――もっとも、そんな二人の関係がターゲットの男に説明されることはあまり多くない。
 これから殺す男に、どうしてそんなことを教える必要があるだろう?二人の体質、二人の関係、二人の愛は、二人だけが知っていれば十分。それが藍子とまどかの考え。それ故、大抵の犠牲者はこの二人の異常性にひたすら恐怖したまま、訳も分からないうちに臭殺されてしまう。
 今回の盗撮男も、その例外ではなかった。
「……まどか、おなら嗅ぐのも良いけど、あの男のこと忘れてない?」
「スゥ〜〜、はぁ〜〜っ。大丈夫、忘れてないよぉ。ただちょっと藍ちゃんのおならに夢中になっちゃっただけ!」
 藍子に問われてそう答えると、まどかは藍子の豊かすぎる尻たぶにチュッと軽くキスして立ち上がる。それに続いて藍子もソファから下り、二人揃ってゆっくりと床に突っ伏してゲェゲェという嗚咽を繰り返し出している男のもとに歩み寄る。
「ヒ…ヒィ………」
 二人の姿は、男の目にはもう元の美女としては映らない。異常な化け物。男は怯えながら後ずさりしようとするが、手足の拘束のせいで思うように体が動かせず、芋虫のようにモゾモゾと動くだけ。その彼を見下ろすように立つ藍子とまどか。男の位置からは二人のスカートの中が丸見えだろうが、彼にそんな余裕は残されていない。
「言うまでもないと思うけど、“ゲーム”はあなたの負けよ。残念でした」
「っていうかぁ〜、おじさん、藍ちゃんがせっかくあんなに素敵なおならしてくれたのに『オエー』は失礼なんじゃないの〜?」
 そう言って、まどかは男の髪の毛をむんずと掴み、そのまま彼の体を片手で吊り上げる。ブチブチッと何本かの髪の毛が抜ける音がしてもお構いなし。まどかのゆるふわな声、外見とは裏腹な腕力と暴力的な行動に動揺しつつ、男は半泣きになりながら、
すッ、すびませんッ!!ごめんなさいッ!!ごめんなさいッッ!!!
とひたすらに謝罪を繰り返す。
 が、ここまで来たらその謝罪が受け入れられるわけがない。いや、モールで二人を盗撮し始めた時点から、彼の運命は決まっていたのである。
「だ〜め!許しませ〜ん!私からもおならプ〜でお仕置きね!」
 理解したくもないその言葉の意味を男の頭が理解するよりも前に、まどかはくるっと身を翻し、掴んだ男の頭を自分の尻の前に持ってくると、「ん♪」と小さく、可愛らしく気張る――

ぶぅううッばあああぁああああぁーーーーーぁああぁーーーーーーぁああああッッ!!!!!

 ――そうして放たれたのは、「可愛らしい」とはほど遠い豪快な爆音っ屁。

ふぐぎひぃいッ!!!?ぐじゃああぁああああぁあああッッ!!!!!

 藍子の腐卵ガスとはまた違った種類の、しかし不快指数のメーターが振り切れているという点では見事に共通した「おなら臭」。それを顔面にモロに食らってしまったのだ。当然の絶叫をあげて首をガクガクと動かす男。
 彼の顔に浮かぶのは、絶望。驚きはもうない。二人が「異常」なことは身をもって理解した。その上で、藍子だけではなくまどかもまた、超人的濃度の屁を放つのだという事実に、彼は絶望する他ない。彼の両目からは、ボロボロと涙が溢れていた。
 目をギョロリと見開いて泣きながら悶える男の頭から手を離し、床に崩れ落ちてのたうちまわる彼の姿を見下ろしながら、まどかは変わらずニコニコとした笑顔を見せ続ける。その隣で藍子は、ニヤけつつもわざとらしく顔をしかめ、顔の前でぱたぱたと手の平を振る素振りを見せた。
「やだ、全然『プ〜』って音じゃないじゃない」
「藍ちゃんみたいにぶりっこじゃないからね〜、私」
「もう、そのネタ引っ張らないでよね、フフッ。 それに臭いも強烈。まったく、昨日何食べたの?」
「テヘッ、豚骨ラーメンに餃子セット♪」
 ぺろっと舌を出したまどかの答えも、この臭いからすれば納得だった。ムモワアッと重く包み込むような腐卵臭だった藍子のガスに比べて、まどかの尻から放たれたのはグサッと突き刺さるような刺激的な悪臭だった。色濃く含まれたニンニク臭は、間違いなく昨夜の美味しい餃子がまどかの体内で変貌した成分だろう。
 藍子が足元に目をやると、まどかがフレンチローファーの爪先で男の額のあたりをグリグリと踏みつけていた。彼女のニンニクガスの残り香がはっきりと漂う中で、藍子は面白半分、呆れ半分といった表情を浮かべる。
「ホント、まどかは遠慮ってものを知らないんだから」
「むぅ、藍子ちゃんだって、ぶぼお〜!ってぶっとい音の出したじゃん!」
「それはまどかに唆されたからよ。初めはちゃんと控えめなのから始めたでしょ?」
 藍子はその場にしゃがむと、これまでに経験したことがない最悪の放屁を連続で嗅がされ憔悴する男の顔を、憐れむように見つめる。
「それでもおじさんは『くっせぇ〜!』って死にそうになってたけどね、アハハッ」
「それはコイツの問題だから関係ないの。まったく、私の慎ましい性格を見習ってほしいわ」
 そう言ってから、藍子はしゃがんだまま、何の前触れもなくクイッと腰を動かして彼の顔にご自慢の爆裂ヒップを向ける。素早くスカートを捲りながら、男に顔色を見られない位置で彼女が口元だけでにやっと意地悪な笑みを作った瞬間、

むふすううぅうううぅうぅーーーぅうぅううぅーーーーーぅうぅううううぅっっ!!!!!

 無音に近い放出音と共に、男の顔面に襲いかかったのは、肌に触れた瞬間「ヤバイ」と分かる熱風。

はひぎッ!!!?いぃいいいぃいいッッ!!!!!
うぎゃあああぁああぁあーーーーーぁぁあぁあああッッ!!!!!

 一段と大きく響き渡る絶望的絶叫。
 彼の反応から、今の一発が今日の彼にとっての“最臭記録”であったことが伝わってくる。「臭すぎる、こんなに臭いものがあるのだろうか、こんなの世界最悪の臭いだ」。それまでの二人の放屁をそう感じて来た彼の“最臭記録”を、藍子は油断させてからの唐突なすかしっ屁で軽々と記録更新してみせたのだ。
「ウフフッ」
と勝ち誇った笑みで鼻を鳴らすと、立ち上がり、スカートの形を整えるように軽く尻のあたりを払う藍子。
 その彼女を見ながら、まどかは堪えきれないと言うように顔をほころばせて笑う。
「アハハッ、ちょっと藍ちゃん、今の話の流れでその激ヤバなスカシする〜?」
「フフッ、見習ってほしいなんて、もちろん冗談よ。男相手に遠慮なんてする必要ないし、私は遠慮なんてしないまどかが好きなんだから」
「もぉ〜、藍ちゃんったら♪」
 照れたように藍子にぽんと軽く触れるまどか。イチャつく二人の足元で、藍子の重厚なすかしっ屁を直撃して苦しみもがく男。
 二人は、彼の呼吸、体の動きが変化してきたのに気づいた。

ぐげへッ、ごぶッ、ぅ、ぅぐげえぇええッッ、コヒュー……ッ、コヒュー……ッ

 白目を剥き、全身をブルッ、ブルッ、と秒周期で痙攣させながら、いかにも正常ならざる呼吸音を立てている。もちろん、藍子もまどかも慣れたもの。この動きの特徴が何を示しているかはよく分かっている。人体の限界反応。つまり、瀕死――命の火が消えそうな合図である。
 そんな男の顔を、まどかと藍子は揃って足で踏みつける。
「え〜、もう死んじゃいそうなの?早過ぎぃ〜」
「フフッ、ちょっとハイペースすぎたかしら」
 右頬をまどかのローファーの靴底が踏みにじり、左頬に藍子のパンプスのヒールが突き刺さる。それでも彼は白目のまま、うわ言と嗚咽が混ざった奇声をあげながら震え続ける。――ああ、これはもう駄目だ。これを見て二人はそう判断した。
「やっぱり、まどかの豚骨餃子ガスが臭すぎたんじゃない? まどかのおなら嗅いだ瞬間、コイツ泣いてたし」
「えぇ〜?絶対藍子ちゃんのすかしっ屁のせいだよぉ。だっておじさん、すかしっ屁嗅がされて殺虫剤かけられた芋虫みたいになってたもん!」
 茶化し合う二人だが、始めからハイペースな二人がかりの責めが、男の体力と精神力をゴリゴリと削り去った結果であるということは、経験豊富な彼女達にはよく分かっていた。
 こうなったらもう“遊び”は締めに入る。
「ねぇ藍ちゃん、今日は私がやっていい?」
「ま、いいわよ。今回はまどかのことを盗撮したのを捕まえてきたわけだしね」
「やった♪ありがと♪」
 そんな会話の後、まどかはすぐに動く。
 足で男の体をげしげしと蹴って彼を仰向けの姿勢に寝かせると、その頭を跨ぐように仁王立ちする。男の視線の真上にあれほど必死に盗撮をしたまどかのミニスカートの中身が見えているわけだが、たとえ目にそれが映ったとしても、彼が興奮を感じることはあり得ないだろう。
「おーじさんっ、私のパンツとムッチムチなお尻だよ〜ん、ほらほら!」
 そのままゆっくりと腰を落とすと、まどかの丸々とした尻がじわり、じわりと男の顔に向かう。そして顔面からの距離数センチ、まどかのパンティに染み付いた先ほどの餃子っ屁の残り香を感じたのか、朦朧とした意識の中、男が顔をしかめて顔を背けようとした瞬間――それを逃すまいと、まどかは一気にお尻を振り落とした。
 どすんっ。むっぎゅうぅぅっ。
ぐぐむぅッッ!!!!
 決まってしまった顔面騎乗。くぐもった声をあげる男。だが、もう彼に逃げる策は一切残されていない。
「夢にまで見た私のお尻に敷いてもらえて幸せでしょ? エヘッ、じゃっ、おじさん、お・や・す・み♪」
 そう言ってニッコリと笑うまどかの表情は、まさしく天使そのものだった――

ぶびびりゅッッ!!!びぶぶッぶりぶりぶりりぃいッッ!!!!
ぶぢゅぶびびぶりぶりゅぅぃいぃいぃぃいーーーーーーーーぃいぃいいいッッッ!!!!!!

ぐッッ!!?!?ごぼもッッ!!!?!?
ごもぎゃああぁああぁあぁーーーーーぁあぁあぁぁあぁあッッッ!!!!!!

 ――しかし響き渡った音は、純真無垢なまどかの笑顔からはかけ離れた下品な重低音の爆音。
 そして、肛門の襞を大量の震わせた湿っぽい爆音にかき消されそうになりながらも、まどかの分厚い尻肉の下で残る体力を振り絞って悲鳴をあげる哀れな男。
 もっとも、そんなこの日一番の大絶叫も、まどかの下品なジューシー豚骨餃子っ屁が止まるよりも前に徐々に減衰し……、暴れる彼の体の動きが完全に静止したのと同時に、ピタリと止んでしまった。
 長くド派手な放屁を終えたまどかは、スッキリ感と征服感による至高の快感で頬をにへぇっと緩めながら、男の顔にどっしりと巨尻を下ろしたまま、体をぷるぷるぷるっと震わせ、大きく溜息をついた。
「ふぅ〜〜っ、やっぱり最高ぉ♪ お尻に響く男の断末魔も、お尻の下で男の息の根が止まる瞬間も、このカイカン、他の何にも代えられないよねぇ〜♪」
 幸福に満ちたまどかは、美味しいパフェを楽しむ女子大生と何ら変わらない。その様子だけを見れば、一人の男を超激臭放屁で葬っての表情とは思えない。
 そんなまどかのそばに立つ藍子は、片手で鼻のあたりを抑えながら、可笑しくて仕方ないというように肩を小刻みに震わせていた。
「クスッ、フ、フフッ、ちょっとまどかぁ、最後の最後にそんな凄い音? ウフフフッ、ああ可笑しい!」
 最後のトドメの最中は話しかけないのがお互いの暗黙の了解。まどかの尻の下で男が確実に果てたそのタイミングで、藍子は笑いを堪えきれなくなってそう言った。
 それに対して、まどかもぺろっと舌の先を出して、つられたように笑って見せる。
「テヘヘッ、おじさんがこっそり盗撮してた可愛い女の子のお尻からも、こ〜んな音のおならが出るんだよって教えてあげようかと思ってぇ、な〜んて」
「ま、教えても次の瞬間にはすぐ死んじゃったけどね、クスクスッ」
「でもさぁ〜、今のおならプ〜は一回死んで生まれ変わっても忘れないでしょ〜、きっと!」
「フフッ、確かに来世まで染み付くレベルの音とニンニク臭ね、これは」
「でしょでしょ? 来世のおじさん、生まれつき女の子のおならにトラウマ抱えてるとか可哀想〜、アハッ!」
 そこでまどかは、ようやく男の顔から尻をあげる。
 もわぁっ、という残り香が広がる。冗談を言い合って笑う二人の下で、男は冗談では済まない濃さの豚骨餃子ガスを浴び、冗談では済まない断末魔をあげながら、顔面をグニャリと歪ませて絶命していた……

「――さてと、後片付けね」
 盗撮男の処刑がまどかの屁によって執行されてから、数分。
 まだ二人の興奮冷めやらぬ中でも、藍子はそう言ってハンドバッグの中から銀色のケースを取り出す。
 その中に収められていたのは、小型の注射器。――これが、藍子とまどか、二人の異常性癖殺人狂が数えきれないほどの罪を犯しておきながら、堂々と社会で暮らしていられる理由である。
 藍子は、おなら責めの性的嗜好を持つと同時に、中学生の頃から製薬学に興味と天性の才能を抱いていた。ほとんど独学で知識を身につけ、人目を忍んで材料となる化学物質を仕入れて研究の月日を重ねた彼女によって、いくつもの「死因偽装薬物」が生み出された。
 放屁責めによって絶命した男には、外傷が残らない。その死体に藍子特製の薬物を注射することで、見た目の上での死因を偽装操作する。
 藍子による死因偽装は、警察の科学捜査部隊でも司法解剖でも見破ることは不可能。注射痕が目立ちにくい特殊な注射器を使うため、自然死に偽装された遺体がそこまで調べられないということも合間って、薬物が注射されたことすら判明しない。
 今日投与されたのは、「急性心筋梗塞」による死亡に偽装する薬。
 男の亡骸は、真夜中になってから彼の車まで運ばれ、人通りが全くない田舎道まで移動した後に運転席に放置される。
 それが発見されるのは翌朝。こうして、「まどかの激臭放屁によるショック死」をした男は、「運転中、激しい胸の痛みに襲われて車を停めたがそのまま急性心筋梗塞で力尽きた」と見なされ、このような人気のない通りになぜやって来たのか、という少々の疑問は残されながらも、そう暇ではない警察によって「事件性なし」として処理されるのである。
 薬物の投与を終え、注射器をしまった藍子とまどかは互いに顔を見合わせて不敵に微笑む。
「ふぅ、これで盗撮犯の成敗完了っ!いいことした後は気持ち良いね、エヘッ!」
「ホント、よく言うわ、あれだけ下品なおならで地獄見せておきながら……」
「それ、藍子ちゃんだって人のこと言えないよ〜」
「フフッ、確かに」
 美女二人の足下に転がる男の亡骸。「地獄を見た」ような彼のおぞましい表情は、この後藍子の手によって「ごく自然な死に顔」に作り変えられるのである……

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