「リベラルの若者」が自民党に投票する構造
ここ最近、「若者の右傾化というが、実は若者はリベラルな価値観を持っており、そのうえで自民党を選んでいる」という議論が局所的にあった。個別の価値観調査を行うと若者のほうがリベラルであることが一般的で、例えば愛国心は若者のほうが弱く、男女平等は若者のほうが支持率が高く、外国人との共生も若者のほうが受け入れている。
そして今回の選挙でも、「リベラル自認の若者の間で自民が最多得票を得た」という話がニュースになった。これもあって先ほどの話題がぶり返され、「野党がリベラルに信頼されるためにはどうしたらいいか」「本当はリベラルではないのではないか」などいろいろ語られた。
ただ、この問題は実は以前から研究の題材になっており、その成果である橋本・金澤『新しいリベラル — 大規模調査から見えてきた「隠れた多数派」』(公式解説)や、その下地になっている同書著者の研究「新しい中間層の可視化に向けて」からその潜在構造を伺うことができる。
とりあえずここから先は研究の紹介メインのくせに私自身の意見を載ってけている構造になっているので、まずこれを読まずとも上記の著者本人による言説を見てもらった方が健全だろう、ということは先にお断りしておく。
価値観としてのリベラルと政治勢力としての左派
上記研究で行われた意識調査によると、「自分はリベラルである」と自認する層は決して減少してしておらず、ジェンダー平等、格差縮小、外国人との共生、環境保全などを政府に求める意識を持つ有権者は、全有権者の約3分の2という分厚い層として存在し続けている。
その裏である所の、ジェンダー平等、格差縮小、環境保全に反対気味の意見を持つ《リベラル嫌い》の有権者は全体の3分の1程度であり、その中でも「天皇制や愛国心教育に肯定的」という特徴を持つコア保守が全有権者に占める割合は11%に過ぎない(残りはリバタリアン型)。
また、個別価値観ベースで保守リベラルを分類したこの調査でも、どちらかというと保守は年齢層が高い方と結びつく傾向がある。総じていえば日本の価値観はリベラルを維持していて、徐々にリベラル化していると取れるものである。この調査でのグループ分けでは、現在の左派政党を構成する高齢の「旧リベラル」(詳細は後述)が全体の16%に対して若い「新しいリベラル」は21%あり、数すら若い世代のほうがリベラル派が多い。
一方で、ジェンダー平等、格差縮小、環境保全を求めるリベラル寄りの価値観の人でも、「旧リベラル」を除くリベラル価値観勢力の小選挙区の投票先は基本的に自民党が最多となっている。調査の著者はこれをもって《政治的リベラル勢力の衰退》と《価値観としてのリベラリズムの退潮》は一致していないと主張している。
なぜ価値観リベラルが自民党に投票するのか
政治的リベラル勢力の伸長と価値観としてのリベラリズムの伸長がなぜ乖離するのか。答えの一つは当該調査のなかの政党イメージ調査が参考になる。
「外交や安全保障の問題で信頼できる」は自民党が圧勝しており、「経済的弱者の味方になってくれる」「子育て支援に積極的である」「女性や性的マイノリティへの支援に積極的である」といったリベラル価値観ですら自民党にお株を奪われている。
これがなぜなのかということなのだが――ここからは本格的に元著者でなく私自身の意見である。
論点1 外交や安全保障の問題
前掲調査では有権者全体を6つグループに分類しているが、その中で有権者全体の16%を占め「旧リベラル」とラベルされた層がある。この層は特徴的で、6グループ中で唯一「現在の安全保障に否定的」「天皇制や愛国心教育に否定的」「投票先は比較的左派政党が多い」「政治運動を活発に行いデモやネットでの意見表明をする」という傾向が突出しているという特徴を有する。端的に言えば護憲の旗のもとに野党共闘をやったグループの支持者、ネットでハッシュタグデモをやっている人々と考えて問題ないだろう。
ジェンダー平等、格差縮小、環境保全などリベラルな価値観を持つ有権者は全体の2/3を占めるのが、「旧リベラル」以外は安保に関して護憲派ほど極端な意見を持たないか、または日米同盟に賛成という態度を取っている。「旧リベラル」に近しい価値観を持つ「新しいリベラル」ですらこの点だけは日本全体平均に近い態度を取る。
護憲派の勢力は、NHKの改憲に対する意識調査では2018年が反対26.8%、ウクライナ戦争を見た2024年では反対18.7%となっている。2014年の日米同盟に関する意識調査では同盟維持が84.6%、同盟破棄と自衛隊維持が6.6%、軍備の全解消が2.6%であった。大まかに、今の日本は2割弱の護憲絶対主義と8割強の日米同盟支持派がいることになっているが、橋本・金澤の調査はこれらの調査と整合的である。
護憲 vs 日米同盟支持という安保観の対立は、両者のグループにとって絶対に譲れないポイントとなっており、あれだけ人気だった2009年民主党政権が1年でレームダック化したのは辺野古移設問題に関する有権者からの不信である。前期調査の「外交や安全保障の問題で信頼できる」で自民党が圧倒的優勢なのもこの数の違いを反映している。
護憲派の2割という数字は、政権を取るには少なすぎるが、安定して野党第一党にはなれる数ではある。このために、自分自身は与党になれないが、他の政権交代を目指す野党が形成されるのをブロックし続けており、自民党の永久与党化をアシストする役割を果たしてしまっている。
この状況をどうにかするには有権者の中の護憲派を増やすしかないのだが、主力世代の高齢化とともに徐々に減少しており、増える気配はない。護憲・反日米同盟勢力は防衛にすら無防備主義、非戦降伏という意見すら出していたが、ウクライナ戦争では多くの人が「侵略勢力に占領された地域では、占領側が住民を『自国民』とみなして徴兵を行い、 その人々を侵略戦争の尖兵として戦場に送り込んでいる」という現実を目にし、むしろ「軍国主義に無抵抗で降伏することは、軍国主義政府を歓迎するのと等しい。人殺しを強制されることは避けられず、戦争への誘因を高め世界の平和に対する脅威になりうるので、不正義・反平和・非倫理的である」という見方すらされるようになってきているので、この勢力のこれ以上の伸長は不可能だろう。
また、戦争観も護憲派が「いかに日本が侵略することを止めるか」という枠組みで語るのに対して、日米同盟維持派は「いかに日本が侵略されたときに対処するか」という話を前提としており、会話が通じず説得が困難になっていることも拍車をかけている。
日米安保反対にしても同じことで、日本が属する西側と、中露イランキューバといった勢力を比較するに、後者は明らかに軍国主義で反人権的、手続き的正義を軽視しているのに対して、西側は(程度問題だったとしても)まだ人権や正義を重視する立場であって、西側同盟を離脱して中露に近いポジションを取るのは人権や正義の観点からあり得ないというのが大方の人の考えであり、反日米安保が人権正義の面から支持を広げるのは難しいだろう。
論点2 経済福祉政策の問題
前期調査(橋本・金澤)の集計では、全有権者の約3分の2を占める《リベラルな価値観》層は人的資本形成、弱者支援に積極的である。しかしながら、どの弱者を支援するかについての価値観で分裂が見られる。
「旧リベラル」はリタイア後世代、貧困層への支援を重視している。直近の政党別支持率でも「旧リベラル」系の立憲民主党、中道改革連合、共産党、社民党はリタイア後世代の高齢者に偏った支持層を持つことが確認されており、これと一致する。
一方で「旧リベラル」に近い価値観を持つ「新しいリベラル」は、「40代未満・女性・既婚・子あり」といった属性と結びつけられており、出産/子育ての支援、教育の充実、次世代教育を最も重視している。
こういうことを話すと「両方やればいい」という答えが返ってくるのは定番だが、しかし無人島に老人が一人流れ着いても老人福祉を支える人がおらず成立しないように、長寿化した現代においては福祉は絶対的リソースが足りずゼロサムの量入制出型にならざるを得ない。「新しいリベラル」の年代は社保をいくら払うか認識しており、「全部に福祉を」と言われても、財源も自分になって朝三暮四になったら意味がないと考えている。
そしてこの「新しいリベラル」層は、「高齢者の意見ばかりが政治に反映されている」「若年層の意見が政治に反映されていない」と考える「シルバーデモクラシー認識」ありが50%近くあり、この調査で抽出されたいくつかのグループの中でも突出して多い。高福祉を是とするゆえに、負担と受益で先鋭的な対立になってしまっている、という状況になっている。
左派政党の現有支持層は高齢者が多いが、そういった政党は当然ながら現有支持層のために高齢者向け福祉政策を自然と打ち出す。すると、それを見た「新しいリベラル」が左派政党を忌避して子育て世代重視の政党を求める、というループが出来上がってしまっている。
こういった状況を俯瞰した説――長寿化に伴って「革新」側の年齢層の幅が広がり、ライフステージの違いによって要求にばらつきが出るため必然的な分裂が起きてしまうのに対して、保守側は年齢に関わらず「現状維持」で意見を共有できるために、保守が常に有利になる、という仮説について以下の論説で検討している。
論点3 リベラル価値観政策の問題
本節冒頭で示したように、「経済的弱者の味方になってくれる」「子育て支援に積極的である」「女性や性的マイノリティへの支援に積極的である」といったリベラル価値観ですら立憲民主党が自民党にお株を奪われるという事態となっている。
この点については、安倍政権は実際かなりリベラル価値に基づく政策に積極的な政権であった。葬儀に対して寄せられたコメントでは、ヒラリー・クリントンが安倍の女性活躍政策を評価し、ポール・クルーグマンは安倍の経済左派政策を評価していた。これが単なる形だけのお世辞ではなく、実際に数字に表れるほどリベラル左派的政策を取っていたことはすでに論じている。
安倍氏は、一般的な基準では右派政治家に分類されるだろう。しかし、世の右派や左派が考えるほどには、一貫した「思想」がないように思える。アベノミクスのモデルが欧州急進左派の経済政策なのは、周知の事実だ。第2次政権は、障害者差別解消法、ヘイトスピーチ対策法、部落差別解消推進法、アイヌ文化振興法等々のリベラルなマイノリティー支援法を次々と成立させた。
「保育園落ちた日本死ね」の時も比較的迅速に対応しており、「新しいリベラル」が求める子育て世代支援策は比較的積極的に実施してきたと言っていい。リベラル左派的政策について旧民主党・立憲民主党より自民党のほうがよほど実績があるのは事実で、本節冒頭のような評価になるのはやむなしというところであろう。
今回の選挙では、夫婦別姓や同性婚について自民党が消極的ないし反対の立場を取っているからリベラルが選ぶことはあり得ないといった意見も見られた。しかし夫婦別姓に関する世論調査を詳しく見る限り、選択的夫婦別姓賛成派が全体で6割を占めると言っても、断固として推進すべきと考えているのは全体の1割に満たず、残りの賛成派は「やってもよい」という消極的賛成に留まると言える。選択的夫婦別姓の賛成派・反対派の比率は、与野党どちらの支持者でも、年齢層が違っていても、性別が違っていても、だいたい同程度になる。言い換えると当事者的な利害対立があるわけではなく、ほかに優先事項があるセカンダリーな問題として捉えているために、与野党や男女といったイデオロギーやステークホルダーとしての立場の違いが賛否に影響しないと言えるだろう。
外国人・移民政策についても、自分自身は当事者ではないので必死にもならないし、現政権が憲法違反の法令を作っているわけでもなく、現行法の範囲内での匙加減に留まっており、日本に居留する外国人数もインバウンド観光客数も伸び続けている以上、いますぐアクションが必要な問題は生じていない、というのが《全体の2/3を占めるリベラル価値観の有権者》のうち大半の判断となっている。
若いリベラルが自民党に投票する判断機序
以上をまとめよう。
若い世代には、ジェンダー平等、格差縮小、外国人との共生、環境保全などを是とする「文化的リベラル価値観層」は確かに存在するし、その比率はむしろ高齢者世代より高い。しかしながらそれ以外の価値観、安保政策や福祉財源の割り振り(シルバーデモクラシー観)で決定的な差があり、《正義》の観点でも旧リベラルは切り崩せるだけの論拠を持たず劣勢である。そのうえで、夫婦別姓など文化問題についてはセカンダリーな政策であり第一の判断基準にはならず、安保と福祉政策が優先されて、消去法、消極的支持で自民党が最多得票を得る――基本的にはこういう構図になっていると考えられる。
護憲派2割の存在は、政権をとれる量ではなく、一方で野党第一党として政権交代可能な党ができることをブロックし続けるという意味で、政権交代による世論反映を阻害していると思われるのだが、今回の選挙の最後の「#ママ戦争止めてくる」の類を見るにそれをアイデンティティとする集団はそれを捨てることはないだろうし、彼らが寿命を迎えるあと15年くらいはこの状況が続くのではないかと思われる。


護憲派の2割という数字は、政権を取るには少なすぎるが、安定して野党第一党にはなれる数ではある。このために、自分自身は与党になれないが、他の政権交代を目指す野党が形成されるのをブロックし続けており、自民党の永久与党化をアシストする役割を果たしてしまっている。 この状況をどうにかす…
外国では自民党はリベラルとラベリングされるのが、普通ですね