「チームみらいは誰の声を聞いているのか——オードリー・タンとの分岐点」という記事の誤情報について
こんな記事を読んで「参考になる」などと言っている人を見かけました。この記事の社会科学的な側面はよく調べていて面白いものだと思います。しかし、技術的な理解で大きな間違いが含まれているので公益のために指摘しておこうと思います。
この記事は「Talk to the Ciry」を「チームみらい」と結びつけ「Polis」「Audrey Tang」と対置してます。しかし、Talk to the Cityは安野さんより前に台湾でAudreyらによって使われているので根本的に構図が間違っています。
台湾でのTalk to the Cityの使用
こちらが台湾デジタル省の公式Webサイトに載ってるTalk to the Cityの散布図です。
またこのTIME誌の記者とAudrey Tangの会話(2023/8)では実際にTalk to the Cityを見せながら「意見の分布が星座みたい」という趣旨のことを話しています。
そしてこちらに2023-12-02にPlurality SeoulでAudrey Tangが話した講演の日本語字幕付き動画があります。画面上で実際にTalk to the Cityで意見の散布図を示しているのが見れます。
この時の元データはPolisです。つまりAudreyらは台湾でPolisとTalk to the Cityの両方を使ってるのです。ここから、2つのツールを対置するのは根本的におかしいことがわかります。
その後2024年5月に安野さんはこのAudreyの活動由来でTalk to the Cityを知り、7月の都知事選で使おうと考えたわけです。7~8年Polisを使ってきた台湾と違って、日本ではPolisはまだまだ知られていません。そこで短期決戦的にX.comの投稿やGoogle Formでの意見募集が使われました。
私個人としては日本でPolisがもっと普及するといいなと思っています。Polisの良い紹介動画があるので貼っておきます。
PolisとAI
次に元記事の「ここで決定的に重要なのは、Pol.isがAIによる文章読解を一切使わないということだ」という記述に関して。
2015年に台湾がPolisを使ったとき、まだAIによる文章読解が便利に使える時代ではありませんでした。2022年にChatGPTが出て、AIが高い文章理解力を持っていることが広く知られるようになったのです。
そして、2023年にPolisの作者のColinはAIによる文章読解を計画します。
英語なので何が書いてあるのか簡単に解説すると
テキスト処理に関連する技術革新の刺激的な1年を経て、「ポリスの次はどうする?」という問いに答えてみよう。次の機械学習拡張熟議システムの完成版には以下の側面が含まれる:
1. レポート作成コストを10,000倍から1,000,000倍に削減する
高品質なPolis会話プロセスは、運営コストが約10万ドル程度かかる。…コストは技術的な人員と時間です。技術人員は、会話の利用者向けにレポートにまとめるのに多くの時間を費やす必要があります。
最終的には10セントから10ドル程度の費用になるだろう(LLMも解決策の一部になるだろう、3年後には安価になるはずだ)
ここの「LLM」とは大規模言語モデル(Large Language Model)のことで、ChatGPTなどの「AIによる文章読解」を実現している技術です。
2024年11月にはAIによる文章理解を持ちいたレポート生成が動き始めます。
振り返ってみると、2023年の8月にTalk to the Cityが台湾で使われ、2024年の7月に安野たかひろ氏が都知事選でTalk to the Cityを使い、10月の衆議院戦ではJAPAN CHOICEがPolisを部品として使って「世論地図」をリリース、11月にはPolisの開発チームでAIレポート生成が作られた、と1〜2年の間にいろいろなことが急速に発展した時期でした。
唐突に世論地図の話が出てきたな?と思う方もいるでしょうから解説すると、この世論地図はPolisの「意見グループ」をTalk to the CityみたいにAIを使って説明する機能を持っていて、この機能は私が作りました。やたら詳しいのはそういうことです。
まとめ
さて、というわけで「オードリー・タンはチームみらいと違ってAIを使わない」は誤情報ですし、「PolisはTalk to the Cityと違ってAIを使わない」も誤情報なわけです。台湾もPolis開発チームも、AIを活用して民主主義を改良しようとしています。この技術的トレンドは2022年のChatGPTのリリースによって加速したものであり、2015年時点の情報で議論するのは周回遅れです。
もちろん、AIを使わない方法での民主主義の改良も並行して議論されています。Audrey TangとGlen Weylの書いた書籍「Plurality: The future of
collaborative technology and democracy」では、たとえばQuadratic Votingなどの技術が紹介されています。これは、特に集団的意思決定の手段としての投票は、検証可能性の高さが求められるからです。この辺りの議論に興味があればPlurality本を読んでみるのも良いでしょう、日本語版も昨年のジュンク堂池袋本店政治部門年間ランキング1位になっていましたし。
最後に、AudreyがTalk to the Cityを称賛しているメッセージがTalk to the Cityの公式サイトのトップページに載っているのでそれを紹介して終わりにしたいと思います。
2014年当時、ミニバブリックにインタビューし、その意見をニュアンスを損なわずに集約することは不可能だった。しかし今や、Talk to the Cityの支援により、そのコストは実質ゼロにまで削減された。これはブロードリスニングであり、そして再帰的な公共の本質を変えうる。 --- オードリー・タン


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