行き詰まり感のある外交安全保障政策
アメリカとの関係について考えてみよう。小泉内閣の時代は、国際社会におけるアメリカの国力と影響力が、圧倒的だった。小泉首相の日米関係絶対重視路線は、アフガニスタンやイラクをめぐる対テロ戦争のアメリカの失敗に付き合わされる苦渋を、日本外交にもたらした。しかし、当時のアメリカの圧倒的な国力を考えると、日本には他に合理的な選択肢はなかった。アフガニスタンやイラクへの支援それ自体が間違っていたということでもない。
安倍首相が第二次政権を組閣して、まず取り組んだ平和安全法制の成立を、当時のオバマ大統領は、日米同盟強化の努力として、穏健に評価した。平和安全法制は、冷戦時代からの日米同盟の運営体制の不備を、整理するものだった。当初は反対運動も起こったが、内容的には納得感を国民に感じさせるものだった。日米間で目標の理解の相違はなかった。トランプ大統領の就任後は、安倍首相は、もっぱら平和安全法制の成果を強調することによって、日米関係の安定を図った。
これらの時代の状況と比して、現在の、トランプ第二期政権の性質や、日本を取り巻く国際環境は、大きく異なっている。トランプ大統領は、同盟国の防衛費の3~5倍増を要求する態度を強調している。その背景には、累積した巨額のアメリカの財政赤字と貿易赤字の事情がある。防衛費の大幅増加の内実を、アメリカの兵器産業が潤うものにしなければ、トランプ大統領を満足させることができない。防衛費の増額そのものが達成すべき目標となっている実情は、過去には類例がない程度だ。
そもそも現在の東アジアにおける中国の経済力・軍事力の規模は、圧倒的だ。10年以上前とは、比較にならない。西太平洋地域におけるアメリカの軍事的・経済的優位は、中国に深刻に脅かされている。実態面を見れば、もはや日米同盟さえあれば、日本の安全保障は安心だ、と言える状況ではない。
トランプ大統領のアメリカは、抑止力の不足分は、日本の防衛努力の強化によって補うべきだ、という態度を明確に打ち出している。しかし、果たして、やはり巨額の財政赤字を抱える日本が、そのような甚大な防衛負担に耐えられるのかは、不明だ。そもそも日本の防衛政策が、東アジアの安全保障環境に与えることができる影響力の範囲は、か細い。まして日本が台湾海峡の安定の責任を担うことができるかのような態度は、リスクが大きい。
中国経済が減速していると言っても、低迷を極めている日本の比ではない。すでに日本の5倍近い経済規模を持つ中国と日本の間の国力の格差は、高市首相が責任を持つ4年間の間に、拡大していく一方だろう。中国もやがて人口減少時代を迎えるが、日本はすでに人類史に類例のない未曽有の人口激減・少子高齢化の時代に突入している。そして世界最悪規模の財政赤字を抱えた状態である。
本来であれば、厳しい安全保障環境を鑑みて、中国との関係維持にも細心の注意を払う精緻な外交術こそが、求められるように思われる。しかし、高市首相は、むしろ逆に、中国を嫌う国民感情に訴える戦術をとった。困難な事情を捨象し、自分はトランプ大統領と親密で、日米同盟さえあれば中国との関係が悪化しても大丈夫だ、という「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」イメージ戦略で、選挙を乗り切ってしまった。しかも台湾海峡をめぐる情勢にも、関与する姿勢を、国際的に、特に中国に対してアピールしてしまった。現実的計算の前に、感情的アピールを重視したイメージ戦略で大勝した結果がどうなるかは、今後の現実の進展の中で、試されていく。