2026総選挙感想戦 (2)政策と政局
争点なき解散
今回の総選挙を振り返ると、解散にあたって争点は明示されず、首相は自らの信任投票――悪く言えば人気投票――あると位置づけて総選挙に臨んだ。前回の総選挙から時間もたっておらず、首相が支持率が高いうちにその支持率を議席に変換するための政局的選挙、というのがほとんどの人の見方であり、で選挙を行う政策的な必要性はないというのが一般的見方だった。それを反映するように、真正面からの政策論争はこの選挙戦では低調だった。
1月23日に、衆議院を解散する決断をいたしました。なぜ、今なのか。高市早苗が、内閣総理大臣で良いのかどうか、今、主権者たる国民の皆様に決めていただく、それしかない。
争点なき野党
野党の立憲民主党と連立離脱した公明党は、高市政権の高い支持率・人気に対抗する形で合併して中道改革連合という政党を結成した。この政党は結成直後に総花的な政策パッケージを作成したが、切り口になる政策はなく、しかも元与党の公明党と合併したために政策に違いを作れず、選挙のための野合という印象を残した。立憲民主党側は政策論争より政局スキャンダル頼みの傾向が強く、合併に伴って認知度を上げる必要もあり、政策論争はおざなりにされた。
中道改革連合が現実路線に転換したため、経済・減税政策も安全保障政策も大きな対立争点とならず
高市政権の政策
本人の公式サイトやには、経済安全保障、物価対策、税制、社会保障、防衛力整備、地方創生など、幅広い分野にわたる政策項目が並んでいる。総裁就任前にに目を通せば、より詳細で専門的な議論が展開されている。そこでは財政、産業、技術、エネルギー、外交などに関する具体論が網羅的に扱われており、「政策が空疎だ」という批判は容易には成り立たない。
ただしその多くは短文で整理された個別施策であり、全体を貫く単一の大テーマがあるというよりは、分野ごとの改善策を積み上げる構成で、「広く、細かく、積み上げる」スタイルである。劇的な構造転換を一撃で訴えるのではなく、多方面に目配りし、少しずつ改善していくという設計である。
その結果、政策集全体を俯瞰すれば、有権者の誰もがどこかに「自分にとって有益な一項目」を見つけられる可能性が高い。言い換えれば、ワンイシュー一本勝負のような切れ味がない代わりに、八方美人的で強い反発軸を作りにくい構造になっている。
野党が直面した"政策で攻められない"構造
このタイプの政策にどう対抗するかは、野党にとって難題であった。「政策がない」と攻めれば、膨大で細密な政策集がそのまま反証として差し出される。では個別政策を一つずつ批判するかといえば、それぞれの施策は対象層が限定的で、広範な共感や怒りを喚起しにくい。しかも全分野にわたって徹底的に批判しようとすれば、選挙期間はすぐに尽きる。政策案を真正面から叩き潰す戦術は、時間的にも政治的にも現実的ではなかった。
野党側はこの状況を打破するには、自ら新しい論点を創出する必要があった。中道改革連合が打ち出した食品消費税減税はその典型で、支持層の高齢層を意識したわかりやすい争点提示であった。しかし高市側は、“予備案”として用意していたし、これをインフレショックへの時限的対応と位置づけた。恒久減税には慎重な財政規律派にも、負担軽減を求める層にも一定の配慮を示す八方美人的な政策であり、争点を打ち消して野党の攻勢を吸収した。
人気勝負では高市が優位に立つ構造
こうして政策論争は十分に深まらないまま、選挙戦は次第に人気の優劣へと収斂していった。政策で差をつけられなければ、最終的にはリーダー個人の印象、安定感、期待感が勝敗を左右する。人気勝負になれば、高市が優位に立つ構図であった。彼女は総裁選を通じて一定の知名度と支持を確立しており、そのリードを崩さない戦い方に徹したと言える。
ただしこれは高市人気が高かったから成功した話である。もし高市に個人人気が乏しかったならば、かつての郵政選挙のように、鋭く分かりやすい単一争点で勝負せざるを得なかったはずである。しかし総裁選前に示された「国力研究」などを見る限り、高市は大ナタを振るう劇場型の争点設定よりも、多方面にわたる政策を緻密に提示するスタイルを好む政治家に見える。ゆえに今回の戦術は、自らの得手に合った状況だったからこそ成功したように思われる。
さらに興味深いのは、高市人気の一部が、結果として左派的言説の積み重ねから生じた側面である。ジェンダーギャップ指数や女性活躍推進をめぐる議論は、日本初の女性首相誕生を祝福する社会的下地を作っていたし、実際、女性有権者の中には「長く続けてほしい」と期待を寄せる声も少なくなかった。一部のしたとしても、それは全体の支持構造を揺るがすには至らず、ノイズの一部にとどまった。
また、高市は一貫して「安倍路線の継承」を語りながらも、であった。むしろ「安倍の後継者」というラベルは、政敵側が批判の文脈で用いることが多かった。しかし長期政権を築いた安倍が一定の人気を保っていた以上、「安倍の後継者」と呼ばれる人に好意を持つ人も多いはずである。批判側は意図していなかったと思うが他の自民政権は支持せずとも安倍だけは支持していたタイプの無党派層を含めて広い安倍支持層のの結集を促す側面も持った。悪口のつもりで貼られたレッテルが、結果として高市人気を補強するという逆説が生じたのである。
まとめ
総じて見るならば、高市の手札は「八方美人型の守りの政策集」であった。そしてその手札を最大限に活かすには、まず人気で先行し、そのリードを崩さずに守り切る戦術が最適であった。守りの政策争点を分散させ、政策論争を膠着状態・塩試合化したうえで、個人人気の土俵へと選挙を誘導する。今回の選挙は、その戦術が最も有効に機能した事例であったと言えるであろう。
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