英政府は、ロンドン中心部への中国大使館移設を認めた。移設予定地は金融街シティーに近く、中国当局の「スパイ活動の拠点」となることを警戒し、地元では反対の声が上がっていた。3度の延期を経て決定された背景に何があったのか。

 英国国内の政治から見ておこう。スターマー内閣は2024年7月に成立した。21年以降、ジョンソン氏、トラス氏、スナク氏の3代に渡って保守党政権が続いていたが、混乱していた。

 スターマー氏は労働党党首就任後、労働党の従来の方針を転換し、大学無償化やエネルギー・水道の国有化といった党首選の公約の多くを破棄。その後、労働党人気を回復し、24年7月の総選挙で1997年の総選挙以来となる地滑り的勝利を収めた。

 ただし、そこは労働党政権だ。英国が保守党政権下で欧州連合(EU)を離脱したことについて、スターマー政権は再加盟を否定しながらも、前保守党政権下で冷え込んだEUとの関係をリセットし、安全保障や貿易面での協力を深化させる方針を掲げている。

 また、スターマー首相が英首相として8年ぶりに中国を訪問した。保守党時代に中国との関係は冷え切ったが、労働党のスターマー政権は中国に融和的だ。経済停滞を脱却するため貿易や投資を増やすことが念頭にある。今回の中国大使館移設は、そのお土産とも言われている。

 また、欧州首脳の訪中も相次いでいる。トランプ米政権への高まる不信感が中国に近づく動機を生んだ。中国としても西側の分断につけ込もうと動く。

 このスターマー政権の中国への接近について、トランプ米大統領は1月29日「非常に危険だ」と警告した。スターマー首相は訪中の後、訪日してバランスを取ったようだが、トランプ大統領の怒りはそう簡単には収まらないだろう。

 なぜ金融街シティーの近くを中国大使館としたのかは不可解だ。ここはもともと1100年以上の歴史を有するイギリス王室造幣局があったところであるが、そのような由緒正しい場所を外国資本に売るとは驚いた。日本でいえば、桜通り抜けで有名な大阪にある造幣局を外国資本に売るようなものだ。しかも、シティーに近く、付近には大量の通信網もある。平時では情報の不正取得、有事には情報遮断がないとも限らない。

(たかはし・よういち=嘉悦大教授)

無断転載・複製を禁じます