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雲乃井配列を作ったので紹介する

前説

 ローマ字配列といえば大西配列が最近は有名ですね。これは母子左右分離と言われる分類に入ります。デファクトは文字の並びがぐちゃぐちゃだとして、左右に母音と子音を分離することで視覚的な整理及び交互打鍵の優位性を最大限利用しようとする配列のことです。
 ここで話は変わるのですが、デファクトの配列はタイパーの標準武器です。大西配列の使用者がタイパーに速さで優位をとったという話や、タイパーが大西配列または交互打鍵配列に変えたという話はほとんど聞きません。(正確に言えば、一昔前は Dvorak配列がタイパーの選択肢に入っていましたが、主流ではなくなりました)ここで疑問が生まれますね? 速さにおいて、交互打鍵ではなぜデファクトに勝てないのか。
 一つにアルペジオ打鍵の存在と言われています。アルペジオというのは片方の手の指が波打つように動いて打鍵する方法をいいます。デファクトにあって大西配列にないのがこれです。
 さてこの打鍵を活用する配列はあるのか。かな配列にはあります。代表的なのは薙刀式です。それではローマ字配列には? これが不思議なことにほとんどないんですよね。いろいろ理由が考えられるのですが、ここではその話はしません。長くなるので。ただでさえ長いのに。
 「ほとんど」といったのは、めんめんつさんという月林檎配列の作者が左右非分離のとかげ配列を作っているからです。そのとかげ配列から派生して二つほど配列を作り(どういう経緯なのか気になる人は前回のククリ配列についての記事を読んでください)、それとは別で今回新しく雲乃井配列という配列を作りました。

 ということで雲乃井配列の紹介をやっていきます。初めて配列界隈に足を踏み入れる人向けではなく、ある程度知識のある人へいろいろ解説する感じですね。


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雲乃井配列のヒートマップ
※大西さんのデータに撥音(C=ん)促音(J=っ)長音符(L=ー)の拡張を適用したものを使用
アナライザーはこちらのサイトを利用しています
https://koyasi777.github.io/keyflow-analyzer/
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雲乃井配列の実装実例(というか作者の環境の再現)

名前の由来


 名前の由来は蜘蛛の巣を意味する「蜘蛛の囲(蜘蛛の網)」の当て字です。初期に使った所感として、導線がAとIのキーに収束していくような、そこから糸でつり下がっているような感覚があったので、そこから蜘蛛の糸。調べた結果、蜘蛛の巣を意味する「蜘蛛の囲」というぴったりな言葉があったため「くものい」という語感を採用し、漢字を独自に当てました。
 ぱっと見た感じ横長で、ローマ字配列としては異端の感があり、複雑な配列かと思われるかもしれませんが、基本的に高頻度のかな(て、し、の、か、こ、で、を、る)は片手アルペジオでとれるようにしてあるというシンプルな作りです。

この形になった理由


 マニアックなところから始めますが、下段が排除できないかというのはずっと考えていました。Ω型ホームポジションでは自然な手の開き方を追求するわけですが、中指や薬指で下段を叩こうとするには屈曲の極みみたいな、非常に不自然な動きをするしかなくなるわけです。ブラインドタッチの難易度も上がるし。ローマ字の最大の利点はキー数が少なくできること、とラクダエンさんにX上で言われたときに、それならば極端な悪運指製造機であるこの下段という存在を抹消できるのではないかという直感がありました。

 開Ωホームポジションを取り入れた場合は小指外が小指内より打ちやすくなり(詳しくは後述)、それだったら小指内に薬指下段などに入っていた底辺アルファベットを入れ込んでみれば良いのではとひらめきました。結果的に薬指と中指と小指の下段は不使用に成功。もっと早くやれば良かった。結構今までと違う開いた感じのホームポジションなので、戸惑う場面もまだありますが、結構快適です。


キー数の少なさ


 ローマ字テーブルとレイヤーを活用することで、促音長音撥音とバックスペースを盛り込みながら、26キー(Qを含めれば27キー)という省キーを実現しました。上記の形の実現にこれが貢献しています。


母子と清濁の指分離 


 とかげ配列のころからと、指分離という概念とも結構長いつきあいになります。しかし雲乃井配列の指分離の大きな特徴としては、母子指分離だけではなく、清濁指分離にも成功したこと。これは偶然の産物ですね。今回のコンセプトとして、物書きのように長い文章を書くことにも耐えうるように人さし指、中指に重点的に負荷を集中させる、というものがあったのですが、清音に比べて圧倒的に頻度の少ない濁音の配置を練っていった結果、濁音とワ行ヤ行の低頻度子音が薬指小指の担当になった次第です。ローマ字の構造上母音と子音が繰り返されるというのが基本なので、母音と子音の配置関係というのが大事であり、指分離、清濁分離もその結果の産物であるという風に認識しています。


Ωホムポの利点と違い

 雲乃井配列では、ヒートマップを見てもらえればわかるように頻度の高いキーの位置が弧を描くように配置されており、ここがホームポジションとなります。 ロウスタッガードでも人体工学に沿っている配置ができる、というのが最大の利点ですね。直線ホームポジションに指をそろえるための筋肉の緊張が不要になるため、長く書くときの疲労感には違いが出るのではないかなと思います。明確なエビデンスといえるもので提示できるものがないのが現状なのですが、実感として快適性は相当高いです。
 Ωホームポジションでもいくつか違いがあると思っており、その分類が、Qwertyでいう「JIO;」に当たる閉Ωホームポジション、雲乃井配列のホームポジションである開Ωホームポジションの二つです。いろは坂配列におけるホームポジションも開Ωホームポジションの異類だと考えています。いろは坂配列ではデフォルトで中指と薬指の間が広がっているのが特徴であり、やってみればわかりますが、これはかなり難易度が高いです。雲乃井配列では広がっているのは薬指と小指の間であり、しかも使用率がかなり低いので外側のキーの上にずっと小指をステイさせているわけではありません。このおかげで難易度自体はかなり低いのではないかと思っています。
 開Ωホームポジションにおいては、打ちやすいキーや連接の関係が直線ホームポジションとかなり異なります。力場みたいなもんで、直線だったものがぐんにゃりと曲がるにつれて、周りの力関係みたいなものもついてくるわけです。Ω形状に曲がるにつれて、手のひらが前に出てきますし、開Ωになるときにはさらに手のひらは外側にずれます。直線ホムポよりも人さし指と中指の水平アルペジオは打ちにくくなりますし、小指は上段へ延ばすよりも、外側一列へ水平方向に小指を開いた方が押しやすくなります。中指薬指の下段がかなり打ちにくくなるのは当然の帰結ですが、そもそも伸ばしているので、中指薬指の上段の上段(上々段?)も打ちにくいというのは見逃されやすそうです。「ぬ」の位置やBやFの位置に対する疑問は、開Ωホムポの連接関係は直線ホムポに比べると歪んでいるというのを念頭において見てもらえると解決するかなと思います。
 実のところ雲乃井配列におけるホームポジションというのはかなり曖昧で、使用者側で決めてよいとすら考えています。雲乃井配列の設計側としては、薬指の可動域を二列と広く取っており、それに付随して中指や小指の動くのを設計側で織り込んであります。また、個人によって指の長さや可動域には違いがあるのに、それを配列側として恣意的に規定するのは微妙なところだという考えや、最適化運指の対象でもあるため小指の位置をがちがちに規定していると鬱陶しくてしょうがない、というのもあります。
 例えばですが、自分が雲乃井配列を使うとき薬指外側位置にある「w(上段)f(中段)」をとるのは薬指ですが、意識していないとき小指はfの右端に位置しています。「b(小指外)」をとるときにいちいち小指を伸ばす感じです。で、これって「wf」をとるのが小指でも良いと考えています。ここは使用者の最適化の匙加減です。オ段とったあとは「w」を小指でとり、「を」を強い指である中指薬指のアルペジオでとりたいときは「w」を薬指でとる、という芸当も可能です。この最適化は配列設計として想定してあります。左側対称位置の「で」においても同様ですね。左右対称に設計してあります。

母音の並びの理由とその利点

 母音振り分け自体は、ククリ配列インスパイアの九栗配列(ラクダエンさん作、下に掲載)のものをなるほどと思ってそのまま流用。
 なんで「えい」「おう」などの連母音が内巻きなのかというと、理由は二つです。頻度と連接です。頻度的に優位にあるのがaioの三つで、euは明確な劣位にあります。中指が強く薬指が弱いという仮定のもとで配置するとこうなります。eiとouは外向きのアルペジオにしたほうが良いのではと考える人には、ククリ配列をおすすめします、という解答と、これはこれで利点があって悪くない(渦巻き運指の章で後述)んですよという使用者の実感をお渡しします。
 ouの方にはもう一つ利点があります。開Ωホムポでは中指と薬指の水平アルペジオはまあまあ打ちにくいです。直線ホムポで言えば、中指下段と人さし指中段のアルペジオみたいなもんです。これを「ぬ」つまり頻度最底辺のかなで封印できます。反対に斜め上へのロールは直線より打ちやすくなります。もともと軽く打てるアルペジオの種類ですが、さらに快適な連接になります。ここに「の」を割り当てることができます。


印象 渦巻き運指について


 雲乃井配列は実のところ、アルペジオのことを考えるときにめんめんつさんの提唱した準交互打鍵のことをかなり意識しています。準交互打鍵とは二打二打の両手交互のアルペジオや、二打一打のアルペジオと片手一打(交互打鍵への接続)のこととざっくり理解しています。その結果、雲乃井配列では交互打鍵と準交互打鍵、つまり二打二打一打一打二打一打二打一打一打二打二打…のように、両方が繰り返され続ける配列と化しました。これは結構特徴的な感覚で、リズム感としても面白いです。同指連続が来るまでは延々繋がり続けます。高速域に突入するとき、慣れるまでは結構不安定ですが、慣れたらリズムゲームみたいで楽しくなってきます。ドラムテクニックで言うパラディドルが永遠に続く感じです。もちろんこれには欠点もあって、それがトリルです。
 同手異指連打のことを音楽用語を流用してトリルといっています。例えば人さし指と中指を用いた連打などがありますが、これが難物でして、アルペジオよりも格段に速度が出ないため高速域で足を引っ張るであろうポイントになります。スプリントにも耐えうるのではないかと思って作りましたが、公表したあとに結局このトリルの存在がレベルキャップになるだろうなと気づきました。
 最後に渦巻き運指についてです。折り返し運指の中でもすべて異指で行われているものを渦巻き運指と呼んでいます。雲乃井配列では「ei」「ou」などの母音部が内向きになっていて、かつ母子の指分離がはっきりしているので、この渦巻き運指が多発します。慣れないうちは難しいというか、神経がそういうふうに通っていないような感覚がありますが、慣れると快適になってきます。一方向の運動であるアルペジオほど速くはなりませんが、連続交互打鍵よりは速くなってきます。訓練によって強化される種類の神経を使う運動のようです。大体の人間はこの種類の運動に慣れていないので、この配列に挑戦する場合はこれを訓練する必要があると思います。そんなまでして訓練をする利点があるのかという疑問が湧くと思いますが、これを習得すると運動の方向が転換するにもかかわらず速度が落ちないという不思議な体験できますし、その渦巻き運指の次のキーが同手にあるとき、そのまま繋がるため大変快適ですね。まんまレールゲームにおけるUターンパーツですね。

やり込み要素としての二打拗音


 さて、裏技のお時間です。ククリ配列の記事を見た方はご存じかと思いますが、同様に指分離がなされている本配列でも二打拗音システムを導入することができます。二打拗音というのは、ローマ字テーブルにルールを追加することで子音同士の二打でしゃしゅしょなど拗音を出力することができるシステムのことです(例;sr=しゃ)。タイパーの方にはおすすめしませんが、物書き目的で本配列を触る人にはおすすめします。打鍵数が減りますので。子音+逆手の人さし指が基本ですが、子音+同手の人さし指で低頻度の拗音をとるというのも導入してもよいです。図には自分が導入しているものを示していますが、こうすると最頻出の「しょう」「しゅう」がアルペジオでとれるようになります。おすすめです。

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拗音拡張を表示したもの
基本的に逆手子音からの接続で拗音が出るようになっているが、
頻度の低いyeの拗音(ちぇ、じぇなど)は同手子音からの接続で発動


総括

 この記事はこの雲乃井配列で書いています。悪いところもあり、良いところもあり、という感じですね。この配列にはおおむね満足しているのですが、今は別でトリルを解消した速度特化の配列を構想しています。まあ当面はこの雲乃井配列を使うつもりです。
 長くなりましたがお付き合いありがとうございました。疑問点などありましたら何らかの手段でコメントや疑問をお寄せいただけると幸いです。また不足しているなとこちらで感じた点があとで出てきた場合、また追記すると思いますがご容赦ください。

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雲乃井配列を作ったので紹介する|宮野渉
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