参政から高市氏にネタ変更 選挙で稼ぐYouTuber、思わぬ暗転
衆院選の投開票が近づく中、ネット上には政治系の動画があふれる。中には真偽不明な内容や扇情的な言葉も目立つ。どんな人が動画を作っているのか。動画チャンネルを立ち上げ、月90万円近い収入を得たこともあるという男性がその一端を語った。
「稼げなかったら、やっていませんよ」
匿名の政治系YouTube(ユーチューブ)チャンネルで生計を立てる東京都日野市の男性(39)は淡々と語った。
参院選は「チャンス」 応援チャンネル立ち上げ
投稿を始めたのは昨年5月。自身も支持する参政党の応援チャンネルを立て続けに、二つ立ち上げた。参政党の人気の高まりを感じ、7月の参院選が「チャンス」と考えた。
写真やAI(人工知能)の音声を使い、「有名企業が支持を表明した」「特定の記者の取材を拒否した」といった内容の3~10分の動画を、毎日投稿した。数十万回再生される動画が相次いだ。
すぐに広告収入が入り、参院選を挟んだ3カ月の収益は約220万円に上った。「選挙期間は注目度も高いし、ネタにも困らない。稼ぎ時ですね」と振り返る。
再生数は2億7千万回→17億4千万回
政治系動画の存在感は年々増している。選挙・政治情報サイト「選挙ドットコム」によると、政治系YouTubeの再生回数は2024年10月の衆院選時は2億7千万回だったが、昨年の参院選は17億4千万回に増えた。
男性は小学生の子ども2人と会社員の妻と暮らす。西日本の政令指定都市の市役所職員だったが、自由な時間と収入増を求めて6年前に退職。ネットビジネスのコンサル業などを試したが振るわず、借金を背負った。その中で手を伸ばしたのが、政治系動画だった。
政治系チャンネルを立ち上げ、収益化に成功したYouTuberの男性。育てたチャンネルの売却先も決まり、更なる収入が期待されていました。しかし、1月下旬の衆院選の公示後に思わぬ事態が発生しました。記事の後半では、その詳細をお伝えします。
「高市さん、熱い」 次は首相の動画作り
しかし、参院選が終わり、しばらくすると、再生数が伸び悩んだ。運営する二つのチャンネルのうち、一つは毎月10万~30万円の広告収入が続いたが、もう一つは、数万円に落ち込んだ。
そこで注目したのが、高市早苗首相だった。下がらない内閣支持率に、どこかで見かけた「選挙が近い」との情報。
「高市さん、熱い」。稼げると踏み、昨年12月にチャンネルを立ち上げた。「やはりお金が第一目的。保守なので、高市さんも悪くはないかな」と思った。
男性は自民党を支持していない。高市首相は「責任ある積極財政」や、旧姓の通称使用拡大なども打ち出す。しかし、男性は「政策はあまり詳しくは知りません」と明かす。
動画には、手早く、刺激的にといった、参政党の応援チャンネルで学んだ「コツ」を盛り込んだ。
正確性に危うさ、「事実確認おろそかに」
動画のネタは、X(旧ツイッター)やYouTubeで「バズっている(よく見られている)」で探す。生成AIにネタの内容やSNSでの反応などを読み込ませて、ニュース風の動画の台本をつくるよう指示。自身で修正、加筆し、AI音声に読み上げさせる。「著作権違反かもしれない」が、ネット上で「拾った」写真をあてはめる。3分の動画なら、早ければ30分ほどで完成する。
サムネイル(表紙画像)やタイトルには、「売国議員を駆除へww」「マスコミ敗北w」などと扇情的な言葉を並べた。
視聴者のコメントで人気を集めるのは、「国賊議員を落選させろ!」「掃きだめのテレビ局」といった中傷とも受け取れる言葉。男性は「動画は、『自分に都合のいい考えを聞きたい、特定の人をバカにしてスカッとしたい』という視聴者のニーズに合わせているだけ。中立の解説は見られない」と語る。すでに20万回再生された動画もある。
育てたチャンネル 200万円で売買契約
一方で、明確な危うさもはらむ。男性が1月下旬に投稿した動画は、高市首相が今回の衆院選で自民党の特定の議員を「非公認にしようとしている」とする内容だった。数万回再生され、「高市に感謝」「これだけで選挙の大義」といったコメントが約300件寄せられた。
しかし、自民党は同じ日に、これらの議員の公認を発表していた。
男性に情報の根拠を尋ねると、「バズっている他の動画をまねて、表現を変えて投稿する時もあるので、情報の正確性は批判されてもしょうがない。目の前の利益と作業時間を考えたら、事実確認もおろそかになってしまう」と語った。
次に男性が目を付けたのが、チャンネルの売却による収益化だ。「十分稼いだし、毎日投稿し続けるのも面倒になった」。更新を続けてきた、参政党を応援する二つのチャンネルを売ることにした。
1月にアカウント売買を仲介するサイトに掲載すると、翌日には問い合わせがあった。1週間で、二つ合わせて約200万円の売買契約が成立した。
「YouTubeは、はやり廃りが激しく、同じチャンネルで稼ぎ続けられる保証はない。伸びている時に売った方がいい」と話す。
YouTubeチャンネルの販売 規約で禁止
チャンネルの販売は、YouTubeの利用規約で禁止されているが、男性は規約違反を「知らなかった」という。
この仲介サイトで、昨年7月の参院選から今年1月までの7カ月間に、売買が成立したYouTubeの政治系チャンネルは36件。実際の売却価格は非公開だが、売り手の希望価格の平均は100万円を超え、最高額は1千万円近くだった。
だが、衆院選が公示された後の1月末、男性に思わぬ事態が起きた。YouTubeから売却予定の二つのチャンネルの広告収益を停止すると通知された。「関連チャンネルが原因」とだけ伝えられ、明確な理由は分からない。
チャンネルは売り物にならなくなり、手に入るはずだった約200万円も泡と消えた。高市首相のチャンネルも収益を止められる恐れがあり、いまは投稿していない。
収入はなくなったが、男性は今後もYouTuberを続けるつもりだ。「手痛いですね。稼げるチャンネルを、また始めないと」。政治系も含め、すでに次のジャンルを考え始めている。新たな収益源を求めて。
政治サイト編集長「選挙中の収益化、議論を」
YouTubeでの政治系動画をAI(人工知能)で分析する政治情報サイト「選挙ドットコム」の鈴木邦和編集長は「選挙期間中の収益化については、今後議論していく必要がある」と語る。
選挙ドットコムの調査によると、2025年7月の参院選の期間中に投稿された政治系動画の再生数は約17億回。うち約9割が、政党や政治家ではない「第三者」が配信する動画だった。演説やニュース、新聞報道を切り取って短くまとめた「切り抜き型」が約4割を占め、鈴木編集長は「支持政党の考えを広めたいといった純粋な応援目的のチャンネルもあると思うが、収益目的も少なくないだろう」とみる。
また、再生数に応じて、広告収入を得る現状の仕組みでは、情報の正確性よりも再生数が重視される場合もあるという。特定の思想を持つ視聴者が多ければ、その層が好む動画が多く作成される傾向もあり、鈴木編集長は「視聴者のリテラシーの向上も必要だ」と指摘する。
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- 【視点】
動画チャンネルで月90万円近い収入、参院選を挟んだ3ヶ月で収益は約220万円、という数字にため息をつきました。 さらに生成AIを使っての動画制作、サムネやタイトルにあえて並べる扇情的な言葉。 「動画は『自分に都合のいい考えを聞きたい、特定の人をバカにしてスカッとしたい』という視聴者のニーズに合わせているだけ」という言葉や、育てたチャンネルを売買という実態に、虚しさが突き上げてきました。真面目に各政党の公約を読み、一票を投じることが馬鹿馬鹿しくなるような現実。 収益化により、選挙が、民意が大きく歪められていることに対して、法や制度はあまりにも周回遅れと言わざるを得ません。
…続きを読む - 【視点】
プラットフォームでどのような表現で収益を得るかは、本来自由であるべきです。しかし現状は、完全に「悪貨が良貨を駆逐する」状況に陥っています。 YouTubeでは、政治系に限らず海外で生成AIで制作された動画も大量に流通しています。私自身、自分の記事が無断コピーされているケースを片っ端から削除申請していますが、モグラ叩きのように次々と出現し、完全にイタチごっこの状態です(謝罪のメールもたくさん来ますが)。 ここで重要なのは、生成AIの登場によってコンテンツ制作のハードルが劇的に下がったという変化です。結果、粗雑で中身のない動画が大量生産される事態を招いています。YouTubeの収益モデルは、大雑把にいえば全広告収入を全再生数で按分する仕組みです。この経済原理のなかで、本来淘汰されるべき低品質なコンテンツが逆に優位性を持つという逆説も生まれています。 YouTubeも対策を講じ始めているとは聞きますが、問題はより大きな次元に移行しつつあります。フランス当局のXへの捜査、オーストラリアやスペインによるSNS規制など、もはや国家対プラットフォームという構図が明確化しつつあります。 この状況にどう対処するかは、日本政府も日本社会も真剣に向き合うべき課題でしょう。ただし、表現の自由という原則との折り合いをどうつけるかが当面の最大の論点となるでしょう。 インターネット──SNSやYouTubeは「発言の機会の民主化」、つまり「表現の民主化」を実現しました。しかし現状が示しているのは、表現の民主化が必ずしも社会的利益をもたらさないという逆説です。 では、表現の自由を制限せずに、いかにして良質なコンテンツを保護し残していくのか。その際には、なにをもって「良質」とするのかという価値判断自体が新たな論争を生むでしょう。しかし、そうした議論を積み重ね、社会的合意形成を図っていく以外に道はないと考えます。
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