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ノロウイルス感染症の感染防御と治療について―牡蠣は食いたし命は惜しし―
ノロウイルス感染症が増えてきている。 毎年冬場の風物詩ではあるが、生牡蠣を食べてノロウイルスに感染する人も後を絶たない。巷では、生牡蠣の生食は、「現代のロシアンルーレット」とまで言われるようだ。 また、各地で高齢者施設でもノロウイルス集団感染が散見され、死者もすでに出ているようだ。

貝類が苦手な筆者としては、生牡蠣のおいしさは全くわからないし、ノロウイルスに感染するリスクを承知の上で生牡蠣を生食し、結果当たってヒーヒー言ってる人については、本音を言うとやや冷めた目でみてしまっているが、罹った人の意見を聴く限りでは、 「とった水分が全部出る」 「怖くて水も飲めない」 「いつ嘔吐するか、下痢するかわからない恐怖がある」 「一人暮らしで罹ったら地獄」 など、地獄の苦しみを味わうようである。 また、集団感染を起こしやすい性質もあるので、処理を誤ると一家全滅、保育園や高齢者施設が壊滅するということがあり得る。 筆者も初期研修時代、某病棟で生牡蠣の生食を行ったところ看護師の集団感染が起き、その結果シフトが壊滅し、病棟師長が激怒、病棟内で「生牡蠣禁止令」が出されたことがあった。 今回は、いよいよ本格的にシーズンインしている「ノロウイルス感染症」の症状、感染対策、早く治す方法、について考えていきたい。

ノロウイルス感染症の概略

冬になると必ず増える感染症のひとつが、ノロウイルスによる感染性胃腸炎である。 世界的にも急性胃腸炎の主要原因であり、日本でも毎年冬季に流行のピークを迎える[1]。 主な症状は •突然の激しい嘔吐 •水様性下痢 •腹痛 •軽度の発熱 があげられる。 潜伏期間は12〜48時間、多くは数日で自然軽快するが、高齢者や基礎疾患のある方では脱水や誤嚥などにより重症化することがある[1]。

生牡蠣は危険 ―なぜ感染源になるのか

ノロウイルスはヒトの排泄物由来のウイルスが海水に入り、二枚貝(特に牡蠣が有名)に濃縮されることで感染源になる。二枚貝は海水をろ過するため、下水由来の汚染の影響を受けうる、という理解でよい。 加熱不十分な牡蠣は食中毒の原因として知られる。 厚生労働省では、牡蠣の調理においては、 中心温度85〜90℃で90秒以上の加熱 を推奨している[2]。   つまり問題は牡蠣そのものではなく、「加熱不足」が問題なのである。

施設内集団感染で死者も出ている理由

健康な成人では自然軽快することが多い一方で、 •高齢者施設 •病院 •保育施設 では集団感染が問題になる。 ノロウイルスの特徴として、 •少量で感染が成立する •環境中で長期間生存する •症状消失後もウイルス排出が続く があげられる[1]。 このため、ノロウイルス感染者の吐物、排泄物を介して感染が伝播しやすい。治癒した後も一定期間はウイルス排出が続くため、集団感染が起こりやすい。 また、高齢者施設での流行では脱水、誤嚥性肺炎などにより、入院や死亡が増加した報告もある[4]。

鬼のような感染力

ノロウイルスは •食品 •手指 •吐物 •環境表面 など多様な経路で感染する。 また、閉鎖空間では短期間で多数に広がることがあり、施設内感染対策の重要な対象となっている[3]。 CDCの解説では、10〜100個程度のウイルス粒子でも感染が成立し得るとされている[1]。  この非常に低い感染成立量が、家庭内や施設内で急速に拡大する理由の一つである。

アルコール消毒が効きにくい

また、ノロウイルスはエンベロープを持たないウイルスであり、アルコールのみでは十分な消毒効果が得られない場合がある。 そのため基本となる対策は •石けんと流水による手洗い •次亜塩素酸ナトリウムによる環境消毒(ハイター) になる[3]。  

「牡蠣は食いたし命は惜しし」

というわけで、ノロウイルスのヤバさについて論じてきた。 しかし、これだけヤバいことを知っていても、それでもかかることを承知で生牡蠣を食べたいと思うのが人情というものである。 また、加熱自体も絶対ではなく、加熱後でも調理工程や手指・器具を介した二次汚染があれば感染は起こり得る(「加熱した=以後ずっと安全」ではない)[2][8]。   ここからは、「感染してしまった時に困ること」、主に、吐物の処理方法、治療方法、復帰時期について考えていく。

吐物の処理方法 ―合言葉は「吐いたらハイター」―

「集団感染させないため」の感染対策で、最も重要なのが吐物処理になる。 厚労省・感染症学会資料では以下が推奨されている[2][3]。   個人防護 •マスク •手袋 •可能ならガウン 必ず上の装備をした上で吐物処理を行う。 処理手順 •ペーパータオルで吐物を覆い、外側から内側へ拭き取る •0.1%次亜塩素酸ナトリウム(ハイターで代用可能)を十分に浸したペーパータオルで、汚染部位とその周囲を「浸すように」拭く •使用したペーパータオル、手袋等はすぐにビニール袋へ入れる •二重袋で密閉廃棄(可能なら、袋の中に0.1%次亜塩素酸ナトリウム(ハイター)を“染み込む程度”入れて消毒) •石けん手洗い 吐物を乾燥させないうちに処理することが重要であり、処理にはハイターが大活躍する。 合言葉は「吐いたらハイター」である。

受診する基準、点滴する基準

基本的に、細菌感染症や一部のウイルス(インフルエンザなど)とは違い、ノロウイルスには特異的な治療法というものがなく、治療の中心は支持療法(補液など)になる。 受診の目安としては以下 •水分摂取ができない •尿量低下 •高齢者・乳幼児 •強い腹痛や血便 点滴の適応は 経口補水が困難な脱水 であり、多くの症例では経口補水療法(OS-1など)が第一選択となる。 経口補水液を飲むコツとしては、 「ペットボトルのキャップに経口補水液を入れて、その分をチビチビと飲んでいくこと」 になる。 コップ一杯分すら受け付けないほど激しい嘔吐をするため、少ない量から入れていくことが推奨される。

整腸剤のエビデンス

急性胃腸炎に対するプロバイオティクスは、小児では一定のエビデンスがあるようだが、成人では結果が一貫していない。 成人を対象とした系統的レビューでは、有効性を示唆する研究はあるものの、統合解析では明確な有意差は示されていない[5]。   したがって現時点では 補助療法の一つ という位置づけになる。

漢方薬での対応

この最近、上気道炎や胃腸炎では、対症療法メインで、誰もキレがあまり良くない分、この辺りの対症療法については漢方薬に分があると個人的に感じている。 急性ウイルス性胃腸炎に対して、五苓散や黄芩湯などの漢方薬が効いたという症例報告がある。 日本東洋医学雑誌の報告では、急性ウイルス性胃腸炎に対する漢方治療として五苓散や黄芩湯の臨床経験が紹介されている[6]。 また、高齢者施設でのノロ様胃腸炎に対する黄芩湯の症例報告では、症状改善や点滴例減少が示唆されている[7]。 ただしこれらは •症例報告や観察研究が中心であり •ランダム化比較試験による有効性が確立しているわけではない。 また、漢方薬の鑑別処方、使い分けについては熟練の技が必要なので、あまり素人判断で使わない方がいいところもある。 ざっくりした使い分けとして、 •高熱を伴う下痢、嘔吐→黄芩湯 •微熱レベル、激しい嘔吐、下痢で喉が渇く→五苓散 •嘔吐、下痢、上腹部痛、お腹がゴロゴロ→半夏瀉心湯 といったところだろうか。 現時点では 症状に応じて使用される補助療法 という位置づけが妥当である。

復帰のタイミング

小児、大人共にノロウイルスの休養期間は(日本の法律として)一律には定められていない。 しかし、症状が落ち着いた後も一定期間はウイルスが排出され得るため、排便後の手洗いは念入りに行う必要がある[1]。 復職、登校の目安としては、CDCでは 症状が止まってから2日(48時間)は自宅で過ごすことが推奨されている[1]。   また、食品関連、調理従事者においては、厚労省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」にて、ノロウイルスによる症状と診断された調理従事者等は、リアルタイムPCR等でノロウイルスを保有していないことが確認されるまで、食品に直接触れる作業を控えることが望ましい、とされている点にも留意が必要である[8]。  

まとめ

ノロウイルスは •少量で感染 •アルコールに強い •そのため集団感染を起こしやすい •特に高齢者施設などでアウトブレイクが起こると、重症化することもある という特徴を持つウイルスである。 対応としては、 •石けんを用いた手洗いが必要 •貝類は加熱して食べる •吐物は次亜塩素酸消毒 •治療のメインは経口補水 •復職、登校は症状が落ち着いてから2日後(目安) •ただし食品に直接触れる調理従事者は、PCR等で保有していない確認があるまで慎重に

最後に

毎度毎度ここまで冗長な文章を読んでいただき、ありがとうございました。   今回の記事についても、感染症専門外の内科医が自分の勉強や、できるだけ一般人に「ノロウイルスで一家全滅」ということを防ぐために書いたものです。なので、もちろん専門の方から見れば正しくないところも多々あるかもしれません。もしも明らかな間違いや理解不足な点があれば指摘していただければと存じます。 最後に、合言葉を斉唱して、この記事をおわることとしよう。 「吐いたらハイター!!!!

参考文献

[1]CDC About Norovirus(症状・感染力・48時間ルール)    [2]厚生労働省 身近な危険 食中毒:ノロウイルス(加熱 85〜90℃/90秒 など)   [3]日本感染症学会 ノロウイルス感染対策   [4]Hospitalizations and mortality associated with norovirus outbreaks in nursing homes   [5]Systematic review of probiotics for acute diarrhoea in adults   [6]急性ウイルス性胃腸炎への漢方治療(五苓散などの臨床経験) [7]高齢者施設ノロ様胃腸炎に対する黄芩湯報告 [8]大量調理施設衛生管理マニュアル(調理従事者の対応、PCR等の記載)
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