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チームみらいの躍進は不正選挙の結果だと主張しているの誰か?

東京大学大学院工学系研究科教授
エコーチェンバーに囲まれる人提供:イメージマート

チームみらいの躍進と不正への疑惑

衆議院選挙が終了し、自民党が大幅に議席を伸ばすという結果に終わりました。

色々ありましたが、おおむね事前に予想されていた通りの結果となって大きな波乱ではなかったのかなという感じです。

予想外の結果として話題になったものの一つに、チームみらいが大幅に議席を伸ばしたというものがありました。0議席→11議席となり、衆参合わせて1→12議席ということでかなりの躍進だったといえるのではないでしょうか。

そんな中、映画評論家の町山智浩氏らが「チームみらいの得票数がおかしい」という主張を行いました。

町山氏のポストだけではなくチームみらいの躍進が怪しいのではないか、不正があったのではないかというポストは一定数存在していました。そこで、いったいどのようなアカウントが不正を疑っているのかを分析してみました。

拡散分析

2月8日から10日までの3日間に「チームみらい」を含むポストをXから収集してみました。結果45,419アカウントによる83,645ポストと、152,932アカウントによる1,432,228回の拡散がありました。

得られたポストをリツイートに基づくクラスタリング手法で分類してみました。

チームみらいに関するポストの分類(筆者作成)
チームみらいに関するポストの分類(筆者作成)

その結果、大きく二つのクラスタが取得できました。

一つ目はチームみらいの躍進に懐疑的なクラスタです。2840ポストが110,711アカウントによって1,042,247回拡散されていました。

もう一つはチームみらいに好意的な応援クラスタで、1095ポストが28,431アカウントによって67,104回拡散されていました。

チームみらいに関して不正を疑うようなポストのほうが多かったといえそうです。

それぞれのクラスタのポストが投稿された時間を見ると以下のようになっています。

チームみらいに関するポストの時間変化(筆者作成)
チームみらいに関するポストの時間変化(筆者作成)

2月8日20時(開票直後)にはチームみらいに好意的なポストが多かったのですが、その後すぐに懐疑的なポストが増加していることが分かります。数としては懐疑派のほうが多くポストし続けているということが分かります。かなり初期からチームみらいの躍進には懐疑的な見方があったことは気づいていませんでした。

アカウント分析

次に、どのようなアカウントがチームみらいに懐疑的あるいは好意的な情報を拡散していたのでしょうか。

それぞれのクラスタの情報を拡散したアカウントのプロフィールを抽出し、特徴語をワードクラウドで示してみました。

懐疑派のプロフィールの特徴語(筆者作成)
懐疑派のプロフィールの特徴語(筆者作成)

応援派のプロフィールの特徴語(筆者作成)
応援派のプロフィールの特徴語(筆者作成)

この結果から、懐疑派のプロフィールには「参政党」「保守党」「れいわ新選組」の支持者である可能性を示唆する単語が多く含まれていることが分かりました。「日本」は保守党フォロワーが良く使う単語で、「反対」はれいわ新選組や参政党のフォロワーが良く使う単語でもあります。

一方、応援派では「国民民主党」「チームみらい」の支持者を示唆する単語と、「ウマ娘」「鉄道」などの趣味を示す単語が多く含まれており、どちらかといえばX利用者の一般的なプロフィールが多いことが分かります。

次に、各クラスタのポストをどのような政党のフォロワーが拡散していたのかを分析してみました。ここでは,どの政党の公式アカウントをフォローしているアカウントが各クラスタの各ポストを拡散したかその総和を見ています。

各クラスタを拡散したアカウントのフォロー政党公式アカウント(筆者作成)
各クラスタを拡散したアカウントのフォロー政党公式アカウント(筆者作成)

この結果から、懐疑派ポストの拡散の16.7%を保守党のフォロワーが、17.5%を参政党のフォロワーが、そして10.7%をれいわ新選組のフォロワーが拡散していたことが分かりました。

一方応援派のポストは、10.3%を自民党のフォロワーが、7.5%を国民民主党のフォロワーが、20.2%をチームみらいのフォロワーが拡散していました。

こうみるとチームみらいの躍進に懐疑的だったのは保守党、参政党、れいわ新選組の公式アカウントをフォローしていたアカウント群と考えることができ、普段は対立していそうな保守系とリベラル系の二つの勢力が一致団結してチームみらいに懐疑的なポストを拡散していた大変レアな事象であることが分かりました。

れいわと同じリベラル系でも立憲民主のフォロワーは2%、共産党のフォロワーは3.3%程度しか拡散していなかったことは特徴的といえるかもしれません。

最後に各政党の公式アカウントフォロワーがどちらにより傾いているのかを特異値に基づいてみてみましょう。ここで特異値とは期待値に対する逸脱度を示しており、1より多ければ通常よりもそちらのクラスタの拡散が多いことを示し、1より小さければ期待値よりも少ないことを示します。

政党公式アカウントフォロワーの特異値(筆者作成)
政党公式アカウントフォロワーの特異値(筆者作成)

ここからも、特に懐疑派(青)に偏っているのが保守党、参政党、れいわ新選組の3政党のフォロワーであり、応援派(オレンジ)に偏っているのが国民民主、チームみらい、中道改革連合のフォロワーであることが分かりました。

立憲民主党、公明党のフォロワーは特にどちらも拡散していないのに中道改革連合のフォロワーだけ応援派に偏っているというのは興味深いところです。

選挙とエコーチェンバーとフィルターバブル

データを見ていると、

チームみらいをSNSや動画サイトで見た記憶がない。話題になっていないのにこんなに当選するなんておかしい。

というポストが結構ありました。

選挙においてはよくあることなのですが、SNSでは自分にとって心地よい空間を作るためにフォロワーを選んでいるため、興味のない情報は流れてこないようなタイムラインが作られるエコーチェンバー現象が発生します。そのため、選挙の時には自分が興味を持っていない政党の情報が流れてこないという方は多いでしょう。むしろ、特定の政党に興味をもっていてその政党の情報が流れてくる、という人のほうが少数派かもしれません。

また、動画サイトでは興味をもって見ていた動画に関連する動画が次に見るべき動画として推薦され、それ以外の動画は目に入りにくいようになるよう設計されています。その結果、興味のある動画だけが推薦されて見られる情報が偏る現象をフィルターバブル現象が発生します。そのため、選挙の際に特定の候補者や政党の動画を見ているとそれ以外の候補者や政党の動画はあまり出てこなくなります。

「自分の目で見て確かめる」ということは重要ですし、「見たものだけを信じる」という考え方もあるとは思いますが、現代の情報化社会においては「自分が見ているものは既に偏っている」ということを理解していないと、現実とは異なる結論に陥る可能性があります。特に、ネットを中心に情報を見ているとそこにすべての情報があるように思えるかもしれませんが、そもそも政治信条をネットに書き込む人は少数派ですし、すべてのネット上の情報を見ることはできません

自分が思っていたものと現実に食い違いが生じた場合、「何者かによって操作されたのだ」と思ってしまいがちですが、アルゴリズムやAIの操作によって自分の得ていた情報が不十分だった可能性があることには注意が必要でしょう。

チームみらいの情報は確かにX上では拡散していなかった

といいつつ、念のためチームみらいの公式アカウント・党首アカウントの情報がどのくらいX上で拡散していたのかを見てみましょう。

各政党公式アカウントと党首アカウントの拡散数(筆者作成)
各政党公式アカウントと党首アカウントの拡散数(筆者作成)

チームみらいの拡散数は、多くの人が感じている通りあんまり拡散していなかったことが分かりました。なんなら中道改革にまとまったはずの公明党や立憲民主党より少ないくらいです。X上でチームみらいの公式アカウント・党首アカウントの情報を見る機会は少なかったのはエコーチェンバーの影響ではなかったようです。テック集団というイメージが強いですが、案外SNS戦略は得意ではないのかもしれません。

この結果を見る限りXだけを見ていたら「チームみらいの情報なんて見たことがないのになんで11議席も取っているんだ!」と思うのも無理もないかもしれません。もっとも大勝した自民党の拡散力が保守党や参政党、れいわ新選組に負けていることからもXの拡散力がすべてではないことは明らかなので、不正の証拠には到底ならない気もします。票を操作する技術があるくらいなら拡散しているように見せかけるほうがよっぽど簡単そう。

いずれにせよ、「チームみらいのXのポストを見かけなかったのはエコーチェンバーの影響だ!」という主張は正しくなさそうです。やはり、「こうに違いない」と思ってもデータを確認することは大切ですね。

なお、なぜチームみらいは躍進したのか。少なくとも現時点のXの情報からはわかりそうもないので、今後の他の分析に期待したいところです。

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ありがとうございます。
東京大学大学院工学系研究科教授

2004年東京工業大学大学院理工学研究科機械制御システム工学専攻博士課程修了(博士(工学)),2012年より東京大学大学院工学系研究科准教授,2021年より現職.計算社会科学,人工知能技術の社会応用などの研究に従事.計算社会科学会副会長,情報法制研究所理事,人工知能学会前編集委員長.人工知能学会,電子情報通信学会,情報処理学会,日本社会情報学会,AAAI各会員.「科学技術への顕著な貢献2018(ナイスステップな研究者)」

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