スペイン南部コルドバ近郊で、脱線した高速鉄道が別の高速鉄道に衝突し、45人が死亡した事故で、急ピッチで進む高速鉄道網の拡大に線路の改修や点検が追いついていなかった疑いが浮上している。事故の初期調査では、列車が通過する前に線路に亀裂が生じていた可能性が指摘された。
「損害は取り返しがつかない」。スペインのサンチェス首相は23日、ブリュッセルでの記者会見で、事故についてこう語った。一方で、高速鉄道事業自体については「我が国の最も大きな誇りの一つだ」と強調し、信頼回復を誓った。
複数の欧州メディアによると、事故は18日午後7時半過ぎ、南部マラガから首都マドリードに向かう列車後部の一部車両が脱線し、隣の線路を走行中だったマドリード発南部ウエルバ行きの列車に衝突した。
鉄道事故調査委員会は23日、線路に見つかった亀裂が事故原因となった可能性が高いとの見解を示した。路線の改修や点検が十分だったかどうかが、調査の焦点となっている。
スペインではバルセロナ五輪が開催された1992年、マドリードと南部セビリアを結ぶ国内初の高速鉄道が開通した。路線は全国に拡大し、現在は全長約3900キロと、中国に次いで世界第2位を誇る。内陸部で土地を安価に取得できたこともあり、歴代政権が優先政策として整備を進めてきた。
国内の実績を武器に、2011年にはスペイン国鉄などがサウジアラビアでの高速鉄道建設事業を受注。気候変動問題を背景に鉄道輸送に注目が集まる中、スペインの高速鉄道網は成功例と評価されてきた。
20年からイタリアやフランス資本の企業が参入し、利用者は年間2200万人と倍増。便数増加に伴い、線路への負担も高まっていたとみられる。
最初に脱線した列車はイタリア資本の企業が、衝突した列車は国鉄がそれぞれ運行していた。現時点では、スピード違反を含む人為的ミスが事故原因だった可能性は低いとされる。
線路などインフラの管理は国営企業「Adif」が担い、政府はこの数年で約7億ユーロ(約1280億円)を改修に投じたと説明する。ただ、国民1人当たりの鉄道インフラ投資は、欧州主要14カ国の中で下位グループにとどまる。
エルパイス紙は「線路の不具合を報告しても対応されなかった」という複数の運転士の証言を報じた。また、バルセロナで20日に別の脱線事故で運転士1人が死亡するなど、短期間に事故が相次ぎ、鉄道への信頼は揺らいでいる。極右を含む野党は路線の維持管理の不備だったとして、中道左派のサンチェス政権への批判を強めており、事故は政治問題化しつつある。【ブリュッセル岡大介】