503.偽教師を捕まえろ!
教師の調査を始めて三日。
偽教師狩りも三日目である。
「さすがに噂が広まってるみたいだ」
早朝。
昨日と同じ場所でベイルと合流した。
「噂ですか? 派閥で?」
「ああ。楽しそうなことしてるな、って言われた。
あれだけ先生捕まえてりゃ、そりゃ噂にもなるよな」
まあ、今日で三日目だ。
噂が広まっても不思議はない。
「ちゃんと答えました? とても楽しい、って」
「さすがにそれは言わなかったよ。
――学校からの仕事でやってるから真似するなよ、とは言っといたけど」
それは確かにそうだ。
面白半分で参加されたら、偽教師がかわいそうだ。
……。
なんだか「かわいそう」っていうのも違う気がするが。
でも、言いたくもなる。
偽教師は、その肩書に似合わず。
かなり真面目に過ごしているのだ。
真面目に研究していたり。
真面目に勉強していたり。
真面目に本を読んだり、レポートを書いたり。
昨日たくさん偽教師を見つけたが。
誰一人として、だらしなく過ごしていることはなかった。
なぜ偽教師に甘んじているのか。
なぜベストを尽くさないのか。
そう問いたい。
それくらいには真面目な人ばかりだった。
まあ、あれだが。
本当に真面目な人は偽教師にはなっていない、かもしれないが。
「昨日で計四十六人。
そのうち偽教師が十八人。
今日も二十人くらい回って、それから校外にいる教師だな。
掛かっても明日までか」
明日。
クノンの見立ても同じだ。
調査は明日で終わると思う。
ジュネーブィズたちは今、どこにいるのだろう。
できれば、調査が終わるまでには、戻ってきてもらいたいのだが。
――いや。
今はそんなことを考えている場合ではない。
一昨日。
昨日。
そして今日。
偽教師たちが繋がっているなら。
今日は、きっと。
彼らはクノンたちが来ることを知っていて、対策を考えているはず。
つまり、偽教師は今日が一番強い。
昨日は優勢に立ち回れたが。
今日はどうだろうか。
少なくとも、気は抜けない。
彼らは偽教師ではあるが。
魔術師であることは、間違いないのだから。
「よし、行くか」
ベイルの声も、心なしか気合が入っていた。
◆
リワード・チャーグス。
火属性、二ツ星。
四十半ばくらいで、非常に品がいい。
小奇麗な身形も整えられた髪や髭も、上流階級を思わせる。
歌炎という歴史に消えた古い魔術形態を研究している、いわゆる考古学者。
そして、偽教師。
見た目だけ取れば確実に正規採用教師だが。
彼は偽である。
「先生、この身分証――偽造ですね」
昨日から。
この言葉が、攻防の始まりの合図である。
「――あっつ!?」
「――いってぇ!」
合図と同時に、二人は炎に巻かれた。
視界一杯。
前にも後ろにも、左右にも、火の壁が立ち上がる。
しかも、その壁から燃える小さな石が四方八方から飛んでくる。
殺傷力はないが、当たれば痛いし熱い。
立派なけん制だ。
頬を撫でる火に、反射的に一歩下がるクノン。
飛んできた石が直撃したベイル。
リワードは一瞬で、ここまでの魔術を構築した。
クノンの「水球」よりも早く。
しかも複雑な魔術だ。
やはり偽教師。
偽ではあっても、伊達に教師ではない。
「フハハハハハ! 甘いぞ特級のボーイたち――ぐああっっ!?」
足止めの火の壁。
首尾よくクノンらを閉じ込めたリワードは。
笑いながら、原始的に走って逃げようとして。
クノンが床に広げておいた「ぬるぬる粘着水」で滑って転んだ。
「……くそ、逃げられたか」
ベイルが火の壁を解除するより早く、自然と消えてしまった。
だが。
そこにはもう、リワードの姿はなかった。
「手ごたえはあったんですけど……ちょっと甘かったですね」
結構したたかに転んだはずだ。
だいぶ痛かったはずだ。
どこをぶつけたか知らないが。
ガン、って痛い音がしていたし。
しかしそれでも、逃げられてしまった。
見れば、「ぬるぬる粘着水」を張った床が焦げている。
ぬるぬるを蒸発させて逃亡したらしい。
見えないが。
「窓、行かなかったな」
そっちはベイルが罠を張っていたのだが。
窓付近に触れた途端。
仕掛けている泥がまとわりつき、拘束していた。
昨日使った手だ。
だから、リワードは知っていたのだろう。
やはり情報が共有されているようだ。
昨日使った魔術は、通用しないかもしれない。
「――面白くなってきたな」
「――そうですね」
今日の偽教師は本気だ。
ほんの数秒。
長くて十秒。
短い勝負ではあるが、教師と戦える。
面白くないわけがない。