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カナダ農協・オーストラリア農協はいかにして崩壊したか

カナダ、オーストラリアの農協がどうやって崩壊したかは、その現場の近くにいた久保田治己氏が詳しく著書(「農協が日本人の”食と命”を守り続ける!」)で説明しているのだけれど、事情が入り組んでいて、ちょっとわかりにくい面がある。そこで、事実を損ねない形で、なるべくわかりやすい解説を試みる。
まずカナダ農協。カナダはアメリカと違って、ミシシッピ川のような船で穀物を運べる川がなく、鉄道で穀物を運んでいた。鉄道はコストがかかるので政府が補助金を出していたのだけれど、政府はこれを削減してしまったので、ローカル線が廃線に。
ローカル線の駅に穀物倉庫(穀物エレベーター)を配置し、近隣の農家から穀物をかき集めて鉄道で運んでいたのだけれど、ローカル線が廃止になったので、まだ鉄道が走っているところの駅に大きな穀物倉庫を新しく建設する必要が出た。でもカナダ農協は日本の農協と違って、金融部門(信用事業)がないので、お金がない。
そんな頃、アメリカのカーギルがカナダの港にでかい船積施設を作ると発表した。お金がないカナダ農協、このままでは最新型の船積施設に穀物が集まって、自分たちの稼ぎが奪われてしまう。
しかたないので4つあるカナダ農協の一つ(アルバータ)が、「自分とこの施設の株を50%あげるから、新しい施設を作るのを諦めて」と交渉、まんまとカーギルはカナダの港に船積施設をゲットした。
さて、ローカル線がなくなった以上、残る鉄道の駅に新たに穀物倉庫を作らなきゃいけない。でもカナダ農協には金融部門がないので資金力がなくて建てられない。そこで、カナダ農協の一つ(サスカチュワン)が資金を集めようと株式会社化(サスブール)。すると「もう農協じゃないから自分の州以外にも穀物倉庫建てる」と言い出した。
このままでは、残り3つの農協は、自分たちのシマを荒らされ放題になってしまう。でも金融部門がないので新しい穀物倉庫が建てられない。そこで「そうだ、我々も株式会社になろう!」ということで株式会社化(アグリコア・ユナイテッド)。
ところが、農協と違って株式会社化すると、独占禁止法にひっかかることに。農協の場合は、農家のために利益度外視して経営するから、その地域での独占的な活動が許されていたけど、株式会社となればそれは許されない、ということで、手持ちの船積施設3つのうち1つを手放さざるを得ず(これはカナダの企業が買収)。
結果的に4つの農協から2つの株式会社が生まれたわけだけど、なんと互いに喧嘩。片方が「敵対的買収」を仕掛け、合併して一つの株式会社(バイテラ)になった。そしたらまたしても「大きすぎるから独禁法違反」となり、内陸の穀物倉庫の相当数と、港(バンクーバー)の船積施設の資本50%を売却せざるを得なくなった。
これに乗じて、カーギルは内陸部の穀物倉庫と、船積施設100%をゲットした。こうしてカーギルは、穀物大国・カナダの穀物流通に食い込むことに成功した。農協が健在であったときには全く食い込めなかったのに。
それでもカナダの農家のために動く株式会社が残っているならいいじゃないか、と思われるけれど、なんと2012年、スイスの企業に買収されてしまった。しかも、またしても独禁法違反になるとのことで、さらに内陸部の穀物倉庫を手放すように言われ、泣く泣く手放すことに。この時、誰が得したのかというと(沈黙)。

次はオーストラリア農協。オーストラリアの小麦は一つの農協(AWB)が独占的に扱っていた。ところが何を思ったのか1999年株式会社化し、完全民営化。その際、外国資本に買収されないように、A株B株方式とした。農家がA株を持ち、A株にだけ議決権がある(配当なし)。B株は一般投資家が所有できて配当もあるけど、議決権なし。さらに。
そうしたルール(定款)を変更するには、A株の株主の85%もの同意を得なければならない、となっていた。これだけきついルールなら、決して外国企業に買収される心配はない、未来永劫、オーストラリアの小麦農家のための企業だ、と。ところが。
その企業が「イラクのフセイン大統領にお金を送ったぞ」と、CIAがリークした(2005年)。オーストラリア国民は猛批判。組織改革だ!との機運が一気に高まり、その3年後、オーストラリア政府により、小麦の独占的輸出権を停止されてしまった。しかも。
同年9月、A株を廃止してしまい、農家にだけ許されていた議決権を一般投資家にも広げてしまった。こうなると、どこの誰に買収されても不思議ではない。そしたら案の定、カナダの肥料会社(アグリム)に買収されてしまった。オーストラリアの小麦輸出を担ってきた元農協を!
でも、カナダの肥料会社が関心を持ったのは肥料部門だけ。穀物部門は(またしても)カーギルに売ってしまった(2010年)。これによりカーギルは、農協が健在な間はオーストラリアの小麦に全く手出しができなかったのに、オーストラリアの小麦輸出を手掛けることができるように。
カーギルは、アメリカの超巨大穀物会社。いわゆる「メジャー」の一つ。で、カーギルは、日本の農協である全農がアメリカに持っている穀物会社、全農グレインを欲しがっているのではないか、と噂されている。全農グレインは農協だから、利益を圧縮して安く日本に届けてしまうから、カーギルはアメリカの小麦輸出に思うように食い込むことができない。
で、もし全農を株式会社化すれば、その子会社の全農グレインも思いのままに料理でき、カナダ農協やオーストラリア農協のように結果的に突き崩して自分たちのものにできてしまう。そのため、いわゆる「農協改革」では、やたら農協を協同組合ではなく株式会社にしてしまえ、と主張されるのではないか、というのがもっぱらのうわさ。
ナオミ・クライン「ショック・ドクトリン」という衝撃的な本がある。アメリカの新自由主義者たち(フリードマンの信奉者たち)が、どんな手を使って海外の財産を自分たちのものにしてきたか、その歴史をずっと追った内容。そしてなんと、日本の郵政民営化も、この流れの一つと言われている(菊池 英博、稲村 公望「「ゆうちょマネー」はどこへ消えたか」)。
以前、ずいぶんと話題になった農協改革では、農家に苗や種を売ったり農産物を販売したりする農業部門(経済事業)と、農協マネーを管理する金融部門を分離せよ、という話があった。幸い、沙汰やみになったのだけれど。
もし分離していたらどうなっていたか。実は、農協の金融部門(農林中金)は毎年3000億円ものお金を農協に支払っている。これにより、農協の農業部門の赤字を穴埋めしている。なぜ農業部門が赤字になるかというと、農家に安く肥料や種を売り、消費者に安く農産物を売って、お客さんをつなぎとめるため。
つまり、その3000億円は、結果的に日本の消費者に安く農産物を販売するために使われている、ということになる。農協の金融部門は、世界の海千山千の金融ブローカーを向こうに回して、それだけの稼ぎをして、しかも自分たちのものにするのではなく、農業部門の赤字に突っ込んでる。こんな奇特な金融機関がほかにあろうか。
農協は「日本の農家のために」という使命を帯びた協同組合だから、儲けがあれば農家になるべく還元するか、あるいは農産物を安く販売して少しでも農産物が売れるように努力している。でももし金融部門を農業部門と引き離して独立させてしまったらどうなるか。
農業部門だけでは資金力がないため、種や肥料も農家に高く売りつけなければならない。それはそのまま食料品の高騰につながる。また、消費者のもとに運ぶトラックなどの運送代も値上げせざるを得ない。これも食料品の値上げにつながる。現在は3000億円もの「身内からの補助金」でこれらの費用を賄ってきたけれど。
金融部門を外されれば、食料品の値上げは避けられなくなる恐れがある。カナダの農協が株式会社化し、結果的にカーギルにいいように食われてしまったのは、カナダ農協に金融部門がなく、資金力がなかったからだと言える。他方、日本の農協は。
金融部門を持っているから、アメリカに独自に全農グレインという穀物会社を設立し、日本に安く穀物を仕入れることを可能にしている。日本の消費者に食料を安く提供するという使命において、農協はかなり活躍しているように思う。
もちろん、現在の農協に問題がないわけではない。農家が高齢化し、どんどんやめていっている。農協は農家が経営する組織(経営方針は農家が決める)なのに、その農家がどんどん減っているので、どう経営方針を決めていくか、ということもいろいろ難問。
それでも「日本の農家のため、農業のため」という使命を掲げている協同組合だからこそ、利益のためには何でもやる、となりかねない株式会社とは、かなり違う動きをする組織となる。安易に農協を解体することは、日本の消費者にとっても危険なことのように思う。
上に書いたことは、実は農家の方のかなりが知っていることなのだけれど、一般の消費者の方は知らない人が多いと思う。なにせ、言葉が難しかったり事情が複雑すぎて理解しづらかったりする。でも、今や国民の99%が消費者。つまり非農家。消費者の理解なしに日本の農業は立て直せないし、維持もできない。
農家は国民の1%にすぎない。この人たちがいくら一所懸命に事情を訴えても、その話が分かりにくかったら、消費者は理解してくれない。理解してもらえなければ、政治家も勘違いして間違った改革を進めてしまう恐れがある。農業を知らない消費者にも理解できる話を。そう思って、この文章はまとめた。


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