(社説)自民圧勝 高市政権継続へ 国論二分せぬ合意形成こそ
真冬の超短期決戦となった衆院選は、自民党が単独で3分の2の310議席を超えた。結党以来最多となる圧勝で、高市首相の続投が事実上決まった。右派色の強い高市政権に「中道」を掲げて挑んだ中道改革連合は半減以下の惨敗。野田佳彦、斉藤鉄夫両共同代表は辞任する意向を示した。衆院で与野党の勢力が大きく逆転したことで、首相は「国論を二分するような政策」の実現に突き進むとみられる。
■「白紙委任」ではない
だが、そもそも選挙戦の勝利は、有権者の「白紙委任」を意味しない。首相が政策の中身の具体的な説明から逃げ続けていたのだから、なおさらだ。国論が二分しないよう、丁寧な合意形成に努めるのが一国の指導者の責務である。「数の力」で強引に進めれば、社会の分断を助長するだけだ。
今回の選挙は、国民生活に直結する新年度予算案の年度内成立を後回しにした、通常国会冒頭での「奇襲解散」で始まった。日本海側を中心に記録的な大雪が続き、受験シーズンとも重なった。急な選挙で、在外投票が間に合わなかった人もいる。選挙の正統性を担保する「投票機会の平等」が十分に確保されたといえるだろうか。
首相が有権者に十分な判断材料を示したともいえない。「重要な政策転換」の是非を問うと言いながら、その中身はあいまいなまま。消費減税について、党の公約より踏み込んで2026年度内の実現をめざす考えを示したが、選挙遊説では一切語らなかった。防衛費の増額やスパイ防止法についてもしかりだ。各党の党首が参加するNHKの討論番組を、持病の関節リウマチの悪化を理由に欠席した後も、代わりの機会を設けることはなかった。
高い内閣支持率を背景に、政策論争よりも党首の「人気投票」に持ち込んで、自らの権力基盤を固めたいという首相の思惑通りの結果かもしれないが、「語らぬ」政策を含め一任を取り付けたと勘違いされては困る。
■「熟議」の意義変わらず
内にあっては少子高齢化に歯止めがかからず、外にあってはトランプ米政権が力への傾斜を一層強める中での選挙だった。財政や社会保障の持続性の確保、国際秩序の立て直しなど、中長期的な視点に立った国の針路をめぐる議論が求められた。しかし、チームみらいを除く全党が、説得力のある財源確保策なしに消費減税を掲げるなど、与野党を通じて、有権者への目先のアピール合戦にとどまった。
与党はなお参院では過半数に達しないものの、「直近の民意」を受けた衆院の圧倒的多数を盾に、一部野党の協力を求めながら、政策の実現に向けアクセルを踏むことは間違いない。
自民の公約や日本維新の会との連立政権合意書には、安保3文書の年内改定や武器輸出の規制の撤廃、スパイ防止法の制定、国旗損壊罪の創設、旧軍の階級呼称の復活、軍需工場の一部国営化など、戦後80年続いたこの国のかたちを根本から変えるような「改革」がずらりと並ぶ。憲法改正の発議に必要な3分の2を衆院で確保したことで、改憲への取り組みを強める可能性もある。まさに国論を二分するテーマばかりであり、結論ありきで推し進めることは許されない。
首相は選挙中、衆院の予算委員長や憲法審査会長などの重要ポストを野党側に握られたことに不満を示していた。今回、自民は単独で、国会運営の主導権を完全に握れる絶対安定多数を得たうえ、3分の2を確保した。法案を参院で否決されても、衆院で再可決して成立させることが可能となる。審議も採決も政権の思い通りに運ぶなら、国会軽視もはなはだしい。石破前政権が少数与党に陥った後、与党からも重要性が叫ばれた「熟議」を過去のものにしてはいけない。
■「中道」は結束を保てるか
自民は今回、裏金問題は終わったとばかりに、関係した議員を公認したり、重複立候補を認めたりした。首相の人気に乗じて当選を果たしたからといって、「けじめ」をつけたことにはならない。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係をめぐる問題も終わっていない。教団の内部文書で明らかになった新たな疑問に対し、きちんと答えてもらわねばならない。
立憲民主党と公明党の衆院議員が合流した中道は、立憲出身の幹部や重鎮が小選挙区で軒並み落選するなど、早くも瀬戸際に追い込まれた。
短期決戦で党名を浸透させられなかっただけではあるまい。石破前政権まで与野党に分かれて厳しく対峙(たいじ)していた両党が、急にひとつになったことや、立憲が安全保障やエネルギー政策でこれまでの主張を見直したことなどで、従来の支持層を糾合できず、高市政権に代わる選択肢として、無党派層の期待を集めることもできなかった。
与党の勢力が大きくなるなら、それをチェックする野党の役割は重大だ。党の態勢を立て直し、結束を維持できるか。中道の旗の下に結集した真価が問われるのはここからだ。