世界初「ナトリウムイオン電池」搭載EVが登場:リチウム依存脱却と極寒地での圧倒的性能を実現

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投稿者: Y Kobayashi
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2026年2月6日

2026年2月5日、世界最大の車載電池メーカーであるCATL(Contemporary Amperex Technology Co., Limited)と、中国の自動車大手であるChangan Automobile(長安汽車)が、世界初となる量産型ナトリウムイオン電池を搭載した乗用車「Changan Nevo A06(長安啓源 A06)」を初公開した。

これまでEVの心臓部を独占してきたリチウムイオン電池に代わる、あるいはそれを補完する新たな「ナトリウムイオン電池」時代の幕開けを告げるこの発表は、リチウムという希少金属への依存からの脱却、EVの最大の弱点の一つであった「寒冷地での性能低下」の克服、そして劇的なコストダウンの可能性を秘めた大きな変革の始まりとなるかもしれない。

ナトリウムイオン電池を搭載した世界初の量産車:Changan Nevo A06の全貌

今回発表された「Changan Nevo A06」は、CATLの最新技術であるナトリウムイオン電池「Naxtra」を搭載した世界初の量産乗用車である。この車両には、容量45 kWhのバッテリーパックが搭載されており、中国独自の走行サイクルであるCLTC(China Light-Duty Test Cycle)基準で、1回のフル充電あたり400 kmを超える航続距離を実現している。

CATLの第3世代技術の結晶「Naxtra」

この車両の核となるのは、CATLが開発した「Naxtra」ナトリウムイオン電池である。この電池は、同社の最新のパッケージング技術である第3世代「CTP(Cell-to-Pack)」システムを採用しており、セル単体のエネルギー密度は最大175 Wh/kgに達する。これは、現在のEV市場で主流となっているリン酸鉄リチウム(LFP)電池のエネルギー密度に匹敵する数値であり、ナトリウムイオン電池が実用的な航続距離を確保できる段階に達したことを証明している。

Changan Automobileは、今後、同社の主要ブランドであるAvatr(阿維塔)、Deepal(深藍)、Nevo(啓源)、Uni(引力)の全ラインナップにおいて、CATLのナトリウムイオン電池を順次統合していく戦略を明らかにしている。

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なぜ「ナトリウム」なのか:リチウム依存というアキレス腱

現在、世界のEV市場はリチウムイオン電池によって支えられているが、そこには深刻な課題が存在する。リチウムは地殻中での存在量が限られており、需要の急増に伴う価格変動(ボラティリティ)が激しい。2025年半ばにはリチウム価格が底値を打った後、短期間で50%以上も急騰するなど、自動車メーカーにとってコスト管理上の大きなリスクとなっている。

圧倒的な資源の豊富さと低コスト

これに対し、ナトリウムは塩の主成分であり、地球上のあらゆる場所に事実上無限に存在する資源である。地殻中におけるナトリウムの埋蔵量はリチウムの約300倍から1000倍とも言われ、資源の偏在による地政学的リスクも極めて低い。

CATLによれば、ナトリウムイオン電池の材料コストは、量産体制が整えばリチウムイオン電池(特にLFP)と比較して大幅に低減できる見込みである。現在の研究では、ナトリウムイオン電池の材料コストは10ドル/kWh以下にまで下がる可能性があると示唆されており、これが実現すれば、EVの車両価格そのものをガソリン車と同等、あるいはそれ以下に引き下げる強力な武器となる。

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「ウィンター・モンスター」:氷点下で発揮される驚異の耐寒性能

ナトリウムイオン電池がリチウムイオン電池に対して持つ最大の技術的優位性は、その極めて優れた「温度特性」にある。リチウムイオン電池は、外気温が氷点下になると電解液の粘度が増し、イオンの移動が制限されるため、航続距離と出力が急激に低下する。

-40℃でも90%以上の容量を維持

Changan Automobileが内モンゴル自治区の牙克石(Yakeshi)で行った厳格な冬季テストの結果によれば、ナトリウムイオン電池を搭載した車両は、-30℃という極寒環境下でも、従来のLFPモデルの約3倍に達する放電パワーを維持した。

さらに驚くべきことに、-40℃という極限状態においても90%以上の容量を維持し、最低-50℃までの環境下で安定した放電が可能であることが確認されている。これは、北米のミッドウェスト(中西部)や北欧、そして北海道のような寒冷地において、冬場の航続距離不安を解消する「ゲームチェンジャー」となる可能性を秘めている。

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安全性のパラダイムシフト:発火リスクの極小化

安全性においても、ナトリウムイオン電池は革新的な進歩を遂げている。リチウムイオン電池で懸念される「熱暴走」のリスクが、ナトリウムイオン電池では物理的に極めて低いことが示されている。

過酷な「虐待テスト」をパス

CATLは、フル充電状態のナトリウムイオン電池に対して、多方向からの圧縮、電気ドリルによる貫通、さらには「電池本体の切断(ソーイング)」という、通常の走行では起こり得ないほど過酷な「虐待テスト」を実施した。その結果、電池からは煙も火も出ず、爆発も発生しなかった。それどころか、半分に切断された状態でも正常に放電を続けるという、驚異的な耐久性と安全性を見せつけたのである。

この高い安全性は、ナトリウムイオン電池がEV用としてだけでなく、家庭用や産業用の定置型蓄電池(BESS)としても極めて有望であることを示唆している。

技術的ブレイクスルー:アノードフリー構造の採用

CATLが今回、LFP電池に匹敵するエネルギー密度を実現できた背景には、画期的な「自己形成アノード(Self-forming anode)」技術がある。通常、リチウムイオン電池や初期のナトリウムイオン電池は、負極(アノード)に高価なグラファイトやハードカーボンを使用する。

しかし、CATLのNaxtraは負極材そのものを排除、あるいは極小化し、充電時にアルミニウムの集電体上にナトリウムイオンが直接析出する構造を採用した。この「アノードフリー」に近い設計により、アノードの体積を従来のLFP比で約60%削減することに成功した。これが、ナトリウムの欠点であった「エネルギー密度の低さ」を補い、車両への搭載を現実のものとしたのである。

デュアル・ケミストリー時代の到来

CATLは、今後のEV市場がリチウムイオン電池一択ではなく、リチウムとナトリウムが共存する「デュアル・ケミストリー・エコシステム」へと移行すると予測している。

  • 航続距離の伸長: ナトリウムイオン電池技術の進歩により、将来的に純電気自動車(BEV)で500 kmから600 km、プラグインハイブリッドやレンジエクステンダー(EREV)車では400 km程度の航続距離を実現できる見込みである。
  • 市場の棲み分け: 高性能・長距離走行が求められるプレミアムモデルにはリチウムイオン電池(NMC等)を、都市部での走行や低コストが重視されるエントリーモデルや寒冷地向け車両にはナトリウムイオン電池を採用するという、用途に応じた最適な使い分けが進むだろう。

2026年半ばには、このナトリウムイオン電池を搭載した車両が実際に公道を走り始める予定だ。世界最大の電池メーカーによるこの「ナトリウムへの賭け」は、EVの普及を阻んできた「価格」と「寒さ」という二大障壁を同時に打ち破り、真の電動化社会を加速させる原動力となるに違いない。


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Y Kobayashi

XenoSpectrum管理人。中学生の時にWindows95を使っていたくらいの年齢。大学では物理を専攻していたこともあり、物理・宇宙関係の話題が得意だが、テクノロジー関係の話題も大好き。最近は半導体関連に特に興味あり、色々と情報を集めている。2児の父であり、健康や教育の話題も最近は収集中。

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