戸塚ヨットスクールは,いま
現代若者漂流
事件から30年.訓練生は引きこもりやニートが半数を占める.戸塚校長の実像とスクールの現状に迫る.
■著者からのメッセージ
565本.戸塚ヨットスクールをあらたに撮影した10カ月間のビデオテープの本数です.1本は40分のため,撮影時間は約377時間にも及びました.
映画「平成ジレンマ」は30年前に激しい体罰で訓練生4人が死亡・行方不明になり,逮捕された戸塚宏校長と戸塚ヨットスクールのいまを密着したドキュメンタリーです.
30年前からの取材に加え,この377時間のテープの中から,戸塚校長の教育理念や引きこもり,ニートの訓練生の生活など,現在のヨットスクールの姿を1時間38分の作品にまとめました.
しかし,まだまだ伝えたいことがあります.逮捕され服役したものの,再びスクールに戻ってきたコーチたちの信念.2人の幼い娘を抱えながら,逮捕された夫を支え続けた戸塚校長の妻の心情.現役の中学校教諭から見たヨットスクールの実情など…….映画では語れなかった内容を,「マイク」を「ペン」に持ち替え「原稿用紙」に綴りました.戸塚ヨットスクールを通して見た日本の教育や社会の現状を知ってください.
■編集部からのメッセージ
1980年代,校内暴力など教育の危機がクローズアップされていました.そんな時に注目されたのが「戸塚ヨットスクール」.1976年の設立当初は,ヨットの楽しさを教える場でしたが,たまたま参加した不登校児童が元気になったことから情緒障害児が集まるようになり,体罰の有用性を前面に押し出したスパルタ学校へと変貌していきます.
しかし1979年から82年にかけて訓練生の死亡,行方不明が続き,校長以下15名が逮捕,刑事事件化(戸塚ヨットスクール事件)しました.
戸塚校長は6年の実刑判決を受け,2006年に出所.現在はスクールに復帰し,運営にあたる中,各地で保護者や教育関係者に講演しています.
今の訓練生は10人.体罰は封印され,戸塚校長の吹くオカリナの音がスクールに響きます.日々のヨット訓練も昔のような緊張感はありません.かつては10代の非行少年が中心でしたが,いまは引きこもりや,ニートなど20代が半数を占めています.
本書では,東海テレビの戸塚ヨットスクールへの長期取材をもとに,戸塚校長の実像とスクールの現状に迫り,映画では語られなかった,訓練生の事例の背景,家族の苦悩とそれを取り巻く社会状況を述べています.スクールを通して見えるのは,漂流つづける子どもと家族,社会…….本書から現代社会の縮図が浮かび上がってくるでしょう.
渡辺勝之
■カメラを通して
私が戸塚宏校長と初めて出会ったのは,2年前の夏,長野県で行なわれたヨットスクールの合宿でした.日焼けした身体に鋭い眼光を持った彼は,若いころテレビで見た体罰事件当時と変わっておらず,その威圧感も健在でした.そんな彼を相手にENGカメラを向ける事出来るのか大変不安でした.取材にあたりプロデューサーの阿武野からは,ドキュメンタリーを取材する時には安易に小型のデジカムを使わず,正面からENGカメラで被写体と対峙することが大事だとアドバイスされました.私はこのことを肝に銘じ連日,彼らと一定の距離を保ちながら常に真正面から撮り続ける事を心がけました.出来あがった作品では,マスコミ不信に陥っていた校長やコーチたちの30年後の素顔と,今も変わらず多くの悩みを抱える訓練生たちの数多くのジレンマを写し出すことができたと思います.このファインダーの中から覗き見た経験は,今後のカメラマン人生でのかけがえの無い財産になりました.
村田敦崇
第1章 戸塚ヨットスクール事件
第2章 現在の戸塚ヨットスクール
第3章 不登校の子どもたち
第4章 ある女子高生の三日間
第5章 ニートの若者たち
第6章 漂流する子どもと家族……
第7章 映画『平成ジレンマ』――私はこう観た
森 達也・吉岡 忍・名取弘文
あとがき