イノベーションの輪の中で「NPO」「株式会社」の距離はなくなっていく―佐俣アンリ×駒崎弘樹【対談】

対談シリーズ第4弾となる今回は、独立系ベンチャーファンド「ANRI」の佐俣アンリさんが登場します。

これまで「The First Penguin」に何度もご登場いただいている佐俣さん。「誰と対談したいですか?」と聞いてみたところ、佐俣さんが最初に名前を挙げたのは、認定NPO法人フローレンス代表・駒崎弘樹さんでした。

実は佐俣さんと駒崎さんは、「出資者」「投資先」の関係でもあります。さて、佐俣さんが駒崎さんを「対談したい人!」と指名した理由とは?

(構成:福岡夏樹)

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佐俣アンリ(写真右)・・・1984年生まれ。ベンチャーキャピタリスト。28歳のときに独立系ベンチャーキャピタルファンド「ANRI」を立ち上げ、シード期の起業家を中心に投資を行う。主な投資先には「MERY」を運営するペロリのほか、ラクスル、ハコスコなどがある。

駒崎弘樹(写真左)・・・1979年生まれ。社会起業家。2004年に認定NPO法人「フローレンス」を設立。病児保育のほか、小規模保育、障害児保育などの事業を開始。2016年には、赤ちゃんの特別養子縁組を支援する「フローレンスの赤ちゃん縁組」をスタートさせた。

NPOとベンチャーはとても近しい存在である?

佐俣アンリ(以下、佐俣):今回「インターネット業界以外で“僕が話したいと思う人”として、駒崎さんを指名しました。インターネットな人たちと話すのはとても楽しい。でも、どこかでモヤモヤしたものが残ってしまうんです。何というか、思い出話に花を咲かせる同窓会になってしまうというか。

僕の中では、NPOもベンチャーも関係なく、世の中にある何かしらの仕組みを通じて課題解決していくのが面白いと思っています。中でも、駒崎さんが一番ファンキーだなぁと(笑)。

でも、日本のNPOには「手弁当で儲けるのはよくない」みたいな雰囲気があったりしますよね。僕、あの雰囲気があまり得意ではなくて…。

駒崎弘樹(以下、駒崎):アンリさん(=佐俣さん)のおっしゃるように、日本のNPOはすごくいいことをしているし、頑張っています。けれど、まだまだ世の中に十分にはインパクトを出せていないし、事業として続けるのが難しいという状況があるのも事実です。

僕は大学時代からITベンチャーを起業・経営していました。そこから今のフローレンスを立ち上げるのですが、そのとき参考にしたのがアメリカの事例だったんです。

当時の日本のNPOは「とにかく人のためになることをしよう、お金稼ぎは二の次」といった雰囲気でした。でも、アメリカではソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)が出てきて、ビジネスとソーシャルの業界を越境していました。ビジネスの技術を使いながら、寄付マーケティングをしていたんです。それを見て「いいじゃん、アメリカのやり方!」となり、さっそく活用して現在に至ります。なので、僕にとってベンチャーカルチャーも、社会起業カルチャーも、わりと近いと思っているんですよね。

佐俣:僕としては、NPOもベンチャーも、どちらも課題を解決しなくちゃいけなくて、それを一番早く解決できる人たちの元に、どこからかお金が降ってくるんだと考えているんです。

スタートアップのビジネスモデルという意味では、フローレンスはすごくいいなぁと。いずれ、上場できるんじゃないかと思っているんですよね。

駒崎:そもそも株式会社の起源は、ヨーロッパの人たちが「東南アジアには胡椒というスパイスがあるらしい」「これは売れるし、お金になる」「だが、東南アジアへ行くのはとても大変」なときに、必要な資金を募ったことにあると言われています。そこから発展し、今や数百年以上の歴史を築いています。

一方でNPO。こちらは「村の子どもたちが字を読み書きできたらいいよね」「だから学校をつくろう」「儲かるわけじゃないから、みんなでちょっとずつお金を寄付していこう」が起源です。「畑を寄付するから、それで毎年の収入にしてね」ということで、「基金」の原型ができたわけですね。

片方は胡椒を売って儲けようとしている。もう片方は、「字を読み書きできない」という課題を解決しようとしている。資本主義を繁栄させること、その基盤となる教育を発展させること、どちらも大事ですよね。

そのほか、今現在の業界の環境の違いを挙げると次のようになります。

【NPO】

・NPO法が成立したのが1998年。制度として新しい。
・「NPOを立ち上げよう!」と思う若者の母集団は、以前と比べて増えたが、まだまだ少ない
・後進を育てる仕組みが確立していない

【株式会社】

・日本での歴史としては140年くらい(日本最初の株式会社は渋沢栄一のつくった第一国立銀行)
・「起業したい!」と思う若者の母集団が多い
・先輩経営者もしくはVCからノウハウを学べる

駒崎:株式会社に比べて、NPOはまだ起業予備軍の母集団が少ないために、人材層はベンチャー界隈の方が厚いですね。さらにいうと、ノウハウがうまく伝承されず、後進が育つ仕組みが形成されていない状態でもある。この2つがクリティカルによくないところですね。

そこで、ノウハウを共有し、若い人たのNPOへの参入を増やすために「新公益連盟」というものを作ったんです。特にNPOは立ち上げ時、わけの分からない人に絡まれたり、たくさん人が辞めてしまったり…いろいろあります。NPOのノウハウを伝承し、後進がより効率的に育つ仕組みを作りたいと思っているんです。

NPOの利点、株式会社の利点

駒崎:NPOの場合、組織や団体そのものをスケールさせようとすると「失うもの」も出てきちゃうんです。

佐俣:そうなんですね。

駒崎:たとえば、フローレンスのように「保育園をやる」が事業内容のNPOの場合。これが上場すると、株主は「昨年に比べて、今年はどれくらい成長しているのか」で評価します。

昨年は10園開園、そして今年は12園開園であれば、20%成長していることになります。でも、これが12園でなく6園だったら…? 当然ながら、株主は納得しませんよね。株式として資金を集めた場合、本来の目的とは別に、株価を意識して動かなければならないことがあります。

これは今まさに、保育系株式会社で起きていることでもあります。保育士が足りなくて保育園を作れない。でも、株価を意識せざる得なくて、無理やり保育園を作っちゃう。結果、保育士が足りない中で保育園だけが増えていきます。保育士が過剰労働になり、どんどん現場が崩壊していくわけです。

佐俣:それはタイムリーな問題ですね。

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駒崎:大事なのは「何を達成したいのか」に立ち返ることです。もちろん、量やタイミング、あるいは上場といった手法が有効なときもあります。しかし、ものによっては不要かもしれない。それに、最近ではNPOに融資してくれるメガバンクも増えていますしね。

佐俣:とはいえ、NPOにも株の仕組みがあってもいいように思います。保育園に人材がほしいなら、株式会社としての価値を上げて、その問題を限りなくゼロにすればいい。もちろん、本質的なものを大事にしなくちゃいけないことは大前提ですが。

駒崎:そうですね。四半期とかではなく、「賢い株主たちが中長期的に見続けてくれれば」何の問題もないと思います。

ただ、フローレンスの「病児保育」では、ある種のアッパーミドルだけを対象にすれば事業として成長を見込める一方、一番困っている低所得のひとり親家庭に、寄付を原資に安価にサービス提供しているんですね。

で、株式会社形態だと、こういうことはできなくなっちゃうんですよね。まあ、それぞれの法人格で一長一短あるね、と。

佐俣:フローレンスは今、プロジェクトとして4〜5つくらい動いていますよね。こういったプロジェクトなら株式会社でやってもいいよね、みたいな考えが生まれる可能性はあるんですか?

駒崎:それはありますね。フローレンスでは障害児保育のほか、病児保育、小規模保育など、各事業部制になっているんです。たとえば、設備投資が必要で、融資では限界があって、エクイティが必要になってくる事業もあります。そういう事業部だけを株式会社化して、そのほかは非営利であるNPOのグループ下に置いていく、というやり方もできると思います。

20年後、NPOと株式会社の境目はなくなっている?

佐俣:NPOも株式会社も、どんどん距離が縮まっている感覚があります。なんていうか、世の中の課題がバサバサと並んでいて、それを解決したい若者が集って「これをやるなら株式会社がいい」「この方法なら、NPOが向いている」と振り分けられる世界になったほうがいいんじゃないかと思っているんです。

駒崎:それは絶対に必要ですね。僕は、ITベンチャーからNPO、そして半年間だけ内閣府の官僚をやるなど、いろんな立場で働いてきました。やはり、それぞれの経験は活かせましたし、場所ごとに異なる言語を用いるとイノベーションが起きる、みたいなことはすごくあると思うんです。

場所は違えど、みんな「課題解決したい思い」は同じです。でも、特にこれまでのNPOは村意識が強く、「違う村の人とは価値観が違うから話さない」状態でした。それが今、村を超えてクロスオーバーし始めています。

VCであるアンリさんの投資もそうですし、僕がNPOをやりながら政策提言をしていたりします。いろんなものが折り重なり合っている。すごく面白い時代になってきているなぁと思うんですよね。

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佐俣:僕は駒崎さんのところ(=フローレンス)にも寄付していますが…。寄付する=良いことをしている、とは全然思っていないんです。むしろ、仕事なんだと認識しています。

アメリカNo.1のVCであるAndreessen Horowitzは「収益の半額を寄付する」と宣言しています。そのファンドには彼を含めて5人の代表がいますが、全員が「寄付する」と言っているんですね。

これは一見「ノブレス・オブリージュ(=社会的上位に立つ人が、弱者に対して施しをする精神)」っぽく感じますが、僕は違うと思っています。おそらく、ファンドのパフォーマンスを上げるために「収益の半額を寄付する」と言っているんじゃないかなぁと考えているんです。

本当に大きな課題には、民間セクターと公共セクターの両側から解決へ駒を進める必要があります。VCが支援できるのは、民間セクターだけです。なので、寄付というカタチで公共セクターも支援しようと動き始めたということなんじゃないかなと解釈しています。

駒崎:その考え方は、社会的インパクト投資と呼ばれるものですね。収益を出しながら、社会的な課題を解決していこうとするスタイルです。今、各国ですごく増えてきています。

イギリスのとある刑務所のプログラムを例に挙げてみます。通常であれば、政府がNPOへ委託を行うときは「100万円を補助金で支払うから、刑務所で採用する再販防止プログラムを作ってほしい」となります。しかし、ここではさらに「もし再犯率低下という成果が出たら、もう100万円補助する」「でも、成果が出なかったら当初の100万円ポッキリだよ」としたんです。

そうすると、何が起こるのか。成果に応じて金額が変わるため、NPOメンバーたちは「よっしゃ、頑張るぞ!」となります。

佐俣:なるほど。

駒崎:イギリス政府にとって、NPOに依頼したプログラムが成功すれば再犯率が下がるし、その分、警察にかける予算も減らせます。政府として得するんです。そこで、追加としてもう100万円支払うことになっても、投資対効果は高いという考え方がありました。これって、イノベシーションですよね。官だけ、民だけじゃできないことを、官民でやる。そういった事例も出てきています。

佐俣:日本のNPOにも、そういうのはないんですか?

駒崎:それをね、今、仲間たちと政府に取り入れてもらおうとしていたりします(笑)。

佐俣:(笑)。

駒崎:今、持ち分が認められている出資型NPOというものを作ろうとしています。先述の新公益連盟がそうなんですよ。

そもそもNPOは1人1票持つスタイルです。民主主義的でいいんですが、ガバナンス上では問題がある。みんなが決定権を持つことで、意見が割れたときに誰も決定できないわけですから。なので、いわゆる株式的な持ち分を持っていて、それを「株を半分以上持っているから、僕が決めます!」とできる仕組みにしようとしているんです。

長らく「そういうのはダメだ」という認識があったんですが、内閣府や衆議院法制局と話して、「やっていいです」というQ&Aを出してもらいました。なので、今だと出資型(議決権コントロール型)NPOは作れるようになっています。

佐俣:すごい…(笑)。どんどん、NPOと株式会社は近づいていく気がしますね。

駒崎:20年後には、NPOも株式会社もあんまり関係なくなっていると思います。「起業」の言葉の中に社会起業もふつうに含まれているんじゃないかな。

「社会起業」の言葉で勘違いされがちなのは「良いことをしているんだと言いたくて起業している」イメージです。従来のNPOが寄付や補助金という財源に依存しがちで、手法も運動中心ですが、「ビジネスの技法を用いて、社会課題を解決する」のが本来の意味です。既存のビジネスと峻別するための言葉ではなかったんですね。

これからの時代、あらゆる「枠組み」が消える?

佐俣:僕は「こういうことをやりたいときのヴィークル(=手段)は何がいいのか」「自分たちはどのヴィークルを取るべきなのか」を、ずっと自問自答しているんです。そこで最近、ファンドロゴをすごく抽象的な輪っかに変えたんですよ。

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佐俣:ファンドロゴのデザインを考えていたとき、ひょっとすると今後、僕はベンチャーキャピタリストとして活動していないかもしれないと思ったんです。そういった括りにとらわれないで、イノベーションの輪っかみたいなものを起こせる組織さえ作れればいいんじゃないかと。だから、金融機関であるファンドのロゴっぽいものじゃなくて、どんどん抽象的にしていこうと、このデザインにしました。

駒崎:いいですね。そのレイヤーになると、手法はどうであれ「イノベーションを起こすんだ」となるので、より本質的な気がしますね。正しい手法であれば、ようは「白猫であれ黒猫であれ、鼠を捕るのが良い猫である」(鄧小平)の言葉通りになります。共産主義だろうが資本主義だろうが、人々を豊かにするのであれば、どんなアプローチでもいいんじゃないかなと。

僕自身、もともとはイノベーションの人間だし、課題解決のプロだと思っています。NPO、株式会社にあまりこだわりもないですし、その時々の課題に「これじゃないと解決できないもの」があったら、それをやるだけなんです。

ひょっとするとアンリさんは、自分たちがVCだというのではなく「イノベーションを助ける人間なんだ」と定義すればいいのかもしれませんね。

佐俣:結局、イノベーションは課題解決のためにあります。特効薬なわけです。だから、自分たちはイノベーションの触媒であり、イノベーションがどこにあるのかを探さないといけない。リンキングしていないといけないんですよね。

駒崎:アンリさんが先ほどの「寄付=良いことをしている」「ノブレス・オブリージュ」の何に引っかかっているかというと、きっと「余裕がなくなったらやめる」となるからなんでしょうね。それだと腰を据えてないじゃん!というような。

佐俣:そうなんですよ。余裕の分配じゃないんです、仕事なんですよ。

駒崎:子育てでも同じことが言えます。仕事で余裕が出たら子育てに参加しよう…じゃダメなんですよ。僕は、子育ては仕事だし、会社でやる仕事も仕事、仲間と地域で何かするのも仕事だと思っています。

「働く」はたくさんあったほうが豊かじゃないですか。いつから働く=賃金労働だけを指すようになったのだと。もともとは「傍を楽にさせる」を意味していたはずなんです。近代以降、いつの間にか会社に行って賃金をもらうことに矮小化されたんですよね。「働く」はもっと多義的で、もっと豊かなもののはずです。僕らは「働く」を取り戻すべきなんですよ。

これからの時代に関して言うと、先日、リンダ・グラットンの新書『ライフ・シフト―100年時代の人生戦略』を一足先に読みました。そこに、けっこうすごいことが書かれていたんです。

アンリさん、今後、僕ら世代で100歳まで生きる人はどれくらいになると思います?

佐俣:20%くらい?

駒崎:国連統計でいうと、約半分が100歳まで生きると出ているんです。特に日本だと、現実となる可能性が高い。

佐俣:やばい!

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駒崎:僕らは面白い時代を味わえるんだけど、大多数の人にとっては相当なチャレンジになると思いますね。特にこれまではいわゆる「仕事人間」だった人は長くなった余生の過ごし方がわからず、孤立化する可能性もある。中には、安楽死法みたいなものを作ろうかみたいな話も話題に挙がるでしょう。実際にオランダとかでは安楽死は認められていますから、医療費ということを考えたら法律化も十分にあり得る。でも、せっかくだったらこの超長寿社会を輝ける社会にしたいですよね。

佐俣:駒崎さんはあと60年、70年生きられるとして。何を達成できたら「俺、やったな!」と思うんですか?

駒崎:なんでしょうね。それは常に自問自答し続けています。今の段階では、墓標に「日本の親子のために全力を尽くした男です」と書かれたい。でも、それも数年したら変わる気がしています。

先ほどアンリさんが「自分はどうあるべきか」「何をすべきか」で悩んでいると言っていたように、僕も悩んでいます。

佐俣:僕は基本的にハッピー野郎なので、何をしていても楽しいんです。でも、この先何をやれば一番楽しいのか…は考えます。そもそも、そうやって考えながら実行しているのが楽しいんですよね。

駒崎:それで言うと、僕は自分が納得するものに命をかけたいですね。僕にとっては、虐待死する子どもをゼロにすることだし、「待機児童」を死語にすることだし、障害児でも当たり前の保育を受けられることだし。そういった課題解決を、これからもやりたいですね。

佐俣:超納得しました。ありがとうございました。

駒崎:ありがとうございました。

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