(社説)自民単独で3分の2 巨大与党への監視が不可欠
衆院選で自民党が単独で3分の2を超える316議席を獲得した。政党の獲得議席としては、2009年の民主党(当時)の308を上回る戦後最多であり、歴史的な圧勝といえる。
連立を組む日本維新の会と合わせると352議席と、衆院の4分の3に及ぶ。野党は第1党の中道改革連合でも49議席にとどまる。前代未聞の巨大与党の誕生である。
■丸ごと是認ではない
高市首相は狙い通り、権力基盤を固めることに成功したが、今後はこの絶大な力の使い方が問われる。
衆院で3分の2の議席があれば、参院で法案が否決されても、衆院で再可決し、成立させることができる。だからといってスピードを重視し、合意形成を軽んじるようなことはあってはならない。少数意見にも耳を傾けた、丁寧な政権運営が求められる。
自民の圧勝が、首相の個人的な人気に負うことは間違いない。女性初の首相としての「新しさ」。「強い経済」の訴えなど、はっきりした物言い。経済の停滞からくる閉塞(へいそく)感を打破してくれるかもしれないという期待が、SNSなどを通じて幅広い年齢層に広がり、「高市旋風」につながったのではないか。
首相は「重要な政策転換」として、責任ある積極財政、安保政策の抜本的強化、インテリジェンス(情報収集・分析)能力の強化の三つを挙げてきた。きのうの党総裁としての記者会見では、これらに「国民からご理解、ご信任をいただけた」とし、実現に全力をあげる考えを強調した。
しかし、首相への支持が直ちに、首相がめざす政策全般に対する是認とは言えまい。ましてや、防衛費の増額やスパイ防止法など、「国論を二分するような政策」の中身について、首相は具体的に語っていないのだから、丸ごとお墨付きを得たかのようにいうのは無理がある。
憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を衆院で確保したことに力を得てか、首相は会見で「改正案を発議し、少しでも早く国民投票が行われる環境をつくりたい」と意欲を示した。改憲を党是とする自民は、憲法9条への自衛隊の明記など4項目の実現を掲げる。しかし、国の根幹である憲法の改正には、野党も含めた幅広い合意が不可欠だ。巨大与党が「数の力」で押し切ることは許されない。
■野党の責任は重い
政権を厳しくチェックし、与党の行き過ぎにブレーキをかけるのは、野党の重要な責務である。
その意味で、右派色の強い高市政権への対抗軸をめざした中道が、公示前勢力の3分の1以下に議席を減らす惨敗を喫したことは深刻だ。野党第1党が50議席を割ったのは戦後初めてで、立憲民主党出身の岡田克也、枝野幸男両氏ら、ベテランの論客が多数、落選した。チェック機能の低下が危惧される。
野田佳彦、斉藤鉄夫両共同代表がきのう、正式に辞任を表明し、18日に召集予定の特別国会までに新代表を選出するというが、前途は容易ではない。比例名簿の上位を独占した公明党出身者28人全員が当選する一方、立憲出身者の多くは比例区での復活当選の道を阻まれ、当選者は公明より少ない21人となった。党内の不協和音につながっても無理はない。
党の分裂を避け、野党第1党の役割を果たせるか。ベテランや重鎮が軒並み議席を失った以上、泉健太前代表や小川淳也前幹事長ら、勝ち残った立憲系議員と公明系の中堅・若手議員らで、新しい党の姿と有権者に響く政策を打ち出せるかにかかっている。
■有権者の果たす役割
中道以外の野党各党の姿勢も問われる。「政局より政策」を旗印に、高市政権の新年度予算案編成にも協力した国民民主党は、与党との距離をどうとるのか。テクノロジーによる政治と行政の改革を掲げ、初めて臨んだ衆院選で11議席を得たチームみらいの責任も重くなった。
自民内で穏健保守派と目される議員らにも役割はある。強引な政権運営がみられたら、与党内からチェック役を果たしてもらいたい。
自民は多様な国民を包摂する「国民政党」を標榜(ひょうぼう)してきたはずだ。国論の二分をいとわず、社会の分断を広げるようなら、看板に反すると言わざるを得ない。
与党がなお過半数を得ていない、第二院たる参院の果たすべき役割も大きい。
そして、もうひとつ大事な政権の監視役は、私たち有権者である。
民主主義は投票して終わりではない。ある政党や政治家に1票を投じたからと言って、公約のすべてに同意したわけではないだろう。特に今回は超短期決戦となり、政策や人柄を十分吟味できなかった人もいるだろう。
選挙での投票は、決して「白紙委任」ではない。当選した政治家や政党が取り組む政策に問題はないか。合意形成の努力を尽くしているか。負託した権力の行方に常に目をこらす必要がある。