〓ええ、NHK杯ですね。グランプリシリーズの第6戦に当たります。
安藤美姫
武田奈也 (たけだ なな)
浅田舞 (あさだ まい)
の3選手がエントリーしたんですが、浅田舞選手は、発熱によりフリースケーティングを欠場。
〓安藤選手は、フリーのショッパナでジャンプを失敗し、そのあと集中力を欠いて、4位ですね。けっきょく、ファイナル進出はなりませんでした。トリノのグランプリファイナルに出場する選手は
浅田真央 (日本)
中野友加里 (日本)
キミー・マイズナー (米国)
キャロライン・ジャン (米国)
キム・ヨナ (韓国)
カロリーナ・コストナー (イタリア)
となりましたね。
〓NHKは、キャロライン・ジャン選手の名前を、
キャロライン・ザン
としていました。どっちがいいのか、こればっかは当人に確かめないとどうにもならんですね。
〓NHK杯の3位には、武田奈也選手が入りましたよ。いわゆる、シニアデビューで、NHK杯銅メダルですよ。ええですなあ、あの笑顔ねえ。美人さんじゃないです。んだども、家に帰ったときにですね、「ツンとすました伊東美咲さん」 と 「ニッカニカの武田奈也さん」 のどちらが迎えてくれたらうれしいかっちゅう、まあ、そういうこってすね。
〓カロリーナ・コストナー選手は、トリノの大学に通い始めたところだそうで、最終戦で、故郷に錦的な感じで滑り込みました。(スケートだけに)
〓ところでですね、イタリア語がわかる人は、きっと、この Kostner 「コストナー」 という名前に首をかしげているはずです。イタリア人の名前じゃない。
〓彼女は、1987年、イタリアの最北部に位置する ボルツァーノ県 Bolzano に生まれました。すぐ北はオーストリアで、アルプス山脈の東部、山塊の中に位置する地方です。
〓この地方は、かつて 「南チロル」 と呼ばれ、「オーストリア=ハンガリー帝国」 の一部でした。つまり、ドイツ語圏だったんです。第一次世界大戦で 「オーストリア=ハンガリー帝国」 が敗北したため、連合国 (イタリアも加盟) 側によって、イタリアへの割譲が決められました。
〓「第一次世界大戦後」 から 「第二次世界大戦」 までの期間、この地域の住民には、「イタリア化」 と 「イタリア語化」 が強制されました。第二次大戦後、オーストリアが領有権を放棄するかわりに、イタリアが 「南チロル」 に 「高度な自治権」 を与えることで領土問題に決着をつけました。
現在でも、ボルツァーノ県の住民の 70%はドイツ語を話している
のです。
〓ドイツ語がわかる人は、ここで、
「ははあ、コストナーはドイツ系なんだ!」
と合点するはずです。ところが話は、そんなに簡単じゃない。
〓カロリーナ・コストナーが生まれたのは、ボルツァーノ県の中でも、さらに山間に入った、スキーのメッカである
「ガルデナ渓谷 (イタリア語)/グレーデン渓谷 (ドイツ語)」
Val Gardena / Grödnertal
の懐にある 「オルティゼイ」 Ortisei という小さな町なんです。
▲オルティゼイ
〓この 「ガルデナ渓谷」 というのは、
「ラディン文化」 と 「ラディン語」 Ladin
の中心地です。ラディン語というのは、 「印欧語族 ロマンス語派 レトロマンス語群」 に属する言語です。ラテン語の末裔の言語のひとつで、イタリア語とは兄弟です。 ラディン語は、イタリア語では、「ラディノ語」 と呼ばれます。
〓その観点から、「カロリーナ・コストナーのオフィシャルHP」 を見てみると、バイオグラフィーに、こんな記述があるのに気づきます。
【 話せる言葉= ラディノ語 (ガルデナ渓谷の方言)、
イタリア語、ドイツ語、英語、フランス語 】
〓彼女は、両親と話をするとき、ラディノ語を使うそうです。
〓ラディノ語人口は、ボルツァーノ県でもわずか4%に過ぎません。イタリア語に似ていることから、一般には、「イタリア語の方言」 とみなされているのでしょう。彼女が、自分のホームページで、「使用言語のトップ」 に 「ラディノ語」 を持ってきた心情に、少しウルウル来てしまいますね。
〓イタリア語、ドイツ語が続くのは、イタリアの公用語が 「イタリア語」 であり、ボルツァーノ県では 「ドイツ語も公用語であるし、住民の 2/3 がドイツ語住民である」 からでしょう。
〓現在のラディノ語のアルファベットには K はないようです。しかし、固有名詞は例外らしい。すると、 Kostner は 「ラディン語」 と考えるのがよいようです。
〓ドイツ語によく見られる姓に、
Köstner [ ' ケストナァ ] 「ケストナー」
というのがあります。ドイツ系である、 「ケヴィン・コスナー」 Kevin Costner も、先祖は、この姓の持ち主だったと考えられます。K を C に変えて、o の 「ウムラウト記号 ¨ 」 を取ったものです。
〓 Köstner という姓の語源は、
(1) 南ドイツ方言の köstner 「穀倉管理官、会計官」 という職業名に由来。
(2) Kösten 「ケステン」 もしくは Köstenberg 「ケステンベルク」 の出身者。
(3) [アシュケナージ系ユダヤ人] 指物師 (さしものし)、家具職人。
※本来は、 Kastner [ ' カストナァ ] もしくは Kästner, Kestner [ ' ケストナァ ] と
なるべきところを、 Köstner と 「誤ドイツ語化」 したもの。
これらは、あくまで 「Köstner というドイツ語姓の語源」 です。
〓試しに、 Google Italia で、
“Carolina Köstner” -Kostner
を検索してみると、「わずかに、ハンガリー語のページが2件」 ヒットするだけです。もし、彼女の名前の本来の綴りが、 “Carolina Köstner” であったとしたら、ボルツァーノ県の人々が、「オラがクニのヒロインを応援するために」 本来の綴りを使わないわけがないのです。
〓つまり、彼女の姓である、
Kostner は、ラディン語であり、ドイツ語の Köstner ではない
ということなんです。ならば、 Kostner はどこから来たのか?
〓イタリア人の姓に、
Costanaro [ コスタ ' ナーロ ] 「コスタナーロ」
Costenaro [ コステ ' ナーロ ] 「コステナーロ」
があります。これは、ラテン語の
costa [ ' コスタ ] 「脇腹、側面」
+
-en- [ エヌ ] 「場所を表す接尾辞」
+
-arius [ ' アーリウス ] 「形容詞をつくる接尾辞; ~の住人」
↓
cost - en - arius
↓
Costenarius [ コステ ' ナーリウス ] 「山の斜面の住人」
であろうと思われます。
〓彼女の姓 Kostner は、このイタリア語姓 Costanaro, Costenaro のラディン語形ではないでしょうか。長期にわたってドイツ語圏におかれたために、C を K で綴るようになった。
〓もし、ラディン語が、ラテン語のアクセントの位置を保っているとすると、 Kostner の発音は、
Kostner [ コスト ' ネール ] 「コストネール」
のようになるはずです。実際はどうでしょう。