週末の大型商業施設に、すれ違った者を思わず振り向かせてしまうような美しい女子大生の二人組。
休みの日に買い物に訪れた友達。いや、おそらく「親友」と呼んで良い仲の睦まじさに見える。
「可愛いお洋服いっぱいで散財しちゃった〜!藍子ちゃん、ありがとね、今日も付き合ってくれて!」
「どういたしまして。こういうふわふわ系の服、まどかはよく似合うものね」
「そうかなぁ? 藍子ちゃんも着ればいいのに、絶対可愛いよ!」
「やだ、私にはそういうの似合わないってば。それに、私はまどかが着てるのを見る方が好きだから」
藍子と呼ばれたサラサラな黒髪セミロングのクールビューティ、まどかと呼ばれた栗色の巻き髪を頭の上で束ねたプリティフェイス。タイプは正反対だが、二人とも掛け値無しの美女だ。
「ほら、紙袋半分持ってあげる」
「わ、藍ちゃん優しい!大好き♪」
両手に抱えていたショップバッグの片方を渡したまどかは、空いた手を藍子の腕に回してぎゅっと身を寄せる。その光景を見ると、二人の関係はもはや「親友」を越えたものであるようにさえ見える。
そのまま並んで登りエスカレータに乗った二人。その背後に、手提げ鞄を持った一人の男が立つ。
やや俯き気味で、落ち着きなく周囲を伺い、ごそごそと鞄を動かす。
彼のエスカレータの二段先に立っているのはまどか。彼女の膝上ミニスカートをチラリチラリと目で追う男。あくまで自然な動きを装って鞄を前に向ける。……鞄の中、ジッパーの隙間から顔をのぞかせるのは、カメラのレンズだ。
今日、男は元から盗撮目的でこの商業施設を訪れていた。そしてターゲットを探していた彼の目は、洋服屋から出て来た二人組から離れなくなった。
――とんでもなく可愛い。こんな上質なターゲットには滅多に出会えない。
男は胸を高鳴らせ、気づかれないように慎重に距離を取りながら、彼女達のことを尾行した。そして彼女達がエスカレータに乗るという千載一遇のチャンスを逃すまいと、彼女達の真後ろに駆け寄った。
クール系の黒髪美人の方は丈の長いスカートでガードが硬いが、栗毛のカワイイ系の方は逆に警戒心というものがないらしい。相当短いミニスカートを履いているにも関わらず、こうしたエスカレータでも手を後ろに回すなどしてスカートの中を隠す素ぶりもない。盗撮犯にとっては格好のカモである。
「アハハッ、やだ〜なにそれ〜!」
さらにそこで、まどかは藍子が口にしたらしい冗談に対して笑い、お腹を抱えるようなジェスチャーを取った。それはつまり、やや尻を突き出すような格好。真後ろの盗撮犯のカメラには、ただスカートの中身ではなく、尻がプリッと突き出されるという貴重なシチュエーションまでバッチリ記録される。
――撮った、撮ったぞ……!今日は最高にツイてる、とんでもなくラッキーだ……!
男は胸を高鳴らせ、カメラ入りの鞄を持った手が震えないように必死で気持ちを鎮めながら、心の中でそう呟いた。滅多に出会えない美女と遭遇し、その子がガードゆるゆるで容易に盗撮させてくれたばかりか、まさかお尻を突き出すアングルというお宝級のシチュエーションまで収められるなんて。ああ、神様ありがとうございます、と。
……もっとも、1時間後には彼は一気に世界一アンラッキーな男へと堕ち、信仰もしていないあらゆる神に助けを乞うことになる。藍子とまどか、この二人が盗撮犯に気づいていないはずがないのだ。
「………フフッ」
「………エヘッ」
男が鞄の隙間からカメラを回す間、彼女達は一瞬だけ顔を見合わせ、二人の間でだけ分かるようにアイコンタクトを取ってほくそ笑み合っていた。
エスカレータでの盗撮を完了した男は、ほとんど逃げるように彼女達から離れ、急いで駐車場に停めた自分の車へと向かった。
今日の撮れ高はあの子一人だけで十分すぎる。早く車に戻ってカメラを隠し、家に帰って撮影した映像を確認したい。
人気のない駐車場。興奮で鼻息を荒くした彼がキーを取り出し、鍵を開けようとしたその時――
「やっほー、おじさん」
急に声をかけられ、心臓が止まりそうなほど驚いて飛び上がる男。
恐る恐る振り返ると、そこに立っていたのは――さっき盗撮した女子大生二人組だった。
「な、なな、なんなんだ君らは!?」
――なんで?さっき別の方向に向かって行ったはずなのに。
混乱する男とは対照的に、藍子とまどかは余裕たっぷりの表情でゆっくりと彼の方に歩み寄る。
「ちょっと、なんなんだ、は無いんじゃない?」
「そうそう、散々私達のこと付け回して、エスカレータで盗撮までしてたくせにね」
そこで男はようやく気づいた。――バレていた。尾行も盗撮も、何もかも。
「な、な、何を?しょ、証拠は、証拠はあるのか証拠は!」
「証拠なら、おじさんが持ってるでしょ?鞄の中のカメラ、データ見れば動かぬ証拠だよ〜」
動揺し、頭が真っ白になった男。
そこに歩み寄った二人は、車を背にした男を囲むように立つ。そして隙を見た藍子が、男の手から車のキーをさっと奪い取る。
「大丈夫、私達優しいから、すぐ警察に突き出したりなんてしないよ、おじさん♪」
「というわけだから、おとなしく私達について来てもらえる?」
何故だろう。決定的な弱みを握られたとは言え、小娘二人が相手のはずなのに、体が抵抗できない……
へなへなと地面に座り込んでしまった男は、二人に見下ろされながら、力なく頷くしかなかった。