第1回政権幹部「衆院で何でもできる」一変した政治風景、異論なくなる1強

 8日夜、自民党本部にいた高市早苗首相(党総裁)はカメラの前で、衆院選の自民候補の当選確実が次々と報じられても厳しい表情を緩めようとはしなかった。党幹部によると、事前に「大勝して浮かれていると思われぬよう笑顔は御法度」と打ち合わせたという。

 ただ、報道陣のいない部屋では、首相は「良かったね」と党幹部らとねぎらい合った。首相らは選挙中に手ごたえを感じていたが、「ここまで圧勝するとは誰も想像していなかった」(党幹部)という。

緊急連載「1強再来 変わる日本政治の風景」 第1回

自民党は衆院選で歴史的大勝を収め、3分の2を確保しました。自民が最強で残りは弱小政党という第2次安倍政権と同じ「1強多弱」の世界が再び到来します。日本の政治風景はどう変わるのか、全3回の緊急連載で検証します。

「みんな『高市様様』」

 最大の勝因は、首相の高支持率にあったとみられ、ある閣僚経験者は「みんな『高市様様』だ。異論なんて一切言えなくなる」と語る。

 自民は今回の衆院選で3分の2の議席を確保した。現在「少数与党」の参院で法案が否決されても、衆院で再可決し成立させることができる。「これで『高市』という存在は、自民内でも与党内でも変わる。第2次安倍政権のような『1強体制』になる」。政権幹部は感慨深げにそう語る。

 首相が「後継」を自任する安倍晋三元首相は「数の力」で政策を押し通すタイプの政治指導者だった。与党による3分の2の議席を背景に、特定秘密保護法や安保関連法制など野党が反発する政策をめぐり採決強行を断行した。

 首相側近によると、もともと高市首相が解散に踏み切ったのは、与党が「数の力」を持たぬことへのいらだちからだったという。官邸幹部は「3分の2の再可決は『ここ一番』でしか使えない。そんなに好き勝手はできない」と語る。だが、政権幹部は9日、今後の国会運営について、こんな本音を漏らした。「もう参院には意味がない。衆院で何でもできる」

「党内で首相にモノを言える人はいない」

 年明けの5日、伊勢神宮に参拝する高市早苗首相(自民党総裁)に対し、沿道に詰めかけた大勢の聴衆から声援が上がった。「聴衆の反応に手応えを感じ、解散を決意したのでは」(政権幹部)。自身の高支持率によって自民を歴史的大勝に導いた首相の解散の決断のタイミングをめぐり、官邸内ではこうした見方が広がっている。

 参拝した首相の手元には「後継」を自任する安倍晋三元首相の写真があった。ただ、戦後初めて単独政党として3分の2の議席を獲得した首相は、安倍氏以上の権力を持てる環境にいる。

 「公約で掲げた政策は国民との約束だ」。衆院選から一夜明けた9日午後の党本部。首相は臨時役員会で、麻生太郎副総裁や鈴木俊一幹事長ら居並ぶ党幹部を前にこう強調し、政策実現への協力を求めた。解散直後は党内で一部異論はあったが、選挙が終われば「もはや党内で首相にモノを言える人はいない。永田町の景色は一変した」(党ベテラン)という政治情勢へと変わった。

 安倍政権下では派閥が集団として力を持ち、最大派閥出身の安倍氏でも政権運営をめぐって他派閥への配慮が不可欠だった。だが、派閥の裏金問題で麻生派以外はすべて解散。派閥幹部の経験がある党重鎮は「党内で『それはおかしい』と言える固まりは、ないに等しい状況だ」と漏らし、党幹部の一人も「『自分は首相と親しいんだ』というアピール合戦が始まるだろう」と語る。

 安倍政権とは連立相手の違いも大きい。首相は9日、日本維新の会の吉村洋文代表と国会内で会談。吉村氏は会談後、記者団に「しっかりと維新がアクセル役になって進めていく。連立合意に指針が示されている。実現させていくことを強く確認した」と強調した。

 安倍政権下で自民のタカ派的政策の「ブレーキ役」だった公明党はもういない。首相に近い閣僚経験者は「首相は自民内リベラル派よりも維新を重視している」と語る。

「宮廷政治」に不安の声も

 野党の状況も違う。当時は2大政党の一角に旧民主党勢力があったが、今回の選挙でその流れをくむ中道改革連合は惨敗。野党の「多弱化」が進み、巨大自民を脅かす勢力はいなくなった。

 首相は8日夜の民放番組で「私は柔軟性が取りえだ。野党から良い提案があったら受け止める」と笑顔で述べたが、別の番組では国会運営について「効率的に進められるところは進める」とも語った。

 ただ、「一人でこもりがちな性格」(側近)とみられる孤高のタイプの首相一人に権力が集中することに、官邸内で懸念の声も漏れる。首相に近い議員も「ネガティブなことを直言する存在がいないと極めて危ない」と語る。今回の解散劇は大成功を収めたものの、首相がごく一部の側近とだけで秘密裏に重要な政策決定を行う「宮廷政治」のような状況に突き進めば、「『1強』の首相はいても、スタッフらと進むべき方向性や情報共有はなされず、官邸はチームとして機能しない」(官邸関係者)との不安も出ている。

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    牧原出
    (東京大学先端科学技術研究センター教授)
    2026年2月10日8時39分 投稿
    【視点】

    チームなきリーダーを「一強」とは言わない。安倍一強とはまったく違う状況である。また衆議院選挙で大勝した首相中曽根康弘や小泉純一郎は「一強」とは呼ばれなかった。できもしない案件を発信するリーダーには誰もついてこないだけである。「異論」はサボタージュによって示されもする。むしろ黙っているがダメだと思われるのが一番怖いのが日本社会の通例だろう。 ただ政治家高市早苗とは、常にそのような場に自分を置いてきたのではないか。 その意味で今回の選挙結果は、せいぜい 「サナエ流・大当たり」 といったところだろう。 こうした点も含めて、高市早苗の足跡・とりわけ大臣になる前の発言を丁寧に拾うという作業がメディアではまったく欠けているように思える。今必要なのは「高市早苗・全人像」である。わがまま、不義、軽率、責任転嫁もあれば、歯切れの良さ、前向き、努力家といった要素もあるだろう。 ただそうやって作業を重ねてみると、私は案外「高市早苗もやるじゃないか」となるのではないかとみている。 まずは政治家としての評価があって、リーダーとしての評価があるべきだ。前者が無いため、一私人としての好感度あるいは悪行がそのまま首相としての好感度・悪行に直結してしまっているように見える。おそらくは政治家高市早苗に一番欠けているのが、政策能力・調整努力・即興力ではなかったかと私は見ている。よく準備する評論家・テレビキャスターであって、組織人・ディレクターになりきれない。とっさの緊急対応などまず無理。そうした人物がリーダーになってしまって衆議院での大勝利を呼び込んでしまった。それは英雄譚だろうか、それとも喜劇だろうか。そんなあたりが現在の状況である。

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    隠岐さや香
    (東京大学教育学研究科教授=科学史)
    2026年2月10日11時42分 投稿
    【視点】

    日本は一応民主主義だが、ある種の民主主義は非常に恐ろしい結果に結びつく。歴史を踏まえるとそう思う。何故なら、歴史上で「独裁者」と呼ばれる人の中にはしばしば意図してそうなるというより、国民の熱狂によってそうなってしまう人がいるからだ。たとえば、フランス革命期に粛清を行った独裁者とみなされるロベスピエールなどはその一人である。 極端な例をあげたが、言いたいのは、政治は特定個人の資質でも選挙結果だけでも決まらないということだ。市民一人一人の意識に今後がかかっている。国全体が少しずつおかしな空気に包まれていないか、一人一人が意識的になり考えてみることが望ましい。 以下、ちょっとした参考として、最近フランスの社会運動家兼デザイナーのジェフリー・ドルヌ氏が作成している「ファシズム・メーター」(https://hckr.fr/fascismometre/)を紹介したい。社会の危険な兆候をランキングした表が興味深い。 以下に項目だけ書き出す。下に行くほど深刻度が上がっていく。私たちは今、どのあたりまで来ているだろうか。 自由と参加(=ファシズムから遠い、安全な状態) 1. 多元主義(複数の違う立場が見える状態)と権力抑制の尊重 2. 自由で独立した報道がある 3. 集会・デモの権利の保障がある 4. 文化と教育への公平なアクセスがある 5. 独立した司法がある 警戒すべき段階 6. 治安・安全保障言説が恒常化する 7. 「あなたの安全のため」という名目の大規模監視 8. 偽情報の流布と穏健なプロパガンダ 9. 労働組合・市民団体の権利縮小 10. 文化的・学問的検閲が起きる 露骨な権威主義段階 11. 内なる敵を指定する言説がある 12. 国民史の書き換えが試みられる 13. 少数者・ジャーナリストに抑圧がある 14. 警察が暴力を奮っても処罰されない 15. 日常的な排外的アイデンティティ・ナショナリズムの主張 16. 権力の個人化が起きる 能動的ファシズム段階 17. 民兵組織、政治的な暴力、指導者崇拝の横行 18. 批判的組織の禁止が起きる 19. 司法とメディアの統制が起きる 20. 反対派の逮捕が起きる 21. 「純化」や「道徳的立て直し」への呼びかけ 22. 反対派の国外追放・排除

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衆院選2026

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2026年1月27日(火)公示、2月8日(日)投開票の衆院選(衆議院選挙)に関するニュースをお届けします。[もっと見る]

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