人気投票化し「歴史的圧勝」の高市政権 この国の民主主義はどこへ?

構成 編集委員・高橋純子

杉田敦氏×加藤陽子氏×長谷部恭男氏

 異例ずくめの真冬の総選挙は、大した政策論争も行われぬままいつしか首相の人気投票に変質した感があり、結果、自民党の歴史的圧勝に終わった。してやった/してやられた感がいまだに抜けない。とはいえ高市政権の前途には、内政、外政とも課題が山積する。この国の議会制民主主義はどこへ向かうのか。憲法、政治、歴史を専門とする3人が語り合った。

連載「この国のゆくえ」

衆院選で高市首相の率いる自民党が圧勝しました。大きな力を得た政権は、数々の分野で「国論を二分する政策」を推し進めようとしています。国のかたちはどう変わるのか。国内外の識者にインタビューします。

 杉田敦・法政大教授 総選挙は自民党が圧勝しました。あまりの結果に誰もが衝撃を受けましたが、米国などと同じ現象が起こったとも考えられます。高市早苗首相が連呼した「日本列島を強く豊かに」は、トランプ大統領の「Make America Great Again(米国を再び偉大に)」と同じで中身は不明だし、「責任ある積極財政」も、なんとなく消極よりは積極の方がいいねと。閉塞(へいそく)感が漂うなかで前向きなイメージを振りまくことに成功し、それによって、参政党や日本保守党などの小政党が、ポピュリズム的手法を駆使して掘り起こした票が、今回は自民にかなり移ったのではないでしょうか。小選挙区制は、少しの票の移動が地滑り的な効果をもたらす制度ですから。

 加藤陽子・東京大教授 投開票日は全国的に雪が降り、豪雪地ではお年寄りや障がいを持つ方などが投票に行きたくとも行けない事態も起こりました。日本史において雪は、桜田門外の変二・二六事件を想起させますが、悪天候の選挙でもこれほどの票を自民党が集めたということは、悪天候などで投票率が下がった場合は宗教団体組織票を持っている政党が有利だといった従来の投票行動の分析では説明がつかない気がします。なにがあっても絶対に投票に行く、高市さんが進退をかけているんだから、絶対に勝たせなければならないという「推し活」のような行動様式が、国政という場で不幸にも花開いてしまったという見方もできるかもしれません。

実績ゼロの強み

 長谷部恭男・早稲田大教授 総選挙を党首の人気投票にすり替えた、高市さんの作戦勝ちです。高市さんは今回、アイドル(偶像)として選挙を戦った。それができたのは、首相としての実績がゼロに等しいからです。選挙期間中は政策についての詳細な説明を避け、NHKの党首討論は欠席し、具体的に何がやりたいのかさっぱりわからない。だけど、むしろその方がアイドルには向いている。これから頑張ります! 応援お願いします!とだけ言っていれば、観衆は自分の思いや願望を投影し、私のために歌ったり踊ったり、手が痛いのに頑張ってくれてるんだ!と勝手に思ってくれます。是非はともかく、中道改革連合の共同代表には到底出来ない芸当です。

 加藤 国論を二分する気満々のアイドル……。私は今回の解散は、高市さんが政治家として弱いがゆえに行われたとみています。印象に残っているのは、高市さんが昨年の臨時国会の衆議院予算委員会で、憔悴(しょうすい)しきった表情を見せていたことです。通常国会を迎えるにあたっておそらく彼女は、野党議員が予算委員長のままでは身がもたないと考えたのではないか。政策実現のために議席を増やしたいというのならまだしも、自分が疲弊するから土俵を変えたいという実に後ろ向きの動機で、解散権という強大な刀を、異例ずくめの悪辣(あくらつ)なやり方で抜いた。

 その結果、30年ぶりに野党から予算委員長となった安住淳さん、そのあとを継いだ枝野幸男さん、その枝野さんに代わって憲法審査会長に就いた武正公一さんという、旧立憲民主党の議員が議席を失いました。議会政治の公正な運営で力のあった彼らを失った損失は大きく、憲政史上ゆゆしいことです。今後、高市さんはスパイ防止法の制定や非核三原則の見直し、憲法改正も進めようとするでしょう。大変危惧しています。

 杉田 立憲民主主義、つまり暴走しないようにブレーキのついた民主主義の観点に立てば、今回のような大義なき自己都合解散、選挙の人気投票化はおかしい。有権者に十分な情報と熟議の時間を与えてから意見を聞くのでなければ、まっとうな民主主義とは言えません。拙速でも選挙をやればやるほど民主的だという考えもあります。選挙で有権者の意見を聞くので民主的だというわけですが、そういうやり方は、政治家が有権者を、自分たちの権力を支える道具として動員しているだけです。

 ちなみに連立パートナーの日本維新の会は、有権者が直接投票で明確に否決した大阪都構想ないし副首都構想について、繰り返しその支持を問い続けています。このように自分たちの主張が通るまで何度も民意を問うことは、歴史上、ルイ・ナポレオンをはじめとする独裁者たちが好んだやり方でした。それは謙虚な態度ではなく、一種の強制なのです。高市首相は憲法改正に意欲を示しているようですが、間違っても熟議なき発議がされないように祈ります。

 もうひとつ強調しておかねばならないのは、衆院議員の4年という任期は最大限尊重されねばならないということです。英国には少し前まで任期固定法がありました。任期途中の解散のハードルを上げることで、内閣による恣意(しい)的な解散を防止し、政党政治の公平性が担保されます。そもそも、ただでさえ強い立場にある政権に、なぜ解散権までフリーハンドで与えなければならないのか。主権者が選んだ議会を、内閣の一存で解散するというのは重大なことで、議会と内閣が対立して動きが取れないような例外的な場合に限るべきです。任期を軽視することも立憲主義の観点から問題だという認識をもっと広めないといけません。

 長谷部 おっしゃる通りで、解散権の乱用は憲法学者の責任でもあります。たいていの憲法の教科書には、解散はやった方がいいと書いてある。ゆえに日本は国政選挙のサイクルが異様に早く、有権者が個別の政策について落ち着いて考える暇があまりありません。それでも今までは党首の人気投票になっていなかった。自民党の人事システムが年功序列的で、人気や能力があるからといって、一足飛びにリーダーになることはできなかったからです。

 ところが今回、めぼしい実績はないし党内基盤も弱いけれど、人気だけはあるという人物が党首となった。高市さんにしてみれば、勝つためには人気投票にせざるを得ないという判断だったのでしょう。それで大成功を収めたわけですから、今後も模倣する人が出てくるでしょう。解散権を縛る。任期を固定する。なんらかの対応が必要です。

議論欠いた中道改革連合

 加藤 惨敗を喫した中道改革連合の過ちは、直近まで与野党として対峙(たいじ)していた二つの党が、党首会談後たった数日で新党を結成してしまったことにあります。熟議が大事と国民に説いた人々が、合流に際して表だった議論をまったくおこなっていなかった。比例名簿にしても、上位には旧公明党議員がずらっと並ぶ。あのような名簿でよいのか、立憲サイドは所属議員や支持者の意見を聞き、議論をすべきでした。

 もちろん、時間的猶予を与えずに奇襲攻撃的な解散を仕掛けた高市さんの方が悪いわけですが、それでも、熟議を掲げてきた人たちがトップダウンで物事を決めたことへの不満と失望が、最後まで尾を引いたのではないか。それに加えて、沖縄の辺野古基地移設問題、安全保障法制解釈での妥協は、従来の支持者を失望させたはずです。

 長谷部 安保法制について中道の説明をよく聞けば、個別的自衛権の範囲でしか適用しませんと言っているので、立憲の従来の方針を大きく変えたわけではありません。ですが、一般の人たちは、安保法制については合憲か違憲かどっちかしかないという考えがあるから、入り組んだ理屈はなかなか理解しづらい。もう少し時間があれば説明できたでしょうが、仕方がないですね。これからでも遅くないので、丁寧に説明して、理解を得るべきだと思います。

 杉田 公明と合流したことで立憲の政策軸が右に寄り、左の人たちからの支持を減らしたことは間違いないでしょう。しかし、政治学者の丸山真男が言うように、政党政治というのは「悪さ加減の選択」です。自分の「お気持ち」で投票するのではなく、自分が落としたい候補以外のなかで、一番勝ちそうな人に投票する。それが政党政治の作法です。

 しかし日本ではそういう戦略的投票は「不純」とみなされ、自分の気持ちに正直に投票することが尊いのだと、自ら進んで「死票」を投じている人が多い。気持ちはわかりますが、結果的に多党化を招き、小選挙区で自民党をアシストしている。自分の投票行動がもたらす結果を、野党支持者は直視すべきです。

 加藤 投票日直前に、SNS上では「#ママ戦争止めてくるわ」という投稿が共感を集めていました。高市さんは今年中に安全保障関連3文書を改定したいという意向を示していて、そのこと自体はいいとしても、条件があります。米国は昨年12月に国家安全保障戦略を、今年1月に国家防衛戦略を発表しました。非常に興味深いのは、中国に対する書きぶりがトーンダウンしていることです。「安定的な平和や公正な貿易、敬意ある関係」を追求するとし、「体制変更や存亡をかけた闘争は求めない」と。

 この米国の最新の戦略を踏まえて、日本も中国に対する書きぶりをトーンダウンさせるのが筋です。2022年に閣議決定された現在の文書では、中国の軍事動向を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と位置づけ、従来の「懸念」からトーンアップさせました。これを、日本のGDPの4・5倍、世界第2の経済大国である中国と経済的な友好性を保てるような文書として書き換えていく必要がある。かつて吉田茂池田勇人は「軽武装・経済重視」で高度経済成長を成し遂げた。そのやり方を思い出して欲しいものです。

 長谷部 米国の国家安全保障戦略を読むと、「ルール・オブ・ロー(法の支配)」という言葉は一度も出てきません。「デモクラシー」は何度か出てきますが、なんとも腰の引けた感じで、外国に対して民主的な体制を押し付けることはもうやりませんと宣明している。法の支配や民主主義などの価値よりも「力による支配」を重視する「ドンロー主義」を唱え、西半球を勢力圏とする「お山の大将」でいい、しかもすべてを損得勘定で考える米国に、日本は、どこまでくっついていくつもりなのか、安全保障政策を根本から構想し直す時期に来ていると思います。ところが、高市さんを取り巻く右派の人たちは総じて米国べったりだから、新しい構想など出てくるはずがない。ブレーンも含めて考え直されたほうがいいのでは。

 加藤 日本は先の大戦において、「A国が○○したら」「B国が○○すれば」という「たられば」で戦略を立てました。情勢をシビアに分析できず、「こうだったらいいな」という願望を戦略に混ぜこんでしまうのは日本のあしき伝統芸です。同じ間違いを繰り返さないためにも、安全保障政策については専門家による幅広い見地からの熟議が必須です。

 杉田 歴史的大勝を収めたとはいえ、市場は日本の財政悪化を警戒しており、ある日突然「ノー」を突きつけられないとも限らない。高市政権は常にそのリスクを抱えることになるわけですが、警戒すべきは、経済の危機から国民の目をそらすために、外に「敵」をつくり、ファイティングポーズをとってみせる、まさにいまトランプ大統領がやっているようなことをなぞりはしないかということです。もちろん大統領制と議院内閣制の違いはありますが、今回のような議会構成になると、首相がどんなに暴走しても議会がストップをかけることは非常に難しい。「ミニトランプ」を止められるのは世論しかありません。円安がさらに進み、物価が上がれば、今回の選挙結果とは関係なく人びとの不満は高まるでしょう。裏を返せば、人びとの不満の高まりに期待をかけなければならないほど、政治も経済も危うい状況だということです。

断言と「新語法」

 加藤 高市さんは選挙期間中の街頭演説で、東京・南鳥島周辺でレアアースを含む泥の引き揚げに成功したことを引き合いに、「日本はこれからレアアースには困らない」とミスリーディングな発言をしました。「外為特会の運用、今ほくほく状態だ」という発言は円安容認と受け止められて、日米当局のレートチェックによる「効果」で戻した円が再び下がりました。発言の軽さは首相としての資質を疑うレベルです。

 中国からのレアアース供給が滞ることの深刻な影響は、今年後半には社会を揺るがす危機として表れるでしょう。高市さんがいくら虚勢を張っても、中国側は静かに圧力をかけ続けるはず。選挙で圧勝したから中国が屈服するとの予想は日本の願望に過ぎません。憲法改正が日本の内政上の施策だと考えるのは間違いで、アジア太平洋全域の国際秩序に重大な改変を加える行為だと、他国からは見えているとの自覚が必要です。今や、これまで対中外交に尽力してきた政財界や国民の力の結集が求められる局面に来ています。

 杉田 今回の選挙でも、近年の地方選挙などと同様に、野党候補者についての虚偽情報や意図的に切り抜かれた動画が大量に流されました。他方で高市氏の宣伝動画が、おそらく高額な宣伝費によって動画閲覧サイトなどに氾濫(はんらん)し、投票結果にかなりの影響を及ぼしたようです。

 19世紀末にフランス社会心理学者ギュスターヴ・ル・ボンは、根拠がなくても断言する政治指導者は人気を博し、さまざま留保をつける人は弱い政治指導者としか見られない、大衆は留保を「弱さ」と見ると喝破しました。ル・ボンが著した『群衆心理』はヒトラーたちも参考にしたのではないかと言われています。社会学者ガブリエル・タルドは、書斎で静かに新聞を読む人々は理性的な「公衆」となり、群衆にはならないとしましたが、ル・ボンはそうは考えず、空間を共にしなくても群衆化するとした点が興味深い。今日の状況を見れば、どちらが正しかったかは明らかですし、政策よりイメージで政治家が判断されがちな現象は、100年以上前にすでに指摘されていたわけで、根が深いです。

 長谷部 高市さんが断言している「責任ある積極財政」の中身は、プライマリーバランス(新たな借金をせずに政策経費をまかなえるかどうかを示す指標)について、単年度の黒字化にこだわらず、複数年度のバランスを重視すると。責任を放棄した「無責任な積極財政」です。「ニュースピーク(新語法)」なんですよ、これは。ジョージ・オーウェルの小説「1984」で、独裁者が国民に植え付け、復唱させたスローガン「戦争は平和だ」と同じです。

 人気投票で高市さんを推した人も、これからの政策を見ればだんだん気づいてくるのではないか。積極財政を進めれば円安になって物価は上がるし、長期金利が上昇して住宅ローンの金利も上がる。人々の生活にとっていいことは全くないはずです。最後の元老・西園寺公望は晩年、「政治というのは人民の程度しかいかないものだ」と嘆きました。政治を良くできるのは、ちゃんと自分の頭でものを考えることができる有権者だけです。

長谷部恭男さん

 はせべ・やすお 早稲田大教授(憲法) 1956年生まれ。著書に「法とは何か」、共著に「検証 安保法制10年目の真相」、杉田、加藤両氏との鼎談(ていだん)をまとめた「歴史の逆流」など。

杉田敦さん

 すぎた・あつし 法政大教授(政治理論) 1959年生まれ。著書に「自由とセキュリティ」「政治的思考」「境界線の政治学」「デモクラシーの論じ方」など。

加藤陽子さん

 かとう・ようこ 東京大教授(歴史) 1960年生まれ。専門は日本近現代史。前歴史学研究会委員長。著書に「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」「となりの史学」など。

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    ダースレイダー
    (ラッパー)
    2026年2月13日14時7分 投稿
    【視点】

    僕は以前から日本は民主社会ではない。民主制度は機能しているのが主権者が自らの権利に気づいていないからだと話しています。ここでの議論からもその点は確認できると思います。  その上で日本の民主化のためには最後の結びの”ちゃんと自分の頭でものを考えること”が解決策だとも思うんですが、今は考えることそのものが忌避されてきています。日々の忙しさもあり、SNSやショート動画の印象だったり、投票先をAIに聞いている人もいるでしょう。そして考えることそれ自体がストレスだと感じる人が増えれば選挙の人気投票化はますます進むとも思います。その方向性を担保するのが民主制度であることも実に皮肉です。

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