アヤネちゃんとセリカちゃんはイチャつけって言ってんの【女女合同web再録】
るびびが主宰した合同誌「GunsightLink -ブルアカ女女合同-」から、
自作「あまいよる」の掲載です。
冬休み最後の日にセリカとアヤネがいちゃいちゃする話です。アヤセリだと思います。
◆
現在、女女合同の第二弾企画を進行中です。
今年の冬コミ頒布予定です。
参加人数が30人から40人に増え、パワーアップ必至の鈍器をよろしくお願いします。
続報をお待ち下さい~。
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◆あまいよる
「それじゃ大将、お先にー」
「おう、お疲れさん。気を付けてな」
大将に挨拶をして、私は柴関ラーメンを後にする。時刻は零時を回っていて、冬休み最後の日に突入していた。
「……疲れたあ」
大きく吐いた息は白く、冬の寒さを知らしめて来る。
思えばこの冬休みは、ほとんどの時間をアルバイトに捧げた冬休みだった。起きてはバイト、起きてはバイト、その繰り返しだった。年末年始は稼ぎ時で、アビドスの借金を少しでも減らすチャンスだったから。
でも。
そのバイト漬けの日々も、ようやく終わり。
冬休みの最終日だけは、働かないで休む日と決めていた。
「さーてと」
ようやく訪れた休息の日。この日をどれほど心待ちにしていたことか。この日を最高の物にする為に、身を粉にして働き続けていたと言っても過言では無かった。
疲れた身体に鞭打って、私はある場所へと向かう。昂ぶった気持ちに急かされ、早足で。
行き先。アヤネちゃんの、おうち。
私とアヤネちゃんは、仲が良い。
友達とか、親友と呼ばれるそれよりも、もうちょっと深い仲だと思う。お互いの部屋の合鍵を交換する事に抵抗が無いくらいだし。
ちょっとした時間に、隣にいたいと思うのはアヤネちゃんだし、隣にいて欲しいと思うのもやっぱりアヤネちゃんだった。アヤネちゃんもきっと、おんなじことを考えてくれているんじゃないかって、そんな自惚れまであった。
そんな仲だってのに。この冬休みは、アヤネちゃんと二人になれる時間を取ることが出来なかった。先に述べた通り、アルバイトを優先したからだ。アヤネちゃんは事情を理解してくれたけど、寂しさはやっぱりあった。
だから。
だからこそ、仕事の無い冬休み最終日くらいは一緒に過ごそうって、二人で決めていた。バイトが終わり次第、部屋に行って。一緒に眠って、起きて。二人で遊んで、また眠って。次の日は一緒に登校して対策委員会に顔を出すと。そんな予定を立てていた。
アヤネちゃんと会うのは久し振りだ。最後に顔を合わせたのは、去年の末に対策委員会でパーティーをした時だから、年が明けてからは会ってない事になる。モモトークや電話でのやりとりはしてたけど。そう考えたら、アヤネちゃんに会いたい気持ちが大きくなって。
私の足取りは、もっと早くなった。
◇
「ついたー……」
小走りで進むこと十分ちょっと。ようやく、アヤネちゃんの家の前まで辿り着いた。その道中で、アヤネちゃんにモモトークでもうすぐ着く旨の連絡をしておいたので、ぬかりはない。
「──合鍵どこだー」
走って乱れた息を整えつつも扉の前まで歩きながら、鞄の奥を探る。そこから、しばらく使うことのなかった鍵を取り出す。
「……」
合鍵を持って扉の前に立つと、なんだか得も言われぬ緊張感を一瞬だけ覚えた。アヤネちゃんに会うのに、そうなる必要は全く無いのに。
「……お邪魔しまーす」
そのまま鍵を開けて、静かに室内へ入った。
暗い玄関の照明スイッチを手探りで押して明るくすると、ほどなくして奥の部屋の扉が慌ただしく開くのが見えた。そこから飛び出してくるのは、当然アヤネちゃんだ。私が到着した事に気が付いたらしい。
会うことを待ち望んでいたアヤネちゃんは寝間着姿で、スリッパをぺたぺた鳴らしながら廊下を駆けてくる。
「──おかえりなさいっ」
「た、ただい──わ、ちょ、アヤネちゃん……!」
挨拶もそこそこに。アヤネちゃんは、私目掛けて飛び込んでくる。咄嗟に腕を広げて、アヤネちゃんを抱き留めるのが精一杯だった。
冬の夜風によって蓄えられた寒さが、アヤネちゃんの体温によって溶かされていく。
暖かい。その暖かさをもっと求めて、私の腕が自然とアヤネちゃんの背中へと伸びる。白いシルクのパジャマの、手触り感がすごく好きだった。
「……久しぶり、だね。会うの」
抱き合ったまま、アヤネちゃんが言った。
「──そうだね」
「会いたかったよ」
「わ、私も……」
「ふふ」
漫画やドラマで見るようなやりとりをして、二人で小さく笑い合ってから私たちは抱擁を解いた。ほんの少しだけ名残惜しかったけど、やろうと思えばこの後いくらでも出来る。
「バイト、お疲れ様」
「ありがと。すっごい疲れた」
「毎日働いてたもんね……ご飯、食べた?」
「賄い食べてきたから大丈夫」
「そっか。暖かいココアでも飲む?」
「飲むー」
答えるとアヤネちゃんは分かったと笑って、部屋で待っててと言った。
「手伝おうか?」
「疲れてるでしょ? 休んでて」
「はあい」
少しでもアヤネちゃんの傍に居たかった気持ちからの発言ではあったんだけど。そう言われてしまうと、大人しく待ってるしか無い。まあ、お言葉に甘えることにしよう。
アヤネちゃんの部屋に入ると、暖かい空気が私を出迎えた。しっかりと暖房が効いている。
キッチンにいるアヤネちゃんにハンガー借りるねと声を掛けてから、ラックへコートを掛け。それから二人掛けのソファに深く腰掛けた。
「はぁー……」
随分久し振りに座った気がする。ずっと立ちっぱなしだったから足腰が痛い。
座った瞬間、疲れがどっと押し寄せてきたような気がした。許されるならば、もう立ち上がりたくないとさえ思う。
ソファに置いてあったクッションに手を伸ばして抱き締める。ふわふわしてて気持ちいい。
大きく息を吐くと、身体が休息モードに切り替わったらしい、意識がぼんやりとし始めた。
暖房が風を吐き出す音、キッチンから聴こえてくる電子レンジの動作音、テレビから聞こえて来る深い意味なんて無いバラエティ番組のゲラの声ですらが子守唄の様に感じられる。
気が付けば、クッションに顔を埋めてしまっていた。クッションからは、アヤネちゃんの優しくて安心出来る匂いがして、癒しを感じていた。家に入る前に変な緊張してたのが嘘みたいだ。
「……やば」
ああ。寝ちゃいそうだ。
疲労も相まって、もう寝れる。三秒もいらな、い──。
「セリカちゃん?」
「んぇっ」
名前を呼ばれ、飛んでた意識が戻って来た。クッションから顔を離すと、隣にはマグカップを二つ持ったアヤネちゃんが座ってこっちを見ていた。
「……ごめん、ちょっと意識飛んでた」
「相当疲れてるみたいだね……はい、ココア」
「ありがと」
差し出されたカップを受け取った。ココアの湯気と共に、甘い香りが漂ってくる。その匂いに誘われるがまま、中身を啜ろうとして。
「熱いから気をつけてね」
「おっと」
アヤネちゃんの注意が、ギリギリ間に合った。このまま啜ってたら、猫舌気味の私は舌にダメージを負っていたかもしれない。カップに向けて何度かふーふーと息を吹き掛けて、ココアを冷ましてから慎重に口を付けた。
飲み込むと、暖かい甘さが広がっていく。その優しさが、冷えた身体には良く沁みた。
「──美味し」
「よかった」
思わず呟くと、アヤネちゃんは安堵したように笑った。
それから、そのまま二人でテレビのしょーもないバラエティ番組を観て、こちらもしょーもない話をあーだこーだとしながらココアの甘さを楽しんだ。
「──セリカちゃん」
しばらくして、番組がCMへ入ったタイミング。
アヤネちゃんが、改まって私を呼んだ。
「ん、どうし──」
たの、までは言うことが出来なかった。
ぽすん、と。私が向き直るよりも尋ね終わるよりも早く、アヤネちゃんの頭が私の肩へ乗せられた。
「……ちょ、アヤネちゃんっ」
ずりずりと頭を擦り付けて、収まりの良い場所を探っているみたいだった。時折頬を掠める髪の毛がちょっとだけくすぐったい。やがてしっくり来る位置が見つかったのか、ぴったり動かなくなった。
それなら、と。私は寄りかかってきたアヤネちゃんの頭に頭を寄せた。お互いにもたれかかる体勢。たまに電車の中で見掛ける、頭を預け合って眠っている子達みたいになった。
「……」
ああ。なんだか良いな、こういうの。と、ぼんやり思った。この心地良い感覚に、いつまでも浸っていたいとさえ思えた。
「──今日、ね」
「うん?」
アヤネちゃんが口を開く。
「セリカちゃんに会うの、本当に楽しみだったの。他の事が全く手に付かないくらい」
「そんなに?」
「そんなに」
でも、まあ。それも仕方ない。モモトークや電話をしてた時、アヤネちゃんは口には出さなかったけど、寂しそうな雰囲気を漂わせていた。
「だから、今日は──」
「わ」
アヤネちゃんがゆっくりと動き出す。身を乗り出してきて、私の腰辺りに腕を伸ばして。優しく、だけどしっかりと抱き着いてきて。
「会えなかった冬休みの分、あまえさせて、ね」
私の胸に顔を埋めながら、小さな声で言った。
真面目なアヤネちゃんが私だけに見せてくれる、あまえんぼモードだった。私だけが、今のアヤネちゃんの姿を知っている。どうしたって嬉しいことに決まっていた。
肯定の意味を込めて、アヤネちゃんの髪を撫でる。さらさらとした感触が気持ち良い──。
の、だけど。
「……」
それは、それとして。
今、私は別方面の心配をしていた。
「……アヤネちゃん」
「なあに?」
「私、変なにおいしない?」
まだお風呂に入れてないから、それだけが心配だった。こうしてアヤネちゃんと触れ合っていたいけど、アヤネちゃんを不快な気持ちにさせたくは無いから。
「……すん」
「ちょ、恥ずかしいから嗅いで確かめないでー」
「……ラーメン屋さんの匂いする」
「微妙に反応に困る!」
良い印象なのか、悪い印象なのか、すぐには分からない表現をされてしまった。
「ちょっとにおった所で、別に気にしないよ?」
「私は気にするよー、お風呂入りたい」
「あ。それじゃあ」
アヤネちゃんが顔を上げた。
「一緒に入る?」
「うぇ」
まるで、そうする事が当然で、自然であるかのように。アヤネちゃんは私に言ってのけた。
「……」
考える。一緒に、お風呂に入る。それが意味する事を、アヤネちゃんは果たして分かって言ってるのだろうか。分かって言ってるんだろうな。疲れてるからって、身体や髪を洗ってくれるのだろう。それはもう丁寧に洗ってくれるのだろう。そのあとは、湯船に二人で密着して入る筈で。あんまり大きくない湯船だから、どうしたって密着して入るしか無い。もうちょっとこっち来て良いよって、身体を抱き寄せられて、触れ合う肌の熱さを、自分の肌で感じる事になるんだろう、な。
──恥ずかしいけど!?
「──……ごめん、今日は一人でゆっくり入らせて!」
羞恥が勝った。ギリギリ勝った。想像だけでどうにかなってしまいそうだった。そうしたくない、と言えば嘘になってしまうけど。
「今日、は?」
「え」
すかさず、アヤネちゃんが言う。
「じゃあ、明日は一緒に入ろうね」
「……はい」
的確に言葉の隙を拾われ、有無を言わさない物言いに、私は顔を赤くして頷く事しか出来なかった。
思わず、敬語になっちゃった。
◇
それから、お風呂で汚れと疲れを落とし。湯船に浸かって、身体が芯から暖まるまでゆったりと過ごした。さっきのアヤネちゃんの言葉に、悶々としながら。
きっと、今考えてる事は明日になると現実になるのだろうなって考えていたら、のぼせる寸前まで行ってしまった。
お風呂から上がると、待ち構えていたアヤネちゃんによって一通りのスキンケアを施された。自分で出来るよと言っても、アヤネちゃんは聞く耳を持ってはくれず、しばらくの間、されるがままになるしかなかった。
「──はい、おしまい」
「ありがとー」
全てのスキンケアが終わり、アヤネちゃんとお揃いで、色だけ違うパジャマを着た。いつだか一緒に買った、アヤネちゃんは白色で、私は黒色のパジャマ。もちろんこれも手触り感が大変よろしくて好きだった。
「──ぁふ」
着替えも終わると、大きな欠伸が出た。
それを合図に、今夜は眠る事になった。
一緒の、お布団で。手を繋いで寝室に入った。
「先、入っていいよ」
アヤネちゃんに言われるがまま、壁際のベッドへと身体を潜り込ませた。
「わ、あったかい」
「暖めておいたの」
想像に反して、布団の中は暖かかった。多分、私がお風呂に入ってる間、アヤネちゃんが身を持って暖めてくれていたのだと思う。寒い思いをしなくていいのは、とってもありがたい。
遅れて、アヤネちゃんがベッドへ入って来る。
「電気消すね」
「うん」
アヤネちゃんがすぐそばのベッドテーブルに置いてあるリモコンを操作すると、明かりが消える。
「……」
それから毛布を被ると、部屋が静寂に満たされた。暗闇の中でも、未だ繋いだままのアヤネちゃんの手が安心感をもたらしてくれていた。
「よく眠れそう……」
「ずっとバイトだったもんね。頑張ったね」
「うん……」
暖かさが、次々と睡魔を呼び、私の意識を呑み込もうとしてくる。けれど、もう少しだけ抵抗したかった。すぐそばにアヤネちゃんがいるのに、このまま眠ってしまうのは勿体ない気がしてならなかった。
「……ねえ、セリカちゃん」
「ん……?」
鈍りつつある頭で話題を探していると、アヤネちゃんの方から声を掛けられた。顔を傾けると、ヘイローに照らされたアヤネちゃんの顔がこっちを見ていた。
「抱き枕って、あるでしょ?」
「うん」
抱き枕がどうしたんだろう。欲しいのかな。明日買いに行きたいのかな、なんて思いながらアヤネちゃんの言葉の続きを待っていると。
「私を抱き枕にするのと、私に抱き枕にされるの。どっちが嬉しい?」
「え」
予想していた言葉とはかなり違うそれだったので、思わず固まってしまった。
「抱きたい? 抱かれたい?」
「……」
この問い掛けは、文字通りの意味なんだろう。
ぼんやりとした頭で考える。どっちがいいのだろう。どっちでも、正直嬉しいとは思う。
「ぎゅって、してほしい」
だから、正直に答えた。アヤネちゃんの鼓動を感じながら眠ることが出来るなら、きっと何よりも心地良いんじゃないかって、思った。
「──わかった」
そう返事をしたアヤネちゃんは、ここで繋いでいた手を解いて。更に身体を寄せてきた。
近い、と思った矢先。布団の中から伸びて来たアヤネちゃんの腕が、私の顔を優しく抱いた。
「ぅ」
抱き締められて、暖かさと柔らかさに包まれる。手触り感の良い生地と、生地越しにアヤネちゃんの身体の柔らかさを顔いっぱいに受け止めた。
「苦しくない?」
頷いて応えた。
聞こえてくる心臓の鼓動も、心地良かった。
「ごめんアヤネちゃん……もう寝そう」
「いいよ」
アヤネちゃんは優しく言う。
抱いた手で頭を撫で、もう片方の手で背中を規則正しくとんとんと叩いてくれていた。
「ぁー……」
「ふふ、セリカちゃん可愛い……」
それが気持ち良すぎて、変な声が出てる、らしかった。
もう、眠ってしまう寸前だった。
「……明日──もう、今日だね。今日は、ずっと一緒にいようね」
「うん……」
「いろんなこと、しようね」
「ん……」
「楽しみ、だね」
「……ん」
ことばに対して、頷く事しか出来なかった。
私だって、アヤネちゃんと同じくらい今日という日を楽しみにしていた。せめてそれを、アヤネちゃんに伝えたかった。
「あやね、ちゃ──」
「なあに?」
けれども。
「……セリカちゃん?」
私の意識が、まどろみへ落ちていくのが幾らか早かった。
「……寝ちゃった。かわいい」
そんな声が、聴こえた気がした。
「──おやすみなさい、セリカちゃん」
おやすみ、アヤネちゃん。
一足先に、夢の中で待ってるからね。夢の中ででも、だいすきな人と一緒に過ごせたら、どれだけ嬉しい事だろうか。
そんな甘い夜を過ごせる事を、私も、きっとアヤネちゃんも、願わずにはいられなかった。
あー死ぬ(尊死) 尊死