日本語IME「風」が使えなくなる日

いつかは来るだろうとは思ってたんですよね。「風」が使えなくなる日が。

でも、何の根拠もなく「当分は大丈夫」だと思っていたのですが、それはちっとも大丈夫じゃなかったのです。

1章 「風」ってナニ?

(既に「風」をご存知の方はこの章は読み飛ばしてください)

風というのは、元々MS-DOSというWindwsが一般化する前から存在するIME(要はかな漢字変換をするプログラムのこと)です。昔はATOK、JVE、松茸など、様々なIME(当時はFEPと呼んでいました)が存在したのですが、現在はWindows標準のMS-IMEにほぼ集約されています。

風は漢字直接入力方式(漢直)という一風変わった入力方式が採用されています。

普通のIMEでは、ローマ字で文節や文章を入力し「変換キー」を押せば、(正しいと思われる)文字列を出してくれます。つまり、「読み」+「変換」です。

一方で、風は漢直ですので、漢字を1文字づつ利用者側が指定します。漢字は同音異字が多いので、「しょう」のように同音異字が多い文字だと何十回も「変換」キーの繰作が要ります。それを避けるため、風は変換後に候補となる漢字をキーボード全面に割り当てる「超多段シフト入力方式」を採用しています。いくつか例を示します。

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例1:「kin」「変換」した直後の文字選択画面
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例2:「nin」「変換」した直後の文字選択画面

さて、ここまでして私が漢直にこだわる理由は何でしょうか?それは 「文字を選べる快適さ」があるからです。
一般的な学習型IMEでは「1つの文書の中で、同じ読みの違う言葉を共存させるのが非常にうっとおしい」のです。
たとえば「こうじ」と入力したとき、「工事」と「公示」が入り乱れる行政文書では、学習されるとかえって思った変換がされなくなりますし、「このぶん」を「この文」に変換してほしいのに「この分」と出てきたときのストレス。
でも、風は違います。全ての文字は自分で選べます。このストレスから解放された快感は、きっと使った方でないと理解できないと思います。

「風」のことをもっと知りたい方は、作者(風は冨樫さんという個人が開発されたソフトウェアです)の解説ページがありますので、ぜひご覧ください。

2章 文字を選択する自由

私が「風」を知ったのは今から40年近く前の1988年のこと。当時はWindowsではなくMS-DOS上のFEP(フロントエンドプロセッサ。今のIMEのこと)として、演算星組というソフトハウスから販売されていました。
当時のメジャー機PC9801を所有していなかった私には使いたくても使えないFEPでした。

その後、Windows上で動作するバージョンを開発者(冨樫さん)がシェアウェアとして販売されていましたので、それを購入し、それからというもの、私は20年以上もずっと風を使い続けています。

自分の好きな文字をいつでも選択できるというのは、本当に快適です。これは使ったことのある人しかわからない快感です。また、自分自身が書けない文字、実は知らない文字を使うこともめっきり減りました。(「躊躇」とか「齟齬」とか私は書けません)
結果として、文は易しくなったように感じます。

また、「優しい」「易しい」といった文字の使い分けも思いのままです。表現力も上がっていることでしょう。

私にとっては、風はもはや体の一部、いえ、思考回路の一部にさえなっているのかもしれません。

3章 風が終わる日

そんな愛用の風ですが、ソフトウェアとしては非常に古いものです。
開発者のサイト「風のくに」の最終更新が2011年ですから、随分長い間改修が行われていません。

そのため、風には64ビット版はなく、32ビット版しかありません。

Windowsの機構上、32ビット版のIMEは32ビット版のソフトウェア上でしか利用できません。そのため、64ビット版のソフトウェアが増えてきたWindows7以降、風が使える場面は除々に減ってきていていました。
この時点でも、風の製品寿命は「風前の灯」だったのです。

とはいえ、64ビット版でないと困ることも少ないため、多少の不便は感じながらも、それでも風を使い続けていました。

つい最近までは。

ですが、ついに恐れていた日がやってきました。
2025年になったあたりだと思いますが、急に風が使えなくなりました。

原因は定かではないのですが、Windows Updateにより、32ビット版の古いタイプのIMEがサポート終了になったことで、風も保証外として削除されたようなのです。

再設定しようとコントロールパネル(古い設定機能)を見ても、「言語」というアプリが一覧から消えています。もはや、正当なルートでは風を有効化できなくなったようなのです。

今はレジストリをいじるなどして風を復活させました(この手法は別記事で詳しくお話します)が、こんな小手先の手法がそう長い間、使えるとは思えません。

ここにきて、本当に風の寿命は尽きてしまったのです。

4章 今後はどうするのか?

これだけ愛してきた風を捨てるという選択肢は、私にはありません。
というか、そんなことできません。
この数ヶ月間、風が使えないことがどれほどストレスフルだったことか。
風が(少々泥繩的とはいえ)復活させられた今が、どれほどハッピーなのか、を身を持って感じたからです。

残る選択肢は明解です。「64ビット版の風」を作ればいいのです。

ですが、そこには大きな障害があります。
IMEというアプリケーションは非常に特殊で難易度の高いプログラムなのです。

私は元プログラマですし、Win32APIを用いたアプリケーションもたくさん作ってきました。
だから、以前に64ビット版の風を作ろうと思って調べてみたこともあります。その時の結論は「これは私ではムリやわ」でした。IMEの難易度の高さにあきらめたのです。

ですが、時代は変わりました。
現代には生成AIという強い相棒が存在しています。 彼の全面協力があれば、実現可能性は十分にあるように思います。

もちろん、32ビット版の開発者の冨樫さんとコンタクトが取れ、ご協力いただければ、それがベストなのは間違いありません。(読者の皆様の中に風や冨樫さんについて情報をお持ちの方は是非教えてください)

何よりも風がない世界は私が困ります。
風が使えない状況は私にとっては「足かせ」でしかありません。

昔のUNIX世界には「言いだしっぺの法則」(欲しいと言い出したヤツがそれを作れ)という格言がありました。
それに従い、できるところまで走ってみたいと考えています。

このマガジンはそんな筆者の風への愛と思いを語るマガジンです。

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