AIエージェントが書いた“異世界転生”、人間が書いた小説と見分けるのが難しいレベルに
グーグル「Antigravity(アンチグラビティ)」のようなAIエージェントに小説を書かせると、一貫性のある物語を生み出した上、映像化まで発展可能です。 【もっと写真を見る】
グーグル「Antigravity(アンチグラビティ)」のようなAIエージェントは、コードを書かせるだけでなく、より複雑な作業を任せても強力なツールとして使えることがわかってきました。例えば、AIに小説を書かせることは、これまでも様々な方法で挑戦されてきていますが、一定の限界を抱えていました。しかし、AIエージェントを利用することで限界を超え、一貫性を持った物語を生み出すことができ、さらに、そこから映像化をする方法論にまで発展可能です。AIエージェントを使った小説執筆の現在をご紹介します。 Antigravityで長文小説は書けるのか 2025年1月に、この連載で、OpenAI「ChatGPT-o1 Pro」を使って長編小説を書けることをご紹介しました(参考:「AIの書いた小説が普通に面白い ChatGPT「o1」驚きの文章力」)。その際は、あらすじと章立てを作らせた後、小説の文庫本一冊レベルの10万字を何回かに分けて一気に書かせるという方法を取っていました。これでもそれなりに面白い小説は生成できていたものの課題点もありました。後半になるにつれて、登場人物や世界観設定が曖昧になったり、ストーリー自体も盛り上がりに欠ける展開になる傾向が高かったのです。それはLLMに何万字もの長文のコンテキストを維持させることの難しさでもあります。計算コストも高いためか、OpenAIはo1 Pro自体を廃止してしまい、長文を一気に出力するモデルを提供することもやめてしまいました。 そんななか、2026年1月に絵空事テレビ / AIカワウソさんが、Antigravityを使った面白いアプローチを紹介していました。動画制作のためのメインアシスタントとして使うというものです。「設定、脚本、リサーチ、プロンプトフォーマットなどの資料を同じフォルダにぶちこんでおけば、たとえばキャラを追加すると全資料へリアルタイムに反映してくれる」というのです。紹介されているものは、動画制作のためのものだったのですが、同じアプローチを応用すれば、長文の小説執筆も可能ではないかと考えました。 AntiGravityについて「コード書く以外にも使えるんだ」というコメントが多かったので、キャラを追加して関係する4つの資料に変更を反映してもらう様子を動画にしました。 画面構成とそれぞれの役割の説明つきです。 チャットで指示した内容が中央のmdファイルに追記されます。 https://t.co/fMaYTwgoogpic.twitter.com/BNKcHgsf6N — 絵空事テレビ / AIカワウソ (@boke_ai) January 6, 2026 △絵空事テレビさんの書き込み “自分が書きそうな小説”を生成する まず、筆者自筆の短編集『百夜アンドロイド記』の短編の1話分を書かせてみることにしました(参考:「“AI読者”が小説執筆の支えに 感想を励みに30話まで完成」 )。 短編であれば、AIにも描写能力が十分にあることはすでにわかっています(参考:「AIが書いた怪談小説が面白い 2分に1本のペースで出力されるのは驚異的」)。その上で、Antigravityで動作するグーグル「Gemini3 Pro」は分析能力も高いため、「自分の文章や文体を分析させれば、雰囲気や世界観設定なども継承したものが生成できるのではないか」と考えました。そこでまず、短編集の1話から10話までを読み込ませ、どういう傾向の文章を書いているのかをAntigravityに分析させた上、mdファイル(マークダウン形式のテキストファイル)にまとめさせました。できあがったmdファイルは「『百夜アンドロイド記』物語生成テンプレート」として生成され、筆者の物語展開と文体の特徴が言語化されています。 テンプレートによれば、導入があり、日常描写があり、ズレが生じ、対話が深まり、最後にオチが来る、という構成になっています。登場するのは大体、アンドロイドのメイドと、主人公の2人です。テーマとしては、不器用な模倣、論理的な愛情、傷と欠陥、外部との軋轢といったパターンが提示されました。 その上で、エピソード案を3つ出させました。案そのものは悪くないと考え、そのうちの「雪の録音」というエピソードを実際に書かせてみたのですが、どうもあっさりしていて、全く面白くありませんでした。 そこで、さらに指示を追加して、既存のAIが書きがちな「綺麗なだけの感動SF」を壊し、もっと 「人間臭くて、少し粘つくような質感」を入れてテンプレートを作り直すように指示しました。そうすると、Antigravityは、生活感や、社会的な視線、キモさ、経済などの日常を生み出すための具体的な要素を足してきました。 この上で推敲させたところ、お話としては平凡な印象がしますが、最初のものよりはかなり読める文章になりました。ある程度、コントロールすれば、補助手段として使えるということが確認できました。 “異世界転生”小説を生成する もっと思いきって、筆者が絶対書かない分野を、Antigravityを通じて書かせることに挑戦してみることとします。書き上がったのが、第1部に相当する12話分、約3万4000字の「魔法が【スパゲッティコード】で動く欠陥世界に転生した社畜SE、詠唱のバグを直してたら無自覚に神話級魔法を量産して聖女に監禁されかける件」という、いかにもなタイトルの話です。実験として、AIにできるだけ任せて戦略的に生成してみることにしました。 まず、カクヨムの月間上位ランキングを分析し、どういう世界観がウケているのかを調べました。すると、“ファンタジー、人生2周目”という設定が強いことがわかります。もともと持っているスキルを異世界で活かすというタイプの内容です。さらに、ギャップや屈折した人間関係があり、過去では評価されなかった主人公が、転生先では最初から最強という、いわゆる“異世界転生なろう系”の展開が好まれていることがわかりました。 その上で、ヒロインについては、重い愛、病み、曇らせなど、一筋縄ではいかないウェットな関係が良い。そしてタイトルは、プロットの要約にせよ、不幸、きっかけ、その結果、そして強烈なベネフィットを入れよ、承認欲求の代理充足をさせよ、という要素を盛り込む必要があると提案が来ました。 それを踏まえて、どんなストーリーが作れるかを5案考えてもらいました。そのうちの一つ「案4:異世界ファンタジー×社畜SE×自動化」が面白そうだったので、そのプロットを書いてと指示しました。主人公の能力は「リファクタリング・アイ」、魔法の記述の問題点が一発でわかる能力です。 その上で、キャラクターと世界観の設定をまとめてと指示したところ、これらの情報が「設定資料集」として、mdファイルにまとめられていきます。Antigravityを利用するメリットは、この外部化されて管理される設定資料にあるといっても過言ではありません。世界観のルール、キャラクターの詳細設定、物語に登場する専門用語がまとめられています。 そして、このファイルは物語が展開していくにつれて、情報が随時アップデートされていきます。また、書き上げた過去の物語についても、設定的な変更があった場合には、全体に反映させることもできます。 これにより、長文化によってコンテキストが積み重なり、後半になるにつれて、曖昧化する問題を回避することができるのです。 推敲を続けるとかなり面白くなってきた キャラクターと世界観の設定ができた後、1~4話のあらすじを出してと指示したところ、次のようなプロットが出てきました。主人公は官公庁のレガシーシステム保守を担当していた元SEで、魔法が存在する異世界に転生した後に、田舎でのんびりスローライフをしていたが、使った魔法から超常の能力がバレて、どんどん巻き込まれ、愛情たっぷりのヒロイン(王女)に監禁される──という展開です。これでOKを出し、1〜4話を書かせました。 その後、4話ごとの物語を作成させ、12話まで進みました。ヒロイン(王女)に監禁された後に、第二ヒロイン(魔導図書館司書)の協力によって脱出、しかし、第二ヒロインは世界の混沌に飲み込まれ闇落ち。再び、主人公は監禁されるという展開になりました。 当初は、文章がかなりサラッとしていたので、「百夜アンドロイド記」のテンプレートを使って、文体をもっと日常感の描写などを増やすように指示しました。その推敲によって、文章量が増え、雰囲気もそれらしくなります。 出力させて、展開が面白くないところは、「ここをもっと詳しく書いてくれ」「戦闘シーンを濃くしてくれ」と指示して、何度も推敲しました。第二ヒロインが闇落ちする展開は、筆者が指示して、入れた展開です。また、特に面白かったのは、12話の王女と第二ヒロインが対決するバトル描写です。最初に出力された戦闘が地味だったので、「もっと派手に大爆発させてほしい」「意味不明な単語を詠唱させてほしい」と指示したりして、どんどん変えていくと、かなり面白くなっていきました。 読み直してみると、整合性が甘いところはあり、直さなければならない部分や、自分で手直ししたほうが早いと感じるところもあります。とはいえ、筆者は異世界転生なろう系が自分自身が書けるジャンルとは思えないので、ここまで書くのはかなり大変だと感じられる一定水準には達していました。 12話まで完成したところで、その後どうするかアイデアを聞いてみると、「ルート権限争奪戦(七つの鍵編)」という展開の提案を出してきました。パーティを組んだ王女とともに、世界復活の鍵を握る女の子たちのもとを周り、ラスボスである闇落ちした第二ヒロインを救うという展開です。それぞれの多様な女の子を口説いていくハーレム展開がお約束だから、という理由です。このプロットには笑ってしまいました。次は、エルフの村に行って、エルフの女の子を口説くという話が提案されています。 人間が書いた文章と見分けるのは難しい Antigravityが便利なのは、さらに画像や動画のベースとなるプロンプトの生成までが可能であることです。まず、「画像生成AI「Nano Banana Pro」で判明した“ストーリーボード革命”」 でご紹介したストーリーボード作成のプロンプトをテンプレートとして登録します。 そして、キャラクターのプロンプト生成をして、各キャラクターの参照画像を作ります。その上で、第1話のストーリーボードのプロンプトの生成を指示します。これにより、大まかなストーリーに合わせた画像を生み出すことで別の楽しみ方もできます。これを元に、挿絵にしたり、動画に広げていくことも可能でしょう。画像はAntigravity内でも生成できるのですが、生成枚数に制限があるため、プロンプトだけ作成し、他のサービスを利用して生成しています(今回はHailuo AI)。 文庫本一冊の三分の一にあたる執筆にかかったのは、試行錯誤を含め1日程度です。10万字を書くことは、すぐにできてしまうでしょう。面白いと評価できるかは、悩ましいところです。 ただ、これほどの水準になってくると、人間が書いた文章と見分けをつけることはかなり難しいと感じます。「不自然な文体」で見抜けるかというと、人間も不自然な文章を書くので、簡単には判断できません。人間が手を入れて、不自然な点を推敲すれば、なおさら区別は難しいと感じます。 自分が書いた小説かというと、その実感は強くはありません。自分で書いていないので、記憶からすぐに剥落してしまう感じがあります。ただ、ストーリーが自分が指示した方向でリアルタイムに作られていく面白さはあります。一方で、画像生成などと組み合わせると、インタラクティブ小説を読みながら作っているという、新しい読書体験のようにも感じます。あえて例えるならば、TRPGのゲームマスターに似ているでしょうか。 自分ですべてをコントロールしているわけではなく偶然に任せている面もありますが、確実にコントロールしている側面もある。AI小説が、どのように社会の中に入っていくのかは、まだ見えませんが、単なる小説を超えて、別メディアとして広がる予感を持ったりもしています。 筆者紹介:新清士(しんきよし) 1970年生まれ。株式会社AI Frog Interactive代表。デジタルハリウッド大学大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。現在は、新作のインディゲームの開発をしている。著書に『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。 文● 新清士