北朝鮮の領空に外部から無人機(ドローン)が侵入したとされる事案を巡り、韓国の情報機関・国家情報院(国情院)や軍の関係者が関わっていた疑いが浮上し、韓国政府内に波紋を広げている。
韓国の捜査当局は当初、30代の大学院生らが関わった疑惑があるとして調べていたが、捜査の過程で、この大学院生が国情院や軍の関係者から金銭を受け取っていた可能性が生じた。慎重に調べを進めている。
「飛ばしたのは自分」
事案を巡っては、1月に北朝鮮の朝鮮人民軍総参謀部報道官が、昨年9月と今年1月に韓国側から無人機が飛来し領空を侵犯したとする声明を発表した。韓国国防省はすぐに「北朝鮮が発表した日時に無人機を運用した事実はない」と否定。李在明(イ・ジェミョン)大統領は軍と警察が合同調査タスクフォースを構成し、捜査するよう指示した。
捜査当局は当初、事案に関わったとみられる民間人1人を事情聴取した。その後、30代の大学院生が韓国メディアに対し、聴取を受けている男性は無人機の製作者で、飛ばしたのは自分だと主張。目的は「北朝鮮のウラン関連施設の放射能数値を確認することだった」と述べた。
韓国メディアによると、2人は大学の先輩、後輩の関係で、2024年に大学のスタートアップ支援を受けて無人機製作会社を設立。尹錫悦(ユン・ソンニョル)前政権下の大統領室での勤務経験もあった。大学院生は過去に保守系青年団体の会長も務めていたという。
国情院との関係は…
一方、捜査の過程で大学院生が国情院の職員から金銭的な取引をしていたことが判明し、問題が思わぬ方向に発展。中央日報などによると、この職員と大学院生は大学時代からの知人で、職員は22年~26年1月に計約500万ウォン(約53万円)を大学院生に渡していた。
さらに、大学院生と軍関係者の関係も浮上した。聯合ニュースによると、大学院生は北朝鮮関連のニュースを配信するネットメディアも運営していた。韓国軍情報司令部の関係者がこのメディアを情報工作に活用し、大学院生らに情報活動名目で資金を支援した疑いが出ているという。
疑惑を受けて国情院は内部監査を実施。大学院生に金を渡していた職員は調べに対し、「生活費として貸した」と説明し、渡した金は私費で、365万ウォンは既に返済してもらったと主張した。国情院は、職員と今回の事案との関連性は認められなかったと発表した。軍関係者の資金支援についても、現時点でこの事案とのつながりは明らかになっていない。
消えぬ疑念
ただ、今回の事案を巡って国情院や軍が関係していると疑う声は後を絶たない。李氏は1月下旬、民間人が無人機を飛ばすと「発想すること自体疑わしい」と指摘し、「国家機関が関与しているとの説もある」と発言。徹底的な捜査を求めた。
韓国国内で国情院や軍に対する疑念が高まっている背景には、尹前大統領が24年10月に「非常戒厳」宣布の条件を満たす国家非常事態を作るために北朝鮮に無人機を飛ばすよう軍に指示したとして、一般利敵罪などで追起訴されたことがある。進歩系の李氏が、今回の事案を通じて組織内の保守勢力をけん制する意図を持っているとの見方も指摘されている。
捜査当局は10日、国情院や軍司令部など18カ所で家宅捜査を実施。大学院生を含む無人機製作会社の幹部3人と軍情報司令部の少佐など現役軍人3人を航空安全法違反などの容疑を視野に調べている。【ソウル日下部元美】