まずは自分たちが大切にしたい人にとって、 いい会社でありたい
創業者が自宅の本を、Amazonで売ったことから始まった
──古本の買取・販売を通じて、社会課題の解決に取り組む企業として認識されることが多いバリューブックス。しかし、中村さんたちは、社会課題解決のために立ち上がった会社ではなく、紆余曲折を経て、結果として社会課題の解決につながる事業が生まれたと考えています。
バリューブックスは、そもそも最初から明確なビジョンがあったわけではありません。創業者の中村大樹が就職せずに何か自分にできることがないかと悩んでいた時に、たまたま自分が持っていた専門書をAmazonで売ったら思わぬ高値がついたことから、古本のせどり(古書店で仕入れた本を販売し、その差額を利益にすること)を始めたのがきっかけです。
いまでこそ、いろいろな方に会社を評価してもらうのですが、自分たちとしては、ちょっと違和感があるというか。そんな立派な会社ではなく、まだまだ不完全で発展途上の会社だと思っているのが正直なところではあります。
── 一見、社会課題に通じる、さまざまなプロジェクトが立ち上がっているように見えます。それも意図しているわけではないのですね。
たとえばいちばん最初のプロジェクト、学校や保育園、病院などに本を寄贈する「ブックギフトプロジェクト」。私の入社前のことですが、創業2年目くらいではじめて「やりがいを感じられない」を理由に退職する方がいたことがきっかけでした。
創業者の中村は、これがすごくショックで、そのスタッフはどうしたらバリューブックスで働いていることに喜びを感じることができたのかを考えていました。
加えて以前から、買い取れなかった本や、販売できずに在庫処分せざるを得ない本が廃棄(古紙リサイクル)となることをもったいなく感じていました。じゃあ、その本の中から喜んでもらえそうな本を選んで、スタッフが子どもを預けている保育園や学校、おじいちゃんやおばあちゃんがいる高齢者施設などに寄贈できるようにしたらどうか。自分の大切な人や身近な人に感謝されることで、やりがいにつながるのかもしれないし、廃棄している本も有効活用でき、送ってくれたお客さまも喜んでくれるのではないか。そう考えてブックギフトプロジェクトは始まったのです。
うちは小規模の企業なので、ビジネスにつながらない取り組みは続けられません。でもこの取り組みは、マーケティングとしても有効です。本を売ってくださる方にとっても、買い取れなかった本も有効活用してくれるなら、他の買取の会社ではなくバリューブックスを選ぶ理由にもなるのです。
──“社員のやりがい”と“地域貢献”と“マーケティング効果”。目の前の課題を起点にしながら点と点をつないでいったら、現在の形になったのですね。
そうです。もちろん、その起点にあるのが本であり、本を有効活用することにより、循環型社会の一助になっているということは言えます。
2023年現在で、バリューブックスに届く本は、1日に約3万冊。しかし、そのうち半分の1万5千冊には価格をつけることができず、古紙リサイクルに回さざるを得ないという現実があります。事業が成長するにつれ、たくさんの本が集まるようになると、この目の前の問題がだんだん私たちの中で大きくなってきたのです。
そこで、私たちとしてもこの資源をなんとか有効活用できないかと考え、先ほどの「ブックギフト」に始まり、格安で販売する実店舗「バリューブックス ラボ」、廃棄する本をノートに再生した「本だったノート」などのさまざまなプロジェクトを立ち上げるにいたっています。
“本を有効活用すること”をマーケティングに活かすことで、ビジネスとしても成立させる。この両立を模索しながら、目の前に現れる課題に対して、一つひとつ解決に取り組み続けています。それが事業の展開であり、会社としての成長にもなっているのだと思います。
明確なビジョンがあったわけでなく、目の前に現れたチャンスに挑んできた人生
──現在は副社長として人事に関わる中村さんですが、どのようなキャリアを歩み、どうやってバリューブックスに出会ったのでしょうか?
私自身も地元長野の出身で、小学校高学年からずっとサッカーをやっているのと、スノーボードが好きで。いまでもバックカントリースノーボードといって、スキー場として整備されていない山に登って滑っています。
勉強に関しては好きとか嫌いとかよりも、そもそも将来のことをほとんど考えていなくて。両親も厳しくなかったので、高校までサッカーに明け暮れていました。進路をどうするかという時も、周りのみんなが行くからという理由と、ぼんやりとした憧れだけで東京に出て。何でもあるビジネス系の専門学校に入試もなく、ただ願書を出して入学し、半年後にはもう就職活動が始まりました。
最初に就職したのがカーディーラー。いま思うと本当に狭い視野の中で決めたことなんですが、友達のお父さんが良い車に乗っていて、その人がディーラーで働いていたんです。それで「なんか良さそうだな」って思って(笑)。仕事は大変でしたが、楽しかったです。いちばん良いなと思ったのは、成果主義だったこと。学歴もないし勉強もできないけど、売れば売るだけ成果になる。大卒とか先輩後輩とかも関係なくて。それはすごくやりがいがありました。
5年半ほど働いたあと、やっぱりスノーボードに関係する仕事がしたいと考え、とりあえずスノーボード漬けになってみようと、働きもせず海外も含めていろんなところで滑りまくりました。でも1年ちょっとでお金がなくなって(笑)。その程度の経験ではスノーボード業界で働く人脈もつくれず、過去の営業経験をいかして電子部品を扱う小さな専門商社に法人営業として入社しました。その時に、創業者の中村大樹に会うんです。
──どのような出会いだったのでしょうか?
中村も昔からサッカーをやっていて、高校時代の仲間と社会人チームをつくっていたんです。そこに入ったのが、出会ったきっかけです。とはいえ入ってすぐは特別仲が良かったわけでもなく、たまに話す程度でした。
私はアウトドアが好きなので、あるとき試合後にひとりで山岳テントを立てて遊んでいたんです。そうしたら「そういうの好きなんだ」って話しかけてきて。「うちの会社でアウトドア事業やってみたいんだけど、一緒にやらない?」と誘われたんです。あとから聞いた話だと、社内では「面白いやつがいるから口説きたいんだ」と言ってくれていたみたいですけど(笑)。
当時の仕事は順調だったので悩みましたが、一度きりの人生なのでチャレンジしてみたいと思って飛び込みました。結局アウトドアの事業は半年くらいでやめて、少ないリソースをちゃんと本業である本の事業に集中しようということで、僕も本の方に関わり始めたという流れですね。だから別に、本がすごく好きだったわけでもないんです。
どうすればみんなが成長できるか。それを考えてきただけ
──中村さんはバリューブックスで、人事関連の企画やマネジメントもされているそうですね。それまでの会社でマネジメントの経験はないそうですが、人材を育てることに向いていると気づいたきっかけはあったのでしょうか。
向いているなんて思ったことはなくて。むしろ入社当初はちょっとアツすぎるというか、意識高すぎるんじゃない?と思われていたようです(笑)。でも、たとえば全社で合宿をやるとき、自然と企画側に入っていたというか。どうすれば合宿を通してみんなが成長できるかを考える。そういうのが嫌いではなかったんですよね。いままで自由に生きてきた分、働くということの意義を今更ながら、すごく考えるようになったのかもしれません。
そのうちに、もっと立場を明確にした方が力を発揮しやすいのではないかという話になり、役員に引き上げてもらったんです。役員といっても、そもそも当時は正社員が十数名しかいなかったので、プレイングマネージャーといった感じでした。
──組織をどうしていきたいか、という目標があったのですか?
組織をどうこうしていこうというよりは、常に事業成長を中心に考えていました。でも、事業を成長させていくためには、メンバーの力が発揮されていることが大切で、その状態を目指すために、その都度、自分たちの状況に合わせて変容してきたというイメージですね。
一度、部署やマネージャーを明確にしたピラミッド型組織もトライしましたが、マネージャーも部下もトップダウンのコミュニケーションに違和感があって。もっと自分たちにあっている形がないかと考え、そのあとに、セルフマネジメント型組織にチャレンジしてみました。
そちらも、やはり、メリットもありつつデメリットも大きくて。いまは、その両方の良さを活かしながら模索しているような状況です。創業者の中村の意向も大きく反映されていますが、その時の状況に合わせた選択をして、大胆にトライしていますね。ただ、いまある形が正解だとも思いませんし、日々試行錯誤しながら、探している最中です。
みんなの成長と共に、できることが増えていく
──今後は、どのような展開がバリューブックスを待っているのでしょうか。
私たちのミッションは、「日本および世界中の人々が本を自由に読み・学び・楽しむ環境を整える」。でも、絶えずミッションを掲げているということはなく、心の中に潜んでいるというくらいですね。
事業も組織づくりも、その想いは持ちつつも、考え方としては目の前の課題は何なのか、その解決手段をどうするかに絶えず向き合っている感覚です。だから、正直いま、バリューブックスが社会課題に取り組んでいる企業として見られているのは、自分の中では少し違和感があって。ただ目の前の課題に向き合い、自分たちの成長と共に、自分たちができることの幅や範囲を広げてきているだけなんです。
いちばんは、やっぱりお客さまを含め、自分たちが関わる人たちに満足してほしいと思っていて。誰にとってもいい会社なんてないのかなと思っているし、身近な人たちにとっていい会社を目指していくことが大切だと思っています。外から見た人たちに「いい会社だね」って言われるのもうれしいですが、本当に関わっている人たちに価値を提供し続けていきたいですね。その延長で、今後もいろいろなプロジェクトや事業が生まれていくと思いますし、できることが増えていくのだと思います。
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