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495.新しい鏡眼と、景色を記録する魔道具





 考えてみれば単純なことだった。


「……なるほどなぁ」


 夕方。

 逸る気持ちを抑えて、「景色を記録する魔道具」開発に挑み。


 今帰ってきたところだ。


 ――鏡に写った景色を、鏡ごと固定する。


 その発想から、魔道具造りは一気に進展した。


 この分だと明日にはできるだろう。

 そのつもりで、今日は解散したのである。


 で、だ。


「暗い。ちゃんと明暗の影響も受けるのか」


 クノンは「新しい鏡眼」に挑戦し。

 すぐに成功した。


 なんてことはない。


 水で鏡を作って景色を写して。

 それを魔力視で見る。


 それだけだ。


 二段構えというか。

 二つの行程を経て、視界を得る方法。


 こんなにも簡単なことで、うまくいってしまった。


 これまでなかった発想だ。


「鏡眼」をどうにかして、と考えていたが。

 これでよかったらしい。


 難しく考えすぎていたのかもしれない。


 思えば、「鏡眼」を考案した時も。

 あえて難しい方向で考えていた。


 ……しかし。

 この視界は……。


 まあ、これはこれ、という感じだ。


「……使いづらいな」


 部屋の中が暗い。

 とりあえず灯りを点けて、周囲の様子を見る。


 ――ちゃんと見える。


 窓の外。

 彼方に沈みつつある、太陽を見る。


 ――黒くない。


 白か、黄色か、その中間くらいか。

 そんな色の太陽だ。


「鏡眼」では変な色に見えていた、色々なもの。

 それらがちゃんと見える。


 これは、成功だ。

「新しい鏡眼」として認めることができる。


 ただ。

 だが、しかし。


 これは……使いづらい。


「ふうん……」


 遠くを見る場合は、気にならないが。

 近くを見る場合は、気になる。


 視界は、鏡面積の分しか得られない。


 その結果がこれだ。


 それはそうだろう。

 鏡に写った景色を、魔力視で読み取っているのだ。


 なんだろう。


 要するに、望遠鏡みたいな視界でしか見られない、ということか。


 鏡を大きくすることは可能である。

 鏡面積が大きければ大きいほど、広く視界を得られる。


 得られる、が。


 大きなものを日常使いはできないだろう。


 近くに巨大な鏡を出しっぱなし。

 それは明らかに不自然だ。


 それなら、今まで通り。

 瞬間瞬間、要所要所で一瞬「鏡眼」で周囲を見る。


 この方がまだやりやすい。


 素早く出して消している。

 だから多くの人が気づいていない。


 でも「新しい鏡眼」は。

 二段階の行程があるので、読み取るのに少しだけ時間が掛かる。


 一瞬出して。

 見て。

 すぐ消す。


 そういう使い方はできそうにない。


「――うん、悪くない!」


 クノンは机に着き、メモに記録を残していく。


 成功はした。

 それは間違いない。


 問題がないわけではないが。

 でも、遠距離用の視界と割り切ればいい。


 もしかしたら。

 何かしら改良を加えることで、なんとかなるかもしれないし。


 ならないならそれもいいだろう。

 これはこれで、きっと役に立つだろうから。





「――クノン様、夕食ができましたよ。……あれ!? 灯りが点いてる!?」


 夢中でメモを取っていると、侍女リンコが顔を覗かせた。


 この時間、ドアは閉めない。

 こうして侍女が呼びに来るから。


 そして、暗い中で作業しているクノンに、小言を言うのだ。

 愛のこもった小言を。


「あ、リンコ。もう少し待ってて――あ」


 クノンは顔を上げず。

「新しい鏡眼」で侍女を見て。


 やはり顔を上げた。


 薄々そんな気はしていた。


 色々なものが変な色に見える。

 これこそが、やはり、大事な部分なのだろう。


「新しい鏡眼」では。

 個々人に憑いている、変なものが見えない。


 この侍女には角があったはずだ。

 しかし、ない。

 くっきりしっかり顔が見えるだけだ。


 ……侍女はこんな顔をしているのか。


「鏡眼」ではじっくり観察ができないのだ。

 いまだ長時間は使えないから。


 近づいて魔力視ならできるが。

 いくら親しき主従関係とはいえ、紳士と淑女。

 適切な距離は必要である。


 そういえば、と。


 クノンの背後にいるカニに「新しい鏡眼」を向ければ。


 何もいない。

 見えない。


 やはり、そういうことらしい。


「……そうか」


 最初こそ戸惑ったが。


「鏡眼」に慣れてしまった今。

 むしろ普通に見える方が、なんだか逆に違和感を感じてしまう。


「また新しい実験ですか?」


 侍女からすれば。

 今のクノンは、少し挙動不審かもしれない。


 前を見たり後ろを見たり。

 変な「水球」を浮かせていたり。


 結構怪しいかもしれない。


「そうなんだよ。

 ごめんね、最近ゆっくり話せてないね」


 最近は「景色を記録する魔道具」に掛かり切りだった。


 侍女と戯れる時間なんて。

 ほとんど取れなかった。


「本当ですよ。

 二人で暮らしてるのに、片方がそれじゃもう片方が寂しいじゃないですか。


 もっと私に構ってくれないと」


「ああ、ごめんよ僕の美しいマーメイド。もう涙の海で泳がないで」


「そのマーメイドは今夜食卓に並んでますよ」


 どうやら夕食は魚らしい。


「いいホッカゥ魚の干物が手に入ったんですよ。

 これが脂が乗ってて、とても美味しかったです」


「へえ。いいね」


 と、クノンは立ち上がる。


 ディラシックは海が遠いので、魚はやや貴重なのである。


 とりあえず、今は食事だ。

 それから「新しい鏡眼」について、もっと考えてみよう。





 そして翌日。


「――フハハハハハー! 数日お借りするよぉー!」


「――お、おい! おいおい! おいって! ……え、マジか!?」


「景色を記録する魔道具」が完成した。


 何度か試して。

 間違いなく作動することが確認できた。


 あとは、もっと試して問題点を割り出して。

 それを改善していくだけ。


 だから、いわゆる試作品が完成して。

 開発リーダーのベイルが、「できた」と太鼓判を押したところで。


 ジュネーブィズが試作品を強奪し。

 実験室を出て行った。


 呆気に取られるベイルを置いて。


 ――知っていた。


 クノンは知っていた。

 ジュネーブィズが蛮行に出ることを。


 だから、予定通りと思うだけだ。


 なんなら。

 追いかけようとするベイルを止める役目だった。


「……マジかよ」


 だが、ベイルは動かなかった。


 ここ最近の開発実験で疲れているのだろう。


「マジかよあいつ……」


 ベイルは茫然として。

 ジュネーブィズが開け放っていったドアを見つめるだけ。


 ――予定通りである。これで。


 ベイルには悪いが。

 今は少しだけ時間がほしい。





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― 新着の感想 ―
長く発動出来ないのかぁ メガネみたいに凹凸を作れば小さくても視界確保は出来そうだし目立たないと思った
「僕のマーメイド、涙の海で泳がないで」は天才 超面白いwww
鏡眼はバージョンアップではなく、バリエーションの変化なんですね 妙なモノが見える鏡眼・魔(仮)と、現実世界が見える鏡眼・現(仮)、どっちも使いようかな?
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