様に現場に注がれている。困っている人を見過ごすわけにはいかない。僕にも何か出来ないかな、と思って足を踏み出そうとした、その瞬間。
「失礼します」
イリメの声が聞こえた。と当時にぐいっと体を引っ張られた。引っ張られた勢いで僕は地面に倒れ込む。次いでばしゅっ、という何かが斬れる音、続いて女性の断末魔の叫び声が聞こえた。
「きゃあああああああああああああ!!!」
近くの緑色の髪の女性が金切り声をあげた。僕は上体を起こし、目を見開き、「……なんだこれ」と呟いた。
地面には、首を切断された死体が横たわっている。死体の手には鋭利な短刀が握られていた。その傍らには、刀を手に、涼しげな表情を浮かべるイリメが佇んでいた。
「な、何なの!? 一体何が起きてるの!?」
先程金切り声をあげた女性が素っ頓狂な声をあげた。
「この女性がベール様を刺殺しようとしました。なので逆に私がこの女性を殺しました。それだけです」
イリメは言い、びゅん、と刀を振り下ろした。付着していた血液が飛び散り、イリメは素早く刀を納刀した。
「もうすぐ警察が駆けつけます。厄介ごとに巻き込まれたくなければ、今すぐこの場から離れることをオススメします」
イリメが緑色の髪の女性にそう告げると、女性は足早にその場を立ち去っていった。呆然とする僕たちに、「これが国別対抗テートルです」とイリメは冷たく言った。
「この女性は他国からの刺客です。パーブルー王国のチームの中で最強であるベール様を殺すことで、テートルを有利に進めようとした、といったところでしょうか」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ! どうしてそんなに冷静なんだ!? これはれっきとした殺人事件だぞ! 本当にこの女性はベール・ジニアスを殺そうとしていたのか!? 確証はあるのか!? たまたま護身用に短刀を持っていただけかもしれないじゃないか!」
エペラーが叫んだ。動揺しているように見える。イリメはエペラーにちらっと視線を向け、「エペラー様は3回目の参加でしたよね」と静かに言った。
「私は毎年国別対抗テートルの護衛に参加していますが、直近の過去2回の時はここまであからさまな攻撃は仕掛けられませんでした。エペラー様が驚くのも無理はありません。しかしこれが現実なんです」
「げ、現実って、何を言ってるんだ! そもそもこの女性は本当に……」
「この女性がベール様を殺そうとしているのか否か、くよくよ考えている内に万が一ベール様が殺されてしまったら、どう責任を取るつもりですか?」
エペラーの言葉をイリメの冷たい言葉が遮った。はっ、とエペラーは大きく息を呑み、顔を歪めて視線を落とした。
「私の仕事はエペラー様をはじめ、代表選手全員を守ること。その為なら何だってする所存です。命と命の奪い合いは一瞬で勝負が決まります。迷うくらいならまず斬る。私は今までそうして代表選手を守ってきました」
言葉を失う僕たちをイリメはぐるっと見廻し、「これが国別対抗テートルです」と言った。
「先程私は列車の中で、少しでも他国の戦力を削ぐために代表選手が殺された例は数えきれない、と言いました。今がまさにそうです。この女性はパーブルー王国の戦力を削ごうと攻撃を仕掛けてきました。この女性、そして先程の爆発、倒れていた数人の人、全てアンクロック王国の仕業と考えて差し支えないでしょう。アンクロック王国は昔から、国別対抗テートルで勝つためには手段を問わない王国として有名ですからね」
「そんな……」
「おかしいだろ、そんなこと……」
近くの兵士が呟いた。イリメはその兵士をじろりと睨み、「これが現実です。これが国別対抗テートルの重みなんです」と冷ややかに言った。
「結果でビットの配分量が左右される以上、どの王国も死に物狂いで少しでも上の結果を追い求めています。盤外戦に打って出る王国もある、ということです。悲しいですがそれが現実です。そして私は一部の兵士の危機管理意識の低さに失望しました。全く疑うことなく、ボンベが破裂した現場に向かってしまった兵士が3人いました。愚の骨頂、とはまさにこのこと。次からは気をつけてくださいね」
「「「は、はいっ!! 申し訳ありませんでしたっ!!」」」
3人の兵士は慌てて叫び、ばっと頭を下げた。イリメはその様子を見た後、「行きましょう」と言って歩き出した。
「ベール、大丈夫やった? 怪我はあれへん?」
オーカが心配そうな表情を浮かべながら僕に近づいてきた。
「は、はい。びっくりしたんですけど、大丈夫です。イリメさんに命を救われました」
「そっか、よかったわ……なんぞあったらウチがベールを守ろうと思ててんけど、間に合わへんかった。すまんの。次はちゃんと守るさかいに」
「い、いやいや、オーカが謝る必要はないですよ」
先程の様子を思い返す。一応自分なりに警戒はしていたつもりだったのだが、謎の女性の接近に全く気付かなかった。先程のイリメの言葉が本当だったとして、わざとボンベを破裂させて僕の注意を引き、その隙に殺そうとしていたのだとしたら恐ろしい話だ。
「しかし、イリメはほんまに強いなぁ……何であないにはよ動けるんやろ、ウチは自分が強いって自負があるけど、イリメにだけは勝てる気がせぇへんわ」
「イリメ様はパーブルー王国最強の兵士なのですから、速く動けるのは当然です。イリメ様に肩を並べる兵士はこの世界を探しても2人ないしは3人程度だと思います」
近くにいたユーナはそう言い、ぷいっと視線を逸らした。なんというか、やりにくい。僕がオーカと仲良くしているのを気にしているのだろうか。
止まることなく歩を進める。少しずつリジェンドが近づいてくる。改めて近くで見るととんでもない大きさだ。
ふうううう、と僕は息を吐いた。これから戦うのは、各国を代表する選手だ。他の王国でも、パーブルー王国同様に厳しい選抜大会が繰り広げられていたと聞く。当然、今まで戦ってきた人々よりもずっと文階が高い猛者ばかりが揃っているだろう。
しかし、負ける気はない。僕は英雄ベール・ジニアスだ。陰キャでいつも自己肯定感が低い僕だけど、今だけは自信が漲っている。ユーナのために、オーカのために、応援してくれる皆のために、必ず勝ってビットをもたらすんだ。
僕の、僕たちの本当の戦いは、これからだ。
(完)
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最後までお読みいただきありがとうございました。
文才無双はここで完結となります。
「え、ここで終わりなの?」と思われ方、正解です。
実はこの完結は狙い通りの完結ではなく、早期完結になります。プロの方からいただいたアドバイスをもとに自分で考えた結果の決断となりました。ここで文才無双を早期完結させ、新しい小説の連載を開始した方が夢を叶えられる確率が上がると判断しました。
さて、その言葉通り本日1月17日(土)から新しい小説の連載を開始します。タイトルを発表します。
「 剣と魔法のゲーム世界に閉じ込められた私は、オリジナル格闘ジョブ【11拳(イレブンフィスト)】でクリア目指して勝ち上がる」
https://kakuyomu.jp/works/822139843360966794
じゃーん。ゲームをテーマにした小説です。自信作です。是非読んでいただけると嬉しいです。
繰り返しになりますが、文才無双を最後まで読んでくださり本当にありがとうございました。加えて、今日から連載を開始する11拳の応援よろしくお願いします。
2026年1月17日 五月雨前線
陰キャ小説家、転生して英雄になる~『美女とハグしないと《文才スキル》が発動しない呪い』にかかった僕が、王国を救うべく小説を書いて無双します~ 五月雨前線 @am3160
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