1日英語比較の良い着眼点ですね。英語にも「ねんね」のように音を繰り返して作られた名詞やその他の言葉はあります。語頭の子音を揃える「頭韻」(alliteration) を好む伝統があり、音の繰り返し技には意外と長けているのです。擬音語・擬態語の宝庫である日本語と比べてしまうと、さすがに英語の繰り返しは色あせて見えるのは仕方がありませんが、意外や意外、英語にも類例は少なくありません。
言語学では、音を繰り返す現象を「重複」(reduplication) と呼びます。上記の頭韻も重複の一種です。英語における重複について、歴史的な観点も含めながら、説明してみます。
① 英語にも繰り返しのリズムが溢れている
日本語は「ブーブー」「しとしと」「ぐずぐず」といった擬音語・擬態語が豊かですし、新たなものを作り出す生産性も高いです。英語でも、特に幼児語や口語、感情を乗せた表現において、「重複」は今も現役で活躍しています。
- 幼児語:papa(パパ), mama(ママ)などは、まさに世界共通の重複形となっていますね
- 擬音語・擬態語: flip-flop(サンダルなどのパタパタ鳴る音)、tut-tut(ちっ、という舌打ち)、zig-zag(ジグザグ)など
- 口語・遊び心のある表現:flimflam(たわごと)、mishmash(ごたまぜ)、tittle-tattle(雑談)、yum-yum(おいしい!)など
単に音を重ねているだけのように見えますが、言葉に躍動感や強調のニュアンスを与える語形成です。
② 歴史的には、重複は文法をも担っていた
驚くべきことに、英語の祖先であるゲルマン祖語や、その古い姉妹言語群では、音を繰り返すことは単なる遊び風味の語形成に活用されただけではなく、文法規則の一部として組み込まれていたほどでした。
例えば、ラテン語では、動詞の完了を表わすために、語頭の音を繰り返すという手法が広く行われていました。ラテン語の currō(私は走る)の完了形が cucurrī(私は走った)となるのがその典型です。
実は、英語の fall(落ちる)の過去形 fell も、はるか昔まで遡ると、もともとは *fefall のように f の音を繰り返して過去を表していた形の名残です。後の音変化により f の重複が観察できない形になってしまいましたが、裏側にはかつての文法操作の痕跡が隠れているのですね。
③ 姿を消した「コロコロ」と「ケラケラ」
ほかにも、長い歴史の中で音が変化し、今では一見して繰り返しとは気づけなくなった単語があります。wheel(車輪)を取り上げましょう。この単語の起源を印欧祖語まで遡ると、*kwe-kwl-o- (*k<sup style="white-space:pre-wrap">w</sup>e-k<sup style="white-space:pre-wrap">w</sup>l-o-) という形にたどり着きます。見ての通り、語頭の音が繰り返されていますね。当時の人々にとって、発明されたばかりの車輪が「コロコロ」「くるくる」と回る様子は、驚きと感動を持って迎えられたはずです。その「あっと言わせるような回転」を表現するために、あえて音を重ねて命名したのではないかと想像していますが、いかがでしょうか。
また、laugh(笑う)も類例です。古英語では hlæhhan などと綴られ、さらに遡れば「ケラケラ」「カラカラ」といった叫び声を模して子音を重ねた語根に行き着きます。現代の laugh からは想像しにくいですが、もともとは笑い声の擬音を重複させた言葉だったのです。意外ですよね。
このように、音を繰り返す「重複」という現象は、日英語に限らず人類の言語に共通する普遍的な特徴といえます。
現代の私たちが「ねんね」や yum-yum と言いたくなるのは、単なる幼稚な表現だからではありません。重複が言語に普遍的に備わっている技だからです。
現代英語では、日本語の「人々」や「山々」のように名詞を重ねて複数形にする語形成はありませんが、おもしろいことに書き言葉の世界では pp. (pages)や ll.(lines)のように、文字を重ねて複数を表す習慣が生き残っています。これもまた、形を変えた重複の技と解釈することができるのではないでしょうか。