494.景色を記録する魔道具開発、終了
景色を鏡に写す。
鏡に写った景色を、魔的素材に焼き付ける。
この発想で、一応は成功したのだが。
「明らかに色が足りねぇな」
「そうだね。大味、って言葉がよく似合う、ふふうふ、かな」
いろんなものに焼き付けてみたものの。
結果は、芳しくない。
焼き付けた景色は、ひどく大雑把だ。
物、空、色。
それらの境界線が曖昧で。
陰影がはっきりせず、遠近的な距離感がまるでわからない。
絵のようだ。
雑に書き殴って乱暴に色を付けた、そんな感じの絵のようだ。
――魔力視で見える景色と似てるな、とクノンは思った。
近くなら鮮明だ。
文字が判別できるくらいに。
でも、少し離れると、こんな感じに見える。
見えないが。
「で、なぜか普通の紙の方が、より鮮明に色が焼き付くと」
ベイルは焼き付けた紙を見ながら、難しい顔をする。
そう、そうなのだ。
高価なダイスカメレオンの素材を用意したが。
普通の紙の方が、よく色が出る。
あくまでもこの方法では、だ。
しかし。
ジュネーブィズの言う通りだと、クノンも思う。
「確かに大味ですよね。
ここまで大味だと、もう描いた方が逆に正確かもしれませんね」
色も景色も非常に雑だから。
パッ見では、どんなものが焼き付いているさえわからない。
子の実験室の窓から見える景色なのだが。
雑なので、全然わからない。
「――よし、ここらで発想を変えてみるか」
発想を変える。
そろそろ根本を見直すのも、悪くないかもしれない。
「女性を誘うんですね? ついに誘うんですね?」
これまで、何度か提案していることだ。
ついにベイルが許可するのか。
クノンにとっては、非常に大事なことだ。
「いや、新しいメンバーはいらねぇだろ。
確かに行き詰まってるけど、まだ考える余地はあると思うぜ」
それはそうだが……。
「僕は女性がいたら今の倍はやる気が出ますけど!?」
「じゃあジュネーブ、女やってやれ」
「え? ……うふーん。クノンくんー。肩揉んでー」
「女性に対する冒涜だ!!」
クノンは強い言葉を発した。
許せなかった。
そんな中途半端な女性なんて、許せなかった。
「やるならちゃんとしてください!! ちゃんと女性をやってください!! 僕はそんなの許しませんよ!!」
「う、うふーん……はは、うん。ごめん。君の情熱に、私は付き合えないよ……」
――ジュネーブィズは引いた。
いつもは自分が引かせるのに。
さすがはクノンだな、と思った。
まあ、要するに。
三人とも、ちゃんと疲れているわけだ。
わけがわからないことを、言い出すくらいには。
「落ち着いたところで、話を戻すぞ」
ベイルは何事もなかったかのように、話を続ける。
何も落ち着いていないのに。
クノンは女性を求めているのに。
「一応、成果は出ている。
でも、望んでいる成果とは程遠い。
たぶんこの方法じゃねぇんだと思う。
少なくとも、今の俺たちレベルじゃ、この方法は無理そうだ」
だから根本的なやり方を変える、と。
確かにその方がいいかもしれない。
ここ一週間、とにかくいろんなことを試してきたが。
ほぼ進展がない。
それが現状だ。
だがしかし、根本を変える、となると……。
「焼き付ける以外に景色を記録する方法。何かあるか?」
焼き付ける以外。
三人とも、真っ先にそれが思い浮かんだのだ。
だから迷わずこの方法で試してきた。
それだけに、別案なんて。
急に言われても、という感じではあるが。
「私はこれだと思うな」
と、ジュネーブィズは手を伸ばす。
メモだの書類だの。
資料だの本だの機材だの。
散らかりまくったテーブル。
その上から、鏡を手に取った。
「焼き付けるのが無理なら――あは、いっそ鏡ごと記録する、とか」
鏡ごと。
クノンは直感的に「鏡眼」のことを連想した。
この開発実験の最中。
何度も思った。
クノンの視界である「鏡眼」と。
見える景色をそのまま記録する、今回の魔道具と。
なんだか似ている気がしたから。
そして。
ジュネーブィズはついに、核心的な部分に触れた。
鏡。
鏡をそのまま。
そうだ。
それこそ「鏡眼」の根本的な原理だったりする。
あれは鏡で。
だから――
「あ……!」
気づいた。
気づいてしまった。
もしかしたら、「鏡眼」を進化させられるかもしれない。
「なんだクノン。なんか気づいたか?」
「い、いえ何も。
それよりジュネーブ先輩の案、いいと思いますけど」
ここはひとまず。
「鏡眼」のことは置いておこう。
今は「景色を記録する魔道具」だ。
そして。
「僕、それならやり方を知ってるかもしれません」
「あ? やったことあるのか?」
「ええ、ちょっと近いかな、ってことを。
以前こんな実験をしまして――」
と、クノンは参考例を話しだした。
「炎を閉じ込めた永久硝子細工……か」
そう。
クノンが話したのは、永久硝子細工のことだ。
狂炎王子ことジオエリオンと一緒に作った。
あの簡単な実験のことだ。
「火を? ガラスの中に? どうやって? ……へへっ」
ジュネーブィズは興味津々のようだ。
「正確には火のように見える水で、火としては機能してないんですけどね」
でも、うまくいったのだ。
今まさに燃えているかのような火を。
ジオエリオンの火蝶を。
そのままガラスに閉じ込めることに成功したのだ。
あくまでも、見た目だけの話だが。
「そうなんだ。……確かに似てるかも。
代表、えへっ、この方法、いけそうじゃない?」
「そうだな。
景色を写した鏡ごと閉じ込める……鏡の景色を固定する、って感じか。
――よし、それでいこう」
魔術師として優秀なベイルとジュネーブィズだ。
勘がいい彼らである。
すぐにきっかけを見つけ出して。
その日の内に、納得できる成果を叩き出した。
はっきり見える。
鏡に写った景色が、そのまま記録されている。
こうして、「景色を記録する魔道具」は。
明日、完成することになる。
――そんな中にありながら。
クノンの意識は、強く惹かれていた。
思いついた「新しい鏡眼」の方に。
※「ジオエリオンとの実験」は、書籍用の書下ろし部分になります。
もし気になったなら、ノベル3巻か、コミックス7巻をチェックしてみてください。