第2回政権幹部「野党質問、そんなに要らない」 「高市1強」国会にも攻勢
「様々な声に耳を傾け、謙虚に――」。自民党が歴史的圧勝をした衆院選の翌9日、高市早苗首相(党総裁)は記者会見で、静かな口調で今後の政権運営について語っていたが、途中で「しかし……」と語気を強めた。「大胆に政権運営にあたってまいります」
首相は自民を歴史的圧勝に導いたことで「高市1強」と呼べる権力を得ることに成功した。選挙後、首相側は本来は党側が担うべき国会運営にも関与を強め始めた。
緊急連載「1強再来 変わる日本政治の風景」 第2回
自民党は衆院選で歴史的大勝を収め、3分の2を確保しました。自民が最強で残りは弱小政党という第2次安倍政権と同じ「1強多弱」の世界が再び到来します。日本の政治風景はどう変わるのか、全3回の緊急連載で検証します。
「昨晩から、首相側が特別国会の召集日を早めたがっている」。同じ9日、自民の国会運営を担う国会対策委員会の関係者らは困惑していた。官邸幹部によると、当初は特別国会の18日召集で調整していたが、首相側では16日に早める案が一時浮上したという。
水面下で検討される予算審議の短縮化
狙いは新年度当初予算の早期成立だった。首相が1月の通常国会冒頭での衆院解散を決断したことをめぐり、賃上げ政策などを盛り込んだ予算の成立がずれ込むとして選挙前から与党内からも批判の声が上がっていた。
ただ、18日召集はすでに政府・与党内の調整を経て固めた日程だった。召集日の前倒しは難しいとみた首相側は、今度は国会での予算案の審議時間を従来より短くし、早期成立を図ろうと水面下で検討し始めたという。
「これまでは野党がたっぷり質問していた。選挙の結果を踏まえ、野党の質問時間はそんなに要らないだろう」。政権幹部はそう語る。別の幹部によると、首相は初めて臨んだ昨年の臨時国会の予算委員会で、野党側からの質問が自身に集中して時間を要したことに不満を募らせたという。
だが審議時間短縮は国会での丁寧な議論をないがしろにしかねず、官邸内でも「首相が解散を決めて日程が遅れたのに、野党が減ったとはいえ、そんなやり方はよくない」(幹部)との批判があがる。首相に近いベテラン議員も「大勝をしたときこそ、国会を軽視してはいけない。議論を積み重ねないと、足元をすくわれる」と懸念する。
保守的な政策、早期実現目指す
ただ、首相側が急ぐのは予算審議だけではない。首相が力を入れる保守的な政策も同様だ。
複数の政府・与党関係者によると、夫婦同姓を前提に結婚後の旧姓使用を拡大する法案をめぐっては、年明けまでは選択的夫婦別姓に前向きな国民民主党と連立拡大を模索していたこともあり、通常国会への提出を検討中の「C法案」扱いとしていた。だが選挙後、首相側は特別国会での成立を目指す「A法案」へと格上げすることを検討しているという。
ほかにも、これまで与野党協議でまだ「立法府の総意」を得られていない皇室典範の改正についても、首相側は早期実現を目指す方針だという。政府のインテリジェンス(情報収集・分析)機能の司令塔となる国家情報局新設に必要な法律なども、予算成立後にすぐ進めたい考えだ。
首相が成果を急ぐ背景には、衆院選圧勝で政権に勢いのある間に「国の根幹にかかわる重要政策の大転換」に取り組みたいという思惑もありそうだ。現役閣僚の一人は「高支持率は長くは続くものではない。やるべき政策テーマを次々と打ち出していくことが重要だ」と解説する。首相に近い政権幹部はこんな意気込みを見せた。
「首相がやると言ったものは全部、フルスピードでやる」
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- 【視点】
総選挙の結果、高市早苗首相の機能が大統領的になりました。行政権が立法権に対し圧倒的に優位になります。国会での予算案の審議時間が短くなるのは必然的な動きです。 <ただ、18日召集はすでに政府・与党内の調整を経て固めた日程だった。召集日の前倒しは難しいとみた首相側は、今度は国会での予算案の審議時間を従来より短くし、早期成立を図ろうと水面下で検討し始めたという。 「これまでは野党がたっぷり質問していた。選挙の結果を踏まえ、野党の質問時間はそんなに要らないだろう」。政権幹部はそう語る。別の幹部によると、首相は初めて臨んだ昨年の臨時国会の予算委員会で、野党側からの質問が自身に集中して時間を要したことに不満を募らせたという>(2月11日「朝日新聞」デジタル版)。 国会審議の時間短縮を「善い」とか「悪い」とかいう価値判断で論評しても政権に影響を与えることはないと私は見ています。行政権が迅速に機能することが国家と国民にとって最善であると高市首相とその周辺の政治エリート(閣僚、国会議員、官僚)が確信しているからです。 今後、高市政権の行動の制約になるのは、主に2つの要素と私は見ています。 第1はマーケットです。株価、円ドルレートなどをこの政権は強く意識します。 第2は、東京地検特捜部です。自民党が圧倒的な権力を持ち、国会もマスメディアも行政権に影響を与えなくなれば、必然的に、汚職や権力の濫用が起きやすくなります。こういう状況で特捜検察が、贈収賄、公職選挙法違反、政治資金規正法違反などの事件を摘発することで、行政権を牽制することになります。安倍政権後期にも首相官邸と検察の関係がかなり緊張しました。 マーケットと検察だけは、政権の意図通りに動かすことはできません。
…続きを読む - 【視点】
記事の最後、「首相がやると言ったものは全部、フルスピードでやる」という言葉をしばらく眺めてしまいました。日本の議会制民主主義が前提としてきた「熟議」や「抑制と均衡」のあり方が、大きく揺らいでいるなあと、改めてそのあやうさを感じます。 この記事を読む限り、多様な意見をぶつけ合い、時間をかけて合意形成を図るというプロセスが、効率やスピードの名のもとに軽視されつつあるようです。選挙で勝った首相個人の意向を、制度的な歯止めなしに反映させていくことの危うさを、ご本人や首相の周辺は、どこまで自覚しているのでしょうか。 今回の選挙を「右か左か」「保守かリベラルか」という枠組みで語る声も多く見受けられましたが、実際には思想や政策の中身が十分に争点化された選挙だったとは言い難いものでした。わかりやすさや個人人気、イメージが前面に出る一方で、政党間の政策論争は深まりませんでした。そうした状況で、単純なイデオロギー対立の構図に回収してしまうこと自体が、本質を見誤らせているのかもしれません。 強いリーダーシップが称賛される一方で、高市政権下で進む政治のスピードと手法が、熟議という民主主義の土台を侵食していないか、選挙で私たちが託したものが何だったのか、結果だけでなく、その過程からも問い直す必要があると感じます。
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