自民も舌巻く「世界一強い無所属」 緒方林太郎氏、逆風でも当選

田中久稔

 高市政権の高支持率を背景に、全国で自民への追い風が伝えられた中、無所属で衆院選に臨んだのが前職の緒方林太郎氏(53)=福岡9区=だ。

 自民の関係者からも「世界一強い無所属」と一目置かれる。

 無所属で3度目の衆院選となった今回も当選し、5選を果たした。福岡の11選挙区の中で唯一、自民候補を破った。

 活動を支えてきたのは、どん底の日々での自問自答だった。

 衆院選公示後の夕方。緒方氏は北九州市八幡東区の交差点に立った。

 肩幅に足を開いて直立し、行き交う車に頭を下げる。

 ドライバーに聞こえなくても「緒方林太郎です」と声を出す。

 時折、クラクションの音が返ってくる。

 毎週末、東京・永田町から地元に帰る度に繰り返してきた、辻立ち。

 19年に及ぶ政治キャリアの当初から続けるルーチンではない。

 きっかけは挫折だ。

 製鉄会社員の家庭に生まれ、地元の県立高校から東大に進み外交官に。

 2007年に政治活動を始め、政権交代が起きた09年に民主党から衆院選に立ち、初当選した。

 自民・公明が政権を奪還した12年に落選。14年は比例復活で再選されるが、民進党の分裂で希望の党に合流した17年に再びバッジを失った。

 衆院議員を2期務めた自負もあり、2回目の落選は痛恨だった。

 党を離れ、政治活動も休止。支持基盤だった労働組合と距離ができた。

 その頃の記憶が部分的に飛んでいる。当時、一人娘の七五三を家族で祝った記念写真があるが、情景を思い出せない。

 どん底で、自分に問うた。

 「有権者の声を聞けていたか」「本音で話してもらえる議員だったか」

 人口減少や財政悪化など、政治の道を志したきっかけである課題への関心は断ち切れなかった。

 落選の翌春、活動を再開した。考えが一致する政党はなかった。

 再起動にあたり自分に課したのが、朝夕の辻立ちだった。

 その回数は3年半で2千回超に及んだ。大学受験や働きづめの外務官僚時代を含め「この時が人生で最もひたむきになった日々だった」。

 思い描く理想がある。通りかかった小学生から「あ! 緒方だ」と言われるくらい知られること。

 そして21年。初めて無所属で臨んだ衆院選で、8期務めた自民の三原朝彦氏らを破った。

 得た票は9万1千余り。国会に戻り、「9万1千人の後押しでここにいる」と実感した。

 続く24年の衆院選では10万2千票余を得て、三原家の地盤を継いだおいの三原朝利氏にダブルスコアの差をつけた。

 団体の推薦はほとんどない。政治家の多くが集票をあてにして構築する「後援会」も持たない。地域回りで接点ができた人々がボランティアとして陣営を支える。

 その戦いぶりを、相手方の地元議員らも「強い」「根っこの張り方が違う」「日本一どころではない。世界一強い無所属候補」と認める。

 ただ本人も好んで無所属でいるわけではない。

 もともと「国会は団体戦」が持論。無所属で出るのは前回を最後にするつもりだった。支持者にも公言していた。

 複数の関係者によると、緒方氏に公示前、与野党から声がかかった。

 だが様々な可能性を模索し、考え抜いた結果は「高市政権はありえない」だった。

 政権が進める「責任ある積極財政」が円の価値を下げ、物価高を助長すると危惧する。外交・安全保障の対応も危うさを覚える。

 「30度、60度の違いなら寄れるが、百八十度違う方向を向いている」

 こうして今回も無所属で選挙戦を迎えた。

 2度目の対決となった自民新顔の三原朝利氏は、政党が全面に出る選挙戦を展開した。

 高市早苗首相の来援を受けた演説会は、会場外の歩道にも聴衆があふれた。

 国民や共産も公認候補を擁立した。国民は玉木雄一郎代表が2回来援してテコ入れした。

     ◇

 8日夜、当選確実が報じられると、緒方氏はホールに集まった支持者を前にあいさつした。

 「自分に課される課題、役割、責任は非常に重い。自分自身が中心に立ち、この国の政治を担う強い決意を持って頑張っていきたい」と述べた。

 続いて報道陣の取材に応じた時、笑顔はなかった。

 自民が大きく議席を増やす勢いであることに触れ、「巨大与党が出来上がる」と警戒感を示した。

 そして自身は「それに対峙(たいじ)する側にある」と明言した。

 「(高市政権の)経済政策を本当に実施したら日本の経済、日本の社会の底が抜ける。危機感がある。自分の力量を最大限発揮したい」

「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは4カ月間月額200円でお試し

この記事を書いた人
田中久稔
西部報道センター|警察・遠賀・京築・水俣病担当
専門・関心分野
水俣病、公害、自然災害、貧困、差別、軍事
衆院選2026

衆院選2026

2026年1月27日(火)公示、2月8日(日)投開票の衆院選(衆議院選挙)に関するニュースをお届けします。[もっと見る]