マサシが後を追うのは――黒髪の子が向かった左方向。
電車内でひと目見た瞬間から、マサシは、彼女の芸術のような顔立ちに魅了されてしまった。
友達と二人でお喋りをしながら、歯を見せず唇をキュッと結んで笑みを作る彼女の妖艶なフェロモン。
そして何より、駅の階段、目の前でぶりんっ、ぶりんっ、と弾んでいたあの巨尻……。電車内では背を向けていなかったために気づかなかったが、一度あれを目にして以降、彼はもう、あの尻のこと以外を考えられなくなってしまっていた。
足音を忍ばせ、彼女の10メートルほど後方をついて歩く最中も、彼の目はデニムに包まれた尻から離れない。ぴっちりと張り付き、どちらかと言えば体型をキュッと絞ってシルエットを細く見せられるはずのスキニーなのに、彼女の場合、尻の肉量が並外れているせいでボリュームが生地を押し返し、内にぎゅうぎゅうと詰まった巨尻をアピールせんばかりになっている。スキニーの上から見てもこれなのだ、脱いだら一体どんな尻が現れるのだろう、という想像を抱かざるを得ないのだ。
そうこうしているうちに、彼女が目の前の角を右に曲がる。マサシもそれを追いかけ、少しだけ距離を置いて、同じ角を右へ。
「ウフッ♪」
「う、うわぁっ!!」
――その角を曲がったところで、彼はあやうくぶつかりそうになった。そこで待ち構えていた、黒髪の彼女に。
「えっ、な、なな、なんで――」
慌てふためくマサシ。
それを見て、彼女はあのときと同じ妖艶な笑みを浮かべる。
「電車から私のこと、ずっとつけてたでしょ。バレバレよ」
まずい、バレていた。
困惑しながらも状況を理解したマサシは、
「ごっ、ごめんなさいっ!も、もうしませんから――」
と言いながら後ずさりし、一刻も早く立ち去ろうとする。が、
「ちょっと待って」
その彼の腕を、彼女はきゅっと掴んで引き留め、やさしく言った。
「私、藤崎藍子。よろしくね。あなた、私に見とれてついて来ちゃったんでしょ? ウフッ、顔にそう書いてあるもの。……ねぇ、こんなところじゃなんだし、一緒に来ない?静かなところに行きましょう?」
マサシの衝動的な行動は、最初から、藍子とまどかの手の平の上だった。
二人でのデート帰り、彼女達は電車に乗った時点で目配せをしてその日のターゲットを偶然そこに乗り合わせたマサシに決め、わざと彼の前に立った。その時点から、藍子とまどかの間で“ゲーム”がスタートしたのである。
くたびれた様子で、独り身らしい若い男は大抵、本能と性欲に勝てない。彼も案の定、彼女達の誘惑にあっさりと釣られ、電車を降りたところからノコノコとついてきた。
二人の“ゲーム”の本番は、先ほどの十字路の分かれ道から。
わざと襲われやすいような薄暗い道を行き、十字路で二手に分かれる。「彼が自分たちのうちのどちらに着いてくるか」。つまり、そこで男にどちらについて行くかを選ばせて、自分の方へ誘導できた方が勝ちという“ゲーム”を楽しんでいたのである。
今回の勝者は、藍子。“ゲーム”に勝った方はもちろん、今夜、この男を「独り占め」できることになっていた。
そのまま、「秘密基地」のひとつである防音マンションの一室に連れられたマサシは、天国から一気に地獄へと突き落とされた。
ストーキングした美女に逆ナンされたと思ったら、始まったのは地獄のおなら責め。訳が分からず、状況についていけず……、しかし彼は、最悪の現実を、ただ本当の現実として受け入れなければならなかった。
ひと通りの「前準備」でマサシを屈服させた藍子は、拘束した彼を仰向けに寝かせると、クローゼットの中から大きな段ボール箱を引きずり出した。
そこに入っているのは、藍子が政策した非人道的なおなら責めアイテムのひとつ。長辺が1.5メートルほど、横長の大きなアクリルケース、通称『スケスケ棺桶型ガス室』(まどか命名)である。
「あなた勘がよさそうだし、もう何されるか分かったんじゃない?」
藍子はそう言いながら、その直方体のアイテムを床に置き、跳ね上げ式のドア状になったケースの一側面を開く。体の自由が効かないマサシの膝を曲げ、横からケースの中へと押し込む。彼の体がぴったりと収まった状態で、藍子は側面を閉め、パチン、パチンと4箇所、ロックで密閉しさらに南京錠を掛けた。
それはまさしく透明な棺桶。開閉可能なドアの縁に貼られたゴムパッキンで気密性を高めたそのボックスに入れば、何が始まろうとしているのか、嫌でも理解できる。
「あ、ああぁ……」
「フフッ、分かったみたいね。そうよ、この箱、ここに穴が空いてるの。――私のお尻がぴったりハマるサイズの穴がね♪」
「ヒッ、ヒィイイーーィッッ!!!?」
藍子が言った穴は、ボックスの上面、中に人が入った状態だとちょうど彼の胸の上あたりに空けられていた。かなり大きな穴だ。箱の長手方向は膝を折りたたまなければ人が入らないくらい手狭である一方、横幅には比較的余裕があるのは、上面にこの大きさの穴を空けなければならなかったためだろう。
だが、その大きな穴も、藍子にとってはジャストサイズ、いや、やや小さめですらあった。
彼女はボックスを跨いで上に座り、スキニージーンズを脱いで現れた特大巨尻を窮屈そうに穴へ押し込む。
「やだ、またお肉ついたのかしら。この穴広げるのも結構面倒なのよねぇ……」
などと独りごちながら、両手で尻肉を左右からむぎゅっと押し潰し、無理矢理穴へとねじ込む。なんとか押し込めたところで手を離すと、尻肉はみちみちのぎちぎちに穴にハマり、一切の隙間を塞いでしまった。
ボックスの中にいるマサシにとっては、藍子の臀部だけが、ずどおぉっ、と突き出された状態。だが、既に彼女の本性を知らされている彼に興奮など生じるはずがない。箱の上に座り、見下ろすとちょうどマサシの顔と向き合うような格好の藍子。彼の表情一杯に浮かんだ恐怖の色を認め、彼女はにんまりと微笑む。
「この箱の気密性は完璧。さて、そんな状態で私がおならしたらどうなっちゃうでしょう? ……クスッ、小学生でも分かるわね。箱の中がね、ガス室になっちゃうの♪」
「ヒ、や、やめ………」
「さっき嗅がせたおならも臭かった?でも、さっきは部屋の中で嗅がせたから、臭いは拡散して時間が経てば薄くなったでしょ? いくら私のおならが並外れて濃くても、広い部屋で出したら時間がそれを薄めてくれるし、外へも逃げていく。でもこの箱は違う。出せば出すほど中の臭いは濃くなり続けて、いくら待っても薄まることもない。私がお尻を抜かない限り、永遠に薄まらないおならの中で、あなたは徹底的に燻されて、おなら燻製になっちゃうのよ、ウフッ」
「ひぎッ、や、やだッ、やめてぐだじゃい……ッッ!!!」
「フフッ、いい表情。その調子で怯えきった顔、見せてね? そのために箱はスケルトンで作ってあるし、穴だってこの位置に空けてあるんだから。顔の真上にお尻がくるようにした方が直接ガスを吹きかけられるけど、それじゃ顔がよく見えなくなるもの。こんな狭い箱だったら、どこからお尻を入れようが、あっという間にガスで満たされて変わりないしね」
「ひぎッ、ぎ、ぐずッ、ひっぐ……ッ」
もはや何も隠し立てしない藍子を前にして、彼女の中にはもう「中止」という選択肢は残っていないことを悟り、マサシは泣き出すしかなかった。
真性サディストの藍子にとってはたまらないシチュエーション。恐怖と絶望に満ちた男の顔は藍子の大好物。思わず舌舐めずりしそうになるのをぐっと我慢して――処刑開始を宣告する。
「――じゃあ、出すわね♪」
ぶっっずうううううぅうううーーーーーぅううーーーーぅううぅううううっっ!!!!!
「あッあがあぁあああッッ!!!ぐじゃいぃぃいいいぃぃッッ!!!!!」
そしてそれが放たれた瞬間、彼の顔に浮かぶのは恐怖ではなく、苦悶に変わる。
さっきまで嗅がせていた、彼に現実を教え手懐けるための「お遊び」の放屁とは違う。彼女の言った通り、顔面に直接吹きかけられたわけでもないのに、一瞬にしてボックスの内部の空気が硫黄臭に変わる。人体で生成されたとは信じがたい濃度のガスが、完全密室のガス室に籠もる。異常体質者でなければ、これを耐えることは不可能だ。
「……フフフッ」
だがこれも序の口の一発目。さぁこれからもっと苦しめてあげる。そう思って藍子が微笑んでいると、脱いで床に置いていたジーンズのポケットでスマホが鳴った。この着信メロディは、まどかだ。
手を伸ばしてスマホを取ると、まどかからのメッセージが届いていた。
『藍子ちゃんやってる〜?』
どうやら彼女の方は家に着いて、暇になって送ってきてしまったらしい。
やれやれ、まったくあの子は。そう思いながらも、藍子はまどかにテレビ通話をかける。
「あっ、藍子ちゃ〜ん!やっほー!」
ツーコールで通話に出たまどかは、既に部屋着に着替え、ベッドの上で寝転がっているらしかった。元気に手を振った後、唇を突き出し、ちゅっと音を立てる。藍子もそれに従って唇を鳴らした。画面越しにキスを交換するのがテレビ通話をするときの二人の挨拶だ。
「早速やってるの?」
「やってるわよ、ほら」
藍子はそう言って、箱の中のマサシにカメラを向ける。そのシチュエーション、表情、叫び声から、画面越しでも既におなら責めがスタートしていることはまどかに伝わっただろう。
「あ〜!『スケスケ棺桶型ガス室』使ってるぅ!いいなぁ、羨ましいなぁ」
「フフ、残念、今日の“ゲーム”は私が勝ったんだから、私が独り占めよ」
「違う違う〜!おなら責めできるのも羨ましいけど、箱の中で藍ちゃんのおなら嗅げるお兄さんが羨ましいってこと!私がそこに入って、藍ちゃんスペシャルで燻製になりたいよぉ、エヘヘ」
「……そんなこと望むのは、地球上でまどかだけだろうけどね。んっ」
ぼふぉおぉおぉおおぉおーーーぉおーーーーーぉおおぉおおぉおっっ!!!!!
「ふぎゃあぁあッッ!!やめでええぇええぇえええッッ!!!!!」
軽い気張り声と共に放たれた野太い一発は、量、濃度ともに先ほどの一発目を凌駕している。
涙を振りまいて「やめて」と叫ぶマサシをカメラで写しながら、藍子は、
「ほらね」
と言って軽く笑う。
一方のまどかは画面の向こうでぱぁっと表情を明るくして、
「あ〜ん、いいないいな〜!ね、藍ちゃん、もっとスマホ近づけて?藍ちゃんのおならもっと近くで聞きたいの!」
とせがむ。
「はいはい」
藍子は呆れ顔を見せながら、スマホに二叉に分岐した小型マイクを接続し、片方を尻の近くに設置する。そうしてもう片方を自分の耳に引っ掛けて、
「これで話し声もおならの音もよく聞こえるでしょ」
と言いながら、
ぶしゅッ!!!ぶぶふぁあぁあぁあぁああぁーーーーぁあああぁあッッ!!!!!
と放屁。
泣き叫ぶマサシを余所に、まどかは自宅のベッドで満足げに何度も頷いた。
「うんうん、藍ちゃんのおなら素敵だよぉ。くっさい臭いも伝わってきそう……っ。ホントに臭いもスマホ越しに嗅げたらいいのにな〜。そしたら思いっきりくんくんできるのに〜」
「ウフフ、それは現代の技術じゃ無理そうね。もしもできても私達のおならの臭いを転送するのなんて、絶対キャパオーバーじゃない」
「アハハッ!そうかも〜!」
冗談を言い合う二人。こんなことを言っている藍子本人にも、彼女自身が出したおならの臭いはほとんどと言って良いほど届いていない。ガスが全てボックスの中に放たれ、少したりとも外に漏れ出ていないことの証拠である。
次々に追加され、どんどん臭くなっていく空間。そこに閉じ込められたマサシは、
「やだッ、も、もうぐざぐじないでッッ、お、お願いじまずぅぅッッ!!!!」
「――って言ってるよ?どうするの、藍子ちゃん?」
「それはもちろん……、もっと臭くしてあげるのよ♪」
ふしゅうぅううううーーーーーぅううううーーーぅうううううぅううううぅうっっ!!!!!!
「ぃあッッ!!!?ぇげええぇええぇえええッッ!!!?!?
ぐッッぐぜえぇえぇえぇーーーーーーーぇええぇえええぇッッ!!!!?」
藍子が画面の向こうのまどかに軽くウインクしてから放った一発は、明らかにギアをひとつ上げた、それまでと比べても別格の一発だった。
それは、箱の中のマサシの反応からもよく見て取れる。完全拘束されている肩より下を必死にモゾモゾと動かし身悶える。辛うじて自由の効く首をブンブンと振って少しでも臭いを顔の周りから払おうともしているが、狭い容積内すべてが一瞬でガスに満たされてしまうため、ただ箱の中の空気をかき混ぜるだけで何の効果もない。絶望しきった彼は、唯一、最大限の自由が許されていると言えるであろう口で、必死に叫び、助けを乞う。
「あッ開げでッ!!は、箱の蓋ッ、開げでぐだじゃいッッ!!!!
助げッ、もう許じでッッ!!!!ぐじゃいんでずぅうぅうッッ!!!!!」
……もっとも、この防音室内で男の決死の声を聞いて楽しむために、あえて彼の口は塞がれていないのだから、それはただ藍子を心から楽しませるという結果しか生まない。
藍子はもう堪えきれないというように口を隠して上品にクスクスッと、まどかはスマホ越しにそれを見ながらお腹を抱えて笑っている。
「アハハッ!超叫んでる〜!藍ちゃんのすかしっ屁どんだけ臭いのぉ〜?」
「さぁねぇ、全部この箱の中に出してるから、私にもよくわからないわ、クスッ」
むっっすううぅううぅうぅうぅうーーーーーぅうぅうーーーーーぅうぅううぅっっ!!!!!
「あがッ、やだあああぁぁあぁぁーーーーぁあぁああぁああッッ!!!!!
ぐざいぃッ!!おならぐじゃいいいぃいいッッ!!!!!
ぐじゃいのやめでええぇええーーーーーーーぇええぇえええッッ!!!!!」
「うわ〜!今の音、絶対超臭いやつだ〜!」
「ウフフッ、凄い暴れてる。どうやら相当臭かったみたい」
「アハッ、お兄さんかわいそ〜。『スケスケガス室』でじわじわ藍子ちゃんのすかしっ屁漬けなんて、絶対頭狂っちゃうよぉ。あの十字路で私の方を選んでおけばこんなことにはならなかったのにね〜」
「まったく、よく言うわ。“ゲーム”に勝ったらあんなことこんなことさせるって嬉しそうに話してたくせに」
藍子はそう言って苦笑すると、箱の中で泣き喚くマサシのことをちらりと一瞥し、続けた。
「それに、確かに間違いなくそのうち気が狂うと思うけど、別にいいじゃない。どうせ最後には殺しちゃうんだから」
彼女達の会話はマサシの耳にも届いている。当然の今の藍子の発言も。
内心、分かってはいた。最後に自分がどうなってしまうのか、は。だが、こうして改めて、彼の命の行方を握っている藍子の口からその言葉を聞かされると――
「ヒッッ、こ、殺――ッ、や、やめ、やべで、ぐだざ――」
「ん?なぁに?よく聞こえないわ」
「ゆ、ゆゆ、許じでッ!!こッ殺さないでぐだじゃひッッ!!もう、もうやめで……ッッ!!!」
そのマサシの泣き面を見た藍子は、もう我慢できず、にまぁっと悪魔のように笑うと、ぺろっと舌を出して唇を舐める。
「そう、死にたくないの。ならもっと気持ちを込めてお願いしなさい?一生懸命お願いできたら、私の気も変わるかもしれないわよ?」
「あッお、お願いじまずッ!!もうやめでぐだじゃいッッ!!許じでぐだじゃいぃいッッ!!!」
「……クスッ」
ぼふぉぉおおおぉおおぉーーーーーーぉおおおーーーーーぉおぉおおぉおおっっ!!!!!
「ぎにゃああぁぁあああああッッ!!!!許じでええぇえええッッ!!!!!」
「全然誠意が足りないわ。もっと心を込めてお願いするの。そうしないとくっさ〜いおならで殺しちゃうわよ?」
意地悪く、冷淡に言う藍子だが、その頬は赤みを帯び、吐息も徐々に熱を帯びている。興奮しているのだ。男を圧倒し、恐怖・絶望させ、苦悶させて、泣きながら必死に謝らせている、そこに容赦なく放屁を追加しているというこの状況に。
一方で、興奮を隠しきれない人物が、もう一人。
「……ごめん、藍子ちゃん、そろそろ電話、切るね?」
「あら、まどか、もういいの?」
しばらくマサシの必死な顔つきを眺めていた藍子がテレビ通話画面の方に目を戻すと、まどかの方も、とろんと目尻を下げて息を荒らげていた。右手で自分の乳房を触り、左手は部屋着のズボンに突っ込んで秘部をまさぐっているらしい。
「うん、なんだかドSモードに入った藍ちゃんのおならの音聞いてたら、私もカラダ、熱くなってきちゃった……。今日デートしてるときもね、藍ちゃんと手繋いだだけでドキドキして、おっぱい張ってきちゃったし……。なんだかもう我慢できそうにないの……♪」
「ウフフッ、ホントにエッチねぇ、まどかは」
「藍ちゃんが綺麗で素敵なのが悪いんだよぉ。ね、今日は藍ちゃんのおなら想像しながらオナニーしてもいい?」
「好きにしなさい、ヘンタイさん」
「エヘッ、はぁい♪ それじゃあね、藍ちゃん、お兄さんの独り占め、楽しんでね」
「存分に楽しませてもらうわ。まどか、また明日」
「うん、バイバ〜イ!」
火照った笑顔で手を振るまどかが写っていた画面が消え、『通話終了』の文字が表示される。
そして藍子はスマホを置くと、箱の中では腐卵臭に苦しみながら必死に謝罪と懇願を続けるマサシに、妖艶で優しい微笑みを向けるのだった――
「ほら、もっと声張らないと助からないわよ。もうこれ以上中の空気、卵臭くされたくないでしょう?ウフッ♪」
「………ふぅ……」
藍子がひとつ溜め息をつくと、室内にはしんとした静寂が訪れた。
箱の中から、泣き喚いていた大声はもう聞こえない。マサシは充血した白目を剥き、半開きの口から泡を吹いたままぐったりして、もう痙攣すらする様子はない――
最後の最後まで、藍子の優しげな言葉だけを頼りに、必死で懇願すれば助けてもらえるかもしれないと叫び続けたマサシ。叫んでも叫んでも箱の中に注がれる卵っ屁。それでも彼がすがれるのは藍子の良心だけだった。
「お願いでずッッ!!!お願いじまじゅぅううッッ!!!!
助げでッッ、もう臭いの嗅げまじぇんッッ!!!ごめんなざいッッ!!!!
命だげはッッ!!!死にだぐないッッ!!!!許じでぇええぇッッ!!!!!」
これ以上はない、声を振り絞っての心の叫びに、藍子はふと目を閉じ、
「そうねぇ、確かにここまで必死な姿見せられると、殺すのもなんだか可哀想になってくるわね……」
と小さく言った。
「あぁあッ!!じゃ、じゃあ――ッ!!」
それが聞こえたマサシの顔に希望の光が戻ったのは――ほんの一瞬だけ。
「……でもやっぱり駄ぁ目♪」
ぷっっっすううぅううーーーぅぅぅうぁぁああぁぁーーーーぁぁああぁぁああぁぁあ………っっ!!!!!
「ひぎゃあああぁあぁああぁああああッッ!!!!!
なんでえええぇえぇええぇえぇッッ!!!!!」
最後のとっておきはは、やはりすかしっ屁だった。
こうして藍子は、最後まで希望にすがりつかせたマサシに特濃腐卵すかしっ屁でトドメを刺すと、命枯れるまで叫んで動かなくなった彼の表情の変化を見て背筋をゾクゾクさせながら、
「ウフフフッ♪やっぱり命乞いする男をスカシで地獄に突き落とすのって最っ高♪」
と呟いたのだった。
「……さてと」
たっぷり余韻に浸った後、藍子は穴に押し込んでいた巨尻をまた手でぶにゅっと押し潰し、強引に引っ張り出すようにして立ち上がる。
その瞬間、「藍子の尻」という大きな大きな蓋が取り外され、行き場を失った高濃度卵ガスがもっふぁあぁぁっ、と箱の外に溢れ出す。
「うッ」
反射的に手で鼻を覆った藍子は、自分の人間離れしたガスを改めて実感してつつ、
「まどかならこの臭いでも『最高だよぉ〜』とか言いながら穴に頭突っ込んじゃうんでしょうけどね……」
と独り言を言って苦笑する。
――あの子も今頃一人で耽ってるのかしら。
そんな想像すると、藍子の秘部もキュンッと熱くなる。
――やれやれ、これじゃあ私も他人のこと言えないヘンタイね。
そう思いながら、彼女は箱の中の亡骸を処理するための薬剤の用意を始めるのだった。
ぶッ!!ぶぷすッ!!びぶぶッ!!!
「…はぁ…はぁ……、…ん…っ、…藍子ちゃん……っ」
カーテンを閉め、電気を消した自宅の部屋。
まどかは、ベッドの上で俯せになり、枕に顔を埋めながら、くちゅ、くちゅ、と右手で自分の秘部を指で刺激する。
一方の左手は、パンティを下ろしてぷりんっと剥き出しになった生尻の前。小刻みに放屁を繰り返すと、そのガスをぎゅっと握り込んで自分の顔まで持ってきて、鼻にあてて
「スゥ〜〜〜……ッ」
と大きく深呼吸。
「……くっさぁ……。…でも藍子ちゃんのおならは、もっと素敵な臭いなんだろうなぁ……。…はぁ…ぁあん……っ」
ぶぶすぅッ!!ばふッ!!ぼすッ!!
「スゥ〜〜……ッ、…はぁ…はぁ…はぁ……、…ぁあ…、…藍子ちゃん…、…藍子ちゃん………っ!」
その晩、彼女にしかできない握りっ屁オナニーに耽るまどかの部屋からは、日を跨いでも彼女の艶めかしい喘ぎ声が聞こえ続けていた――