イスラエル、ヨルダン川西岸支配強化の措置承認 アラブ諸国など非難

カイロ=其山史晃 エルサレム=石原孝

 イスラエル政府は8日、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸へのユダヤ人の入植を容易にし、イスラエル当局の支配を強化する措置を承認した。占領地の西岸での入植地の拡大は、イスラエルと将来のパレスチナ国家が共存する「2国家解決」への道のりをさらに険しくする。パレスチナ自治政府やアラブ・イスラム諸国は非難している。

 一連の措置は8日にイスラエルの安全保障内閣で承認され、極右のスモトリッチ財務相らが明らかにした。AP通信によると、スモトリッチ氏は声明で、「我々はパレスチナ国家の構想を葬り続ける」と述べた。

 イスラエルメディアなどによると、今回の決定により、西岸で禁じられてきたユダヤ人への土地の売却が可能になる。これまで機密扱いだった西岸の土地登記簿も公開されることになり、購入を希望するユダヤ人が土地の所有者を特定して直接交渉できるようになる。

自治政府は反発「危険な決定」

 オスロ合意に基づき、西岸はA~Cの三つの地区に分かれ、イスラエルが行政権と警察権を握るC地区が約6割を占める。今回の決定により、イスラエル当局は、C地区以外のパレスチナ自治政府が行政権や警察権を持つ地域でも、水資源や遺跡の損傷、環境汚染などについて監督する権限を強めることになる。

 さらに、西岸最大の都市ヘブロンでは、ユダヤ人入植地区域の計画・建設の権限が、パレスチナ自治政府下にあるヘブロン市からイスラエル当局に移される。ヘブロン中心部には、イスラム教とユダヤ教双方の聖地がある。密接した地域に暮らす地元のパレスチナ人とユダヤ人入植者の緊張をいっそう高める恐れがある。

 パレスチナ自治政府は8日の声明で、「西岸の併合に向けた試みを深化させることを目的とした危険な決定だ」と非難した。イスラエルの決定を阻止するために、国連安全保障理事会と米国政府に介入を求めた。

 イスラエルのネタニヤフ首相は11日にワシントンでトランプ米大統領と会談する予定だ。トランプ政権はイスラエルの西岸併合にはかねて反対を表明している。今回のイスラエル政府の決定が議題にのぼる可能性もある。

 イスラエルの決定を受けて、エジプトやヨルダンなどアラブ・イスラム諸国8カ国は9日、「国際法に対する明白な違反」と非難する声明を発表。「(イスラエルによる)違法な併合とパレスチナ人の住民の追放の試みを加速させる」と訴えた。

 国連のグテーレス事務総長も9日に出した声明で「深刻な懸念を抱いている」とし、イスラエルに措置の撤回を求めた。

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この記事を書いた人
其山史晃
中東アフリカ総局長
専門・関心分野
中東、安全保障、地政学、テロリズム
石原孝
エルサレム支局長
専門・関心分野
アジアや中東、アフリカの新興国・途上国の情勢
  • commentatorHeader
    川上泰徳
    (中東ジャーナリスト)
    2026年2月10日12時35分 投稿
    【解説】

    今回のイスラエル政府の決定が「パレスチナ国家」の否定に向かうと懸念されるのは、1993年のオスロ合意で実施された、イスラエルの軍政からパレスチナ自治政府への民生権限の移管を否定し、「水資源、考古学的遺跡、環境」という3つの理由で、イスラエル軍の「監督および執行措置」を可能にしているためである。つまり、オスロ合意で始まったパレスチナ自治政府の権限を無力化することになる。 オスロ合意でのパレスチナ側の民政移管があったのは、自治政府が治安と民事・行政の権限を持つA地区(18%)と、民事・行政は自治政府で、治安は自治政府とイスラエル軍が共同管理するB地区(22%)である。今後、イスラエル軍は「水資源に関する違反行為、考古学的遺跡の損壊、環境上の危険に対する禁止」という名目で、A地区、B地区でも、「監督および執行措置」をできることになる。 自治政府の開発プロジェクトや住民の住宅建設などはもちろん、水を使い土地を耕す農業さえ、イスラエル軍が「水資源や環境」の保全という理由で停止を求めることができるようになるだろう。さらに、西岸でヘブロン、エリコ、ベツレヘムなど旧約聖書に出てくる都市や地名は多い。自治政府やパレスチナ住民が地域で開発や建設を計画・着手しても、幅広い範囲で「考古学的遺跡の損壊」という口実で停止や凍結を求めることになるだろう。 今回の政府決定は、イスラエル軍がオスロ合意で生まれたA地区、B地区のパレスチナ民生移管地域に、「水資源、考古学的遺跡、環境」の保全という、国際的に反発や批判を受けにくい理由を掲げて強制介入する道を開くものである。 これまでイスラエルによる入植地建設や拡張、さらにイスラエル軍による住宅や学校の破壊は主に、イスラエル軍が治安も民生も支配していたC地区(60%)で日常化していたが、今後、イスラエル軍が治安権限を持つB地区でも広がりかねない。 それによって、パレスチナ人はC地区、B地区を離れて都市部のA地区に移らねばならなくなるが、A地区の開発や住宅建設も規制、制限されるため、域外に移住するしかなくなる。結果的には西岸からのパレスチナ住民排除につながる決定ということになる。

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  • commentatorHeader
    高橋真樹
    (ノンフィクションライター)
    2026年2月10日18時24分 投稿
    【視点】

    パレスチナ問題については、ガザ地区ばかりに注目が集まってきましたが、ヨルダン川西岸地区では、静かな民族浄化が淡々と進んできました。 ヨルダン川西岸は、これまでも「自治区」とは名ばかりの占領状態が続いてきました。ただ、これまで土地の収奪や住民の追放のターゲットになってきたのは、主にイスラエル軍が治安・民生ともに管理するC地区(およびエルサレム周辺)が中心でした。しかし、今回の措置で、その他の地区でもそれが可能になります。それは、西岸の全てのエリアの土地を奪うことを意味します。 オスロ(合意)体制を全否定する現在のイスラエルの政権としては、もはやエリア分けなど、土地収奪の邪魔でしかないということでしょう。この措置は同時に、パレスチナ自治政府の存在をより無力化するものです。 現在の世界では、もはや「国際社会」という枠組みが存在するのか怪しくなってきましたが、それでも、力の支配に対して、国際法に基づいてイスラエルのやり方を批判することが大事だと感じます。

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イスラエル・パレスチナ問題

イスラエル・パレスチナ問題

2023年10月7日にイスラム組織ハマスがイスラエル領内を奇襲攻撃。報復としてイスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区への空爆や地上侵攻を始め、6万7000人以上の犠牲者が出ています。25年10月、トランプ米大統領の停戦案に双方が合意しました。最新のニュースや解説をお届けします。[もっと見る]

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