(三谷幸喜のありふれた生活:1268)「面白い」の旅、S・キング

 去年から続けている「本当に面白いことって何だろう」の旅。かつて自分がはまった映画、ドラマ、小説を観(み)直し、読み直すことで、自分が面白いと思った理由を改めて考え、それをこの先の自分の作品に活(い)かす(活かせるといいんだけど)。今回選んだのはスティーヴン・キングの長編小説「呪われた町」だ。

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 キングはホラー小説の大家。映画化作品も多いので、普段翻訳小説を読まない人でも、名前は知っているのではないか。八十歳近くなった今でも精力的に新作を発表している。

 正直、キングの作品はどれも分厚くて、ハードカバー上下巻に分かれてそのままブックエンドにもなる。もちろん読めば面白いのは間違いないのだが、なかなか手に取る勇気が出ない。最後に読んだのはケネディ大統領暗殺を扱ったタイムスリップ物「11/22/63」。調べてみたら日本で出版されたのは十年以上も昔でした。

 という風に僕は決してキングの熱心な読者というわけではないのだが、この「呪われた町」は、今まで僕が読んだキングの小説の中でも、いや、僕が読んだすべての小説の中でも、面白さで言ったら最高級と言ってもいい。

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 簡単に言えば吸血鬼の話だ。しかしその舞台になるのは、東ヨーロッパの古城ではない。アメリカのどこにでもある小さな田舎町セイラムズ・ロット。この設定がもう素晴らしい。現代の、おそらくは一九七〇年代のアメリカに吸血鬼がやって来る。ブラム・ストーカーが十九世紀末に書いた怪奇小説「吸血鬼ドラキュラ」(ちなみにこれも相当面白い)の設定をそのままに、誰もが知っている吸血鬼の物語が、現代に展開するのだ。

 キングの特徴でもあるのだが、前半はいい意味でなかなか話が進まない。「呪われた町」も、最初は町民たちの何げない日常がかなり丁寧に描かれる。その中に少しずつ少しずつ不穏な事象が、モグラ叩(たた)きのモグラのように、ちょこちょこと首を出す。これがいい。

 スピーディーな話に慣れた若い人たちが読むと、展開の遅さにイライラしてしまうのだろうか。キングの圧倒的な筆力は、そんな若者たちをも魅了してしまう力を持っているようにも思えるが、どうなのだろう。キングの小説→前半何も起こらない→でも必ず後半怒濤(どとう)の展開が待っている、という信頼感という刷り込みさえあれば、彼らは安心してページをめくってくれるのではないか。

 僕もこんな物語を作りたいと思うが、ホラー作家としての実績がないから、読者(僕の場合は視聴者)は物語が佳境に入る前にリタイアしてしまう恐れがある。

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 もし、ホームドラマの名手橋田壽賀子さんや、日常を描く天才向田邦子さんが、現代日本を舞台に吸血鬼ものの連ドラを書いていたら相当面白いものになっていたはず。一般家庭の話で始まって、六話くらいから吸血鬼との戦いになる。考えただけで胸が高鳴るではないか。及ばずながら挑戦してみたい。

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