急な解散総選挙、取り残される視覚障害者たち
今週2月8日(日)は衆院選の投開票日。急な選挙ということで、いろいろ急ピッチ。 実は先日、今回の選挙で不安な思いをされているリスナーの方から番組宛てにお便りが届きました。
今回は投票用紙に「点字」が打たれていない
「安心して投票できません」と書かれていたんですが、どういうことか?視覚障害のある滝 修さんにお電話でお話を伺いました。
滝 修さん
今まで投票用紙に「点字」の表示が入っていたんですけれども、この表示が、今回時間がないために「ない」ということなんです。
私は自分で点字で書くので、投票用紙をまず渡されて、それが小選挙区か比例区かというのを点字で確認をします。そして候補者名簿をいただいて、点字で記入をして、自分で投票箱に入れる。自分でも「あ、そうだな、これは小選挙区の紙だな」「間違いないな」っていうことを確認をして、名前を書くということですね。
今回が初めてです、点字が入らないっていうのは今回が初めてです。期日前投票に行ったんですけど、確かに点字はありませんでした。「自ら確認することができない」「安心して投票できない」っていうことが問題だと思いますね。
そういうこともあって、今回TBSさんに知らせてもらえないかなと思って、それもあったんです。
私たちが投票所に行くと、まず「小選挙区」の用紙、続いて「比例代表」、「国民審査」と渡されますが、本来、点字を使う方の用紙には、その種類を示す点字が「エンボス加工(浮き出し)」で印字されています。これがあることで、指先で触って種類を確かめ、納得して一票を投じることができるんですが、ところが今回はその点字が「ない」。
滝さんは当事者団体の「東京視覚障害者協会」に所属しているのですが、東京都の選挙管理委員会から「解散から公示までが極めて短く、作業時間が確保できないため、今回は点字加工を施しません」という連絡があったそうです。
(※点字加工の有無は自治体によって判断が分かれており、すべての地域で今回のような対応が取られているわけではないようです)
係員の方も、もちろん細心の注意を払って渡してくれます。でも滝さんは「正しい用紙だと、自分自身で確認する手立てが失われたことが何より不安だ」と話していました。
誰かに代筆してもらう「代理投票」という制度もあるようですが、滝さんのように「自分の手で、秘密を守って投票したい」という人にとって、この凹凸のない用紙は心理的にも疎外感に繋がってしまいます。
点字公報が届くのは直前
さらに、影響が出ているのは投票所だけではないようです。選挙情報を伝える「点字公報」の製作現場も不眠不休の対応だったということで、「日本(にっぽん)点字図書館」の沢村 潤一郎さんに聞きました。
「日本点字図書館」 沢村 潤一郎さん
通常よりかはそうですね、2~3日は開始するのが遅れましたね。刷り上がって発送に至るまで結構時間がかかるものですから、一日でも早く始めたい。それが今回はかなりタイトな日程でしたので、「点訳」や「音訳」や「拡大文字化」の作業もタイトな日程で進めざるを得なかった。
まず原稿をいただくためにですね、やはり政党の関係者の方と連絡を取り合ってやっていますので、本当に深夜日付が変わった頃にやっと連絡がついたり、担当者たちも夜、本当に深夜まで残業してもらってホテルに泊まらざるを得なかったとかですね。電車もなくなっちゃったので、タクシーで帰らないといけなかったということもありました。
5日、6日の間にはですね、おそらく視覚障害のある方々のところにも届いている可能性が高いですね、今回は。
一般の「選挙公報」は全世帯に届きますが、それを点字や音声にした「選挙のお知らせ」は点字図書館のような福祉団体が、翻訳や印刷を担っているそうです。
ただ、今回は突然の解散で候補者がなかなか固まらず、作業も難航。発送が遅れて、届くのは今日か明日。(滝さんのもとにも、届いていませんでした)
また、視覚に障害がある方にとって、投票所は普段行き慣れない場所であることも多く、混雑や悪天候を避けられる「期日前投票」は非常に貴重な機会だそうです。今回、滝さんもヘルパーさんに同行をお願いして、万全の態勢で臨んだそうですが、肝心の「検討材料」も十分にない。このタイムラグがもたらす格差は深刻です。
「にほん?」「にっぽん?」点字翻訳の苦労
さらに「日本点字図書館」の沢村さんは点字特有のこんな苦労も教えてくれました。
「日本点字図書館」 沢村 潤一郎さん
「選挙公報」の紙面を想像していただくと、各党書き方バラバラですよね。一体どっから読んだらいいのか。スローガンがあったり、党名があったり、それが視覚的にレイアウトされてますよね。じゃあスローガンから読んでいいのか、あるいはスローガンもいくつかあったらどっちから先読んでいいのか、政党の担当者に直接確認するんですよ。あるいは漢字についても、「にほん」か「にっぽんか」とかですね、そういったことを確認をする、これが大変なんですよ。
そこが一番気苦労といいますか、気遣いといいますか、ありますね…。
文字の並び順ひとつから、電話で確認して「翻訳」していくため、単に点字にするだけではないようです。日本点字図書館では普段の業務をストップさせて、なんとか投開票には間に合わせた形…。ただ、これほど現場が奔走しても、一般の公報とはどうしても差が生まれてしまう。情報の伝わる速さに、これほど明確な差があるということです。
そして、それが「急な選挙だから仕方ない」という空気の中で、当たり前のように見過ごされてしまっています。「誰一人取り残さない」という言葉の裏側で、この格差が、今も置き去りにされたままになっています。
(TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」取材:田中ひとみ)