「ファイナルファンタジーIX」の音楽が日本の新世代ジャズに変身!!

 名だたるゲーム音楽と今様ジャズの幸福な出合いの結果、独創的で唯一無二のアルバムが誕生した。『Midnight Jazz: FINAL FANTASY IX』は、「ファイナルファンタジーIX」の音楽を主にジャズ・アレンジで再創造したユニーク極まりない作品だ。音楽監督を務めたのは、映画やドラマなど劇伴でその手腕を振るうyuma yamaguchi。彼を含む複数のアレンジャーがビッグバンド、スモール・コンボ、無伴奏ソロといった編成で大胆な編曲を施し、ヴォーカリストがゲーム音楽のメロディーをなぞっている。また、4曲で石若駿がドラムを叩いているほか、アレンジャー/プレイヤー/ヴォーカリストとして、若井優也、馬場智章、君島大空、BIGYUKI、Seppl Kretz、片山士駿、吉田篤貴、北村蕗、藤井心、グレッチェン・パーラト、十明、高井息吹、Julia Shortreedらが参加。つまり、ゲームをプレイしたことがなくても、現行のジャズやインディーに興味があるなら迷わず聴くべきアルバムだ。むろん、本作を聴いてゲームに興味が湧くというリスナーも多いだろう。本作の成り立ちについて、アルバム全体を俯瞰できるyumaに話を訊いた。

『Midnight Jazz: FINAL FANTASY IX』 スクウェア・エニックス(2026)

 

いまのジャズ好きが楽しめるもの

――このアルバムの制作はどこから持ち上がった話なんですか?

「『ファイナルファンタジーIX』が2025年に発売25周年だったということもあって、ゲームで使われた曲をいろいろな人にジャズ・アレンジしてもらったらおもしろいんじゃないか、という話をスクウェア・エニックスの担当者さんからいただいて。〈ファイナルファンタジー〉の音楽をいろいろなジャンルでアレンジしたアルバムってたくさん出てるんですけど、任せてもらえたら自分なりのおもしろいものができるかもねという話になり、制作が決まりました」

――ゲーム内の音楽は大半がインストゥルメンタルでしたが、この作品ではほとんどの曲にヴォーカルが入っていますね。

「僕はもともとゲームの音楽も好きだったので、ファンとしては原曲をリスペクトしつつも、今回は大きくアレンジしたものに挑戦してみたかったんです。だったら歌を入れたほうが間口を広げられるんじゃないかなと。歌詞は特定の言語でやるといろいろな意味が生じてしまうから、基本的に造語でいくことにしました。ただ、グレッチェン・パーラトさんには“Melodies Of Life”を原曲のまま英語で歌ってもらって、それもまた素晴らしかった。あと、一枚の中にヴァリエーションを持たせたかったんですけど、それでは散漫になる恐れもあって。でも、歌が入っていれば一本筋の通ったものになるだろうと思ったんです」

――アレンジャーやプレイヤーのクレジットを見て反応する人も多いアルバムでしょうね。石若駿さんが4曲で叩いていたりするだけでも、おっ!と思うリスナーはいるはず。いまの日本を代表する若いジャズ・ミュージシャンが多く参加しています。

「石若さんが叩いた曲は、どれも彼じゃないと成り立たなかったものだと思います。例えば、1曲目の“破滅への使者”は石若さんと縁の深いマーティ・ホロベックさんもベースを弾いていますし、インパクトがありますよね」

――確かに、“破滅への使者”は石若さんとマーティさんならではのダイナミズムとパンチ力があるし、Seppl Kretzさんがアレンジした2曲目の“眠らない街 トレノ”はミシェル・ルグランを連想させるナンバーです。この2曲でリスナーを鷲掴みにしますよね。

「そうですね、一方で若井優也さんやBIGYUKIさんのような鍵盤奏者が参加しているのも大きいです。BIGYUKIさんとバークリー音楽大学のクラスメイトでもあったSTUDIO Dedeのエンジニアである吉川(昭仁)さんに協力してもらい、どうせジャズ・アレンジでやるなら、いまの日本でジャズを好きな人が聴いても納得できるものを作ろうという意識で最初から取り組んでいました」

――余談ですが、僕は菅野よう子さんが手掛けたアニメ「カウボーイビバップ」のサウンドトラックが好きなんです。最初はアニメがどんな作品かもまったく知らなくて聴いていたんですけど、だんだんアニメにも興味が湧いてきた。この作品もそういうルートがありそうですよね。

「そうですね。このアルバムを作るときも、せっかく僕に声を掛けてくれたのだから、なるべくゲーム音楽にない要素も加えたいなと考えていました。かなりフラットに作品へと向き合いましたし、それがいい方に転んだように感じています。僕はもともとゲームも好きで〈ファイナルファンタジー〉はIVから始めたんですけど、もしこれがIXじゃなく、シリーズのなかで最初にプレイしたIVだったらここまでフラットにできなかったと思うんです。思い入れが強すぎて、全部の曲を僕がアレンジします!となっていたかもしれないから(笑)」

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やり方は任せます

――yumaさんの肩書きは音楽監督です。この曲はこの人にアレンジをお願いするとか、どういう編成でどういうプレイヤーを揃えるとか、そういうことを担当された?

「そうですね。アレンジャーの作家性を信頼して頼んでいたので、〈こういうふうにアレンジして〉って細かく言った曲は1曲もないかもしれないです。北村蕗さんにお願いした“最後の闘い”だったら、〈アヴァンギャルドにしちゃってください、でもやり方は任せます〉という感じでした。このアレンジャーはこういう曲が得意じゃないかなっていうことを担当と想像しながら決めたものもあるし、この人はもうこの曲だなという強いイメージがあったケースもあります」

――例えば?

「特にヴォーカリストはそれが顕著でしたね。例えば“破滅への使者”のラヌさん。彼女にはこの曲をやってほしかったんですよね。このアルバムってインストの曲のメロディーをヴォーカルでなぞるという形だから、曲によっては歌うのが難しいと思うんです。高井息吹さんが歌った“ハンターチャンス”も彼女だからできた部分が大きい。そういうふうに、この人だったらここにフィットするなというイメージがありました。あと、“永遠の豊穣”のハーモニーはヴォーカリストのmimikoさんがすべて自分で付けてくれたのですが、それも素晴らしくて。彼女は日本人とアメリカ人のミックスで英語がネイティヴなので、日本人の歌う造語とはやっぱり雰囲気が違っていておもしろかったです」

――“独りじゃない”は、馬場智章さんの無伴奏サックス・ソロですね。これには驚きました。

「こんなふうにソロだけでこの曲を成り立たせられるサックス奏者って、なかなかいないと思うんですよ。僕は正直、最初はサックスのオーヴァーダビングで作っていくのがおもしろいんじゃないのかなと思っていたんです。だけど、吉川さんが、サックス・ソロがいいんじゃないか?って助言してくださって。これはジャズの企画なんだし、馬場さんはソロに耐えうる実力があるので、もうサックス1本で行った方がいいんじゃないの?って。その一言をもらって、ソロでいく決断ができましたね」

――yumaさんはCMの音楽とかドラマや映画の劇伴の仕事をたくさんされていますよね。 劇伴って何かのための音楽じゃないですか。でも、今回のアルバムってゲームのための音楽だったものを、いろいろな方がアレンジした。だから、いつもやってる仕事とちょっと勝手が違いますよね?

「そうなんです。そういう意味での制約っていうのは、劇伴とかコマーシャルの仕事よりは少なかったので、かなり自由度は高かったですね。だから、みなさんの力を借りて自分のやりたかったことがいつも以上に実現できたかもしれないです。僕は小さいときからずっとクラシックをやっていて、大学に入ってからジャズを勉強したんです。一方、高校生ぐらいからずっとハウスがすごく好きで、デビューしたのもイタリアのイルマっていうダンス・ミュージックのレーベルからだったんですよ。自分の音楽性はクラシックとジャズとダンス・ミュージックの要素が3分の1ずつぐらいあるというイメージ。今回、ジャズ・アルバムとは銘打っているけど、その意味では自分のこれまでの経験も活きているなと思いますね」 *土佐有明

yuma yamaguchiの作品を一部紹介。
左から、2025年のサントラ『日本一の最低男※私の家族はニセモノだった』(ポニーキャニオン)、2021年作『NotAnArtist』(YUGE inc.)

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〈ファイナル・ファンタジー〉の音楽世界は多彩なスタイルと多様なサウンドで広がり続けている!

 87年、スクウェアからの第1作発売を期に〈ファイナルファンタジー〉の物語は始まった。ゲームデザイナーの坂口博信がディレクターを務めた同作は、プレイヤーがキャラクターの職業を選択できる〈ジョブシステム〉や、サイドヴューでの戦闘画面など当時は珍しかった要素を導入し、大ヒットを記録。現在に至るまで、本編16作のほかスピンオフなどを含めると100以上のタイトルがリリースされており、昨年、累計出荷・ダウンロード販売本数は2億本を突破した。

 SFや神話を混交させた世界観の魅力を、天野喜孝のキャラクターデザインを共に高めたのが、植松伸夫が作り出した音楽だ。豊かな情緒や緊迫したスピード感をもたらすシネマティックなスコアはゲーム音楽の常識を変えたと言える。なかでも、今回yuma yamaguchiがリアレンジに取り組んだ「ファイナルファンタジーIX」(2000年)のオリジナル・サウンドトラックは植松の到達点とも評される作品で、特に主題歌“Melodies Of Life”は名高い。植松がメイン・コンポーザーとして関わったのは「ファイナルファンタジーX」(2001年)までだが、以降も崎元仁や祖堅正慶ら才気に溢れた作曲家たちがその音世界を常にアップデートし続けている。加えて、フェイ・ウォンやアンジェラ・アキ、米津玄師、さらにUKのレオナ・ルイス、フローレンス&ザ・マシーンらポップ畑のアーティストによる主題歌が作品を彩ってきたことも忘れ難い。

 ピアノ・ソロやオーケストラ、ジャズや電子音楽など多彩なテーマのリアレンジ作品も枚挙に暇がなく、2025年は〈Kawaii〉をテーマにした『#SQkawaii Sounds -FINAL FANTASY-』、EDM的なアプローチの『PULSE: FINAL FANTASY XIV Remix Album Vol.2』などが届いている。近年はアナログ盤でのリイシューやBlu-ray Disc Musicフォーマットでの映像付きサントラのリリースも活発で、昨年7月には「ファイナルファンタジーIX」の25周年を記念したLP「FINAL FANTASY IX 25th Anniversary Vinyl - Timeless Tale -」も登場。今年も2月には〈ファイナルファンタジー ピクセルリマスター〉シリーズのサントラ6作がCD化を控えており、〈ファイナルファンタジー〉の音楽をめぐる冒険からは、まだまだ抜けられそうにない。 *田中亮太

左から、2024年の映像付きサントラ『DAWNTRAIL: FINAL FANTASY XIV Original Soundtrack』(スクウェア・エニックス)、アンジェラ・アキの2005年作『HOME』(エピック)、米津玄師の2024年作『LOST CORNER』(ソニー) 、2025年作『Crystalline Resonance - FINAL FANTASY Piano Collection』、2025年作『#SQkawaii Sounds -FINAL FANTASY』、2025年作『FINAL FANTASY VII REBIRTH ACOUSTIC ARRANGEMENTS』、2025年作『PULSE: FINAL FANTASY XIV Remix Album Vol.2(Deluxe Edition)』、2025年作『FINAL FANTASY XIV Orchestral Arrangement Album Vol.4』、2025年のアナログ盤『FINAL FANTASY TACTICS Best Selection - Vinyl Soundtrack』、2025年のアナログ盤『FINAL FANTASY IX 25th Anniversary Vinyl - Timeless Tale -』、2月18日にリリースされるサントラ『FINAL FANTASY I PIXEL REMASTER Original Soundtrack CD』(すべてスクウェア・エニックス)

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〈Midnight Jazz〉の参加アーティストが奏でる、刺激的な音の連なり

坂東祐大, yuma yamaguchi, 君島大空 『ドラマ「火星の女王」オリジナル・サウンドトラック』 コロムビア(2025)

NHKの放送100年を記念して2025年に制作・放送されたSFドラマはyuma yamaguchiと坂東祐大が劇伴を担当。クラシックと電子音楽を融合させた“困惑”あたりは、yumaの作家性が色濃く出たものだろう。主題歌“記憶と引力”には君島大空がヴォーカリストで参加。

 

君島大空 『音のする部屋』 APOLLO SOUNDS(2025)

君島が編曲した“月なきみそらの道化師たち”には、彼の合奏形態に名を連ねるドラマーの石若駿、オーストラリア出身のベーシストであるマーティ・ホロベックが参加。このEPの“WEYK”などでも聴ける、ジャズ・ロック~プログレ的な演奏を堪能できる一曲だ。

 

Answer to Remember 『Answer to Remember II』 ユニバーサル(2024)

〈Midnight Jazz〉で現代ジャズの横断性や先鋭性に興味を持った人は、首謀者の石若を筆頭にホロベックや馬場智章、若井優也らプレイヤーが連なる本バンドのセカンド・アルバムを聴くといいはず。緊迫感と自由さの狭間に醸されるエレガンスも両作の共通点だ。

 

馬場智章 『ELECTRIC RIDER』 ユニバーサル(2024)

“独りじゃない”をアレンジし、2分20秒ものソロを披露した馬場は、アニメ映画「BLUE GIANT」で主人公パートを演奏したことで注目を集めたサックス奏者。このメジャー初作はBIGYUKIを共同プロデュースに迎え、未来的なフォルムのジャズを提示している。

 

GRETCHEN PARLATO, LIONEL LOUEKE 『Lean In』 コアポート/Edition(2023)

BIGYUKI編曲の“Melodies Of Life”に招かれたグレッチェン・パーラトは今世紀のNYジャズ・シーンを代表するヴォーカリスト。西アフリカはベニン出身のギタリスト、リオーネル・ルエケとコラボした本作は、平熱で軽妙なグルーヴが心地良い。

 

十明 『変身のレシピ』 EMI/ユニバーサル(2024)

フルート奏者の片山士駿が手掛けたブライトフルな“あの丘を越えて”で、ホーリーな歌を響かせた自作自演家の初作。野田洋次郎が大半の楽曲に関わるなか、yumaは“蜘蛛の糸”をアレンジ。妖しくも艶やかなキャバレー・ジャズ調の旋律に惹き込まれる。

 

高井息吹 『金星の声』 高井息吹(2024)

石若、君島など〈Midnight Jazz〉参加の音楽家たちと親交の深いシンガー・ソングライターは、編曲を担った若井優也によるピアノと彼女の歌のみで“ハンターチャンス”を構築。ポスト・クラシカル的な美しさは、生演奏と電子音で厳かな世界を描いた本EPと重なる。

 

若井優也トリオ 『Will II』 Dede(2024)

ピアニストの若井はmimikoのスキャットが華麗に舞う“永遠の豊穣”もアレンジ。Answer to Rememberでも共に演奏する石若、ベーシストの楠井五月と組んだトリオ名義でのこの2作目は、スタンダードの“For Heaven's Sake”など緻密なプレイが光る。

 

北村蕗 『Spira1oop』 _utter_ur(2025)

マルチな俊才が昨年11月に発表し、賛辞を集めている初アルバム。〈Midnight Jazz〉で手掛けた“最後の闘い”と同様、ジャズやクラシックへの素養を落とし込んだレフトフィールドな電子音楽を組み上げている。ダンス・ミュージックとしてのフロア鳴りが抜群。 *田中亮太