衝撃! 中国ではなぜ、「配達ドライバー」が続々と死んでいるのか

4億3000万人の巨大市場の「闇」

「最近流行りのフードデリバリーをアプリで注文したんですが、3時間も待たされました」――。

筆者の通う東京都内の美容院の店長がこう嘆いた。注文したのは「うな丼」だが、店に到着したときにはすっかり冷めきっていた。

日本では「UberEATS」や「LINEデリマ」が登場し話題となっているが、ウェブやアプリを使って飲食店の料理を配達してもらうサービスはまだ緒に就いたばかりだ。市場調査会社のエヌピーディーグループ(アメリカ)によれば、日本の外食・中食を利用した食機会におけるデリバリーでのオーダー率は36%(2017年)と、主要13ヵ国の中でも低い。

ところが、中国ではこのデリバリーで日本の先を行っている。中国や韓国、オーストラリアやアメリカなど主要13カ国の中でも、中国のオーダー率は63%で断トツの1位となっており、13カ国平均の45%を大きく上回る(エヌピーディー)。中商産業研究院(中国・深圳市)によれば、中国でスマホユーザーは7億5300万人に拡大、フードデリバリーの利用者規模は3億4300万人にものぼると推計する。

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上海ではたった半年で76人が死亡・負傷

注文の品を電動自転車に搭載し、街中を縦横無尽に飛来する配達員――こうした光景は今や中国全土でみられる。大都市上海では、全国の中でも突出してその利用が高い。そのためか、フードデリバリーの配達員がもたらす交通事故が近年、社会問題となっている。

街の交差点では信号待ちに舌打ちする配達員を見かける。信号待ちするのはまだマシで、中にはそのまま突っ走ってしまう配達員もいる。たまに路肩を正面から逆走してくる配達員に出くわすこともある。

環球時報は昨夏、2017年上半期だけで飲食デリバリー従事者76人が交通事故で死亡・負傷したと報じた。交通ルールを無視する配達員の自業自得といえばそれまでだが、逆にいえば、彼らにとっては「命がけの仕事」だともいえる。

「命がけ」になるのはこういう理由からだ。上海に居住する中国人主婦が語る。

「そもそも彼らは注文の数をこなしていくらの世界。配達した数に応じてコミッションが入るしくみなのです」

デリバリーごとに規定の賃金を受け取る日本の配達員とは事情が違う。そのため、すべては「時間との勝負」になる。少しでも多くのコミッションを得ようと一分一秒を争う。金のためなら多少のリスクも厭わない。

8円の歩合のために、肋骨9本を折る

「規定の時間内に届けよ」という指示があることも、彼らを「命がけ」にさせている。「時間内」を達成できなければ、逆に「失点」として賃金を引かれてしまうことになるからだ。

そのためだろう、上海ではマンションのエントランスで守衛と揉める風景をよく見かける。「第三者の侵入を防ぐ」という目的で立たされている守衛は、配達員に「待った」をかける。先を急ぐ配達員は守衛の尋問にいちいち答えていられないので、猛攻ダッシュでの“関所突破”を試みるが、結果、複数の守衛に抑え込まれ、配達は「タイムオーバー」になってしまう。

路上では交通整備係のおじさんと配達員、そして警官が三つ巴となった大乱闘すらある。上海に限らず中国の路上は、デリバリーの二輪車による違法駐車が問題になっており、これを苦々しく思っている交通整備係と、「そんなことは構っていられない」とする配達員が激しく衝突するのだ。最後は警察も巻き込んでの殴り合いとなる。

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飲食デリバリーのみならず、ネット通販の普及でも「配達員」が重宝されているが、こちらも同じように「時間との闘い」だ。その厳しい労働環境は「死と背中合わせ」といっても過言ではない。

昨年、山東省でネット商品の宅配員が「肋骨9本」を折る大けがをしたというニュースが報じられた。原因は、宅配予定時間のたった「5分の遅れ」に怒った注文客による暴行だった。6分の遅れなら命を失ったかもしれない。凶暴な客もいるものだ。

ちなみに、肋骨9本を折られたこの商品宅配員は、この配達でもらえる歩合はいくらだったのか、という記者の質問に「100個の配達で50元程度(約850円)」だと答えている。つまり、1個の配達でもらえるのはたった5毛(約8.5円)だということだ。中国の都市部ならコミッションももう少しもらえるだろうが、たかだか8円のために肋骨をへし折られてはかなわない。

とにかく彼らは急いでいる。最近は「客の家の台所で調理を始める配達員」すら出現した。材料だけ鷲掴みにし客の家に向かった配達員は、台所で自ら調理を始めたという。

中国では「何が配達員をコックにしたのか」というタイトルでこの話題が報じられた。その背景にあるのも「一分一秒の戦い」。この配達員は、客先への瞬時の到着とアプリでの「評価」に頭がいっぱいで、「厨房での調理の時間がじれったくて、待っていられなかった」と語ったというから、まさに本末転倒だ。

もうひとつの「大量ゴミ問題」

スマホアプリのおかげで、中国人の生活は格段に便利になった。中でも“フードデリバリー”は2016年を前後して爆発的にユーザーを増やし、その結果、「配達員」という新たな雇用を創出した。しかしその一方で、多くのひずみを生んだのは前述したとおりだ。

雨にも負けず……【Photo】Gettyimages

もうひとつ注目したいのが、中国のフードデリバリーがもたらす環境問題だ。筆者の上海の友人・鵬さん(仮名)は、こんなことをつぶやいていた。

「2016年ぐらいからアプリを使って出前を取るようになった。あまりに便利なので、会社の昼食を含めて一日二食をデリバリーで済ませることも増えたけれど、届いたポリ袋の中から出てくるのは、使い捨てのプラスチック容器と割りばしとストロー。食後はゴミとなるその量に、最近は罪悪すら覚える……」

冒頭で、中国では3億4300万人がフードデリバリーを利用していると書いた。仮に彼らが1日1回デリバリーを注文すれば、3億4300万本の割り箸が、3億4300万個の容器が、3億4300万枚ものポリエチレン袋が消費される計算になる。

こうした環境負荷を問題視する声は、中国でもポツポツと出てくるようになった。ある中国のネットユーザーは「このポリ袋の平均使用時間はたった25分だが、地中に埋めても土に返るのに470年かかる」と訴えていた。

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90年代、中国の都市部では発砲容器のポイ捨てが問題となり、中国は先進国から「白色汚染」というレッテルを貼られた苦い経験がある。上海ではゴミの分別や削減が呼びかけられ、2010年の万博開催を前に、食品スーパーを中心にレジ袋が有料化された。そして、「環境」をテーマにした上海万博で、地元居住者は「環境負荷」に対して高い意識を抱くようになった経緯がある。

上海に約20年在住する日本人女性はこう語る。

「昨今のデリバリーサービスの隆盛で、せっかくの環境に対する取り組みも後戻り。レジ袋有料に不便を感じながらも、“環境のために”と頑張ってきたあの努力は何だったのか」

トイレで調理…競争に勝つためなら何でもアリ

話を配達員に戻せば、「そこまでやるか」という泥沼の戦いに至った背景には、熾烈な企業間競争がある。競争といっても独特なのは、中国の場合、競争相手を徹底的に滅ぼし、最後は1強または2強が市場を独占してしまう結果にある。

振り返れば、タクシーの配車アプリもそうだった。最後は「滴滴」が「快的」を呑み込み、市場は「滴滴」の「1強」になってしまった。フードデリバリー業界も同じで、もともと多くの企業が参入していたが、いつの間にか、「餓了嗎」が「百度外売」を飲み込み、「美団」とともに市場を二分するようになった。

今年5月、タクシーアプリの「滴滴」がこのフードデリバリー業界に参入を始めたが、「滴滴」がこの業界を丸呑みしてしまうことだってあり得る。今なお「配達員」を筆頭に、日夜命がけの戦いが繰り広げられているのもそのためだ。

ここでは紙幅を割かなかったが、食品の衛生問題だってある。

中国のネットメディア『人民網』は、広東省の某デリバリー専用飲食店が「調理スペースが足りずトイレ内でも調理を行っていた」と暴いた。「競争に打ち勝つためなら何でもアリ」というわけだ。

これから本格化する日本のフードデリバリー産業には、ぜひとも健全な発展を期待したいものである。

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