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日本一社員が幸せな会社をどう実現したのか?――ホテルアソシア名古屋ターミナル元総支配人 柴田秋雄氏に聞く

投稿日:2018/01/31更新日:2019/04/09

ヒト・マチ・コミュニティーを元気にする変革リーダーにインタビューする本連載。初回は、ホテルアソシア名古屋ターミナル元代表取締役専務総支配人の柴田秋雄氏に話を伺った。柴田氏は、国鉄を経て東海旅客鉄道(株)の組合役員として働いたのち、畑違いのホテルの総支配人を任せられた。当時のホテルアソシアは4年連続赤字、資本金以上の債務を抱え厳しい財務状況だったのに加えて、隣接するセントラルビルに名古屋マリオットアソシアホテルが開業。経営的に非常に難しい状態だったにも関わらず、そこから「日本一心あたたまるホテル」と言われるまでに作り替えた柴田氏の経営哲学とは?

社員のために「ビストロひまわり」をつくる

太田:赤字だったホテルにおいて、売り上げではなく従業員に着目したのはなぜですか?

柴田:いいかな、目いっぱい言って。初めて会ったんじゃないと思って、目いっぱい言います。

昭和49年にできたホテルアソシア名古屋ターミナル、そんな古いホテルがどうやって立ち向かっていくのか。親会社が、後から後からホテルをつくってくるんだもん。つぶせばいいものをつぶさんで競争する。酷な経営者だよ。僕は思う。

生き物だよ、従業員は。それがすごく大事だったんだ。だから全盛期には200人以上いたこの子らが、みんな幸せになればいいと思った。会社の立場なんかどうなってもいいと思った。変な言い方だけど。

だから何をおいてもこの子たちが「このホテルで働いてよかった」「朝出勤するのが楽しい」「できることなら長くいたい」と思ってほしかった。「売り上げは総支配人のものじゃない、私たちのものなんだ」ということを、本当に建前じゃなくて感じてもらえるようにするのが僕の役割だと思った。

勝負はここに残ること。そのことが僕の目的、目標であったということを冒頭に話しておきたい。

太田:マリオットアソシアが建ってから、経営がさらに苦しくなったのでは?

柴田:親会社がマリオットアソシアを建てた。言うに言われぬ想いだった。世の中で認められるため、自分達に出来ることは「正義」なこと、だからあるものを全部引っ張り出し、みんなやってきた。そうしたら、「あれ?勝てるんじゃないか」と思った。それからは楽しかった。

太田:親会社と闘っているとき、従業員側のレストランをきれいにするというような経費のかかることを、なぜ実現できたのでしょう?

柴田:どうやって親会社と喧嘩するか、それだけ。僕が1番嫌なのは儲かること。だから儲かることを絞った。そして従業員と1番おいしいものが食べたいと思った。それが社員食堂。

だから社員食堂の従業員も「共に働く」っていうことで、社員になってもらった。お客さんよりもおいしいものを食べるのは従業員だよ。何のために働く?従業員が幸せになってくれりゃあいいんだ。「おいしい」って言って食べてくれればいい。

そのために、僕はまな板とか包丁をお祝いでプレゼントしたんだ。わざわざ、ヒノキのまな板を僕の故郷、中津川から持って帰って来た。

それで日本一うまいものつくろうということで始めた。社員食堂は「ビストロひまわり」という名前に変えた。社員食堂っていうと、不味くていいと思っちゃう。日本一おいしいものをつくる。それを社員が食べる。

社員が幸せに働けることが一番の願い

太田:人を大切にすることと収益を出すことのバランスを、どう保っていたのでしょう?

柴田:僕にはバランスはない。1つだけ。この子たちが本当に幸せに働けるということ。そうしてお客さんが本当にファンになってくれ、グループ会社が何十社あるけど、そのなかで1番高い給料もらえるようにしたかった。

それをするためには、経営者が経営者をやるべき。他の経営者は経営をやってないもん。いいとこの関連会社の役員になろうと、自分のことばかりやっている。

平成12年に「柴田、役員になれ」って言われた。それで、「よーし、俺を必要としてくれる会社がここにある」と思った。それが僕の生きがいだった。だから絶対に負けたくなかったんだよ。

太田:お一人おひとりの輝くところを、どうやって探していたのでしょう?

柴田:能力があればみんな本社に行く、能力ないからうちにくると思っているわけよ。でも、本当に能力ないかどうかは、僕が決めるんだ。

仕事の出来不出来、要領のいい悪いがある。だけどうちのホテルで働く子は朝早く出勤するし、夜も遅くまでいるわけ。こんな働き方、できるかな?

僕は従業員が1番好きだった。だからこの子たちが本当に喜ぶことをやる。だから誕生会をやった、毎月12回、10年間、120回になる。ナイフとフォークを使って食べる料理を出すの。

調子のいいときばっかりじゃない。辛いときもあるじゃない。でも、失敗したりへこんだ時っていうのは、さぼってないわけ。従業員は。一生懸命やっているけど、こうなるの。それは従業員の責任じゃないの。へこんだ従業員を上げていくことが僕の仕事。

従業員が働きがいを感じたら一生懸命にうちで働く。どうすれば、その子がいいことを思ってくれるか。1番うまいもの食えばいいかな。だから社員がおいしいものを食べるということは、当たり前だと思った。僕は言った。1番が社員。2番、3番、4番、5番が初めてお客なの。

今だから言うわけじゃないの。あの当時から言ってきたこと。従業員は僕を見る。調子のいいこと言っている人か、本当に僕らを大事にしてくれているかどうか。10年も経てばわかるよなと思う。

12月30日は父ちゃん母ちゃん連れておいでって。そうしたら800人集まった。3時から夜6時過ぎまで、どんちゃん騒ぎやる。10年間だぞ。僕、ずっとやり続けた。やったから言えるの。なんでやったか、おまえたちが大事だから。

絶対うまいもの出す。当たり前、うちで働くこの子が喜んでしゃべる、絶対に。母ちゃん、じいちゃん、父ちゃん、ばあちゃんにもしゃべる。俺、幸せ。本当にどういうふうに思うかどうか。そのことを僕が示すことが大事だった。これは言葉じゃねぇ、実際中身が大事なところだと思うけどな。

太田:柴田さんにとって従業員のみなさんは、どういう存在ですか?

柴田:家族。本当に幸せにならなかったら、俺がやった意味がない。本当に家族。

太田:入社試験では筆記試験をやらず、面接だけで全部ご判断をされたと聞きました。

柴田:学科試験を僕は必要だと思わなかった。面接は30分はやる。いい人と思ったら最後は握手する。そして、「いつから働ける?」「明日から」「よし、明日から」。そうやって決める。母ちゃんに「いいとこに入ったね」って言われるように、それが大事だと僕は思ったな。

太田:いいなと思うのは、どういう人ですか?

柴田:性格だね。人に優しいことが1番だと思う。俺にも誰にも、おじいちゃんとおばあちゃん、精一杯おもてなしがしたい、それが大事なの。

口のうまいだけではダメ。学歴があるだけの人はダメ。僕は学校で決めるんじゃないということを、世の中に知ってもらいたかったの。いい学校卒業していたら、それだけでいいっていうことじゃないっていうことを。もちろんいい学校が悪いわけじゃないけど。

困難をどうやって乗り切るか?

太田:柴田さん自身の気持ちが下がることはありましたか?

柴田: いろいろなことがあった。例えば食中毒が起きた。でも、思わぬところで取引先さんやお客さんに助けられた。絶対助けてくれる人たちが、いっぱいいた。

太田:従業員のことを「この子」と呼ぶのは、本気で家族だと思っていらっしゃるから?

柴田:大好きだもん。この子の味方なの。お父ちゃんお母ちゃんには負けるけど、お父ちゃんお母ちゃんの次に大好きになるよって思ったの。だからこの子の食べる社員食堂は1番おいしいものになるの、当たり前じゃん。

だから12月30日に家族が集まる。父ちゃん母ちゃんが集まって、「このホテルがあって本当に良かったな」と言ってくれる。お世辞じゃない、本当にいいところで働けると思うから、自分の息子や娘に対して、「今日は会社に行かないのか」って言ってくれる。

太田:逆に「この子」って言わない方はいましたか?

柴田:少ないな。もし居たとしても、99%悪いのは上だと思うな、僕は。みなさんの会社がよくない状況のときは、絶対に上司が悪いと僕は言い切れるな。その会社に入りたい、会社に行きたい、辞めたくないと思われる会社にしたいなら、それはやっぱり経営者の責任だと思うな、僕は。

太田:社員に厳しく接することはありましたか?

柴田:あった。怒ったときには相手も本気だなと思った。だから本気で怒った。そのあと社員食堂でおいしいもの食べる。だけどお客さんをだましちゃダメよ。そういうことをしたら、本気で従業員を怒った。

あるとき、大変なことが起きた。男子学生の受験票がなくなってしまった。大学受験ができなくなってしまう。そのときなくしたのがホテルの従業員。おまえアホかと思ったけど、なくしたもんはしようがない。だから鹿児島まで僕は謝りに行った。謝らないと許してくれない。最後は「しようがないな」って言って許してくれた。

すぐ本人に電話して「よかったな、許してくれたぞ」と言ったら、電話の向こうで泣いとる。そして嬉しくてぶっとんできた。何かやったときに責任は絶対上が取る。それが大事。それを僕は見せてあげたかった。責任は俺が行けば大丈夫だというところを見せる。それが大事やったと僕は思うな。1人に責任を負わせては大変。「上が責任を取る」ことが僕の主義だったな。

朝出勤したら、皆に「ありがとう」と言う

太田: 最近の経営者を見ていて、ここが足りないと思うことはありますか?

柴田:なんでもっと従業員大事にしないのかな。一緒に飯を食わんのかなと。

僕は毎月1回、10年間、誕生日のお祝いをうちの会社でやった。ある男の子が僕に聞いた。「柴田さん、なんで僕にご飯をご馳走してくれるのですか」。僕はこういった。「お前の誕生日を会社で祝う、嬉しいもんな今日は」。本当にそう思う。それがずっと続いた。家族が生まれた日を祝ってくれる。そのことが大事な気がする。それが会社だと思う。

何時間拘束している?8時間。夜6時まで働くんだよ。誰がお礼言うんだよ。お父ちゃんお母ちゃんじゃないよ。働いてる会社なのに、従業員が働いているのに、誰がこの子たちにうまいもん誰が食べさせてくれる、そう思うの。

だから僕が年2回はおいしいものを、会社の利益からあげたいと思った。当たり前。格好をつけるわけじゃない。だからうちの従業員、幸せだったと思うけどな。僕は、お客さんにも従業員にもおいしいもの食べてもらう、当たり前だ。ただ、客なんていうのは浮気者よ。いいとこあれば向こう行っちゃうもん。

一生懸命働いてね、「ありがとう」って言うの。僕は朝出勤したら、みんなに言う。うちで働いてるこの子に、「ありがとうな」って。それが大事。ここでつながるような気がする。ありとあらゆるものがつながっていくような気がする。言わないのではなく、本当に言うべき、わが子なら。そこだと思うな僕は。

昭和49年にできたホテル。古いホテルだけど稼働率は名古屋でNo.1。誰のおかげ、僕じゃない、働いてるやつだ。そのうちの父ちゃん、母ちゃん、じいちゃん、ばあちゃんだよ。だから僕はお礼が言いたいのって思う。

「ありがとう」を言いたいな、言う機会をつくらんか、それが12月30日。みんな集まる。当たり前だと思うな。結婚式があったら出るのは当たり前だ。結婚するのに呼びたくないと思われる上司はダメだ。1番先に呼びたいなと思われるなら、僕は嬉しい。僕は何回も出たな。

太田:労使関係で、どうしても黒字にならないときに、従業員の方から「全員10%下げましょう」という声が出て、経営の方が「それは下げられない」という話になったと著書で読みました。

柴田:泣けたな、1年目。組合もゆずらなかった。だから従業員の給料、結果的には熱意に負けて、お願いして200人の10%を引いた。だけどその代わり、翌年と翌々年は5%ずつ返した。そのあとも儲かったときは返す。従業員もわかっているので、厳しいときは逆に厳しいっていう。

オールスタッフミーティングといって、みんなでミーティングをする機会をつくった。全く隠さず、オールヌード経営。オールスタッフミーティングやるときに大事なことは、1番しゃべるのは従業員じゃなくちゃいけない。ところが、間違えちゃう。係長や課長がしゃべることがよくあるけど、冗談じゃない。従業員、働く人を見て褒めなくちゃいけない。そして1番おいしいものは従業員。従業員の1番いい所を見る。「ちゃんと見てくれる人がいる」、これが大切なんだ。

インタビュー後記

インタビューの後、柴田氏の事務所を見学させてもらった。部屋には、多くの人からの感謝の手紙や講演のポスターで埋め尽くされており、多くの人から愛されている感じがする非常にぬくもりのある部屋であった。

その部屋の壁に大きな日本地図が張られており各都道府県に色が塗られていた。これは、今まで講演したことのある都道府県であり、まだ行けていない所が3か所あるということであり、全ての都道府県で講演して自分の想いを伝えていきたいと語られていた。従業員の満足ということを語ること自体に特別感はない。ただ、それを徹底的に実行されてきた柴田氏だからこそ、彼が話す言葉は非常に深く心に響くものがあった。

 

インタビュアー

  • 太田 智

    グロービス グローバル企業研修部門 シニアアソシエイト

    同志社大学電子工学部卒業/グロービス経営大学院(MBA)終了 大学卒業後、P&Gに入社。日本・シンガポールにて主に化粧品分野におけるパッケージの業者選定や業者開拓を日本を含むアジア全域で行い、また新製品開発のプロジェクトマネジャーを務めた。日本に帰国してからは、BATにて間接購買部門でマーケティング関係の購買、輸入した全製品のプラニング業務に従事。その後、Purocurian(後にAccentureが買収)にて購買系のコンサル業務に従事し、現在はグロービスにて日系企業の日本人並びに外国人の経営者候補育成のグローバル人材育成に従事。

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