Melt in you
【端的なあらすじ】
アウドムラで、痛みに苦しむ孤独な英雄アムロをカミーユが発見する話。(約2万字)
おまけで、4ページ目には、10年後、無事結ばれている二人がどんな様子でその日々を乗り越えているのかも描きました。(約1万字)
だって仕方ない。ベッドでアムロのお腹を後ろから手で温めているカミーユが見たかったんだもの。本編で見られなかったのなら、おまけで書き上げるしかない。
受けの体調不良ネタが好きな人間なのです。女体化も好きなのです。なら、生理痛ネタをぶち込むのが最適解なのです。
一般性癖保持者は黙っていろ!!()
カミアムでは初めまして。斧きっかけで、見事宇宙世紀堕ちした新参者です。
Zを見て、カミーユの可愛さとカッコよさにやられました。
アムロは言わずもがな。初代、Z、逆シャア通して、可愛い→えっちな年上のお兄さん→メロいと変遷していき、私の心を掴んで放してくれません。語弊ですね。私が自ら囚われています。彼は何もしていません。なんて罪深い男なんでしょうか。。
公式で、カミーユとその周囲にいる女の子たちの恋愛模様は丁寧に描いてくださるので、神々に感謝して私はこうしてカミアムを描くことになりました()
いや、だって、アムロとカミーユ、公式では結婚してくれないじゃないですか(何を当たり前な)
私はいちゃついている二人が見たいんですっ!止めないでくださいっ!
そのくせ、最初に書いた本編はいちゃつきの要素が無さすぎる。でも、出会ったばかりの頃の二人が仲良くなりすぎるのも……と頭を悩ませた結果、1万字のおまけを書いて問題解決を図るという強行突破っぷりをしてます。
時間軸、世界線はゆるゆる、ご都合主義、ハッピー時空です。
ニュータイプの感応に夢を見すぎている節はあるかもしれませんが、原作もまあまあオカルト要素あるので目をつむってくださると助かります。
色々許せる方のみお願いいたしますorz
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肺の奥にまで入り込むような、不快な熱気だった。
カラバの輸送機、アウドムラの格納庫。整備兵たちの怒声とオイルの匂いが混じり合う中、アムロ・レイは壁に背を預け、浅い呼吸を繰り返していた。
――……あと、どれくらいだ。
胎の奥底で、臓器がキリキリと弓のように引き絞られる。自分の意思に反して活動するそれを止めるように服の上から押さえつけるものの、無情にも効果は薄い。ただ、強く手を押し当てると呼吸が浅くなる代わりに、臓器の動きが鈍くなるような気がした。物理的な痛みが合わさったことで、意識が逸れただけだということは分かっている。だが、少しでもこの避けられない苦痛から逃れられるならと縋ってしまう。押さえつける力を変えずに手で擦るようにしてやると、掌の体温が機嫌を取ってくれた。少し落ち着いた痛みの合間に、深く呼吸をする。それは深呼吸というよりも、溜息の方が近かったかもしれない。これほど辟易としているのだから、さもありなん。アムロは、大きく眉をひそめて瞼を閉じる。額に乗った冷や汗がつぅっと頬を伝っていく感触も、熱に浮かされた意識の中ではどこか遠い出来事のように感じられた。
一年戦争の英雄、史上最高のニュータイプ。白い流星と謳われたアムロ・レイは、“女性”である。
この秘匿された事実は、ホワイトベースの旧乗組員か、連邦政府の高官、あるいはシャイアンの軟禁時代に彼女を監視していた一部の人間しか知り得ない。それゆえ、カラバで合流したクワトロ・バジーナらさえも、目の前に現れた”英雄”が、短髪ながらも確かな女性の輪郭を宿していることに驚愕を禁じ得なかった。
連邦の英雄が女性であることは、政府にとって極めて不都合だった。正確に述べるのならば女性というよりも、現地徴用された少女という点である。
一年戦争が開幕してからのたった一週間で、地球圏における総人口の半分が死滅した。開戦前は110億人に及んだ人類の総人口は55億人にまで激減したのである。国力差が三十倍あろうとも、連邦に余裕など微塵もなかった。宇宙世紀以前の世界大戦から言葉を拝借するならば、総力戦である。旧世紀の世界大戦においても、これほどまでの被害が出たことはない。人類史上最悪の戦争とまで宣われたのが、この一年戦争であった。
戦争が終結し、一見落ち着いたように見えても地球圏に緊張は走ったままだ。勝利の美酒に酔う間もなく、連邦は次なる戦火――ジオン残党やコロニーの反発――に備える必要があった。
兵が欲しい。
それは、勝利したように見える地球連邦の本音であった。終戦間近のア・バオア・クーらにおいて辛勝したとしても、そこに至るまでの過程で多大な犠牲を払っていた。宇宙での戦闘も、辛勝と簡単に言いきれるものではないほどに。
戦争で失われた命を早急に賄う必要がある。
新たな生贄でもって。
戦意を鼓舞し、犠牲を正当化するための象徴が必要だったのだ。
そこで白羽の矢が立ったのが、味方からは救世主、敵からは悪魔と畏怖された伝説のパイロットである。
”白いモビルスーツを自由自在に操って敵を薙ぎ払い、宇宙を駆った夜叉”
”連邦の新兵器RX-78-2を訓練も受けていない一般市民が操り、連邦の勝利を導いた”
これほど甘美なプロパガンダはなかった。元一般市民の正体が、訓練すら受けていなかった齢15の子ども。その点が、あまりにも夢物語であることを除けば。
プロパガンダにするにあたって、連邦はアムロを前面に出したかった。しかし、引っかかるのは少年兵という点である。都合の悪いことに、少年兵と言っても、アムロの場合は少女である点も頂けなかった。
軍事に女性が携わること自体は連邦でも殊更珍しいことではない。だが、古臭い風習が根強い地球連邦にとって、少女が戦争に駆り立てられたことを大衆に見せびらかせば、幼気な女の子を戦場へ追いやるなどありえないと軍への支持が落ちてしまうことも考えられた。勿論、少女が活躍していることで同じ性別の女性が奮起されることもあるだろう。しかし、それ以上にコロニー堕としを回避できなかったことやルウム戦役で将軍が捕縛されたことなど、軍に対する信頼が揺らぐ状況が続いていた。
少しでも軍への批判は少ない方が良い。
それが軍の出した結論であった。
そして幸か不幸か、当時のアムロ・レイは、過酷な戦場ストレスのせいか二次性徴が遅れていた。丸みを帯びない貧相な身体に、無造作に切り揃えられた髪。その容姿は、少年と言いくるめるにはあまりに好都合だった。
こうして、アムロ・レイは少年としてメディアに出ることになったのである。そして、虚構を隠すようにアムロ・レイは約一年でその姿を社会から消した。大半の市民にとって既に遠い記憶へと成り下がった連邦の英雄を追う者はいなかった。
シャイアンでの隠居生活――という名の軟禁は、7年もの間続いた。アムロが、フラウとその子どもたちと出会わなければ確実に長引いていただろう。否、そもそも軟禁生活から解放されていたかも怪しい。
カツの言葉に説得され、成り行きでカラバとの合流を果たしたアムロは、替えの下着どころか服用している薬すら持たずに、館を飛び出した。
薬を服用していると言っても、違法なものではない。
低用量ピル。
毎日の服用によって避妊効果を得られる経口避妊薬。また、副効果として、月経前症候群や月経痛の緩和も期待できる代物である。
アムロは、月経が重度であった。
振り返ってみると、初回はまだ可愛らしいものだった。自分の体内から出血が起きることに違和を感じるのみで終わっていたのだから。しかし回数を重ねるごとに、下腹部を焼かれるような激痛、割れるような頭痛、そして意識を奪うほどの嘔気がアムロを襲った。全身の倦怠感から寝込むことも珍しいことではなかった。一年戦争が終わって暫くしてから訪れた身体の変化は、荒れ狂う波のようにアムロを翻弄する。鎮痛剤を服用するも悶え苦しむその姿に異常を感じた従者が軍に報告し、すぐさま検査が行われた。処女だというのに精密な検査が必要だからと膣にクスコを入れられた時の恥辱と苦痛は、いまだに鮮明に思い出される。身体的・精神的疲労を抱えながら検査を終えたアムロに告げられたのは、月経困難症という診断であった。それ以来彼女はピルの服用を欠かしていない。
――あの苦痛は、もう感じたくない。
――いや、苦痛よりも何よりも……。
「うぅ……」
ぐるりと、胎内を太い杭で掻き回されるような感覚。思わず漏れた呻きは、格納庫に鳴り響く金属同士の擦れ合う硬質な音に紛れて霧散した。 出血はまだない。だが、月経前症候群という名の呪縛は、容赦なくアムロの全身を蝕んでいた。鈍く重い腰痛と、鉛を流し込まれたような倦怠感。ピルを服用していれば、この程度の苦痛は抑え込めていたはずだった。
本来の周期からすれば、まだ早すぎる。そのためこの痛みを、環境の変化と戦闘による自律神経の乱れだと一蹴することもできた。しかし引き絞られるような子宮の痛みがそれを否定する。ピルが切れた今、身体の周期は確実に狂い始めている。環境の変化と戦闘のストレスが、容赦なく子宮を突き上げた。
アムロは、壁に寄りかかりながら人目を避けて倉庫へと向かった。ひんやりとした金属の壁だけが、火照った身体を正気に繋ぎ止めてくれる。幸いにも、誰にも会うことなく、物資ブースにたどり着くことができた。
――良かった。
浅い呼吸の中、胸を撫で下ろす。
今のアムロを見れば、皆が不安になるだろう。シャア――クワトロ大尉が宇宙へ上がってから、パイロットはカミーユとアムロだけである。カツも戦闘に参加しようとするが、幾ら博物館にあるモビルスーツを操縦したことがあるからと言っても、訓練を受けていない元民間人だ。戦闘スキルは危うい。そして戦力が心もとない今も、敵はそんな事情を考慮せず襲ってくる。そのような現状において、連邦の英雄と謳われたアムロが体調不良で離脱すれば、戦力だけでなく戦意の低下も十二分に考えられる。
今の自分を知られるわけにはいかない。
アムロは固く唇を結んで、倉庫の奥へと向かう。人目を避けるように片隅へひっそりと置かれている女性用ナプキンを手に取った。軽いその袋に不安が募る。正直、ピルが切れてからの月経の程度が読めない。以前であれば、夜用のナプキンを昼間もつけ数時間に1回付け替えるペースで過ごしていた。それを踏まえると、まだ月経が来ていないとはいえ、25cm程度のものよりも夜用の方が良いかもしれない。加えて、月経中もう一度ここに来られるかはわからないのだ。ご丁寧にナプキンを隠して部屋まで持ち帰るための黒いビニール袋がすぐそばの箱に入っていたので、それを拝借し複数のナプキンを貰った。
あとは、自室まで戻ればいい。それから様子を見て、医務室には行っておこうか。医療スタッフに事情を説明して、鎮痛剤を貰えれば多少はこの痛みがマシになるだろう。鎮痛剤に伴う眠気が不安だが、それを差し引いても服用した方が良い。
軋む頭を懸命に回しながら、アムロは緩慢に足を動かす。子どものように言う通りにならない自身の腹部を見下ろした。少しでも落ち着くように袋を持っていない手で撫で摩る。それが良くなかったのかもしれない。アムロは、目の前まで来ていた人物に気付くことができなかった。
「アムロさん? 顔色が悪いですよ。少し休んだらどうです」
高く上擦った、だが尖った響きを持つ少年の声。ここアウドムラに来てから幾度となく聞いた声の主――カミーユ・ビダンが、訝しげにアムロを覗き込んでいた。その鋭敏な感性は、アムロの明らかな体調不良を敏感に察知しているらしい。こちらの内側を暴こうとするように、彼の端正な眉が深く顰められる。猫のように丸く澄んでいた瞳が、鋭く細められた。その射抜くような視線の圧力から逃げるように、アムロは咄嗟に顔を背けた。
「……大丈夫。ただの寝不足だ。ヒッコリーでの戦闘で落ち着かなくてな。戦場ではいつものことだ。気にしなくていい」
返した自分の声が、情けないほどに上擦って聞こえた。言い訳を重ね、虚勢を張れば張るほど、喉の奥は砂を噛んだようにカラカラに乾いていく。
もし今の自分が、ただの少女や一般市民であったなら、素直に助けを求められただろうか。だが、自分は”アムロ・レイ”なのだ。多くの命を背負い、戦場の天秤を左右する存在。その自覚が、弱音を吐くことを許さない。自己の体調管理すら満足にできず、生理現象如きに振り回されて戦力を欠くなど、軍人として、そして何より一人の戦士として失格だ。無能な英雄ほど、味方の戦意を削ぐものはない。カミーユのような多感な少年に、失望されるわけにはいかなかった。否、彼に見透かされることこそが、アムロの最後の一線を踏み荒らされるようで、恐怖に近いものが襲った。
だから、アムロは大したことでもないように、いつもの冷静な表情を必死に繕う。内臓を万力で締め上げられるような苦痛が襲うたび、奥歯を噛み締め、誤魔化した。壁に染み付いたオイル臭が鼻を突く。その生々しい感覚が、彼女の自尊心をじりじりと削り取っていくようだった。
「嘘ですよね、お腹かばってるじゃないですか。腹痛ですか」
カミーユの指摘に弾かれるようにして、アムロはお腹の上に置いていた右手を下ろした。無意識の動作だった。痛みを宥めるための掌が、逆に自分の不調を指し示す標識になっていたことに、指摘されるまで気づかなかった。それほどまでに、気を配れなかった。
下ろした手が行き場を失い、太ももの横で虚しく泳ぐ。
カミーユの視線は、獲物を追い立てる狩人のように鋭い。
見透かされそうだ。
いや、彼のニュータイプとしての素質を考えれば、アムロが発する不調を見逃すはずがない。体調が悪いことはバレている。それでも、彼に自分の弱くて柔らかい部分を知られたくない。その一心でアムロは無理に背筋を伸ばした。身体の緊張に合わせて腹の底の鈍痛が、牙を剥いて突き上げてくる。脂汗がまた一筋、こめかみを伝った。
「言っただろう、気にしなくていいって。それよりカミーユはどうしてここに?」
「……パーツの在庫を確認しに来ただけですよ。整備班の人たち、忙しそうで」
努めて冷静に、突き放すような口調を選んだ。今の自分には、他人を気遣う余裕も、嘘を塗り固めるだけの体力も残されていない。一刻も早く、この鋭すぎる少年を遠ざけたかった。しかし、カミーユはそれを意にも介さないとでも言うように、その場から離れようとしなかった。
蒼く透き通った視線は、アムロの返答を無視するように、そわそわと落ち着きのない手、そして反対の手で握りしめられた黒いビニール袋へと向けられた。
アムロは反射的に袋を背後に隠した。その不自然な動きが、かえってカミーユの疑念を深める。
「顔、真っ青ですよ。冷や汗も……。本当に腹痛だけなんですか?」
「しつこいぞ、カミーユ」
アムロは意識的に声を低くした。威圧することで、それ以上の追及を遮断しようとしたのだ。だが、カミーユ・ビダンという少年は、そうした大人の誤魔化しを最も嫌う性質だった。
「そんな体でガンダムに乗るつもりですか。別にあなたが居なくても、僕一人で大丈夫ですよ」
カミーユが歩み寄る。素直になれないその言葉の裏に、彼なりの不器用な優しさが隠れているのはわかっている。けれど、その純粋なまでの気遣いこそが、今の自分には最も痛烈な刃となって突き刺さる。
アムロは逃げるように後退り、背中を冷たい金属壁に打ちつけた。
逃げ場がない。
「カミーユ、下がれ……っ」
「見せてください。何を隠してるんです」
強引に距離を詰めたカミーユの手が、アムロの背後に回された。隠していたい”秘密”を暴こうとする指先。アムロは咄嗟にそれを振り払おうと腕を振るが、その拍子に腹腔の奥底がごろりと、重く、鋭く、掻き回された。
「っ……、あ……」
膝から力が抜けた。視界が激しく明滅し、アウドムラの高い天井が歪んで遠のく。崩れ落ちそうになるアムロの細い身体を、カミーユが咄嗟に抱きとめた。
重なる体温。
少年特有の骨張った肩の感触。
そして自分よりも少しだけ高い視線。
アムロとたいして身長が変わらないはずの少年の腕が、今の自分を支えきれてしまうという事実。そのことが、アムロが長年蓋をしてきた”女”としての脆弱さを、否応なしに引き摺り出した。
いつのまにこんなに弱くなってしまったのか。いつからこんなにもちっぽけだったのか。
俺だって、生まれてくるなら……。
兵士としての気丈な仮面は、内側から溢れ出す生理的な苦痛に耐えきれず、粉々に砕け散る。喉元から漏れたのは、命令でも拒絶でもなく、ただ一人の女性として押し殺してきた、情けないほどの慟哭だった。
「……触るなと言った……。君には、関係のないことだ……」
「関係なくない! あなたが倒れたら、誰が……!」
叫びかけたカミーユの声が、ふと止まった。腕の中にいる”英雄”が、震える子どものように自分に縋っている。こんなにも弱弱しい彼女を見たことはなかった。
固く握ろうとして小刻みに震える指先。
カミーユとの触れ合いに怯えるように凝り固まった筋肉。
此方に見せないよう伏せられた表情。
アムロ自身が、誰よりもこの現状を疎ましく思っているのだと悟る。
カミーユが動揺している隙にアムロは力を振り絞り、胸元を弱々しく押し返した。カミーユの腕から解け、力なく指が離れた瞬間。握りしめていた黒いビニール袋が床に落ちる。カサリと乾いた音がして、中から真っ白なナプキンが数枚、血の通わない無機質な床に散らばった。
静寂。
整備兵たちの重なった声も、エンジンの唸りも、遠くの出来事のように消え去る。
アムロは絶望に染まった瞳で、足元に転がった布切れを見つめていた。
「これは……ティッシュ?」
呆然としたカミーユの呟きが、静寂を切り裂いた。無機質な金属の床に散らばった、清潔すぎる白。カミーユの手が、それが何であるかを確かめるように、そして親切心から拾い上げようと伸びる。
「触るな!」
弾かれたように叫んでいた。それはアムロ自身も驚くほど鋭く、悲痛な拒絶だった。恐怖と羞恥が混ざり合い、脳を真っ白に染め上げる。カミーユの指先がその”白”に触れることは、アムロ・レイという人間にとって、その最深部にある秘部を土足で踏み荒らされるのと同義だった。
「頼む。触らないでくれ……」
声が、情けなく震えた。先ほどまでの威圧感は霧散し、そこにあるのはただ、剥き出しの弱さを晒して震える一人の女だった。アムロは這いつくばるようにして、散らばったナプキンをかき集める。カミーユの視界からそれを隠そうとする指先は、ひどく冷たくなっていた。
英雄。
ファーストニュータイプ。
白い流星。
そんな仰々しい言葉で塗り固められた自分の虚像が、足元の白い包装一つで、音を立てて崩れていく気がした。アムロは腹部を抱え込むようにして立ち上がる。カミーユから顔を背けるようにして乱れた息を整えようとするが、上手く吸い込めない。
「……アムロ、さん?」
カミーユの声には、もはや鋭い疑念などはなかった。代わりに混じっていたのは、剥き出しの困惑。そして、踏み越えてはならない領域に触れてしまったことへの、戦慄にも似た申し訳なさだった。
アムロは強く、強く瞼を閉じる。網膜の裏側に広がる暗闇の中へ、そのまま溶けて消えてしまいたかった。英雄という名の偶像も、自分を裏切り続けるこの肉体も、すべてを無に帰したかった。しかし、そんな祈りが非情な現実に聞き届けられるはずもない。アムロは動揺を吐き出すように細く息を吐き、重い瞼をこじ開けた。
「俺はこのまま部屋へ戻る。カミーユも戦闘に備えておけよ」
アムロは乱れた衣服を整える余裕もなく、生理用品の入った袋を握りしめた手で隠すように歩き出した。普段なら意識せずとも出るはずの、軍人らしい力強い歩調。だが、今の彼女は一歩踏み出すごとに、自身の内でうごめく熱い痛みに足首を掴まれているような心地だった。
カミーユの視線が背中に刺さる。その視線が、アムロの歩みをさらに急がせた。
今、君は何を考えているんだ。俺に失望したか。英雄の成れの果てだと蔑むか。
あるいは、その激情の裏側に秘めた、君の残酷なまでの優しさで”同情”などしているのか。
それとも、『これだから女は』と嘲笑っているのか。『守るべき弱い存在』として、俺を格下げしたのか。
今のアムロにとって、背後に佇む少年は得体の知れない恐怖の塊だった。己のアイデンティティを根底から揺さぶる、もっとも近しい断罪者のようにも思えた。かといって、彼にどう思われていれば自分が自分のままでいられるのかも、もはや判らなかった。
ただ一つ、明確な願いがあるとするならば――。
この疼くような痛みが治まるまで、どうか俺を放っておいてくれ。
この惨めな姿を、これ以上一秒たりとも、君の記憶に刻ませないでくれ。
「……心配してくれたのに、叫んだりしてすまなかった。忘れてくれ」
振り返ることもなく、投げかけるように言葉を落とした。それは謝罪というよりも、自分に言い聞かせるための儀式だった。
「忘れてくれ」――そう口にすることで、今この場で剥き出しになった醜態を、なかったことにしたかった。英雄という鎧を脱いだ後に残るのが、こんなにも脆く、蹲るだけの、ただの”アムロ・レイ”なのだという事実。そのことが今の自分には、あまりにも耐え難かった。アムロは震える肩を抱き、逃げるように倉庫の重い扉の向こうへと、その背中を消した。
自室の重い扉が閉まった瞬間、アムロはそのまま床に膝をついた。固く握りしめていた袋を机に放り出す。掌には、安物のビニールが張り付いていた嫌な汗の感触が残っていた。
「はぁ……っ、はぁ……」
荒い呼吸とともに、熱い塊が腹の底をゆっくりと這い回る。ピルを欠かした身体は、数年前のあの地獄を確実に思い出していた。内臓を内側から万力で締め上げられるような、鈍く重い痛みの波。アムロは這うようにしてベッドに辿り着き、シーツを固く握りしめた。なぜ今なんだ。なぜ、よりによってこのタイミングで……。香港に到着するまで待っていてはくれなかったのか。
度重なる戦闘に伴う神経の乱れが、数週間前までピルを服用していたとしても効果のないものにしたどころか、過去に経験したことがないほどの苦痛を生じさせる。
指先まで血の気が引き、爪が白くなるほどシーツをかき抱く。だが、どれほど身体を丸めても、胎の中で暴れる熱い質量を宥めることはできなかった。
かつて宇宙で、あるいは地球で死線を潜り抜けた時、痛みは常に”外”からもたらされるものだった。敵機から放たれるビーム、爆風による衝撃、あるいは機体の軋み。それらは明確な”敵”との対峙であり、抗うべき対象だった。
しかし、今アムロを苛んでいるのは、自身の内側から湧き上がる抗いようのない生理機能だ。どれほどニュータイプとしての感性が研ぎ澄まされていようと、血の巡りや臓器の疼きを止めることはできない。戦士としての自分が、女の肉体という檻に閉じ込められ、なす術もなく蹂躙されている。その事実が、燃え盛る火薬のような屈辱となって彼女の喉を焼いた。
――……やめろ、思い出させるな……。
脳裏には、先ほど格納庫で見せてしまった無様な姿が、呪いのように繰り返し再生される。カミーユの、あのどこまでも澄んだ、それでいてすべてを剥き出しにするような瞳。英雄としての凛とした背中を見せなければならなかった後輩の前で、自分はただの”腹を抱えて震える女”に成り下がった。カミーユに、この泥濘のような現実を知られたくなかった。彼の中にいる”アムロ・レイ”を、こんな不潔な、生々しい痛みで上書きしたくはなかった。
激しい苦痛の中で、アムロの思考は呪詛に変わる。
こんな臓器など、持ちたくなかった。取れるものならば、今すぐ抉り出してしまいたかった。しかし、アムロという存在に恐怖しながらも、その秀でた戦闘能力に脳を焼かれた連邦政府が、それを許すはずもない。貴重なファーストニュータイプの検体にメスを入れ、その機能を損なうリスクを彼らが冒すはずもなかった。
何より、連邦の本音は別のところにある。ニュータイプの第二世代がどのような資質を持つのか、その研究サンプルとしての価値。
その思惑を知っているからこそ、アムロは子供を産むなどという未来を微塵も考えられなかった。何の罪もない子供が、アムロ・レイの元に産まれたというだけで、シャイアンの牢獄のような人生を強いられる。そんな連鎖は、自分の代で断ち切らねばならない。
一生、機能させる気のない臓器。それなのに、子宮は宿主の意志を無視して勝手に活動し、内側から彼女を傷つけ、血を流させる。
こんな苦痛、二度と経験したくなかったのに。
グチャグチャに乱れた思考が、アムロの脳を浸食していく。
もう何も考えたくない。吐き出したい。
その願いに呼応するように、強烈な嘔気がせり上がった。喉の奥に、胃酸の焼けるような酸味がへばりつく。
アムロは冷や汗で濡れた額を枕に押し当て、ただ嵐が過ぎ去るのを待つように、指をシーツに食い込ませ続けた。部屋の静寂が、かえって彼女の呼吸音と、胎の中で脈打つ嫌な熱動を際立たせる。
その時だった。
『――敵モビルスーツ2機が接近中! 総員戦闘配置!』
鼓膜を劈くような警報音が、アウドムラの船体全体を震わせた。アムロの身体が、条件反射で跳ねる。だが、急激な動作に反応した下腹部が、ナイフで抉られたような激痛を走らせた。
「くっ……あ、が……!」
喉元までせり上がってきた嘔気を、無理やり飲み込む。外では、兵たちの靴音が慌ただしく響き始めていた。カミーユはもう、Mk-IIに向かっているだろう。カツも、ハヤトも、ベルトーチカも、皆自分にできることを遂行しようとしている。
行かなければならない。
自分が行かなければ、この船は堕ちるかもしれない。
アムロは震える手で壁を掴み、立ち上がろうとした。視界がグラグラと揺れ、脂汗が目に入る。
「行ける……これくらい……一年戦争の時に比べれば……」
自分に言い聞かせる声が、痛みのせいでかすれている。ガンダムを操っていた頃、どれほどの地獄を潜り抜けてきた。それに比べれば、ただの身体の不調、ただの生理現象ではないか。
ふらつく身体で立ち上がったアムロは、徐に履いていたズボンを下ろす。同じ動作で膝まで下ろされた下着。剥き出しになった肌が冷えた空気に触れ、粟立つような寒気が走る。そのわずかな刺激でさえも、アムロの痛みを助長させるものに感じられた。震える手で袋から取り出したのは、厚みのある、無機質なほどに真っ白なナプキン。剥離紙を剥がす乾いた音が、静かな室内で不気味に響く。アムロのまろい臀部まで覆いそうなほど長いそれを、さらりとした下着の上へ強引に据え、左右の羽を折り込んで固定する。
指先の感覚が鈍い。
焦りと痛みで、粘着テープを止めるだけの単純な動作さえ、まるで爆弾の信管を抜くような緊張感を伴った。
「っ……!」
アムロは両手で下着とズボンを掴み、一気に腰まで引き上げた。不快な密着感と、腹部を圧迫する感覚。けれど、その物理的な締め付けが、かえって月経への恐怖を軽減させてくれる。いつ来たとしても、準備はできている。
アムロは荒い呼吸を一つ吐き出し、ぐっと息を吸い込む。
目を開いたときには、もうそこに先程まで痛みに呻いていた女はいなかった。力強い瞳を宿したアムロは、パイロットスーツに身を包み、鋭い足取りで格納庫へと走った。
深紅のリック・ディアスのコックピットに滑り込み、ハッチを閉じる。全天周モニターが起動し、カタパルトの先にある戦場が眼前に広がった。
「カミーユ、援護する!」
「アムロさん!? 無理ですよ、あんな顔色で!」
通信回線から飛んでくる少年の叫びを、アムロは冷徹に聞き流した。
ブースターが火を噴き、アウドムラの甲板を蹴り飛ばして加速する。その瞬間、凄まじいGがアムロの全身を、そして今最も刺激されたくない腹部を容赦なく押し潰した。
「……くっ!」
奥歯を噛み締め、操縦桿を握る。眼前に迫る敵機を視認し、ビーム・ライフルを放った。アムロの意識は、ニュータイプ特有の研ぎ澄まされた集中力によって、痛みを強制的にシャットアウトしようとしていた。
だが、事態は残酷なまでに”肉体”という現実を突きつけてくる。
敵は熟練のパイロットたちなのか、決定的な隙を見せない。こちらの一撃を紙一重でかわすと、すぐさまもう一機のモビルスーツがカバーをする。攻撃を当てられなかったことで生じたこちらの隙に入り込んで、反撃のチャンスを見逃さない。鋭い機動で距離を詰め、あるいは離す。
膠着した戦闘は、結局のところ、アムロとカミーユは強力な個にしかすぎないのだと痛感させてくる。出会って少しの時間しか経っていない二人に対して、相手方の連携は見事だった。互いに互いの死角を断絶するように、ひらりと宙を舞う。一対一であれば、アムロとカミーユであれば対処できない敵ではないだろう。しかし、補い合うことに特化した二機のモビルスーツは、アムロやカミーユを超える一個体として立ちふさがる。
アムロがトリガーを引くたびに、リック・ディアスの右腕が反動で震え、高出力のビームが青空を切り裂く。だが、その光は虚しく虚空を貫くだけだった。敵機はバーニアを細かく噴射し、慣性を嘲笑うような変則的なステップで射線を外してくる。
数多の閃光が全天周モニターを白く染め上げ、交差した。 本来のアムロであれば、相手の回避パターンを瞬時に読み切り、その先へビームを置いておくことなど造作もないはずだった。
しかし、今のアムロを支配しているのは、極限まで研ぎ澄まされた直感ではなく、脳髄まで濁らせるような鈍い痛みだ。
回避のたびに機体に加わる激しい横Gが、シートベルトを介して彼女の腹部を容赦なく締め上げる。機体が右へ旋回すれば、胎内の熱い苦痛が左へと揺れ、臓器を激しく押し潰した。
「……はぁ……、っ、……あ……」
モニターの向こうで、敵のモノアイが不気味に発光する。
アムロが放つビーム・ライフルの光軸は、わずかに、だが致命的に揺れていた。集中しようとすればするほど、冷や汗が目に入り視界が歪む。互いの機体が放つ粒子砲が、まるで意志を持つ蛇のように空中で複雑に絡み合い、火花を散らす。決定的な打撃を与えられないまま、センサーの警告音だけがコクピット内に虚しく鳴り響き、時間だけが無情に削られていった。
一射、また一射。
トリガーを引く指先が、自分のものとは思えないほど冷たくなっていく。
敵の回避運動に追従しようとするたび、アムロの意識は”敵の撃破”ではなく、”この苦痛をいかに逃がすか”という、生物としての根源的な防御本能に引き摺り戻されそうになる。それを強靭な精神で捻じ伏せるが、アムロの呼吸は、もはや戦闘のためのリズムを失っていた。
激しく明滅するモニターの光が、網膜に突き刺さる。機体の震動が、ダイレクトに脊髄を伝って、疼き続ける下腹部を何度も、何度も打ち据えた。
戦闘開始から数分。激しい旋回の最中。どろりと、内側から熱い塊が流れ落ちる感触が、下腹部の激痛と共にアムロを襲った。
パイロットスーツという密閉された空間の中で、その感触はあまりにも生々しく、鮮明だった。
月経が始まった。
それは確信というよりも、自分という器が底から崩れていくような絶望に近い感覚だった。
――今……このタイミングで……っ!
脂汗が流れ、視界の端が火花を散らすように明滅する。出血の不快感、そして子宮を握り潰されるような鈍痛。だが、敵は待ってくれない。 モニターの中で敵機がアムロの隙を突こうと迫る。
「アムロさん、後ろだ!」
カミーユのMk-IIが割り込み、背後から迫った敵機のビームを盾で弾く。
「戦場に出たなら集中してください! 僕がいなければ死んでましたよ!」
カミーユには分かっていた。アムロから放たれるプレッシャーが、ヒッコリーの時に比べて淀んでいることに。
アムロは叫んだ。それは自分自身への叱咤だった。戦士としての誇りが、生物としての限界を上書きしようと咆哮する。
「舐めるなっ!」
神業に近い操舵で敵のビームを回避し、リック・ディアスの武骨な身体が敵の懐に潜り込む。今までとの反応速度を超えたアムロの動きに、敵はついてこられなかった。それを見逃すアムロではない。ゆっくりと戦場の風景が流れていく。深紅の右腕が敵の懐を穿った。爆散する光。
それと同時に、カミーユがもう一機の背後を取り、ビーム・サーベルで一閃した。貫かれた動力源が大きな火花となって宙を散る。
二人の連携によって、戦域の敵機は沈黙した。アウドムラを狙う影はもうない。
「アウドムラ……、こちらアムロ。目標排除、帰還する……」
無線に返る自分の声が、どこか他人のもののように遠く聞こえた。機体をアウドムラへと向け、着艦誘導に従う。一刻も早く、この狭い鉄の箱から出たかった。身体の下半分が冷え、誰かにのしかかられたような倦怠感が生じる。股の間にあるナプキンが、じっとりと重みを増していく感覚が耐え難かった。
機体は慣性に抗いながら、戦闘前に据えられていたポジションへと滑り込む。定位置に収まり、巨体の姿勢を正した際の「ガシャン」という硬質な金属音だけが、今の空虚な脳内に嫌な余韻を残して響いた。システムがダウンし、耳障りだった駆動音が吐息を漏らすように止まる。
静寂が訪れた。
遮断されていた周囲の音が消え、ただ自分の荒い呼吸音だけがコックピットを満たす。刹那、張り詰めていた意識の糸が、音を立てて千切れた。
「あ……」
全身から力が抜け、身体が操縦席に深く沈み込む。温かい血の感覚と、それを許容しきれない腹部の痛みが濁流となってアムロの意識を飲み込んでいく。戦闘後の熱気さえ感じられないほど、深い闇が降りてきた。ハッチを開けるためのレバーに手をかける力すら残っていない。
アムロ・レイは、閉じられたコックピットの中で、ひとり深い意識の淵へと沈んでいった。
機体が停止してから、どれほどの時間が経っただろうか。定位置に戻ったリック・ディアスは沈黙を守ったまま、微動だにしない。通常なら即座に開くはずのハッチが閉ざされたままであることに、格納庫の熱気が不安なざわめきに変わった。
「アムロさん! アムロさん、応答してください!」
カミーユは、自分のMk-IIから飛び降りるなり、赤い機体へと駆け寄っていた。通信回路は生きているはずなのに、返ってくるのは虚しいノイズだけだ。出撃前に見たアムロの不調が脳裏に浮かぶ。額に玉のような汗をかき、カミーユを突然拒絶した不安定な情緒が思い起こされた。
周囲の反応を見るに、アムロの体調不良を知っているのはカミーユだけだ。限界を超えて倒れたのではないかという予感が、カミーユの足を突き動かす。
「……っ、ハッチが開かないのか!? 外部手動レバーを!」
カミーユはリック・ディアスの頭部装甲へ飛び移り、ハッチ脇にある緊急用の手動レバーを掴んだ。本来なら容易には動かないはずの金属の塊が、焦燥に駆られた少年の力に屈し、重苦しい音を立ててせり上がる。
「アムロさん……!」
強制解除されたハッチが、プシューという排気音と共にゆっくりと開いた。熱の籠った重く澱んだ空気が、むわりとカミーユの顔に吹きかかる。
カミーユが目にしたのは、操縦桿を握ったまま、力なく上体を折っているアムロの姿だった。ヘルメットのバイザー越しでも分かるほど、その顔面からは血の気が引き、土気色に沈んでいる。浅い呼吸に合わせて、細い肩が僅かに、だが絶え間なく震えていた。
「アムロさん! しっかりしてください、アムロさん!」
カミーユが狭いコックピットに身を乗り出し、彼女の肩を掴んだ。その瞬間、カミーユに、アムロの思惟が流れ込んでくる。
――暗く、冷たい宇宙。
底の見えない孤独の中で、ただ一人、迫りくる激痛の波に抗い続けるアムロの精神。それは、英雄と持て囃されながらも、実のところは”誰にも頼ることが許されない”と自分を律し続けてきた者の拒絶だった。
『……見ないで……』
アムロの意識の断片がカミーユの脳内を直接叩く。
恥辱、恐怖。
そして何より、戦士として不完全であることへの深い嫌悪。
”アムロ・レイ”というパイロットが、自分自身の血の温かさによって溶かされていく悔しさ。
「アムロさん……これ、は……」
カミーユに、アムロの体感している”現実”がオーバーラップした。下腹部を焼かれるような、灼熱の杭。意識を遠のかせるほどの倦怠。女性として生まれてきたことを呪う、暗澹たる感情の渦。彼女がたった一人、コックピットという閉鎖空間で耐え忍んでいたのは、敵のビームだけではなかった。剥き出しの肉体が突きつけてくる”戦士になれない自分”との闘争。
「……勝手ですよ……!」
カミーユは歯を食いしばり、彼女の細い肩を、壊さないよう、それでいて強く抱き寄せた。流れ込んできたのは、痛みだけではない。
誰からも求められることのない軟禁時代のアムロの果てしない孤独もそこにはあった。
そのプレッシャーが、あまりにも哀しくて、寂しくて。それゆえにカミーユの心に鋭い痛みをもたらした。
「そんな風に……自分を削ってまで戦えなんて、誰も思ってない!」
カミーユの叫びに呼応するように、アムロの指先が僅かに動いた。濁っていた彼女の意識が、カミーユに感応し、ゆっくりと浮上し始める。アムロの瞼が震え、バイザーの奥で力なく瞳が開いた。
「……か、みーゅ……?」
焦点の定まらない瞳が、カミーユを捉える。自分を支える少年の腕の熱に、アムロは自分がただの無力な一人の人間として、彼に抱かれていることを理解した。
――しくじったな。
自嘲する意識と共に、アムロは再び瞼を閉じた。