最高裁が「ふざけた訴状」に“ブチギレ”? 「訴え却下」決定理由ににじむ怒りと”さすが”の緻密な法律論
最高裁が、同裁判所に提起された訴訟について「却下」、つまり本題の審理に入る以前に訴訟自体が不適法とする「門前払い」の決定を行ったことが、SNS上で話題になっている。決定文は全文を裁判所のHPで見ることができる(令和8年(2026年)1月28日 第一小法廷決定)。 【イラスト解説】離婚の慰謝料ってなに? それによると、原告側の訴状のタイトルは「遍く女性が光り輝く令和光の離婚等請求事件訴状(19:47)(令和管轄:仙台家庭裁判所)」。提出先が「遍く女性が光り輝く令和光の最高裁判所」とされている。 原告の氏名には「光り輝く令和原告」の肩書が付され、原告住所として代理人弁護士の法律事務所の所在地(福岡県北九州市)が記載されており、被告については福島県いわき市内に住所を有する旨の記載があったという。 なお、法律上求められている印紙の貼付、郵券(切手)の予納がされていなかったという。 訴状の記載について、SNS上で「ふざけてる」などと批判する投稿が多くみられる。しかし、最高裁はこの訴えを却下するために、約2ページ半にわたり丁寧かつ緻密な法律論を展開している。 最高裁もヒマではない。それどころか多くの事件を抱えて常に余裕がない。にもかかわらず、最高裁がこの訴えを却下するために、貴重な時間を割いてまで長文の決定書を作成したのは、そうしなければならない理由、つまり、民事訴訟法の解釈ないしは理論上の問題があったからにほかならない。それはいったいどのようなものか。 大学時代に民事訴訟法を専攻し、同法の理論と実務の双方に造詣が深い荒川香遥弁護士(弁護士法人ダーウィン法律事務所代表)に解説してもらった。
「管轄違い」の訴えでも裁判所は却下できない
荒川弁護士は、本決定の論旨を「問題点の所在を的確に把握し、論旨は明解で穴がなく、かつ原告の利益にも抜かりなく目配りし、妥当な結論を示している。まさに『獅子、欺かざるの力(※)』ですね」と高く評価する。 ※どんなにつまらないと思われることであっても、手を抜かず全力を尽くすこと そもそも、わが国では三審制がとられているため、最高裁にいきなり出訴することは明らかに管轄違いである。最高裁は、その一点のみを理由として直ちに本件訴えを却下することはできなかったのか。 荒川弁護士は、そのような扱いは民事訴訟法上、許されないと説明する。 荒川弁護士:「裁判所は、訴えが管轄違いであることのみを理由として訴えを却下することはできません。本来の管轄を有する裁判所へ訴訟を移送することが義務付けられています(民事訴訟法16条1項)。 その理由は、管轄違いというだけで訴えを却下すると、原告に不測の不利益を与え、憲法が保障する『裁判を受ける権利』の侵害になりかねないからです。 どういうことかというと、原告は、本来の管轄がある裁判所に改めて訴えを提起し直さなければならず、手間と費用がかかります。また、その間に時効の期間や出訴期間を過ぎたりしてしまうことがあります。 そのような事態を防ぐため、裁判所は管轄違いの訴えでも却下せず、本来の管轄の裁判所に移送しなければならないこととされているのです」 民事訴訟法16条1項は「裁判所」について何ら限定を加えていないため、最高裁にも当然に適用される。したがって、最高裁は本件の訴えを、本来の管轄裁判所へ移送しなければならないはずである。 本件の場合、原告の住所は福岡県北九州市、被告の住所は福島県いわき市であり、離婚訴訟の管轄はそのいずれかということになる(人事訴訟法4条1項参照)。 したがって、最高裁は、上述した「管轄違いによる移送」の規定(民事訴訟法16条1項)からすれば、本来、当事者の申立てまたは職権で「福岡家裁小倉支部」または「福島家裁いわき支部」に移送しなければならないはずだった。
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