(フォーラム)結婚のかたち:1 意識の変化
あなたにとって結婚とは何ですか? 結婚する人生もあれば、しない人生もあります。そのあり方も多様で、価値観も時代によって変わるもの。結婚をめぐる生きづらさやモヤモヤを減らすために、社会や私たちはどうあるべきか。みなさんと一緒に考えます。
■事実婚を公表、一緒に考え不利益なくしたい 社会起業家・たかまつななさん
社会起業家のたかまつななさん(32)は昨年8月、婚姻届を提出しない「事実婚」を公表しました。ネット上では祝福と同時に批判の声も。彼女が伝えたかった思いとは、何だったのでしょうか。
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コロナ禍で孤独感を深めたこともあって、誰かと一緒になれたらいいなと結婚願望が強くなりました。私はよくネット上で批判にさらされることがあるので、味方でいてくれる存在が1人でもいると全然違うだろうなと。
もともと一緒に住んでいたので、「事実婚はどうかな」とパートナーから提案がありました。私は最初、どちらかというと消極的でした。でも話してみると、どちらも名字を変えたくないことが分かった。自分が嫌なことは、好きな人にもさせたくないじゃないですか。相手が喜んで変えると言うなら、別かもしれないけれど。
公表したのは、自分のように考える人がいることを知ってもらい、いろいろな価値観や選択が実現できる社会になってほしいという願いがあったからです。ネット上では多くの方が「おめでとう」と祝福してくれて、名字を変える法律婚で「大きなものを失ったと感じている」と声を寄せてくれた方もいました。
批判的な声もありました。「政治利用するな」「パートナーが本当に好きだったら、たかまつ姓を選んでくれるんじゃないか」「名字さえ2人で話し合って決められないなら大きな課題があった時に乗り越えられない」など……。
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<「実は自分たちも…」> 「批判はあるだろうね」とパートナーと事前に話しており、想定内ではありました。むしろ意外だったのは「実は自分たちも事実婚なんだ」と打ち明けてくれた知り合いがたくさんいたことでした。
普段は「事実婚ですか?」と聞くことはありませんからね。年配で事実婚をしている方から、将来を考えてゆくゆくは法律婚を検討しているという声も聞きました。
選択的夫婦別姓を実現してほしいのになぜできないのか、という諦めや失望を抱いている人たち。一方で「むしろこのままがいい」と思っている人たち。事実婚を公表した時の反響から、「分断」が進んでいるように感じました。
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<同姓の否定ではない> 結婚した時にパートナーの男性側の名字になることに幸せを感じる人や、それが結婚だと考える人もいる。そんなつもりは全くなかったのですが、選択的夫婦別姓の実現を声高に叫ぶと、自分が否定されているように感じる人もいらっしゃることに気づきました。
私たちが見過ごしていたり、名前もつけられていなかったりする結婚をめぐるモヤモヤや不利益はいまもたくさんあると思います。それらを見つけて、解消するための方法を社会で、みんなで一緒に考えていけたらうれしい。いまはそう思っています。
■進む「自由化」「画一化」、多様さ認める制度を 家族社会学者・西野理子さん
社会において結婚への考え方はどう変化し、その背景には何があるのでしょうか。「夫婦の関係はどうかわっていくのか」などの編著がある家族社会学者の西野理子・東洋大学教授に聞きました。
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――結婚への意識はどう変化しているのでしょうか。
「結婚のあり方は近年、『自由化』『個人化』が進んでいます。一方で、同じくらい『画一化』も進んでいると思います」
「毎年、講義のなかで『結婚式を挙げたら結婚』『入籍したら結婚』のどちらだと思うか、学生に手を挙げてもらっています。以前は『結婚式』が圧倒的に多かったのですが、2010年代から『入籍』が目立つように。今ではほとんどが『入籍』です」
「多くの人が無意識に『入籍=結婚』と画一的に考えているのが現在地ではないでしょうか。婚姻届を出すと元の籍から抜けてふたりで新しい籍をつくるので、『入籍』という言葉は実は正確ではないのですが」
――その意識の背景には何があるのでしょうか。
「結婚の自由化・個人化に伴って、かつての結婚でセットとして考えられていた結婚式と『入籍』が切り離されていったことが大きいと思います。結婚式は社会に対する『お披露目』という側面から新郎新婦のための『イベント』という側面も強くなってきました。そうした中で『入籍』が別枠として考えられるようになったのだと思います。芸能人の結婚報告は『入籍しました』というものが目立ちますよね」
――自由化や個人化が進み、かえって「入籍=結婚」という考えも浸透していった、と。
「ええ、結婚自体がイエではなく個人で選ぶものになり、結婚をためらう人や結婚しない選択をする人もいる。式をするかしないか、誰を呼ぶかなども自由です。だからこそ、いまは共通意識としての『結婚のかたち』が見えにくくなっているのかもしれません」
――法律婚と事実婚には制度上どのような違いがありますか。
「法制度で守られるのが法律婚です。配偶者控除があり、病院での面会や手術の承諾も問題なくでき、相続の権利も得られます。まだまだ事実婚のデメリットは多く残っていると言えます」
――そもそも結婚をしないという人も増えています。
「結婚制度はそもそも、社会の最小単位になりうるペアを法律で守るという制度です。人が助け合っていく最小単位として、結婚の価値をもっと認めていいのではと思っています」
「過去には、夫婦が同居しない『妻問い婚』や、夫が妻の実家に入る『婿取り婚』が多かった時代や地域もあります。別々の名字でいたいというペアも、同じ性別同士のペアも、一緒に生きていこうと決めたならば、守っていける制度にしていく。社会状況に応じて、結婚のとらえ方や認識を改める。その都度、制度も見直していく必要があるのではないでしょうか」
■晩婚・非婚化 婚姻数、50年で半減
厚生労働省の人口動態統計によると、婚姻件数は1972年のピークで約110万件だったが、2024年には約48.5万件と半数以下となった。うち、夫婦の一方か双方が再婚の件数は約11.8万件だった。
20年の国勢調査では、未婚者は男性の34.6%、女性の24.8%を占めており、晩婚化や非婚化も進んでいる。内閣府が21年度に全国の20~60代の2万人に調査したところ、「配偶者(法律婚)がいる」と回答した人は59.5%、「配偶者(事実婚・内縁)がいる」は2.3%、「配偶者はいないが恋人はいる(未婚)」は7.5%、「配偶者、恋人はいない(未婚)」は30.7%だった。
婚姻制度をめぐっては、選択的夫婦別姓制度を求める声があり、昨年、制度の導入にむけて28年ぶりに国会で審議入りした。
また、同性婚を認めない婚姻制度が違憲かを問う裁判も行われている。昨年控訴審判決が出そろい、「違憲」が5件、「合憲」が1件だった。違憲判決では、異性婚であれば与えられる権利が得られないことが「法の下の平等」を定めた憲法14条に反しているなどと指摘している。
■別姓・同性婚の実現を/少子化対策にも
アンケートでは、「どのタイミングで結婚したことになると思いますか」という問いに、75%の人が「婚姻届を出したとき」と答えました。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/236/で読むことができます。
●一つの選択 結婚する人、しない人、それぞれの生き方が同じように大切にされる社会が望ましいです。結婚は人生の目的ではなく、自分らしく生きるための一つの選択だと思います。(三重、男性、60代)
●圧に負けた 結婚式を挙げた日、結婚したと感じた。しばらく籍は入れず事実婚でいたが、職場の圧に負けて籍を入れた。別姓や同性での法律婚を実現して欲しい。(岡山、女性、40代)
●友情結婚なら 婚活を30歳の時にやめた。理由は、自分は絶対に子どもが欲しくないうえ、性的な接触をいかなる人ともしたくないことに気付いたから。「友情結婚」と表現されるような結婚であればしてみたい。(東京、女性、30代)
●独身者が不利 様々な事情で、結婚したくてもできない人もいるわけで、独身者が不利を被るような社会保障制度はやめて欲しい。(千葉、女性、40代)
●全部正解 結婚して家族を持ちたいという人もいれば、ずっと1人で自分のやりたい人生を謳歌(おうか)したいという人もいます。幸せになれるなら全部正解だと思います。大事なのは、それを認めてくれる社会、支えてくれる行政や地域の支援だと思います。(京都、男性、40代)
●未婚で出産 未婚で出産しました。子どもは欲しいけど結婚することに魅力を感じなかったからです。世間の風当たりや制度の不便さを強く感じます。家族のあり方はもっと自由になっていい。それが少子化の対策にもなると思います。(神奈川、女性、40代)
◇興津洋樹が担当しました。
◇アンケート「『女性初』を考える」「ランニングしてますか?」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施しています。
◇次回2月15日は「結婚のかたち:2」を掲載します。