記憶力、判断力、学習能力の低下に関与…知られざる「認知症と骨の関係」医師が指摘する進行リスク
認知症を進める見えない連鎖
菅直人氏(79)が認知症を発症していると報じられ、日本中が衝撃を受けた。 菅氏は薬害エイズ問題、O157騒動、そして東日本大震災――政権の中枢で幾度となく国家的危機に直面し、激しい批判の矢面に立ちながらも、国民のために心血を注いできた政治家である。総理大臣として国家の命運を背負い、極限の緊張の中で意思決定を続けてきた人物でさえ、老いと病から逃れることはできないという現実に、複雑な思いを抱いた人も少なくないだろう。 【あれは怖かった…】原発事故に臨む菅直人氏 報道によれば、菅氏は要介護3。2025年7月に足首のくるぶしを骨折して入院したことを機に、認知症が進行したという。 「高齢者にとって『骨折』は単なる外傷にとどまりません。活動量の低下、生活環境の変化、社会的孤立が連鎖して心身の機能が一気に落ち込む転機となることが少なくないのです」 そう語るのは、札幌中央整形外科クリニック院長の亀田和利医師だ(以下「」は亀田医師)。 「骨は単に身体を支える器官ではありません。記憶を支え、感情を支え、人格を支える臓器でもあるのです」 近年の基礎研究では、骨がホルモンを分泌して、脳と情報をやり取りしていることがわかっている。 「鍵を握るのが骨芽細胞から分泌されるペプチドホルモンのオステオカルシンです。オステオカルシンは血流に乗って海馬や前頭葉の神経回路に作用し、記憶形成、学習、感情の安定、意欲に関与していることが示されました。 ハーバード大学の研究グループは、オステオカルシンが脳内でセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった神経伝達物質の産生や調節に関わることを報告しています(Oury F. et al., Cell, 2013/Nature Reviews Endocrinology, 2016)。これらはいずれも、意欲、感情、集中力、ストレス耐性を左右する重要な物質であり、『骨の健康がそのまま心と脳の働きに直結する』ことを示すエビデンスといえます。 加齢とともに骨密度が低下すると、オステオカルシンの分泌量も減少します。これは記憶力や判断力、気分の安定が損なわれやすくなる生物学的背景になり得ます。つまり、骨が弱ること自体が認知機能低下の一因になりうるのです」 疫学的な裏付けもあるという。 「1万人以上を長期追跡した最新のロッテルダム研究(オランダ・2023年)では“骨密度の低い高齢者ほど将来の認知症発症リスクが高い”ことが示されました。骨の衰えによる“ホルモン分泌の低下”という内的要因と“行動様式の変化”という外的要因が脳機能に二重の影響を及ぼします。 転倒や圧迫骨折を契機に歩行量が減り、外出や会話が減少すると、脳への血流と神経ネットワークの使用頻度が低下し、『歩かなくなる → 骨が弱る → 脳が衰える』という悪循環が回り始めます。高齢者が骨折した後に短期間で認知機能を落とす例は珍しくありません」