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5年に1度の現代アートの祭典『ドクメンタ15』が開催! 初の非西洋圏キュレーターが問う、新時代のアートのあり方とは。
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5年に1度の現代アートの祭典『ドクメンタ15』が開催! 初の非西洋圏キュレーターが問う、新時代のアートのあり方とは。

| Art, Design | casabrutus.com | photo_Rie Yamada   text_Yumiko Urae

5年に1度、ドイツ・カッセルで行われる世界でも有数の現代アート展『ドクメンタ』。15回目を迎えた今年は、初めて西洋圏以外からキュレーターが選ばれたことでも話題を集めています。欧米現代美術からの視点とは異なる、グローバルな試みが行われている当展覧会を現地レポート。注目の8つの展示を紹介します。

歴史からの教訓が背景にある現代アート・フェス

『ドクメンタ15』は2022年9月25日まで開催中。メイン会場の〈フリデリシアヌム美術館〉前に植えられた2本の樫の木は、1970年代にヨーゼフ・ボイスによる《7000本の樫の木》プロジェクトで植えられたもの。
『ドクメンタ15』は2022年9月25日まで開催中。メイン会場の〈フリデリシアヌム美術館〉前に植えられた2本の樫の木は、1970年代にヨーゼフ・ボイスによる《7000本の樫の木》プロジェクトで植えられたもの。
現代アート界における最大規模の展覧会の1つ『ドクメンタ』は、第二次世界大戦後の1955年、敗戦後に東西に分断されていた西ドイツのカッセルで始まった。ナチスによって”退廃芸術”とレッテルを貼られた当時の前衛アートの復活と、ドイツの文化的な国家としての復活のために始まったこの芸術祭は、当初は4年、後に5年ごとに開催されている。

1972年にはヨーゼフ・ボイスが街に戦前の緑を戻すため、「7000本の樫の木」を植えるというプロジェクトが大きな話題となった。ベルリンの壁建設前の1959年に『ドクメンタ2』を訪れたゲルハルト・リヒターは、西側の自由な現代アートに衝撃を受け、後の1961年に旧東ドイツから亡命。参加を続け、東西統一を遂げた後の1997年の第10回展では大作《Atlas》を発表している。
『ドクメンタ15』はカッセルの街全体が会場。32箇所にも及ぶ場所で、多様な展示やパフォーマンスが繰り広げられる。写真は、インフォメーションセンターの〈ruruHaus〉。
『ドクメンタ15』はカッセルの街全体が会場。32箇所にも及ぶ場所で、多様な展示やパフォーマンスが繰り広げられる。写真は、インフォメーションセンターの〈ruruHaus〉。
また『ドクメンタ』は、ポリティカルで社会的な側面を持つことでも知られている。それは15回目を迎えた今回も例外ではない。西洋圏以外から初めてキュレーターに選ばれたインドネシアのコレクティブ〈ルアンルパ〉。彼らによりパレスチナ人アーティストの作品が招かれたことで、開催前から反イスラエル、反ユダヤ人の傾向が指摘されていた。そして会期が始まると、メイン広場〈フリードリッヒス・プラッツ〉に、インドネシア人コレクティヴ〈タリン・パディ〉による、ユダヤ人風刺の描かれたバナー作品が掲げられる事態が発生。ホロコーストの歴史を持つドイツにおいて、ユダヤ人への人種差別は最も問題視されている。作品はすぐさま撤去され、主催者は深い反省の意を込めて謝罪。その後ディレクターのザビーネ・ショアマンが責任を取り、辞任するにまでに至っている。

分かち合う“ルンブン”という哲学

ルアンルパのメンバーたち。ヴェトナムからの移民によって結成された〈Nha San Collective〉によるインスタレーション作品の前で。photo_Nicolas Wefers
ルアンルパのメンバーたち。ヴェトナムからの移民によって結成された〈Nha San Collective〉によるインスタレーション作品の前で。photo_Nicolas Wefers
インドネシアのコレクティブであるルアンルパがキュレーターに選ばれたことは、昨今の世界の変化に関係しているようだ。気候変動や貧富の差、ジェンダーや人種差別、そして資本主義の世界で高騰するアート市場といったグローバルな問題は、もはやこれまでの価値観では解決することが難しくなってきている。ルアンルパがキュレーターに選ばれたのも、『ドクメンタ』に新たな視点を取り入れようという試みの表れと言えるだろう。また、コレクティブ(グループ)という活動形態は世界的にも増加の傾向にあり、そうした変化も今回彼らが抜擢された理由の一つと考えられる。

それに応えるように『ドクメンタ15』では、西洋の白人男性中心的な現代アートの世界とは一線を画し、貧困層の多い「グローバル・サウス」(富が集中する北半球に対して資本主義の負の影響を受けている地域を指す名称)から総勢1,500名のアーティストが招かれた。ドイツを含む先進国では、ほぼ無名なアーティストやアクティヴィスト、団体が多くを占める。

ルアンルパは、ネットワークによって豊かな社会を築く“ルンブン”、インドネシア語で“米倉”を意味する言葉をテーマに、誰もが集まれるコミュニティ、知識や教育などの“収穫”を分け合う場をカッセルに作り上げた。展示だけではなく、来場者が参加できるワークショップ、ディスカッション、コンサート、パフォーマンス、フィルム上映など、32箇所に及ぶ会場では様々な試みが行われている。“ノー・アート、メイク・フレンズ”という大胆なメッセージを掲げ、人々が有機的に繋がることを目指しているのだ。

そんな新たな時代のアートのあり方を実践する『ドクメンタ15』の現場から、最注目の8つのグループの展示を紹介。

〈Off-Biennale Budapest〉多様な人々を繋ぐ“架け橋”となる、新しい社交場を提案。

〈OFF-Biennale Budapest〉は地元の小学生たちと協働してプロジェクトを制作。
〈OFF-Biennale Budapest〉は地元の小学生たちと協働してプロジェクトを制作。
ハンガリーの俳優とアーティストによって2014年にスタートし、草の根的な活動を展開する団体〈Off-Biennale Budapest〉は、街を流れるフルダ川沿いの貸しボート施設〈Bootsvereih Ahoi〉に、地元の小学生たちと協働し、廃材を用いた橋を制作。遊び場も兼ねたこの橋ではクライミングができ、DJが音楽をプレイする屋外バーも併設。地元の人々から観光客、そして難民まで、多様な人々が分け隔てなく集う新しい社交の場を作り出した。

〈シネマ・キャラバン+栗林隆〉サウナと映像作品で繋がる蚊帳の内と外。

サウナ作品《元気炉》には、次々と人が入っていく。
サウナ作品《元気炉》には、次々と人が入っていく。
映像作品の上映時には飲み物を出すバーも登場する。
映像作品の上映時には飲み物を出すバーも登場する。
サウナ作品《元気炉》には、次々と人が入っていく。
映像作品の上映時には飲み物を出すバーも登場する。
逗子を拠点に活動するコレクティブ〈シネマ・キャラバン〉と、ジャカルタ在住の現代美術家・栗林隆は、夜の薄暗い頃からサウナに火を起こし、世界中を旅して集めた映像を上映する作品《元気炉》を展示する。この作品は、蚊帳の外の人(中で何が起こっているかわからない人)に、文字通り蚊帳の中に入ってもらい、サウナで心と体を整えることで元気を与えるという参加型のもの。東日本大震災における原発事故を受け、原子力に頼らず、昔ながらの自然の蒸し風呂を復活させるという試みでもある。100日間の開催期間中は市内を転々としながら、人々との交流を深めていく。

〈Más Arte Más Acciòn(MAMA), Atelier Van Lieshout〉環境活動を、ユーモアを持ってアピール。

廃棄物にウッドチップをかけ肥料を作るコンポストトイレ(バイオトイレ)の作品。
廃棄物にウッドチップをかけ肥料を作るコンポストトイレ(バイオトイレ)の作品。
そのほか、コロンビア式のキャラバンのテントも木造で表現。
そのほか、コロンビア式のキャラバンのテントも木造で表現。
廃棄物にウッドチップをかけ肥料を作るコンポストトイレ(バイオトイレ)の作品。
そのほか、コロンビア式のキャラバンのテントも木造で表現。
コロンビアのコレクティヴ〈Más Arte Más Acciòn(MAMA)〉は、地球温暖化による熱帯雨林破壊からマングローブを守る活動を10年にわたり続けている。『ドクメンタ15』では、オランダの〈Atelier Van Lieshout〉とのコラボにより、環境問題を意識した木造の拠点をカッセルに出現させた。見た目もユニークで眺めのいいコンポスト・トイレ(バイオトイレ)は、エコシステムを身近に体感でき、子供からお年寄りにまで大人気だ。

〈タリン・パディ〉平等な社会を目指すクリエイティブ集団の描くユートピア。

社会風刺やユートピアの描かれた作品が並ぶ。
社会風刺やユートピアの描かれた作品が並ぶ。
農民や漁師などの労働者と自然との共存をアピール。
農民や漁師などの労働者と自然との共存をアピール。
右手奥の作品が、ユダヤ人への差別だと問題となったバナー。
右手奥の作品が、ユダヤ人への差別だと問題となったバナー。
社会風刺やユートピアの描かれた作品が並ぶ。
農民や漁師などの労働者と自然との共存をアピール。
右手奥の作品が、ユダヤ人への差別だと問題となったバナー。
バナー作品で物議を醸したインドネシアのコレクティヴ〈タリン・パディ〉は、3世代20年以上にわたって、農民や労働者などの市民に寄り添う作品や企画を展開してきた。旧公営屋内プールを改装した会場〈Hallenbad Ost〉では、人間と自然の共存や資本主義に対する風刺などをテーマにしたパペット作品や絵画を展示。なかには3メートル以上もの大作も。メンバーの1人Ladisa Trianaは「アートは誰もが参加できる」と、市民にも段ボールに描いたパペット作りを呼びかけている。

〈The Nest Collective〉グローバルサウスの抱えるゴミ問題を問うインスタレーション作品。

遠くからでも一際目を引く外観のパビリオン。
遠くからでも一際目を引く外観のパビリオン。
パビリオンの外壁に使用したのは、先進国から“寄付された”古着やマットレス。
パビリオンの外壁に使用したのは、先進国から“寄付された”古着やマットレス。
パビリオン内では、ケニアでの深刻なごみ処理問題の現状を語る映像が放映される。
パビリオン内では、ケニアでの深刻なごみ処理問題の現状を語る映像が放映される。
遠くからでも一際目を引く外観のパビリオン。
パビリオンの外壁に使用したのは、先進国から“寄付された”古着やマットレス。
パビリオン内では、ケニアでの深刻なごみ処理問題の現状を語る映像が放映される。
アフリカに暮らす人々は服を買う余裕の無い人々が多いため、着ない衣服は寄付するべきというのが、ヨーロッパや先進国の“善意”ある人たちの意識。ナイロビの〈The Nest Collective〉による作品《Return to Sender》は、実はその半分は再び着られる状況ではなく破棄されているという現実を語る。“寄付”された衣類やテキスタイルを建材に使ったパビリオン。その中では、ケニアにおけるごみ処理問題を提起する映像作品を上映。スマートなスーツに身を包んだ男性のインタビュー映像から、鑑賞者は不都合な真実を知ることになる。

〈Fehras Publishing Practices〉現代のアラビア語圏における開かれたジェンダー意識。

〈Fehras Publishing Practices〉現代のアラビア語圏における開かれたジェンダー意識。
〈Fehras Publishing Practices〉現代のアラビア語圏における開かれたジェンダー意識。
〈Fehras Publishing Practices〉現代のアラビア語圏における開かれたジェンダー意識。
〈Fehras Publishing Practices〉現代のアラビア語圏における開かれたジェンダー意識。
〈Fehras Publishing Practices〉はベルリンを拠点に、北アフリカや地中海沿いのアラブ語圏の有志をネットワークに持つコレクティブ。《Borrowed Faces, focusing on the feminist women behind the Afro-Asian Solidarity Movement》は、実写マンガのスタイルを用いて、冷戦時代におけるアラブ諸国の政治的な取引や役割をテーマにしたストーリーが展開される作品。しかし登場するのは、これまで女性らしいとされてきた服装やメイクをした男性たち。現代のアラブ諸国における開かれたジェンダー意識を表現し、同地域に対するステレオタイプを鮮やかに覆す作品だ。

〈Britto Arts Trust〉食の安全性と環境破壊に警鐘を鳴らす、現代を映したスーパーマーケット。

器用に刺繍されたキャンベル・スープや缶コーラが並ぶ。
器用に刺繍されたキャンベル・スープや缶コーラが並ぶ。
映画の小道具を作る仕事もしているメンバーによるリアルなジャガイモたち。
映画の小道具を作る仕事もしているメンバーによるリアルなジャガイモたち。
器用に刺繍されたキャンベル・スープや缶コーラが並ぶ。
映画の小道具を作る仕事もしているメンバーによるリアルなジャガイモたち。
バングラデッシュのコレクティブ〈Britto Arts Trust〉による展示は、現代の食がテーマ。彼らが作り出したフェイク・フードのスーパーマーケットには、ギプスで型を取ったジャガイモやコカコーラ、刺繍されたスープ缶など、ドキッとする“食材”が並ぶ。グローバリゼーションによる食のインダストリー化、そして温暖化による環境破壊により、我々の自然と食の安全が脅かされている現状を浮き彫りにする作品だ。

〈Fondation Festival sur le Niger〉個々を尊重する“Maaya”の哲学が息づく、マリのクリエイターの集まり。

《Wall of puppets》(2022)。前に立つのは作品を手がけたYaya Coulibaly。
《Wall of puppets》(2022)。前に立つのは作品を手がけたYaya Coulibaly。
サハラ砂漠の木を使って制作された、ガゼル(アフリカに生息する動物)の人形。
サハラ砂漠の木を使って制作された、ガゼル(アフリカに生息する動物)の人形。
ADN Collectif《Losso Marie-Ange Dakouo》(2021)。段ボール、新聞を綿糸で繋いだインスタレーション作品。
ADN Collectif《Losso Marie-Ange Dakouo》(2021)。段ボール、新聞を綿糸で繋いだインスタレーション作品。
《Tribute to the Mandé Hunters, Abdoulaye Konaté》(1996)。貝殻や石を集めて制作された、マンデ族の狩人を賛美する壁一面のインスタレーション作品。写真はその一部。
《Tribute to the Mandé Hunters, Abdoulaye Konaté》(1996)。貝殻や石を集めて制作された、マンデ族の狩人を賛美する壁一面のインスタレーション作品。写真はその一部。
《Wall of puppets》(2022)。前に立つのは作品を手がけたYaya Coulibaly。
サハラ砂漠の木を使って制作された、ガゼル(アフリカに生息する動物)の人形。
ADN Collectif《Losso Marie-Ange Dakouo》(2021)。段ボール、新聞を綿糸で繋いだインスタレーション作品。
《Tribute to the Mandé Hunters, Abdoulaye Konaté》(1996)。貝殻や石を集めて制作された、マンデ族の狩人を賛美する壁一面のインスタレーション作品。写真はその一部。
マリの〈Fondation Festival sur le Niger〉は、2009年から音楽とコンテンポラリーアートのフェスを行なっているアーティスト集団。その活動の根底には、寛容で親切、個の限界を知りながら個人が尊重され、ユーモアを持ってコミュニティと繋がる、マリやその周辺のアフリカ諸国に息づく現代社会のあり方=“Maaya”の哲学がある。また、コンテンポラリーなアプローチを行いながら伝統工芸も守っていくという姿勢も特徴だ。期間中は多くの展示やコンサート、パフォーマンスを行い、現代のマリにおける芸術の多様さをアピールする。メンバーの一人、7世代も続く人形作家一家出身のYaya Coulibalyが50年かけて作り上げた、愛おしいパペットたちは必見。

『ドクメンタ15』

〜2022年9月25日。27ユーロ(1日共通券)、45ユーロ(2日共通券)。会期中はカッセル市内の各地で展示、ワークショップ、パーティ、コンサートやトークなど、多彩なイベントが行われる。チケットはインフォメーションセンターの〈ruruHaus〉にて。

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