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2026.02.05
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令和の高齢者は若返ったのか?
~データで見る高齢者像のアップデートと高齢者医療の見直し~
谷口 智明
- 要旨
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- 高齢者の定義は法律や制度によって異なり、一律の基準は存在しないが、WHOはじめ一般的には65歳以上を高齢者としている。日本では、年金、医療、介護、運転免許、雇用等の制度ごとに年齢基準が設けられている。
- 近年、健康寿命の延伸や高齢期の就労拡大により高齢者像は大きく変化しており、年齢のみで一律に区分することへの違和感も高まっている。本稿では、各種データによりこうした変化を考察し、とりわけ高齢者医療等の制度見直しの方向性について私見を述べる。
- 平均余命、健康状態、就労状況、体力・運動能力、高齢者自身の意識といった多面的なデータを通じて、平均的には高齢者像の「若返り」と「多様化」が観察される。一方で、健康状態や生活状況には大きな個人差も存在し、高齢者を一様に語ることは困難といえる。
- 健康を維持し就労を継続し得る高齢者は着実に増加しており、一律に「高齢者=支えられる側」という構図は現実と合致しなくなりつつある。にもかかわらず、制度は依然として年齢を主たる基準とし、給付と負担との間に制度のギャップが拡大している。こうした認識のもと、後期高齢者医療制度では、年齢基準の見直しや負担区分のきめ細かい設定等が社会保障審議会で検討されたものの、結論には至っていない。
- 高齢者の若返りは負担増を正当化するものではなく、誰もが長く元気に活躍できる社会への移行を示す現象と捉えることが重要だ。これは、年齢にかかわらず全ての年代の人々が希望に応じて意欲や能力を発揮できる「エイジレス社会」の実現と、社会保障制度の持続可能性向上の双方の鍵となる。
- 高齢者医療をめぐる議論は、特定の世代だけに帰属する問題ではなく、誰もが将来、自分ごととして関わる課題であることを忘れてはならない。国民的な対話と理解を通じて、現実に即した制度への再設計が進展することを期待したい。
- 目次
1. はじめに~高齢者の定義とは
高齢者の定義は、法律や制度によって異なり、一律の基準があるわけではないが、世界保健機関(WHO)では一般に65歳以上を高齢者としている。「2000年版厚生白書」によれば、この高齢者の定義の始まりは、1956年の国連報告書にさかのぼる。同報告書では、当時の欧米先進国の水準を基に、65歳以上の人口を「高齢者人口」、その総人口に占める割合を「高齢化率」と定義し、この比率が7%を超えた社会を「高齢化社会」と呼ぶようになった。
わが国の制度面から見ると、例えば「国民年金法」では、公的年金(老齢基礎年金)は原則として65歳から受給できる。「高齢者の医療の確保に関する法律」では、65歳から74歳までを前期高齢者、75歳以上を後期高齢者としている。「介護保険法」では、65歳以上を第1号被保険者と位置づけ、要介護・要支援状態となった場合、その原因を問わず介護サービスを受けることができる。このように、わが国の主な社会保障制度は、65歳以上を高齢者と見なす前提で設計されてきたといえよう。
他方で、「道路交通法」では、70歳以上のドライバーに対し、免許証更新時の高齢者講習の受講が義務づけられており、高齢運転者標識(いわゆる高齢者マーク)の着用が努力義務とされている。また、「高年齢者雇用安定法」の改正によって、70歳までの就業機会確保が企業の努力義務とされた。
近年では、健康寿命の延伸や高齢期における就労継続の広がりを背景に、高齢者像は変化しつつあり、一定の年齢をもって一律に高齢者と位置づけることへの違和感が高まっている(注1)。一方で、医療・介護をはじめとする社会保障制度は、依然として暦年齢を基準とした区分に大きく依拠している。とりわけ後期高齢者医療制度における「75歳以上」という年齢区分は、現実の高齢者像と乖離があるとの指摘も見られる。そこで本稿では、各種データに基づき高齢者像の変化を考察したうえで、高齢者医療等の制度見直しの方向性について私見を述べる。
2. 各種データから見る高齢者像の変化~もはや年齢だけでは語り尽くせない
本章では、平均余命、健康状態、就労状況、運動能力といった観点から、各種データに基づき高齢者像の変化を考察する。なお、ここでいう「若返り」とは、あくまで平均値に基づく時系列比較の結果から導かれたものであり、個々人の健康状態のばらつきや、疾病・要介護リスク等が消失したことを意味するものではない。
(1)平均余命の変化
日本人の平均余命が伸びていることは周知のとおりだ。ここでは、特定の基準年における年齢と平均余命が同じとなる年齢を示す「平均余命等価年齢」に着目する。例えば、前述の国連報告書が出された1956年当時、日本の65歳の平均余命は男性11.36年、女性13.54年であった。2024年簡易生命表によれば、当時と同レベルの平均余命は男性76歳(11.43年)、女性78歳(13.35年)となっている。つまり、男性であれば「2024年の76歳は、1956年の65歳と同じくらい若い」ということであり、当時と比べて10歳程度若返っていると考えられる。
(2)健康状態の変化
Angela Y Changほか(2019)は、世界疾病負荷研究のデータ(GBD2017)(注2)を用いて、世界の平均的な65歳が抱える疾病・障害の水準と同程度の健康状態に達する年齢を国別に算出している(資料1)。日本では、世界平均の65歳と同程度の疾病状況に達する年齢は約76歳であり、健康面で10年程度「若い」状態にあると解釈できる。これは、日本人が世界平均と比べて、より高い年齢まで比較的健康な状態を保っていることを示している。
また、厚生労働省「社会保障審議会医療保険部会における『議論の整理』(2025年12月25日)」(以下「議論の整理」)によれば、「高齢者の受診率や受診日数は改善傾向にあり(注3)、高齢者の医療費水準は5歳程度若返っている。一方、現役世代と比較すると、医療にかかる頻度が高く、日常的に受診している方も多い」と指摘している。政府の審議会として、医療データに基づき「5歳程度若返っている」と明記したことは、一定の意味を有すると受け止められる。
(3)就労状況の変化
総務省「労働力調査」によれば、2024年の15歳以上の就業者総数に占める65歳以上の就業者の割合は13.7%と過去最高となっており、就業者の約7人に1人が65歳以上である。資料2のとおり、年齢階級別に見ると65~69歳、70~74歳のみならず、75歳以上においても就業率は上昇を続けている。特に65~69歳では53.6%と、就業者は2人に1人を超えており、70~74歳、75歳以上も最高を更新している。
(4)体力・運動能力の変化
スポーツ庁「体力・運動能力調査」によれば、高齢者(65~79歳)の体力・運動能力は、握力、上体起こし、開眼片足立ち、10m障害物歩行、6分間歩行など、ほとんどの項目が上昇傾向にある。こうした新体力テストの合計点の推移を見ると、各年齢層の体力は、ここ20年程度で5歳程度若返っていると推察される(資料3)。
(5)高齢者自身の意識
最後に内閣府の調査に基づき、自身をどのように感じているのかについて確認する(資料4)。60歳以上の男女に「自分を高齢者だと感じていますか」と尋ねたところ、男女とも65~69歳では約3割が「はい」(約7割は「いいえ」)と答えた。一方で、70~74歳ではおよそ5割、75~79歳ではおよそ7割が「はい」と回答した。
以上、ここまで確認してきた各種データから導かれることは、身体機能や健康状態、就労等の面で、「平均的に見れば」かつての高齢者像と比べて若返りが進んでいると考えられる点である。ただし、暦年齢が同じであっても、健康状態や身体能力、意識等には大きな個人差が存在する。したがって、「令和の高齢者は若返ったのか」という問いに対しては、単純に肯定・否定のいずれかで答えられるものではなく、「高齢者像の多様化」という実態が強く浮かび上がってくるのではないだろうか。
3. 高齢者医療の見直しに向けた議論
高齢者は一般的に、若年世代と比較して所得が低い一方で、医療費は高い傾向にある。そのため、医療費の窓口負担割合は、資料5のとおり、0歳から6歳未満は2割、6歳(義務教育就学後)から70歳未満は3割、70歳を境として、70~74歳は原則2割(現役並み所得者は3割)、75歳以上は原則1割(現役並み所得者は3割、一定以上所得者は2割)と、原則として年齢で区切られている。
75歳以上を対象とする後期高齢者医療制度の財源面では、前述の窓口負担を除く医療費の約5割が公費、約4割が現役世代からの支援金(保険料)で賄われており、高齢者自身の保険料負担は約1割に過ぎない。これは、制度設計そのものが、現役世代の保険料負担や公費負担を通じた大規模な所得再分配(世代間扶養)を前提としていることを意味する。
足元では、社会保障制度の持続可能性を高めるため、年齢にかかわらず負担能力に応じて負担し、個性を活かして支え合う「全世代型社会保障」実現に向けた改革が進められており、一律に「高齢者=支えられる側」と見なす前提は変化しつつある。
第2章で考察したように、健康で就労を継続し、一定の所得を有する高齢者が増加するなかで(注4)、年齢のみを根拠として相対的に低い自己負担と手厚い財政支援を一律に適用する現行の仕組みは、給付と負担の対応関係を不明確にしているといえる。例えば、資料6によると、年齢階級別一人当たり医療費は年齢とともに増加する(左図)のに対し、年齢階級別一人当たり自己負担額のピークは60歳代後半である(右図)。70歳代以降は負担額が減少するという「医療費と自己負担額の逆転」が生じている。
そこで、前述の「議論の整理」では、窓口負担割合の見直しの方法として、①3割負担や2割負担の対象者の拡大、②負担割合の区切りとなる年齢の引き上げ(例えば、現行の年齢区分をそれぞれ段階的に5歳程度引き上げる等)、③負担割合のきめ細かい設定(例えば、窓口負担割合を15%とする等)といった例示を踏まえて議論が行われた。しかしながら、結論には至らず、引き続き検討されることとなった。
また、医療保険における金融所得の反映など、応能負担(負担能力に応じた負担)のあり方を検討するにあたり、現行制度では、上場株式の配当等の金融所得は、確定申告を行う場合には課税所得とされ、保険料や窓口負担等の算定においても所得として勘案される。一方、確定申告を行わない場合(源泉徴収で課税が終了する場合)には課税所得に含まれず、保険料や窓口負担等の算定において不公平な取り扱いとなっている。
そこで、後期高齢者医療制度において(注5)、法定調書(注6)を活用する方法により、確定申告を行わない人も含めて、保険料や窓口負担区分の決定に金融所得を勘案することとなった。ただし、その実現に向けては金融機関や税務署、地方公共団体、保険者等において大幅なシステム改修が必要となる。そのため、具体的な保険料や窓口負担への金融所得の反映方法については、引き続き検討されることとなった。
4. おわりに~高齢者像の若返りと多様化を踏まえた制度のギャップと再設計
各種データが示すとおり、平均的に見れば、令和の高齢者は、かつての高齢者像と比べて若返りが進んでいると考えられる。一方で、全ての高齢者が同様の状況にあるわけではなく、健康面や経済面で困難を抱え、支援を必要とする人が存在することも否定できない。問題の本質は、高齢者像が多様化しているにもかかわらず、制度の前提がその変化に十分対応しきれていないという現状にある。すなわち、高齢者像をアップデートし、制度との間に生じているギャップを解消することが、今日的な政策課題の一つと考えられる。
こうした観点に立てば、高齢者を年齢のみで一律に「支えられる側」と位置づける発想から転換する必要がある。健康状態や生活状況、負担能力に応じて、支え合いながら社会に参加できる期間を可能な限り長く確保していくことが重要だ。
高齢者の若返りという現象は、高齢者への負担増を正当化するネガティブな側面のみから捉えるべきではない。むしろ、誰もができるだけ長く元気に活躍できる経済社会へと移行しつつあることを意味している。それは、年齢にかかわらず全ての年代の人々が希望に応じて意欲や能力を発揮できる「エイジレス社会」の実現にも資する(注7)。同時に、社会保障制度の持続可能性を高めるうえでも重要な鍵となろう。
なお、高齢者医療をめぐる議論は、特定の世代のみの問題ではない。現在は若い世代であっても、将来は高齢者医療を利用する側となる以上、誰もが将来、自分ごととして関わる課題であることを忘れてはならない。国民的な対話と理解を通じて、現実に即した制度に向けた再設計(注8)が着実に進展することを期待したい。
【注釈】
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自由民主党・日本維新の会「連立政権合意書」(2025年10月20日)では、社会保障政策の一項目として「年齢にかかわらず働き続けることが可能な社会を実現するための『高齢者』の定義見直し」が掲げられている。
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世界疾病負荷研究(疾病負荷:GBD,Global Burden of Diseases)は、世界と各国での疾病・傷害・危険因子が健康と寿命に与える影響を統一指標で推計・比較する国際共同研究。
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高齢者の受診率や受診日数の変化については、厚生労働省第206回社会保障審議会医療保険部会(2025年12月4日)「資料2-1世代内、世代間の公平の更なる確保による全世代型社会保障の構築の推進(高齢者医療における負担の在り方について)」P25~26参照。
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001604407.pdf -
「後期高齢者の所得等の状況(2008年度と2024年度の比較)」によれば、「所得なし」が減少し、所得200万円未満までの層が増加(左図)。また、年金収入80万円以上300万円未満の層が増加(右図)している。
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「議論の整理」では、対象となる医療保険制度について、「保険料の賦課や窓口負担等の区分決定において、市町村の税情報を活用している後期高齢者医療制度と国民健康保険が挙げられる。後期高齢者医療制度は一律に75歳以上の高齢者が対象となるが、一方で、国民健康保険は賃金をベースに保険料等を賦課する被用者保険とのバランスや地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化のスケジュールに留意する必要がある。また、経済対策(2025年11月21日閣議決定)においても、『(中略)年齢にかかわらず公平な応能負担を実現するための第一歩として、高齢者の窓口負担割合等に金融所得を反映』とされている」ことから、まずは後期高齢者医療制度から金融所得を勘案することとなった。
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法定調書とは、所得税法等により、支払者が支払内容を税務署へ報告するための書類の総称。
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「高齢者社会対策大綱」(2024年9月13日閣議決定)では、基本的な考え方の一つとして、「年齢に関わりなく希望に応じて活躍し続けられる経済社会の構築」を掲げている。そして「あらゆる世代が年齢に関わりなく、それぞれの希望に応じて、活躍できる社会を構築することは、個々人にとってもウェルビーイングの高い社会の実現につながる。(中略)そのためには、高齢者の体力的な若返りや長寿化が進む中で、高齢期においても、希望に応じて、自らの知識、経験等を活かせる居場所を持ち、就労や社会活動等多様な活躍の機会が得られる環境を整備していくことが必要である」と明記している。
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具体例として、①後期高齢者医療の対象や負担水準について、年齢だけで区切るのではなく、所得・資産等を踏まえてきめ細かく設定し直すこと、②健康増進・疾病予防やフレイル対策への投資を拡充し、医療・介護費の増加を抑制すること、③平均余命や国民所得、医療費の伸びと連動して医療保険制度を定期的に見直す仕組みを組み込むこと等により、世代内・世代間の負担の公平性や制度の持続可能性を確保すること等が挙げられる。
【参考文献】
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Angela Y Chang, Vegard F Skirbekk, Stefanos Tyrovolas, Nicholas J Kassebaum, Joseph L Dieleman(2019)“Measuring population ageing: an analysis of the Global Burden of Disease Study 2017(Lancet Public Health)”
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スポーツ庁(2025)「令和6年度体力・運動能力調査報告書」
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厚生労働省(2025)「社会保障審議会医療保険部会における『議論の整理』」
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内閣府(2021)「令和3年度高齢者の日常生活・地域社会への参加に関する調査結果」
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内閣府(2024)「高齢社会対策大綱」
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谷口智明(2025)「社会保険料の伸びはどこまで許容されるのか~『国民所得の伸び率≧社会保険料の伸び率』がメルクマール?~」
谷口 智明
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。