藍子がハンドバッグから取り出したのは、女子大生の携帯品としてはおおよそ似つかわしくない、手錠と足枷だった。それも、おもちゃ紛いの安物ではない。頑丈で堅牢な本物の拘束具である。
二人は、男に腕を後ろに回させて手錠をかけ、彼の車の後部座席に乗せてから、足にも錠をはめた。こうして彼の肉体的な抵抗を封じてから、まどかは後部座席の男の隣、藍子は運転席に乗り込み、大胆にも彼自身の車で男を拉致した。
「さ〜て、おじさんがどんなの撮ってたのかチェックしちゃおっかな〜」
藍子の運転で目的地へと向かう間、まどかは男の鞄からビデオカメラを取り出し、電源を入れる。弱みを握られた上、手足を拘束されて連れ去られた男に拒否権はない。ぷるぷると肩を震わせる横で、まどかはにっこり微笑みながら、撮影映像を再生する。
「私と藍子ちゃんが買い物してるところから撮られてるぅ。結構画質いいし、おじさん、盗撮初めてじゃないでしょ」
「…は、はい……」
「今までもこうやってショッピングモールで女の子の盗撮してたんだ?」
「は、はい……、す、すみません………」
「撮った動画、どうしてたの? ネットで売るとか?」
「い、いや、う、売ったことは一度もありません、じ、自分で見るだけで……」
「ふ〜ん」
まどかは唇を尖らせながら、エスカレータでのシーンまで映像を早送りする。問題のシーンになって再生ボタンを押し、声をあげた。
「あ〜!やっぱり私のパンツ撮られてる!すごいねぇ、バッチリじゃん。おじさん、なかなか腕良いね」
「………」
黙り込んでしまった男。まどかは再生画面をしげしげと眺めてから、それを隣の男にも見せた。
「ほら。なかなか良く撮れてるよ〜」
「ぁ……ッ」
まさか、盗撮された彼女自身からその映像を見せられることになるとは、男は夢にも思っていなかっただろう。彼がなけなしの給料から大金を叩いて買った、4K高画質の小型ビデオカメラ。その液晶画面には、ついさっき撮影された、まどかのミニスカの中、丸々と大きな尻とそれを包むパープルのパンティがはっきりと映し出されていた。
男は声を詰まらせて固まった。エスカレータのすぐ後ろに立ったからと言って、彼が自身の目でまどかのスカートの中を覗けたわけではない。それを撮られていたのは鞄の中のカメラであって、彼は自宅に帰ってからゆっくりその映像を楽しむつもりでいた。つまり彼自身、その盗撮映像を目にできたのはこれが初めて。男は、今の自分が立たされた危機的な立場の中でも、言葉を失って液晶画面に釘付けになってしまった。
男と一緒に映像を見ながら、まどかは、
「あ、ほらほら、ここ!おじさん、気付いてた? お尻がよく撮れるように、ちょっとサービスしてあげたんだよ、アハッ!」
と言って、映像を少し巻き戻してそのシーンを再度繰り返す。
「あ……ああ………ッ!」
男が「偶然出会えた貴重なシチュエーション」と思っていたその場面も、盗撮に気付いていたまどかの計算の上のものだった。普通に立っているときも小さめのパンティに包まれてその大きさを誇示していた尻。彼女がくいっと腰を後ろに突き出した瞬間、そのヒップサイズはこれでもかと言うほど強調され、パンティは尻肉にみっちりと食い込んで、カメラに向かってその巨尻がずいっ!と向かってくるという完璧なサービスショットが記録されていた。
頭に血がのぼる。男はすぐ隣に座ったまどかの方にチラリと目をやる。少女的なあどけない顔立ちとは対照的なその肉体。こうして間近に座っているとそれがよく分かる。ふんわりとした洋服をも盛り上げる強烈にボリューミーな胸元、ミニスカートの裾から伸びる両脚のむっちりとした肉付きの良い太もも……。そしてスカートの内側にあるのはカメラに映されていたぷりっぷりの巨尻。
太っているという印象をまるで与えないにも関わらず、つくべきところにだけは必要以上の脂肪が乗った極上のわがままボディ。間違いなく、今隣に座っているのは、天賦の容姿と肉体を授かった最高の女であることに改めて気付いた男は、その彼女のスカートの中身が映るカメラの画面を前にして、もう今の状況を忘れるくらいに興奮を隠せなくなっていた。
その男の様子を横目に見るまどか。彼女の心中に渦巻いているのは――その外見からは想像もできないほどに禍々しい本性。
と、そこで、
「そろそろ着くわよ」
と運転席の藍子が声を掛ける。
「ほ〜い!」
返事をしてカメラを仕舞うまどか。そこで男は現実に引き戻される。そうだ。自分は今、どこか知らない場所へと連れ去られてきているのだ。
隣で笑うまどか、ルームミラー越し目を細めて後ろを見る藍子。この二人の手で一体何が始まるのか。この時点の男にはけして想像もできない惨劇が幕を開けようとしていた。
到着したのは、港にある古い工場跡地だった。
工場団地の中でも外れの外れ。周囲には車も人影も一切見られない。一目で今は使われていないことが分かる建物の横に車をつけると、二人は男をおろし、足枷をつけたまま細かい歩幅で歩かせて建物の中へと連れ込んだ。
錆ついた建物に入ると、まどかは扉を締め、内側から大きな南京錠を掛ける。
「あ、あの、ここで何を……」
もしいくら大声を出したとしても、こんな場所では誰にも届かないし助けも来ないだろう。男は怯えた表情で尋ねるが、二人は微笑むだけで何も返さない。
そのまま奥の部屋へと連れられると、その廃工場の一室にはソファやベッド、テーブルが並べられていた。ここは、いくつもある藍子とまどかの「秘密基地」のひとつ。工場団地の従業員が通常の半分ほどになる休日によく使われる場所だった。
手足を拘束したまま男を地べたに座らせると、藍子とまどかは置かれたソファに並んで座る。
「さてと。あなた、自分のしたこと分かってる? 私達が警察に駆け込めば、社会的にも終わりよ?」
「ひ、あ、あの、す、すみませんでした……ッ!も、もうしません、カメラも捨てます、お、お金も少ないですけど出せます、だ、だから、け、警察だけはどうか……」
土下座のように頭を下げて詫びる男。だが彼に対して、まどかは変わらず優しく微笑み続けていた。
「だからぁ、おじさん、気が早いってば。私も藍子ちゃんも慈悲深いの。だからすぐにおじさんを警察に突き出したりなんてしないって」
「……じゃ、じゃあ、一体、何を………」
震えながら頭を上げ、二人を見つめる男。その彼に、藍子は妖しく口元をキュッとつり上げた。
「ウフフ、あなたには今からちょっとした“ゲーム”に挑戦してもらおうと思って」
「げ、ゲーム……?」
「そう。私達とあなたで勝負する“ゲーム”よ」
「もちろんただ遊ぶだけじゃないよ〜。おじさんが勝ったら、その手錠も足枷も外して、ここから解放してあげる!」
「か、解放……?ほ、本当に!?」
「うん、約束する! それだけじゃなくて〜、そうだなぁ、おじさんが盗撮したカメラも、そのまま持ち帰ってもいいってことにしちゃおうかな。ネットで売ったりするつもりもないみたいだし、おうちに帰ったら、好きなだけ私のパンツとお尻見ながらシコシコしちゃっていいよ〜♪」
「……ッ!」
男は息が詰まる。盗撮がバレて、拉致されて、どうなることかと思ったが、そうなれば最高の結末じゃないか。……だが、彼のもちろん脳裏に浮かぶのはもうひとつの可能性。
「あ、あの……、もし、負けたら……?」
おそるおそる尋ねる男に、藍子とまどかは揃って笑みを浮かべる。
「そのときはもちろん、“罰”を受けてもらうわ」
「ば、罰……?」
「アハハッ、大丈夫、“罰”の内容も、“ゲーム”の最中にすぐ分かると思うから!」
気前の良い二人を前にして、男の頭には不安が募る。この状況でも、両手足を拘束された自分に対し、二人が圧倒的に優位なのは変わらない。“ゲーム”と言っても、一体何が始まろうと言うのか……
と、ひと通りの説明を終えたところで、藍子とまどかは互いに顔を見合わせ、
「それじゃあ、早速始めようか、まどか」
「うん、いいよ!」
と言って、どちらからともなく右手を出す。
「じゃんけん、ぽん!」
唐突な二人のじゃんけん。これから行われることは、二人の間ではすっかり意思共有されているらしい。
出した手は、藍子がチョキ、まどかがパー。藍子の勝ち。
「フフ、私の勝ちね」
「エヘ、いいよ、正直私はこの方が嬉しいし! じゃ、おじさん、“ゲーム”の説明するね。今からやるのは、名付けて、『藍子ちゃんのお尻嗅ぎゲーム』で〜す!」
「………え?」
まどかの言葉を聞き、男は目が点になった。お、お尻、嗅ぎ……?聞き間違えだろうか?
だが、きょとんとする男を前にしても、二人は表情を変えずに余裕を見せ続ける。今度は藍子がまどかの言葉を引き継ぎ、説明を続ける。
「ルールは簡単、今からまどかとあなたには、二人同時に私のお尻に顔を近づけて鼻呼吸してもらうわ。勝敗は、私のお尻から先に顔を背けた方の負け。ね?簡単でしょ?」
「ま、待って、い、一体、どういう……」
「ルールに何か疑問でもある?」
「い、いや、ルールの意味は分かったけど、しかし……」
「ルールがわかったなら問題ないね。おじさん、どうする?この“ゲーム”、受ける? ……な〜んて、受けなかったら警察行きのおじさんに選択肢なんてないか」
「そもそも、女の子のスカートの中を盗撮するのが趣味のあなたに、拒否する理由もないわよね」
「…わ、分かった、う、受けます……」
訳がわからないまま、男は二人に頷かされる。さっきから自分の盗撮映像を見せてくれたり、尻の匂いを嗅がせようとしてきたり、この二人、なんなんだ?とんでもない痴女なのか?
目論見はわからないが、男にとっては願っても無い条件だった。合意の上で彼女のお尻に顔を近づけることができる上、“ゲーム”に勝ったら見つかった盗撮は無罪放免で解放される。先に顔を背けたら負け?そんなルールで負けるはずがない。汚い醜男の尻ならまだしも、目の前にいるこの美女の尻の匂いを嗅ぎ続けるなんて楽勝に決まっている。
先ほどはまどかのことを「最高の女」と思った男だったが、もう一人の女、藍子もまた「最高の女」であることに間違いはない。まどかがムチムチ系だとしたら、藍子はスレンダー系の美人。それも一流モデルのような、見た男を一瞬で骨抜きにしてしまうタイプの艶っぽい色気を身にまとった絶世の美女である。まどかと藍子、共にタイプは違うがどちらかを選べと言われたら、それはある意味究極の二択になるだろう。
にんまりと笑う二人の美女。
まどかがソファから立ち上がると、藍子はソファの背もたれの方に向くよう体勢を反転させ、両脚を曲げてソファから尻を突き出。そして膝下丈のスカートをするすると捲り上げる――
「え――ッ!?」
そこから現れたものを見て、男の口からつい声が漏れ出た。
隠されていた藍子の尻。それは、彼の想像を二まわり、いや、三まわりは超えた、とんでもない肉量ボリュームだったのである。
もっともその男の反応は二人には想定内だった。まどかはソファの下の床にしゃがみ込むと、突き出された藍子のヒップを両手でやさしく撫でながら、男の方を向く。
「アハッ、おじさんびっくりしてる〜。まぁそうだよねぇ、藍ちゃんぱっと見痩せてるから、お尻がこ〜んなにおっきいなんて想像できないよね」
ゴクリ。生唾を飲み込む男。心拍数がみるみる上がっていく。まるで南米系の女性のような下半身。まどかの言う通り、痩せ型の藍子からはまるで想像できないが、そのアンバランスさは奇妙という次元を超え、芸術作品のようにさえ見える。
「私も自分のお尻にはそこそこ自信あるけど、藍ちゃんのお尻には敵わないもん。ホントすごいお尻だよね〜」
「ウフッ、もう、くすぐったいからあんまり触らないでよ、まどか」
「だって触り心地も最高なんだも〜ん。ほら、おじさんも早くこっち来て!“ゲーム”、始めるよ!」
まどかに促され、男は不自由な足のままヨロヨロとソファの方に近く。両手を後ろに回しているため手を伸ばすことはできないが、まどかと向かい合うようにしてソファの下に跪き、息を荒らげながら藍子の超弩級な巨尻に顔を近づける。
「言っとくけど、顔近づけるだけで触っちゃダメだからね、おじさん」
「“ゲーム”にあなたが勝ったら、触ってもいいことにしてもいいわよ」
「さ、触……ッ!?」
「アハ、藍子ちゃん優しい〜!」
「ウフフ。……ま、“ゲーム”が終わったときにも触りたいと思っていたら、だけどね」
男の耳には、藍子の不敵な言葉が届いているかどうかも怪しい。
ソファから突き出された藍子の巨尻。そこに左右から顔を近づけるまどかと男。
それを見て、堂々と自慢のヒップを露わにしながら口を開く。
「さて、準備は整ったみたいね。それじゃ、“ゲーム”、スタート♪」
開始の号令に合わせて、まどかと男は、一斉に藍子の尻のすぐそばで鼻呼吸を始めた。
「スゥー……ッ、スゥー……ッ、スゥー……ッ」
見た目のド迫力なエロさだけではない。そこで深呼吸をすると、藍子の体から発せられる女性フェロモンの甘美な香りに頭がクラクラしてくる。これから顔を背ける?まさか。頼まれても背けたくなんてない。
「スゥ〜〜ッ、はぁ〜、エヘヘッ」
まどかの方も男と同じように、藍子の尻を前に大きく深呼吸を繰り返し、頬をほんのり赤く染める。
この“ゲーム”は長期戦になるかもしれない、と男は感じる。だが同時に、いくら長引いても構わない、とも思っていた。その様子は、まさに一心不乱。目の前にある魅力の塊のような巨尻が放つ香りを、肺一杯に吸い込み続ける。
「………ウフフッ」
男の必死な様子を眺め、ほくそ笑む藍子。そして彼女は動く。こんな無様な男に、いつまでも快楽を与え続けるのは馬鹿らしい。さっさと始めよう、この“ゲーム”の本番を――
ぷうぅ〜〜うぅっっ
――音としては小さかった。が、それははっきりと耳に届いた。
明らかに、目の前にある巨尻から響いた高い破裂音。
そして時を置かずして、男が一心に吸い続けていた空気から、甘いフェロモンの香りは掻き消された。